日本赤十字看護学会

本学会について

本学会の歴史

歴代理事長挨拶

第1期・第2期理事長

初代理事長 樋口康子(元日本赤十字看護大学)

 赤十字の理念の根幹は「人道 humanity」にあり、それは対象となる人の国籍、民族、宗教、社会的地位などのいかんを問わず、また敵味方の区別なく、人間の苦痛と戦い、その人を保護し、援助し、育むために、自らそこへ駆け寄って手をさしのべることにあります。そして赤十字の看護専門職は、国内および国際的な場において、この理念を個々の実践の原理として活動すること、そしてその根拠と方法を学術的にまた体系的に追求する使命をもっています。

 以上のような理念とそれに基づく実践をめざして、1890年に始まった赤十字の看護教育は、わが国の看護教育のパイオニアとして、優秀なリーダーを数多く輩出してきました。現在、赤十字の看護活動は国際救護や災害救護をはじめ、国内外の保健・医療・福祉の領域において幅広く展開され、大きな貢献をなしています。来るべき21世紀に向けて、これらの活動をさらに発展させ、推進させるためには、実践・教育・研究が互いに結びつきを強め、学術的なネットワークを拡げていくことが急務であると考えます。

 われわれは21世紀の赤十字の看護の発展に向けて、以下のような課題があると考えます。 第一に、人間の生命と健康にアプローチする看護学の学術水準の向上が望まれます。つまり看護学の知識体系を確立し、看護学研究の高度化・専門化を進めることです。そのためには看護基礎教育の大学化の推進及び大学院・研究施設の充実を図るとともに、研究の発表の場を創り出し、その知見を広く共有することのできる機会を増やす必要があります。

 第二に、急速に変わりゆく今日の状況のなかで、つねに研究によってもたらされた最新の看護学の知見に基づき教育と実践を展開するためには、実践・教育・研究に携わるものが互いに知識を交換・共有し、相互に研鑽しあえる場をつくる必要があります。

 第三に、赤十字活動をはじめ、国際的に活躍する看護専門職を育成する中心的教育機関の役割を担い、研究ネットワークを拡充する必要があります。

 これらの課題に取り組むためには、英知を集め、それを共有し、真摯に批判しあう学会組織が不可欠と考えます。そこでわれわれは、全国赤十字の看護学教育の中心的役割を担うものとして、赤十字の看護の発展に向け、学術的な組織基盤となる「日本赤十字看護学会」の設立を提案します。本学会の設立の趣旨をご理解、ご賛同の上、ご入会いただけますよう呼びかける次第です 。

第3期理事長

第三代理事長 新道幸惠(元日本赤十字広島看護大学)

 私は、平成18年度から3年間、日本赤十字看護学会(以下、日赤看護学会という)の3期目の理事長を務め、学会創立10周年記念式典及び事業を行って、任期を終了しました。その3年間を、理事会活動を中心に振り返ることにします。

 私が理事長をお引き受けしたときには、看護の学術学会は既に30を超す程に多くなっていました。そのような状況のなかで、一体、日赤看護学会の存在意義は何か、また、向かうべき方向は何かを考えることを学会運営の出発点に致しました。そのはじめとして、設立趣旨を吟味することにしました。本学会は、「赤十字の理念」を共通の理念として、国際的なネットワークをもつ赤十字活動を意識し、「全国にまたがる赤十字看護関係機関と協力しながら,看護の教育・研究と実践を統合し,推進させていく母体とすること、実践,科学としての看護学を追究し,従来の医療のあり方を客観的に検証し,新しい看護学のあるべき姿を探ること」を目的として設立したとあります。即ち、「Humanity]という赤十字の理念のもとに、それらに関心のある人々を会員とし、グローバリゼーションの時代における国際的視野の基に、教育、研究、実践の統合を目指し、実践の科学である看護学の実践の側面を重視していることに、本学会の存在意義があり、今後共に、目指す方向であることが明らかにされています。

 本学会の会員は、創設時の1200人余りから約10年経過して約100人の増加しか見られません。ここにも本学会の特性があります。本学会は実践の場で活躍している会員が過半数を占めています。その人々の中には、学会発表前に会員として登録し、日赤系の病院を退職すると同時に学会をも退会するか連絡先不明になる人が多いのです。しかし、この会員に臨床の人々が多いことは「教育、研究、臨床の統合」を目指している本学会の今後の在り方を検討するには意義のあることと思われます。100年以上の看護教育の歴史のある日赤の看護教育の成果として、臨床において蓄積、発展されている「日赤の看護の知」を発掘し、研究、教育への再統合をはかって、さらなる発展をさせることも本学会の重要な活動と思われます。そこで、平成18年度から臨床看護実践開発事業を開始しました。この事業は平成17年度の理事会からの申し送りでもありました。この事業では先ず、「赤十字の伝えたい看護の技」をすくい上げることを目標に、学術集会での交流集会、面接や原稿依頼を通して情報収集し、その看護の技の「ひとこと集」を発行することができました。

 私たちの第3期目の理事会では、赤十字の学会としての活動として、上述の事業の他に、平成19年度に国際活動委員会を、平成20年度に災害看護活動委員会を新たに発足させました。「Humanity」を理念として、国際的に救援活動を行ってきた我が国の看護師の活動によって蓄積された赤十字の「臨床の知」を「形式知」として後世の人々に共有できる物とすることは日赤看護学会の使命です。また、グローバリゼーションの今日、世界の赤十字の看護関係者とつながり、「赤十字の看護の知」を確認しあったり、相互に交換して、さらなる発展をさせることも、本学会の重要な課題と考えました。このほかに、平成20年度に、「研究奨励賞制度」を発足させて、学会誌の創刊号から近刊号までに掲載された優秀な論文を選考委員会で選び、賞を授与することも新たに開始し、副賞の盾のデザインも決定しました。平成20年度には、2つの論文を選考し、総会で賞の授与式を行いました。この制度は研究と論文作成の労苦をねぎらい、その成果を表彰することと、優秀な論文の投稿を促進することを期待して発足しました。

 私達の第3期の理事会では、前理事会から引き継いだ委員会活動の中で、新たな取り組みを始めたものもあります。その一つが学会誌の発行を行ってきた編集委員会の活動です。学会誌の大きさを時代の要請に応じて第8巻からA4サイズに変更しました。また、投稿数が増加したこと、編集業務の精度を上げることなどを理由に、第9巻から編集事務作業を業者委託にしたこと、第10巻から年間2号を発行することを決定してきました。学会誌は、言うまでもなく、会員をはじめ、会員以外の人々に本学会の特性及び活動の実態や方向性を披露する重要な場とも言えます。さらなる充実が期待されます。本学会はようやく10周年を迎えたばかりです。日本赤十字の歴史から見れば、一里塚にたどり着いたばかりと言えましょう。今後ますます発展し、100年以上の歴史が刻まれることを祈念しております。

第4期理事長

第四代理事長 濱田悦子(元日本赤十字看護大学)

 朝夕の冷え込みが厳しく感じられる季節になりました。
 皆様、ご清祥にお過ごしのことと存じます。
 平成24年6月には、第4期の理事・監事の任期が終了し、第5期の理事・監事への引き継ぎをしたところでございます。第4期の理事会では、各委員会活動や学術集会を通して、以下のような、様々な活動をしてまいりました。

 1. 学会誌の発刊回数および質の高い論文の投稿に向けて
 日本赤十字看護学会誌は年に2回発行しておりました。投稿論文数が少ないことや、博士論文や修士論文などの学位論文の投稿が少ないことが課題でございました。そこで、学会誌の発刊回数を年1回に減らし、経費を節減いたしました。また、修士論文や博士論文の投稿をちらしやホームページで呼びかけることにいたしました。その結果、学位論文の投稿が少しずつ増え、年に1回の学会誌は、質の高い論文を掲載することができました。
 2. 会計監査の回数の検討
 これまでは、年に1回の会計監査を行ってきました。より厳密にかつスムーズに監査を進めるために、中間決算と中間監査を行うこととして、年2回の決算と監査を実施してきました。
 3. 東日本大震災に関する支援活動と交流会
 平成23年3月11に起きた東日本大震災に関連して、日本赤十字看護学会災害看護活動委員会は、被災地における健康・生活状況の把握と支援活動を企画し、現地に入りました。訪問先の方々との話し合いの内容を報告書にまとめ、学会ホームページを通してお知らせしました。また、第12回日本赤十字看護学会学術集会では、「東日本大震災における赤十字救護班の看護師の活動経験知と今後の課題」というテーマで交流集会をもちました。学術集会の2日間にわたり、「写真でみる東日本大震災被災地の被害状況、救護活動、被災者の生活」の写真展示を行い、参加者が東日本大震災の様子や支援について知る機会を提供しました。
 日本赤十字看護学会臨床看護実践開発事業委員会は、「東北地方の文化と言語の研修会 -高齢被災者支援のために」というテーマで、高齢被災者支援のための研修会を都内で開催しました。この研修会では、「高齢者とのコミュニケーションに役立つ会話」というシンポジウムが行われ、方言をつかった支援の大切さなどを伝えていきました。
 以上のように、さまざまな形で。被災者の支援に日本赤十字看護学会を通して参加することができました。

 私共は、この3年間、日本赤十字看護学会の変革と発展に寄与できるように努力してまいりましたが、学会員の皆様はどのような感想をお持ちでしょうか。残念なことに、日本赤十字看護学会の会員数は、漸減している状況でございます。退会の理由の1つに「退職」が挙げられていますが、退職をした皆様にも、引き続き学会員の一員として、学会を支えていただきたく存じます。若い力と熟練した力が合わさってこそ、学会は発展していくものと考えます。会員の皆様には、日本赤十字看護学会が益々発展していけますように、今後とも日本赤十字看護学会に忌憚のないご意見やご支援を賜りたく、よろしくお願いいたします。

 今年もあと1ヶ月余りとなりました。私事で恐縮ではございますが、在職中、多くの方々と出会え、皆様から多大なご支援をいただきましたことに、心からお礼申し上げます。
 ご多忙の中、くれぐれもお身体に留意され、皆様の御活躍を祈念いたします。

第5期理事長

第五代理事長 守田美奈子(日本赤十字看護大学)

 国内外での自然災害や社会変動、変革など様々な揺らぎが起こっておりますが、会員の皆様におかれましては、それぞれのお立場で看護専門職としてご活躍のこととお喜び申し上げます。
 平成24年6月に長野県立看護大学で行われました第13回赤十字看護学会学術集会・総会で、本学会の創設期から数えて第5期目にあたります新理事が発足致しました。学会の創生期を率いて来られた樋口康子先生、第3期の新藤幸恵先生、そして第4期の濱田悦子先生と、これまでの理事長及び理事の先生方のご尽力のもとで、本学会は今日まで発展を続けて参りました。これまでの理事の先生方の理念を継承すると同時に、会員の皆様の要請や時代のニードに即して、さらに学会を発展させその理念を実現化できるよう努力することが新しい理事会の責務だと考えております。
 本学会は赤十字に関わる看護職の実践、教育、研究活動を学術的に探求し、看護を発展させることを通して社会に寄与するという理念で活動を行っております。

 ご承知のように2011年3月に発生しました東日本大震災では様々な医療福祉活動が展開されました。看護においても災害看護の重要性と共に赤十字の看護活動の重要性も再認識されました。各地で為された災害救護・看護活動は各学会等で報告され多くの学びを看護職に提示しています。さらに今後も続く長期支援を通して、急性期以降の新たな看護の方法や課題が、これから徐々に明らかにされていくのではないかと思います。現地の早期の復興に寄与するためにも看護の力を結集し、その学びを学術的なものにして看護職や一般市民の方々と共有し、今後の発展に向けていく必要があると思います。そのためにも本学会の役割は大きいと考えています。
 また、人々の健康を守るためには、災害発生時の医療や看護だけではなく、災害発生を視野に入れた防災・減災体制、平時の時の看護を見直する必要に迫られています。病院内や病院間連携、在宅でのケア体制、病院も含めた地域コミュニティの形成など、医療や福祉、地域行政などの組織が繋がり合い、途切れることのないケアや医療の提供体制を地域で整えていくこと、それらの重要性を改めて教えてくれています。
 本年6月に長野で開催されました赤十字看護学会では、阿保順子先生(長野県立大学学長)が、「臨床看護のグランドデザイン」というテーマのもと臨床看護の在り方を捉え直すことの意味を会長講演で示唆されました。赤十字は実践を重視してきました。その視点から、それぞれの日常臨床での看護実践の在り方を検討し、看護実践と教育や研究との繋がり方を見直していくことも本学会の重要な役割だと、改めて感じさせられました。

 看護赤十字看護学会として取り組む課題はたくさんあると思われます。それらの活動の核となり学会活動を導いていく理念は「人道(ヒューマニティ)」です。赤十字は「人道」という理念のもと、人々の痛みや苦しみに寄り添い、人間の尊厳を守ることを大切にして実践しております。災害の時だけでなく、平常の看護も含めて、様々な状況下における看護実践の質を高め、国民に寄与していけるよう、本学会での活動を充実、発展させていきたいと考えております。
 看護の学会も30以上と発展しておりますが、本学会の特徴や役割をさらに明確にすべく、今後も学会活動の充実に向けて新理事の先生方と共に協力しあい、皆様方のご期待に添えるよう努力してまいりたいと思います。今後とも、学会へのご理解やご協力を引き続き賜りたく、よろしくお願い致します。