喫煙行動に関わるゲノムが統合失調症のリスクに及ぼす影響
〜喫煙開始年齢の遅さに関わるポリジェニックリスクスコアは、統合失調症のリスクと関連する〜
岐阜大学医学部附属病院 精神科 大井一高
Ohi K, Nishizawa D, Muto Y, Sugiyama S, Hasegawa J, Soda M, Kitaichi K, Hashimoto R, Shioiri T, Ikeda K.
Polygenic risk scores for late smoking initiation associated with the risk of schizophrenia.
NPJ Schizophr, 6(1):36, doi: 10.1038/s41537-020-00126-z (2020).
https://www.nature.com/articles/s41537-020-00126-z
統合失調症患者は、喫煙に関連する特徴的な行動を示し、喫煙行動と統合失調症の間には遺伝的な相関関係のあることが欧米人では示唆されている。しかし、この喫煙行動と統合失調症の関連性の遺伝的病因はまだ明らかにされていない。本研究では、ポリジェニックリスクスコア(Polygenic risk score: PRS)解析を行うことで、欧米人の喫煙行動と日本人の統合失調症リスク間における民族間差異を超えた遺伝的共通性を調べた。
欧米人の大規模な全ゲノム関連解析研究(Genome-wide association study: GWAS)データ(n=24,114-74,035)の中から、喫煙に関わる4つの中間表現型[(i)喫煙歴、(ii)喫煙開始年齢、(iii)喫煙本数、(iv)禁煙歴]データセットをDiscoveryサンプルとして利用した。これらのGWASから得られたPRSを、日本人332名(統合失調症患者とその第一度近親者、健常対照者)をTargetサンプルとして算出した。欧米人の喫煙に関わる中間表現型のGWASに基づいて、欧米人の喫煙行動に関わるゲノムが日本人集団の喫煙中間表現型や統合失調症のリスクに及ぼす影響を調べた。喫煙と関連する4つ中間表現型のうち、欧米人の喫煙開始年齢に関するPRSや禁煙歴に関するPRSは、日本人の喫煙開始年齢や、禁煙歴を有意に予測した。さらに,欧米人の喫煙開始年齢に関連するPRSは、日本人統合失調症患者では健常対照者よりも高く、第一度近親者のPRSは統合失調症患者と健常対照者のPRSの中間値であった。また、対象者のうち、統合失調症患者は、健常対照者と比較して、平均喫煙開始年齢および20歳以降の日常的な喫煙開始率が有意に高かった。患者群の60.6%が、統合失調症発症前に喫煙を開始していた。これらの結果から、統合失調症患者の喫煙開始は発症前に多いが、健常者と比べると開始年齢が20歳以降と遅いこと、さらに、その喫煙開始の遅さに影響する遺伝的要因が統合失調症のリスクと関連していることが示唆された。