IgLON5欠損マウスにおける抗IgLON5 抗体関連疾患の表現型に関する解析
慶応義塾大学医学部 伊東大介
Lee SY, Shoji H, Shimozawa A, Aoyagi H, Sato Y, Tsumagari K, Terumitsu M, Motegi H, Okada K, Sekiguchi K, Kuromitsu J, Nakahara J, Miyakawa T, Ito D.
Phenotypic Insights Into Anti-IgLON5 Disease in IgLON5-Deficient Mice.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2024 May;11(3):e200234. doi: 10.1212/NXI.0000000000200234.
背景
抗IgLON5 抗体関連疾患は2014年に発見された新しい自己免疫性神経変性疾患で、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害、運動障害、球麻痺症状、認知機能低下など多彩な症状を示します。また、患者脳にはタウ蛋白の蓄積がみられることから、自己免疫と神経変性の橋渡し的な病気として注目されています。しかし、病因となる神経細胞接着分子 IgLON5 の生理的役割や、抗体がどのように病態を引き起こすのかは十分に分かっていません。
研究の目的
本研究では、IgLON5の機能を調べるために、IgLON5を欠損させたマウス(IgLON5−/−マウス)を作製し、行動解析や病理解析を通じて抗IgLON5病の病態に迫りました。
主な成果
- 運動機能:IgLON5−/−マウスはワイヤーハングテストやローターロッドでの成績が低下し、筋力や運動持久力に軽度の障害を示しました。
- 精神・行動:不安が低下し、過活動傾向を示すなど、ヒトの精神症状に関連する変化が確認されました。
- 記憶機能:恐怖条件付け試験では、長期記憶(特に遠隔記憶)の障害が認められました。
- 睡眠・タウ病理:脳波解析では睡眠障害は見られず、またP301Sタウ変異マウスと掛け合わせてもタウ蓄積は増加しませんでした。
考察
これらの結果から、抗IgLON5 抗体関連疾患の症状の一部(運動障害や精神症状、記憶障害)はIgLON5の機能喪失に関連する可能性が示されました。しかし、患者に特徴的な睡眠障害やタウ蓄積については、IgLON5の機能喪失だけでは説明できず、IgLON5の異常活性化や炎症による二次的な神経障害が関与している可能性が高いと考えられます。
意義
IgLON5の欠損マウスは、抗IgLON5 抗体関連疾患の病態の一端を再現できる新たな実験モデルです。本研究は、抗体による「機能喪失」と「炎症・神経障害」という二重のメカニズムを仮説として提示し、今後の治療法開発に重要な示唆を与えます。
IgLONファミリーは精神疾患との関連も報告されており、本成果はアルツハイマー病など他の神経変性疾患研究にも波及効果を持つと期待されます。