2023年度「若手技術支援講習会」を終えて
若手支援技術講習会実行委員長
近藤 豊(名古屋大学 大学院医学系研究科)
2023年9月8日〜9月10日に愛知県名古屋市公会堂で、先端モデル動物支援プラットフォーム主催の若手支援技術講習会を開催しました。
今年も「とことん討論-暑い名古屋で熱盛!」のテーマのもと、がん、神経、発生、基礎生物、臨床研究など幅広い生命科学分野から学部学生、大学院生、博士研究員、若手教員を中心に約130名が集いました。出身大学や学部、年齢を超えての活発な発表・議論が行われました。
参加者は口頭発表、ポスター発表に分かれてそれぞれの研究成果を発表しました。口頭発表では、限られた時間の中で、簡単な自己紹介に続いて研究背景から結論に至るまでコンパクトにまとめた深みのある発表が数多く見られました。発表後は毎年恒例の質問者の列ができ、様々な視点から時にはっとさせるような質疑応答がなされました。やはり面白い内容の発表には、より多くの多彩な質問が出てくることが印象的でした。ポスター発表では、研究を熱心に説明する姿が目立ちました。若い研究者や年長者が交じり、それぞれのポスターで議論する様子はこの会の特徴でもあり今後も続いて欲しいと思います。また今回はポスター発表者の中から"きっかり3分間トーク"を選抜し、自身の研究を中心にフリートークをしていただきました。1秒の延長も許されない中、トーク賞を受賞した市川怜さんをはじめ、皆さんきっかり3分間で自身の研究の面白さについて工夫を凝らし見事にまとめ上げていました。また必ずしも思ったように発表できなかった方も研究へのマインドはしっかりと皆に伝わっていたように思います。
プロフェッショナルレクチャーでは、今回も若手研究者が3名と研究歴の長いラボ主催者が3名、それぞれの研究についてお話をしていただきました。中島欽一先生(九州大学)には、神経の分化制御から治療応用までについてとても夢のあるご講演を、滝田順子先生(京都大学)には小児がんのご講演をしていただきました。小児がん患者さんの悲しい病状のお話には胸が詰まり研究の大切さを痛感しました。講習会最終日には中山敬一先生(東京医科歯科大学)にAIを駆使したプロテオミクスの切れ味鋭い最先端の研究をご講演いただきました。また新進気鋭の若手研究者として、冨樫庸介先生(岡山大学)、田中美和先生(がん研究会 がん研究所)、金子奈穂子先生(同志社大学)の3名の先生方にお話しいただきました。冨樫先生が免疫学を始めたきっかけとその後の飛躍的な研究の展開、田中先生の動物モデルを活用した密度の濃い研究、そしてかつて精神科医だった金子先生は新生ニューロンの挙動に関する研究をお話しいただきました。参加者の皆さんにとって研究の進め方から応用までを考える上で良い機会になったと思います。
技術支援紹介のワークショップでは、動物モデル作製支援「身近になった遺伝子改変動物~何のために何を作るか?」(八尾良司先生:がん研究会 がん研究所)、病理形態解析支援「認知機能増悪機序の解明を目指して」(上野正樹先生:香川大学)、分子プロファイリング支援「ケミカルバイオロジーを機軸とした分子プロファイリング」(掛谷秀昭先生:京都大学)、生理機能解析支援「私の履歴書」(高田昌彦先生:京都大学)のラインアップで、支援内容のみならず講師の先生方のこれまでの研究歴から最先端の研究をお話しいただきました。技術支援は若い研究者の方々も活用することができるため具体的で有用な情報が得られたと思います。
今年も名古屋開催となりましたが、ファシリテーターとして本講習会のOBの研究者の方々に参加をお願いするなど、昨年よりもより研究者同士の交流を促す試みをCOVID-19への感染対策を考慮しつつ行いました。「If you want to go quickly, go alone. If you want to go far, go together. We need to go far, quickly.」という諺があるようですが、研究は一人で静かに落ち着いて熟考することと、"研究者のつながり"を創り、研究を深化・発展させることが同じくらい重要です。今年は参加年齢層が昨年よりも全体に若い傾向にあり、様々な分野から"研究交流を楽しむ心"を持ったたくさんの若い参加者が参加してくれました。2泊3日の講習会でしたが、参加者の皆さんにとって楽しく充実した会であったことを願っています。最後に不慣れな実行委員長を力強く支えてくださった総括支援の清宮啓之先生(がん研究会 がん化学療法センター)をはじめ、本講習会を支えて頂きました事務局及びスタッフの方々に心より感謝申し上げます。
受賞者
●ベストプレゼンター賞(口頭発表)2名
藤原 悠紀さん(大阪大学大学院 連合小児発達学研究科)
脇本 新さん(筑波大学グローバル教育院)
●ベストプレゼンター賞(ポスター発表)(4名)
江川 遼さん(名古屋大学大学院 医学系研究科)
澤崎 佑太さん(愛媛大学 理工学研究科)
坪田 庄真さん(名古屋大学大学院 医学系研究科)
森本 健斗さん(筑波大学大学院 実験動物学研究室)
●ベストディスカッサー賞(3名)
生冨 翔平さん(名古屋大学大学院 医学系研究科)
石橋 公二朗さん(金沢大学 がん進展制御研究所)
佐藤 俊平さん(埼玉県立がんセンター 臨床腫瘍研究所)
きっかり3分間トーク賞(1名)
市川 怜さん(名古屋大学大学院 生命農学研究科)
当日の様子
参加者の声
本講習会の感想・意見
- 同年代の皆さんとの交流や刺激があって、今後の自分の研究者としての過ごし方を見直すきっかけになった。(大学院生(修士)男性)(ポスドク 男性)
- 初めての参加で少し心配していましたが、同世代の方や先輩方、大御所の方などとお話できとても良い経験になった。来年は口頭発表出来るように頑張ろうというこれからのモチベーションにもなった。(大学院生(修士)男性)
- 今まで知り合えないような同い年の研究者と交流できたのでよかったです。(大学院生(修士)女性)(大学院生(修士)男性)
- 第一線で活躍されている先生方や同世代の学生との議論を通して、自分の研究の未熟さを痛烈に感じ、自分の研究に対する姿勢の甘さを見直すきっかけとなりました。(学部生 男性)
- 学会ではなかなか困難である、若手同士での交流も深めることができ、同じく研究する仲間として、同世代の友人を作ることもでき、貴重な場でした。(大学院生(修士)男性)
プロフェッショナル講演・テクニカルセミナー
- プロフェッショナル講演では、研究内容のご発表以外にも若手への支援ということで各先生方のヒストリーとともに、研究に対する向き合い方についても触れられ、知的好奇心が刺激されるだけでなくキャリアデザインとしても学ぶことが多かったです。(大学院生(修士)男性)
- 多くの分野からの先生方の、経験を踏まえた講演を聴けたので良かった。(大学院生(修士)男性)
- プロフェッショナルな先生方のお話を聞くことで、自分の今後のキャリアを考える上で大変勉強になった。(学部生 女性)
- 技術支援の実際についてご講演いただき、自分の研究にどのような形でご支援いただけるのかのイメージが湧いた。(助教・講師 女性)
- 第一線の先生方のハイエンドな技術、成功された経験、その時の感想などを聴くことができ、非常に有意義な時間だった。(助教・講師 男性)
- 多くの知識を吸収できた。(大学院生(博士)男性)
本講習会以外の若手研究者への支援として望むもの
- 研究者やアカデミアを目指す同世代の繋がりが作れる環境。アカデミアで成功された方のお話を聞く機会。
アカデミアを目指していたが他を選ばれた先輩のお話を聞く機会。博士課程の後のキャリアの具体的な話。(大学院生(修士)男性) - 海外の大学や研究施設に働かれている方との交流。(大学院生(博士)男性)
- 実際の実験技術の指導・支援。(大学院生(修士)男性)
- キャリアサポート。(大学院生(博士)男性)(助教・講師 男性)
- 進路への悩みを抱えた人がそれなりにいた。いろんな分野の先輩研究者からのアドバイスをもらえるような機会があっていいと思った。(助教・講師 女性)
- より実践的な技術、プロトコルに関する講習があると、行ったことのない実験に対して挑戦しやすくなるように思う。(大学院生(博士)男性)
この他にも若手支援技術講習会について沢山のご意見をいただきました。
いただいたご意見は、来年度以降の講習会をさらに魅力あるものにするため反映させていきたいと思います。