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皮膚発がんにおけるPak1遺伝子の新たな制御機構を発見
CD11c陽性細胞におけるPak1の欠失はマウス皮膚発がんに対する抵抗性をもたらす

千葉県がんセンター研究所 がんゲノムセンター 実験動物研究部
奥村 和弘

Okumura K, Morinaga T, Saito M, Tokunaga Y, Otoyama K, Tanaka S, Isogai E, Kawazu M, Togashi Y, Araki K, Wakabayashi Y.
Deletion of Pak1 in CD11c-Positive Cells Confers Resistance to Mouse Skin Carcinogenesis. J Invest Dermatol. 144(8):1890-1893.e5. (2024).

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022202X24000988?via%3Dihub


p21(CdC42/RAC1)活性化キナーゼ(PAK)はセリン・スレオニンキナーゼであり、いくつかの発がん性シグナル伝達経路に関与しています。PAKアイソフォームの異常な過剰発現や突然変異による活性化は、多くのヒト腫瘍で頻繁に観察されることからPAK活性の亢進が、細胞のがん化プロセスの特徴であると指摘されています1。以前、我々はマウス順遺伝学による遺伝子スクリーニングとDMBA/TPA誘発皮膚発がんモデルを組み合わせ、最終的にがん感受性に最も影響を与える責任遺伝子としてPak1を同定しました。我々は全身性のPak1ノックアウト(Pak1-/-)マウスを作製し、DMBA/TPA皮膚発がん実験を行った結果、強い腫瘍抵抗性を示すことを明らかにしました2。さらに、その発がん制御メカニズムの一つとしてPak1-3’ UTRのマウス系統間の一塩基多型(SNP)が選択的ポリアデニル化に影響することで、発がんを制御することを個体レベルで示しました3

以上のように、これまでPak1は腫瘍細胞やその元となる上皮細胞において注目されてきました。一方で、我々はPak1-/-マウスの表現型解析から皮膚に存在する組織常在マクロファージであるランゲルハンス細胞や単球、マクロファージおよび樹状細胞などのミエロイド系細胞においてPak1が強く発現していること、またこれらの細胞の皮膚組織の分布パターンの変化などから、上皮細胞だけでなくこれらの免疫細胞を介して発がんを制御する可能性があると予測しました。

そこでPak1の細胞特異的な機能を調べるため「先端モデル動物作製支援プラットフォーム」のサポートにより、Pak1条件付きKOマウス(Pak1fl/fl)を新規に作製しました。このPak1fl/flマウスとKeratin14CreERK14CreER)マウスを交配し、表皮細胞でPak1を欠損させるK14CreER-Pak1fl/flマウスを得ました。一方、ItgαxCreCd11cCre)マウスとPak1fl/flマウスを交配し、樹状細胞や単球/マクロファージなどの免疫細胞でPak1を欠損させるCd11cCre-Pak1fl/+マウスを作製しました。

それぞれのマウスの発がんスペクトラムを調べるためDMBA/TPA皮膚発がん実験を行いました。その結果、K14CreER-Pak1fl/flマウスおよびCd11cCre -Pak1fl/+マウスの両方で、DMBA投与20週後の平均乳頭腫数が対照マウスに比べ有意に減少していました(図a, b, c, d)。さらに、40週目における乳頭腫から扁平上皮がん(SCC)への悪性転換率も有意に低いことが明らかとなりました(図e, f)。これまでに、PAK1が表皮細胞のRASシグナルを活性化することで皮膚腫瘍を促進することは報告されていましたが4Pak1がCD11c陽性細胞で作用し、皮膚発がんに関与することを示したのは本研究が初めてです。 

本研究の結果からCd11cCre -Pak1fl/+マウスは、単一の対立遺伝子の欠失によって明らかに腫瘍を抑制していることから、CD11c陽性細胞においてPak1が少なくとも半分に減少すれば、腫瘍に対する治療効果が得られる可能性があり、新たな治療標的となると期待しています。また、CD11cは様々なミエロイド系細胞で発現するため、今後はより細胞特異性が高いCreマウスと「先端モデル動物作製支援プラットフォーム」のサポートで作成していただいたPak1fl/flマウスを交配し解析をすることで、発がんを制御する細胞の特定や詳しい分子メカニズムを明らかにしていきたいと考えています。

図. Pak1コンディショナルKOマウスを用いたDMBA/TPA多段階皮膚発がん実験
a) DMBA/TPA処理後12週目のK14CreER-Pak1fl/flマウス. b) Cd11cCre -Pak1fl/+マウス. c) K14CreER-Pak1fl/flマウスの良性腫瘍の平均個数. d) Cd11cCre -Pak1fl/+マウスの良性腫瘍の平均個数. e) K14CreER-Pak1fl/flマウスの扁平上皮がん発症率. f) Cd11cCre -Pak1fl/+マウスマウスの扁平上皮がん発症率. K14陽性細胞およびCD11c陽性細胞のどちらにおいてもPak1を欠損させると腫瘍発症が抑制される.

参考文献

  1. Yao D, Li C, Rajoka MSR, He Z, Huang J, Wang J, Zhang J. P21-Activated Kinase 1: Emerging biological functions and potential therapeutic targets in Cancer. Theranostics. 1;10(21):9741-9766. (2020).
  2. Okumura K, Saito M, Yoshizawa Y, Ito Y, Isogai E, Araki K, Wakabayashi Y. Pak1 maintains epidermal stem cells by regulating Langerhans cells and is required for skin carcinogenesis. Oncogene. 39(24):4756-4769. (2020).
  3. Okumura K, Saito M, Isogai E, Tokunaga Y, Hasegawa Y, Araki K, Wakabayashi Y. Functional Polymorphism in Pak1-3' Untranslated Region Alters Skin Tumor Susceptibility by Alternative Polyadenylation. J Invest Dermatol. 142(9):2323-2333.e12. (2022).
  4. Chow HY, Jubb AM, Koch JN, Jaffer ZM, Stepanova D, Campbell DA, Duron SG, O'Farrell M, Cai KQ, Klein-Szanto AJ, Gutkind JS, Hoeflich KP, Chernoff J. p21-Activated kinase 1 is required for efficient tumor formation and progression in a Ras-mediated skin cancer model. Cancer Res. 15;72(22):5966-75. (2012).

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