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LPS誘発性脳内炎症モデルにおいてミクログリアに発現するCRMP4の役割

早稲田大学 先進理工学部生命医科学科
朝比奈諒、大島登志男

Asahina R, Takahashi M, Takano H, Yao R, Abe M, Goshima Y, Ohshima T.
The role of CRMP4 in LPS-induced neuroinflammation.
Brain Research. 2024,1841:149094,DOI:10.1016/j.brainres.2024.149094
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006899324003482?via%3Dihub


CRMP4は、発達期の脳で神経細胞の軸索誘導や樹状突起の成熟に関与するタンパク質として知られています。生後は急激に発現量が低下しますが、脊髄損傷やパーキンソン病などの神経疾患において発現が誘導され、病態に関与する可能性が報告されています。このような神経疾患の病態進行において脳内炎症が重要な要因として知られており、その調節機構の解明は治療策略の開発につながります。CRMP4と炎症反応との関係を示す先行研究として、炎症刺激として代表的なリポポリサッカライド(LPS)をラットに腹腔内投与した際に脳内でCRMP4陽性のミクログリアが増加することを示した報告がありますが、そのメカニズムはよく分かっていません。そこで本研究では、LPSを脳内に直接投与し、CRMP4がミクログリアの炎症応答に対してどのように作用するか検証しました。
 まずCRMP4欠損マウスと野生型マウスを用い、LPSを線条体に注入して炎症反応を誘導しました。その結果黒質において野生型マウスではLPS投与後にミクログリアの数や活性化が顕著に増加したのに対し、CRMP4欠損マウスではその増加が大幅に抑制されました。これにより、CRMP4がLPSに誘導されるミクログリアの増加に関与していることが示唆されました。さらに、qPCRによる解析では、CRMP4欠損マウスにおいてIL-1βやTNFαといった炎症性サイトカインの上昇が抑制される傾向を示し、抗炎症性サイトカインであるIL-10の上昇が顕著に抑制されていました。
 さらにCRMP4の機能を詳しく検討するため、続いてミクログリアで特異的にCRMP4を欠損するマウスを作製し、同様にLPSを投与しました。その結果、対照群と比較して黒質におけるミクログリアの増加が有意に抑制されることが明らかとなりました。このことから、ミクログリアに発現するCRMP4が細胞自律的に自身の増加を調節することが示唆されました。また、qPCR解析ではIL-10の発現に大きな変化が見られなかった一方で、Arg1の発現が顕著に抑制されていました。これらのことから、LPSに対する炎症応答に際してミクログリアとそれ以外の細胞で発現するCRMP4では異なる機能を持つ可能性が示唆されました。
 本研究を通して、初めてCRMP4の細胞特異的な機能に関する示唆が得られました。今後は神経変性疾患モデルでの検証や、CRMP4が細胞内シグナル伝達のどの段階を調節しているかといった詳細なメカニズムの解明が課題です。

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