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認知症ケア

認知症の有無のアセスメント

Q:レビー小体病とは
レビー小体病とは、どのようなものでしょうか。

A:レビー小体病とは、神経細胞の中にレビー小体と呼ばれるものができることによっておこる病気です。中脳のあたりだけにレビー小体ができると「パーキンソン病」になり、大脳皮質にもできるとレビー小体病になると言われています。病変が大脳皮質にもできるため、パーキンソン病で起きるような振戦や無動、姿勢反射障害のほか、認知機能障害や幻視を特徴とする精神症状も現れることが特徴です。早期診断は難しく、パーキンソン病や、アルツハイマー病、うつ病と誤診されやすいと言われています。レビー小体型認知症家族を支える会のホームページで、セルフチェックリストを紹介しています。
http://www.dlbf.jp/selfcheck.html
根治療法は見つかっていませんが、ドネペジル(アリセプト)が認知機能障害や異常行動に有効という報告が出ているようです。パーキンソン症状には、レボドパなど抗パーキンソン病薬が用いられるようです。

経済状態のアセスメント

コメント:質指標:アセスメントについて

A:利用者や家族の経済的側面を把握することは、臨床の場でも在宅でも看護師として必要であると思います。その情報は、介護支援専門員やケースワーカーから提供してもらってもよいのです。経済的配慮を抜きに看護者がケアを提供すると、利用者や家族に無理や負担をかけることにもなりかねませんから、経済状況についても細かな配慮が必要でしょう。信頼関係がないと経済的なことは口にしにくいものです。日々よいケアを提供していくためには、その人の価値観や考えを知ると同時に、経済的側面も重要な情報として必要と考えています。
社会資源の活用やソーシャルサポートを求める時には、経済を抜きには考えられないですね。信頼される看護師ほどいろんな相談が持ち込まれます。皆さんの中でも相談にのった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。訪問看護は現場で交通整理の役割を担うだけでは、利用者や家族の期待には充分に応えられないのではないでしょうか。例えば、デイサービスやショートステイを勧めたいようなときでも、経済的負担を考え合わせて、他の方法で乗り切る策を考える必要があるかもしれません。よい策が見つからない時には、サービス担当者会議で問題提起もするでしょう。
改めて考えてみると、訪問看護師は、意外と経済的な面を考慮して対応しているようにも思います。

本人への説明

コメント:質指標:認知症の理解について
認知症について、本人に説明はあまりしないように感じます。

A:認知症の高齢者が熱を出した時には、尿路感染の場合には「尿のバイ菌から熱が出たのでお薬が出ましたよ。お薬が効いてくれば楽になりますよ」と声かけや説明をするでしょう。それと同じです。認知症の利用者は、自分はこれからどうなっていくのかと言う不安や悩みを抱えており、質問をうまく出来ないのです。寝たきりで会話がいつもスムースに出来ない利用者でもある時「看護師さん、わしの病気は一体何か?」と訊ねられた経験はありませんか。認知症高齢者も、自分に起きていることや周囲のことが何にもわからないわけではありません。自分の病気に対する不安や悩みがあるように思います。利用者の認知機能のレベルを考慮しながら、その人にとって分かりやすい言葉で説明をし、安心させてあげることが大切ではないでしょうか。
多くの認知症の高齢者も、わからないように見えても、実は訪問看護師を直感的に受け止めているように思います。「この看護師は本当に私のことをよくしてくれる良い看護師かどうか」よく観察しています。よくしてくれる人には言葉でうまく語れないが安心するようです。意識のない患者さんのケアをする時「おはようございます。今日は、気分は如何ですか。今日は体を拭きましょうね」などと話しかけるのと同じです。人間として相手を尊重し、相手に優しく語りかけることはとても重要です。認知症の利用者に病気の説明を行い、ボデイタッチをしながら「辛いね」と会話をかわすだけでも安心につながるのです。利用者への説明は、家族への説明と同じように大切ではないでしょうか。

本人の希望の聞き取り

Q:初回訪問時の工夫
認知症患者のお宅に初めて伺う場合、ご本人様に受け入れてもらえないケースや家に入れてもらえないケースがあることをよく聞きます。このような時、皆様が工夫されていること、心掛けていること、気をつけていることなどを教えていただけないでしょうか

A1:私は、訪問看護で利用者の方から初回訪問で断られた経験はあまりないのですが、以前保健師をしていた頃「関係ありません」「必要ありません」と言っていきなり玄関の戸を閉められ、門前払いを受けたことがよくありました。その頃は電話でアポもとれない時代で、いきなり撫しつけに家庭訪問をしていたのです。今にして思えば、私は相手の状況を全く省みず、病気の悪化を予防することに一生懸命になっていたように思います。私が「この人には断られそう、いやだなあ…」と思っていると相手にも伝わり、悲しい思いをよくしたものです。
しかし今は、利用者とのコミュニケーションを重視し、事前情報を把握するように心がけています。何よりも利用者と家族の要望をしっかり聴き、アセスメントをします。そして第一印象を良くし、人生の先輩である利用者や家族への尊敬の気持ちを忘れずに、できるだけ相手に寄り添えるように心がけます。認知症があるからと言って決して特別視せずに、まずは、一人の人間として向き合うことからはじめることが重要ではないでしょうか。初回訪問の前に、できれば退院前訪問で顔をつないでおくと安心にもつながります。利用者や家族の方は、どんな看護師が訪問看護に来るのか、心配しながら待っておられるのでは…。訪問看護師は、訪問をする時のマナーをしっかり身につけ、利用者や家族との信頼関係を築く努力も一方で求められるのではないでしょうか。

A2:認知症ケア実践を5年以上行っている訪問看護師の方にインタビューさせていただいたなかで教えていただいたことですが、家に入れてもらうために、訪問看護師がどのような人物として登場すれば療養者が安心して受け入れてくれるかを探索したり、訪問看護師が訪問するときに必ず家族がいるように手配したりされていました。具体的には、「健康相談として市から依頼された看護師」として訪問し、ご本人様に対して家族からもそのように紹介してもらったとのことでした。また、「介護」という言葉はご本人様が不安になるとのことで、事前に介護支援専門員から「介護」という言葉を使わないでほしいと伝えられたとのことです。訪問看護師として、事前にできる限りの情報を収集し、ご本人やご家族の状況にあわせた対策をたてることが大事であることを教わりました。

表情から読み取る

Q:痛みのアセスメント法
認知症の方の痛みについて、みなさんは、どのようにアセスメントしていますか。足を骨折していても、表情一つ変えず歩いていたりするので、痛みがあるのかないのか悩んでしまいます。そういう時には、みなさんはどうされていますか。

A1:骨折は足のどの部位でしょうか。ギブスはしていますか。発症後何日経過していますか?バイタルサインや骨折部位の腫脹、内出血状況、皮膚の色、体熱感、疼痛、食欲などを看た上で、いつもの状況と何か変わった事がないかどうか本人や家族に尋ねます。一方で、痛みがあるのかどうか、あなたが悩んでいる事をまずは利用者の方に尋ねてみてはいかがでしょうか。「私は、あなたの足の骨折を心配しているのですが…歩く時痛くないですか?我慢しているのですか?骨折したときの状況を教えてください。転んだのですか」など、まずは相手の方や家族の方とよく対話し、情報収集してアセスメントすることが必要だと考えます。
認知症があっても、まず骨折の基本的な対応や骨折の原因を除去し日常生活の中で環境を整えることが必要です。この方にとって、少しくらい痛みがあっても歩行を禁止される方が、それ以上に苦痛なのかもしれません。表情を変えずに歩行されている状況は、おそらく痛みは自制内でしょう。疼痛が強ければ、顔をしかめたり歩行時の姿勢が崩れたり、腫脹があったり転倒したりしますが、急性期を過ぎれば安静を保つのは困難かもしれません。動ける範囲で家庭内であればやむを得ないと私は考えます。その場合、ギブスやサポーターを使用すると幾分かは衝撃の緩和や安静が保てるのではないかと思います。しかし、それも嫌がるかもしれませんね。動いている分には完治が遅れる可能性も考えられますが、時々診察を受けて写真をとってもらいフォローすることが大切ではないでしょうか。
痛みの対応と同時に転倒を予防し、環境調整にも目配りが必要だと考えます。認知症があっても特別視せずに、人とのコミュニケーションを大切に、時にはコミュニケーションチャンネルを変えながら柔軟な対応を期待しています。

Reply1:骨折したのは4週間前で、骨折したのは右足の指(第2指)です。ギブスはしていません。一昨日レントゲンを撮ったところ、骨折したところはまだくっついていないといわれたと家族が言っていました。利用者さんに痛みについて聞くと「なんだかな」と言います。立ち上がるとやけに体を揺らすので痛いのかなと思うのですが、聞くと「いいや」と答えます。でも、普通はまだ痛いのではないかと思うのです。主治医は、認知症なので鎮痛剤はいらないというのですが、本当にそれでいいのかわかりません。ただなんとなくこのところ利用者さんの落ち着きがないような気がして、気になっています。

A2:認知症の方の痛みには、鎮痛剤はいらない?本当にそうでしょうか。中には、積極的に非ステロイド系の鎮痛剤を使用される医師もおられます。認知症の原因の5~6割は、アルツハイマー病で、1~2割が脳血管性認知症であり、この2つの疾患が認知症の7割を占めているといわれていいます。
1906年ドイツのアルツハイマーが学会で認知症の症例を発表しました。死亡解剖によると脳に老人班と神経原繊維化という病変が見つかりました。それから100年を経た今日、老人班と言われる病変は、神経組織にβアミロイドというβ蛋白重合物が異常に蓄積したものであるということがわかりました。このβ蛋白は「β蛋白前駆体(APP)」といわれる大きな蛋白から切り離され作られます。βセクラターゼとγセクレターゼという酵素の働きで2箇所に切断され、アミノ酸ガ40~42個程度に繋がった小さな破片であるβ蛋白が切り出され、細胞膜を境に細胞内と細胞外に切り出されます。脳には蛋白質を分解する仕組みがあり、β蛋白を取り除いてアルツハイマー病を防いでいます。この生産と分解のバランスを崩すとアルツハイマー病の素地が出来上がってしまうといわれています。非ステロイド系の鎮痛剤は、γセクレターゼによる切断部位を揺さぶり悪玉β蛋白の生産を抑えます。疫学統計では、ハンセン氏病や関節リュウマチで長期間非ステロイド系の鎮痛剤を服用するとアルツフハイマーの予防効果があることが示されました。マウスの実験では、非ステロイド系のイブプロヘンやインドメサシンの投与でβアミロイドの沈着が減少したという報告もあります。しかし胃腸障害の副作用もあり医師の処方により服用することが重要です。
また降圧剤の服用は、血圧をコントロールし、脳血管性疾患の発症を予防し、同時に脳血管性認知症を予防します。動物実験では、降圧剤の中には老人班形成の抑制やβ蛋白の生産抑制作用も示されています。したがって認知症高齢者の痛みには、必要時医師の指示で非ステロイド鎮痛剤を服用し、痛みの軽減を図り、ADLやQOLの低下を予防することが重要ではないでしょうか。痛みを放置すると、不安や緊張、不穏が増強され、臥床によりさらに認知機能が低下し、廃用性を促進する危険性も考えられます。それと同時に認知症の方が、安心できるようにコミュニケーションをしっかりとり、環境を整え、新たな問題の発生を防止し、痛みの改善を通してADLや行動・心理状態の改善を図って行く努力も大切であると考えます。

Reply2:認知症は、脳の病気なのですよね。本人がとぼけていたり、わざとへんなことをしていたりするわけではないのですよね。だからこそ、認知症でない人と同じように痛みを取る必要がありますね。今更ことの重要性を再確認しました。また、鎮痛剤は、βアミロイドの沈着を減少させるというよいこともあるのですね。ならば、むしろ積極的に鎮痛剤を使いたいですよね(副作用のことも心配ですが)。

早期受診への支援

Q:早期発見のための診断ツール
認知症を早期に発見し、介入できるための判断ツールを探しています。10時10分テストは適当でしょうか。簡便に実施できるメリットは感じますが、評価(採点)が難しいとも考えます。長谷川式は「早期」を発見するには適していないと感じています。

A:早期発見について少し調べましたところ、認知症の人のご家族の会で、以下のようなチェックリストを作っておられました。ご自身がたの経験を振り返って、「そういえばあの頃から…」と感じられる内容だそうです。

  • 1.今、切った電話の相手を忘れる。
  • 2.料理、片づけ、計算、運転のミスが増えた。
  • 3.約束の日時や場所を間違えるようになった。
  • 4.些細なことで怒りっぽくなった。
  • 5.自分の失敗を人のせいにする。
  • 6.ふさぎこんで何をするのも億劫になった。

以上のリストを見ると、怒りっぽいとか人のせいにするなど情動的な部分も手掛かりに含まれているところが興味深いと思いました。認知症はやはり生活障害の観点から判断する必要があり、標準化されたテストだと把握しにくい部分があるのだろうなと思いました。
「認知症フォーラム」という情報サイトを見つけましたので、より詳しくはそちらもいかがでしょう。
http://www.ninchisho-forum.com/

Q:初期判断・受診へのアドバイス法
初期の判断は、どのように考えたらいいですか。年相応の物忘れと言う捉え方が多く、線引きが難しいと感じています。認知症が出始めたときに、特に要注意の症状というものはありますか。特に初期症状をどのように考えて、受診へのアドバイスをしたらいいか迷っています。

A:認知症の初期の判断はどのように考えたらよいのか、大変むずかしい質問です。
早期に認知症の診断がされないために、年のせいにされたり、手術により根治が可能な病気の対応が遅れたり、中にはうつ病の内服薬をずっと長く服用していたという報告もあります。しかし近年、認知症の増加に伴い認知症の予防から、早期発見、ターミナルケアにいたるまで、地域で生活が出来るように暮らし全般をどのようにケアし支援していくか、というケアと支援体制の確立が急務になっています。
これまで認知症が発見されるまでの期間は、70%の人が発症から2年以上経過している現状が報告されています。認知症を早期発見し、早期に薬剤を開始することにより、認知症の進行を遅らせ、症状を改善していく上で期待されています。認知症本人・家族が社会生活を安定的に送れることは、「生活の質」の面からとても重要なことだと思います。また、医療経済的な側面からも認知症の発症を2年遅らせると、その経済的効果も大きいと言われています。認知症の予防と早期発見は、ポピュレーションアプローチ(地域住民一般を対象)とハイリスクアプローチがあります。認知症の予防や早期発見、たとえ認知症を発症しても地域で生活できるように総合的に支援する地域づくりや協働のとりくみは、厚労省の総合対策の骨子でもあります。そして近年、そのモデル事業の成果も報告されています。
訪問看護現場では、いつもとは様子が異なる場合は、認知症かあるいは加齢によるものかどうか、観察しながら家族に様子を尋ねたり、経過観察をしたりすることがよくあります。東北福祉大学の浅野先生は、「地域保健」特集号で加齢に伴う物忘れと認知症の物忘れの違いについて以下のように述べています。年を重ねると物忘れや度忘れが始まります。顔を思い出せても名前が出てこなかったり、しまい忘れ、置き忘れが増えて「ない、ない」と大騒ぎをすることがよくあります。
では、加齢に伴うもの忘れと認知症による物忘れはどのように違うのでしょうか。加齢によるもの忘れは、体験の一部を忘れるのに対して、認知症では体験の全てを忘れます。食事を例にとれば、食べた献立内容を忘れるのと食べた事自体を忘れるとの違いです。加齢に伴うもの忘れには、自覚症状があり、別の機会に突然思い出すことがあります。認知症の物忘れは、自覚症状がなく、思い出せない部分に作話が混じります。認知症の物忘れと加齢による物忘れの大きな違いは、ひと口で言えば、日常生活に支障があるかないかと言う事です。認知症の初期症状は、直前の出来事を忘れることから始まります。例えば、会話中に他の用事を済ませた後で前の会話が思い出せないとか、電車に乗って目的地を忘れるといったことが起こります。日付け、時間、曜日があいまいになり、人との会う約束を忘れてしまうことがあります。さらに方向感覚が鈍くなり、慣れた道を走っているのに運転中に道を迷ったり、車線変更がうまく出来なくなったりします。意欲の低下も伴うことが多く、以前と比較し出不精になったり、同じものを何回も買ってきたり、おどおどした自信のない態度が目立つようになります。
私の経験でもトイレの水の出し忘れや二つのことが同時に出来ない、これまで食事を作っていた人が出来ない、服装がだらしなくなる、着替えが出来ない、火の始末が出来ない、入浴を拒む、車の運転でバックができないなど認知症の初期症状と思われる状況に遭遇した経験があります。「これは何だか少し変だ」と思える場合と、作話が入るとすっかりだまされてしまうことなどもあります。しかし同じ事を何回も言っても感動の心を忘れず、本人の訴えを聴く姿勢を持ち続けたいと願っています。以下加齢によるもの忘れと認知症の違いを表1に示します。
表1忘れ方の違い

<加齢に伴うもの><認知症>
加齢:体験の一部を忘れる認知症:体験の全部を忘れる
加齢:もの忘れを自覚している認知症:もの忘れの自覚がない
加齢:別の機会に思い出せる認知症:思い出せない部分に作話が混じる

(地域保健2009.8より)

コメント:専門医への早期受診が困難なケース
専門医への早期受診が難しい、専門医が近くにいない。

A:専門医が近くにいない時には、もの忘れ外来や地域包括支援センターに相談をしてみては如何でしょうか。何か良い方策が見つかるかもしれません。認知症と診断される人の7割以上が発病後2年を経過しています。早期に診断をしてもらい早期に治療すれば病気の進行を遅らせることが出来る場合もあります。何とか専門医につなげたいですね。

初期からの関わり

コメント:質指標:認知症の症状のコントロールについて
早期からの関わりは、訪問看護師には難しいのではないか。

A:早期からの関わりは重要と認識していても、実際、認知症ケアを専門特化していない普通のステーションでは、紹介されるケースが少ないのも事実です。認知症の方には、家族や介護支援専門員も訪問看護の利用には消極的で、デイサービスやレスパイトケアとしてのショートスティの利用を重点的に考えているケースが多いのも事実です。又、訪問看護師の方でも早期に紹介されてもケアに自信がもてない、自分の技術に不安を覚える人も調査では多く見られます。「早期に訪問看護を受け入れた場合にはこのようなメリットがあります」と確信が持てるように訪問看護師が認知症ケアのスキルアップを図っていくことが大切ではないでしょうか。他の疾患で訪問看護を受け入れている場合にも「この利用者は認知症では?主治医や専門医の診察の必要性は?」と認知症の早期発見の取り組みをしてはいかがでしょうか。カンファレンスの中でケア計画を立てて実践し、取り組みの成果を出して訪問看護師の自信につなげていくことから始めましょう。そうすれば必ずその成果が地域に広がっていくでしょう。認知症の家族会の活動にも訪問看護師が参加し、協働の輪の中へ入っていくことが大切ではないでしょうか。紹介を待つのではなく、一歩踏み出すことが求められるように感じています。

認知症、基礎疾患に関する受診の継続や服薬管理ができるように援助する

Q:認知症治療の新薬について
最近出ている新しい認知症治療薬には、どのようなものがありますか。

A1:現在、認知症、特にアルツハイマー病の進行抑制目的として、塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)が主流で、使用開始されて10年が経ちます。しかし、現在その他に新薬というものは発表されていません。研究段階ではありますが、アルツハイマー病の原因物質である「アミロイドβ」の脳内への蓄積にターゲットを置いて、新薬の開発がおこなわれているとも言われています。

A2:
1.塩酸ドネペジル(アリセプト)のようなコリンエステラーゼ阻害剤では、米国やEUでは「リバスチグミン」「ガランタミン」が認可されているそうです。日本ではまだ未認可です。
http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0013/4/0013_G0000080_T0003092.html
2. 別の作用機序をもつ「メマンチン」が、日本で第三相試験(有効性・安全性の検討のための大規模調査)を終了しています。このメマンチンは塩酸ドネペジルとは別の作用機序を持つため、ドネペジルとの併用療法で効果を挙げたという報告があり、米国では両者を併用することも多いそうです。
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/ll/hotnews/archives/286839.html
3. アルツハイマー病患者の脳にみられる老人斑にあるベータアミロイドを免疫的に除去するという方法が、ワクチン療法です。これはマウスでの実験で効果が確認されたのですが、治験の段階で4%の患者に脳炎が起きたため、治験が中止されました。しかし、その後の経過の中で亡くなった方の脳を見ると、老人班が消失するか減少しており、ワクチン療法の効果そのものは期待できそうでした。前回の治験では筋肉注射による使用だったため、経口ワクチンが開発され、治験を待っている状態だそうです。
http://www.dnavec.co.jp/jp/description/description22.html
4. それ以外はまだ学会報告レベルで先行きは分かりませんが、dimebolinと呼ばれる項ヒスタミン剤によりヒトやマウスの認知機能を上げた一方で、脳内のベータアミロイドレベルを「上げた」という報告があります。ベータアミロイドはそれほど悪いものとも言い切れないのでは、という知見です。また、「神経原線維変化」というのはアルツハイマー病患者の脳にみられるもう1つの変化ですが、これの原因となっているタウ蛋白を除去するワクチン療法が開発されていること、ベータアミロイドを除去する機能のみられる別の薬剤について、などが報告されています。
http://www.drakahige.com/NEWS/DAILY/2009/2009072702.shtml

自立の維持

Q:PT不在での身体的機能低下予防法
認知症があっても身体的な機能低下を防ぐために積極的にリハビリをやっていきたいのですが、PTがいないのでどうしたらよいかわかりません。退院された時のメニューを何年もそのままやっていたりして、これでよいのだろうかと思っているのですが。

A: 認知症利用者の身体的機能の低下をどのように予防していくか。以前にPTが立案したリハビリの処方内容でよいのか。身近にPTのスタッフもいない中でどのように考えたらよいか、というご相談でしょうか。
本人・家族は、ADL、IADLのどの部分を維持、拡大、向上させたいと願っているのでしょうか。その目的や目標は何処にあり、何を獲得したいのでしょうか。例えば端座位で車椅子に座って食事や散歩・外出をしたい、体位変換が自力で出来るようにしたい、四肢の拘縮を予防したい、転倒予防のために下肢筋力を鍛えたいとか。まず、第一に本人や家族の要望がどの辺にあるのかしっかりと掴むことだと思います。第二に看護師や介護士の専門の立場から見て、利用者・家族の日常生活の何処を強化しないと本人のQOLの低下や介護負担に影響するのか、以前、PTの立てたリハビリ計画が現在の生活や身体レベルに合致しているのか再アセスメントすることが重要ではないでしょうか。認知機能と合わせ身体機能の向上を図ることが大切では。そのためには、カンファレンスの開催を介護支援専門員に呼びかけ、多職種と情報交換する中できっと良い方針が見つかるはずです。それでも方針が立てられない時は、以前にリハビリ計画を立てられたPTにアセスメントの内容やカンファレンスの内容を報告し、お互いの顔の見えるところで相談をされてはいかがでしょう。貴方の熱意は伝わるはずです。どんどん地域連携の輪を広げていくともっと良いケアができ、日々の仕事も楽しくなるのではと思います。
利用者の具体像が見えてこないので一般的な答えにしかなりませんでした。

本人の行動の尊重

Q:整理整頓されていない訪問先の対応
家の中が足の踏み場もなく整理されていない状態や、ごみの多い状態の場合、どのように対応されていますか。

A:室内が足の踏み場もないほど乱れているとのことですが、以前このような利用者さんのお宅にうかがった時は、そのような状態が怪我や病気を引き起こす可能性があることを説明したうえで、ケアマネ・担当看護師に加え、手が空いているスタッフ総出で掃除をさせてもらいました。他にも自治体の福祉担当を巻き込むなどの手があると思いますが、どのような場合でも利用者さんの了解を得ることが第一歩だと思います。

コメント:制限された時間で行う訪問看護~「見守る」について
本人が希望するようにと言っても、訪問看護には時間の制限があり難しいです。

A:「本人が納得するまで自由にやりたいように見守る」は、訪問看護師が実際にそのようにするということでは必ずしもありません。家族への提案として考えていただけるといいと思います。家族が時間的にも認知症高齢者と付き合っていられない時こそ、否定せずに行動を共にしながら本人の関心をそらす工夫をすることで、本人も家族も楽になることがあります。例えば、夜間タンスを移動し、部屋の位置を変えようと思いつくと、高齢者はすぐに行動に移そうとします。しかし、否定をせずに本人に自由にやらせておくうちに、疲れて自分から中止することもあります。頭から「夜間にこんなことをするなんて…」と否定的に対応すると、却ってむきになってしまって朝まで活動してしまったり、ということもあります。家族は疲れきってしまい、昼夜逆転するような結果にもなってしまいます。
タンスを動かしているときにアルバムが出てきて、「こんな懐かしい写真が出てきたわ」と言ってアルバムを広げ昔話をしながら一緒に行動しているうちに、本人はすっかりタンスの移動のことなど忘れてしまった、というケースがありました。即興の回想法ですね。
本人の要求は否定せずに、行動を共にできるときには一緒に行動し、無理だなあと思った時には関心をそらすだけで、本人の満足も高いまま問題を解決できることがあります。家族が知恵を働かせることにより、本人も家族も無理なく納得のいく方法で解決できるように支援することが、訪問看護に求められるように思います。

社会資源利用への支援

Q:在宅生活が困難になりつつある利用者への対応
独居高齢者の認知症が進行していく過程で、在宅生活が困難である、と判断する基準をどのように定めていらっしゃいますか。訪問診療医・24時間対応の訪問看護が入っていますが、家族は遠方です。本人は医療にかかること・施設への拒否感が強いですが、どこかでシフトチェンジが必要ではないかとも感じています。

A:施設か在宅かの岐路は難しい局面ですね。認知症があってもなくても、独居でも同居家族がいても、一律な目安ができるというよりも、一例ずつ悩み考え、決断に至るプロセスがあるように思われます。なので、目安というよりも考える手掛かり、ということで考えたいと思います。
斎藤正彦さんという精神科医が「親の『ぼけ』に気づいたら」というご著書のなかで、在宅か施設かの選択について、以下のように書いておられました。

  • 家族介護力が手薄、あるいは介護をする気持ちになれないご家族なら、要介護2・3の状態でも、介護なしに人間らしい生活ができなくなった時点で、できるだけ早く施設入居を考える。
  • 介護力のあるご家族なら、無理がないよう、可能な限り在宅介護の援助
  • しかし、いくら介護意欲があっても心身の疲労が一定の閾値を超えてしまうと介護者・被介護者双方にとって危険。

独居の場合は、さらに

  • ひとりで生活される上での危険はどのようなものか(転倒・脱水・火の不始末など)
  • 別居にせよご家族がおられる場合は、その方がどの程度介護に心身経済的に費やせるか
  • 地域でどれだけ支えられるか

などを考慮する必要があるのではないでしょうか。片道2時間かかるところに住んでおられた子供さんが、独居の親ごさんの家じゅうにカメラモニターを配置して、異常が感知されるとすぐにケアマネさん等に相談できる体制を作っておられた例も複数ありました。地域の人たちが定期的に訪問している場合もありました。転倒リスクのある場合じゅうたんを敷き詰めるなど環境調整をして在宅継続を試みる場合もありました。

ADLの支援

Q:膀胱留置カテーテル挿入に起きる詰まりへの対応法
認知症の女性で、寝返り、起き上がりができない要介護5の寝たきり。経管栄養で栄養と水分を補っており、仙骨部に深い褥瘡がある。褥瘡のためにバルンカテーテルを留置して一年以上経過しているが、最近、白い砂のような白い石のようなものが多く、1週間以内につまってしまい交換している。
何か、みなさん対処方法で何か案はないでしょうか。カテーテルの種類を変更し、先端の穴が多孔のものに変更したり、水分、体位変換に気をくばったり、医師に相談し、抗菌剤を試みました。他のスタッフからは、pHを確認しクランベリージュースを使用したらどうか、腹臥位を取り入れたらどうか、思い切ってバルンカテーテルを抜去したらどうかといった案がだされました。

A1:1週間に一度の割合だと大変ですね。書いてくださっているようなさまざまな対処法は、奏功したでしょうか。していませんでしょうか。こちらでも調べてみています。

Reply1:抗菌薬を使用したところ下痢を起こしてしまい、すぐに中止になりました。しかし、抗菌薬でその白い砂のようなものが少なくなってきたとのことですので、効果があったのかもしれません。他のナースの同じような事例では、オゼックスでその白い砂のようなものがきれいに消失したと聞いています。まだ他の方法(クランベリー、腹臥位、カテ抜去)は試みていないそうです。下痢で経管栄養剤も入れられず、これでは褥瘡が…悪循環ですね。

A2:経管栄養の内容・量並びに、一日の水分量はどれだけ摂っておられるのでしょうか。また、一日分の尿量はどれだけでしょうか。バルンカテーテルが詰まり易い場合には、まず注入する水分量と尿量を調べ、水分バランスをチェックすると良いと思います。発熱や発汗異常、嘔吐、下痢、慢性膀胱炎、創傷、出血などがないか、また、基礎疾患により水分量の制限があるのかなどについてアセスメントします。
一日分の尿量がキープされていて詰まる場合には、私たちはバルンカテーテルのサイズをアップし詰まり具合を見ます。それでも詰まる場合には、カテーテルを3wayに変え、生理食塩水を点滴により3wayにつなげて膀胱洗浄を500~1000ml、1週に数回試みることもあります。また補液を検討することもあるでしょう。家族の介護力も視野に入れて、ステーション内でカンファレンスを開いてみてはいかがでしょう。その上で主治医と相談しても遅くはないと思います。
高齢者はバルンカテーテルを留置すると、1週間を過ぎる頃から膀胱の萎縮が起こるようです。バルンカテーテルの使用期間が長くなるにつれ、膀胱内の常在菌や新たな菌の侵入により慢性の膀胱炎を併発する可能性も高くなります。体力が低下している時に異物を挿入すると、どうしても菌が繁殖し易くなるようです。経管栄養をしている時には、電解質バランスが崩れることもあるので、そのチェックも必要でしょう。

Reply2:水分バランスのチェックや水分補給は実施しております。チームで検討した際に膀胱洗浄についても挙がったのですが、白い砂のようなものが非常に多いため再度つまることが予測され、いまのところ実施していません。バルンカテーテルの太さは留置期間が長くなるとまた太くしなければならなくなるため、受け持ちの判断でいまのところ太さはそのままにしています。

A3:量がとても多いこと、砂のようであることから、薬剤などの再結晶したものという可能性は考えられないでしょうか。腎結石、尿管結石溶解のための「ウロカルン」という薬剤を用いることもあるそうですので情報までに。

Reply3:受け持ち看護師さんに聞いたところ、腎盂腎炎、敗血症になり、入院したそうです。近々、退院するのですが、尿も褥瘡もどのような状態になっているのか、気になるところです。ここでいただいたアドバイスを受け持ち看護師さんに伝えました。

Q:食事時に入眠する利用者について
それまで覚醒していても食事の時間になると爆睡してしまい、食事接取量が減り痩せてきました。夜間の睡眠はOK、薬との関連はなさそうです。今は食べたい時に食べられるような捕食を用意し、全体の摂取量を保とうとしています。原因や対策について何かアドバイスを頂けますか。

A1:認知症の方が示されるさまざまな問題には、観察から原因を探索し、さまざまに工夫することの積み重ねで対処しなくてはいけませんね。いくつか考えてみました。観察としては、

  • 爆睡は食事が始まってからでしょうか。食事の開始とは関係なく、一日に何度かうとうとしてしまうのでしょうか。
  • しっかり眼が覚めているときもあるでしょうか。
  • 食事の内容との関係はあるでしょうか。
  • 食事の前後の活動との関係はあるでしょうか。

対策は、

  • 認知症の方は夜昼の睡眠リズムが崩れる一方、人間の覚醒レベルのリズムは日中夜を問わず約2時間とも言われているそうです。もし、夜昼の睡眠リズムが崩れ、たまたま食事時間がその「2時間」の周期に当てはまって眠くなっているのなら、そのリズムを外した時間に食事時間を設定するというのはいかがでしょうか。
  • 睡眠のリズムに関係なく、一旦眠ってしっかり眼が覚めているときがあるなら、目覚めたときにすかさず食事を出してみるというのはいかがでしょうか
  • 咀嚼運動で眼が覚めてくるというのは聞いたことがあるのですが、ある程度お腹に食べ物がたまると眠くもなりますよね。食事時間を短く切り詰めると言うのはいかがでしょうか
  • 運動すると疲れて眠くなりますよね。食事前のアクティビティによって眠くなっているのかもしれません。アクティビティレベルを少し下げたり、食事の後に持ってきたりとというのはいかがでしょうか。
  • 逆に、活動レベルが下がるなどで空腹や口渇を感じにくいのだとすると、活動を取り入れたあとやお風呂のあとにごくっと一杯冷やしておいた栄養補助食品を、というのはいかがでしょうか。
  • 食事の前に眠りそうになったら、ごはんの良い匂いを嗅いでもらうとか、お茶碗の音をさせるとか、「そろそろお昼時ですねー」「今日は秋刀魚がおいしそうでねえ」「冬はやっぱり根菜ですよねー」とか、そんな「食事をするぞ」ムードを高めてその気になっていただく、というのはいかがでしょうか。

もっとあると思います。みなさまアイディアをくださいませ。あれこれやってみる候補がたくさんできるといいと思います。

A2:食事時間になると、うとうと眠り出したり、食事の途中で眠ってしまったり、舌の動きが止まり口を開けてくれないことがよくありますね。その原因は、どこにあるのでしょうか。まず、対象のレベルについて、在宅療養の安定期にあるのかエンドステージにあるのかにもよります。日々の観察と異なる点に注目をしてみると、認知症の進行や、病気の悪化、発作の前兆、感染や発熱、脱水が原因なのか、加齢・廃用性によるものなのか、あるいは薬剤が関与していないか原因を検討してみる必要があります。原因を確かめた上で、危険な徴候がない時には、

  • 食事をする時には、端座位又は車椅子に座って姿勢を保ち食事をする。
  • 食事前には温かいタオルで顔や手を拭いて刺激する。食事中は覚醒状態を保つように声かけをしながらコミュニケーションを保つ。
  • 必要に応じ、舌の動きを良くするために口腔内のマッサージやリハビリを行なう。
  • 食べるタイミングやリズムを掴む。家族が工夫していることを参考にする。
  • 献立は本人の好みを取り入れ、消化が良く、栄養価も高く美味しく食べられるものを用意してもらう。食べ易い調理形態の工夫や食事の適温調節も行なう。
  • 疲れないように配慮し、食事のセッティングをすると同時に食事を食べてもらう。
  • 自分で食べられるところまで自力摂取を促し、介助が必要になれば手助けする。
  • 食事を食べるのに時間をかけすぎると、本人も疲れてしまうためケースバイケースで対応する。カロリー不足の時には、高カロリーの食べ物や飲み物を摂ってもらう。
  • おやつの工夫をする。

上記のことは、訪問看護師の皆さんは日常的に工夫されておられるかと思います。
今回のように食事になると眠ってしまうのとは逆に、食事を食べる時だけ起きて後は眠ってしまう場合もあります。認知症があり高齢でエンドステージに近い方で、一週間の内3日間眠り続け、その後突然起きて食事を摂り、又3日間眠り続けるパターンの方もいらっしゃいます。口から食べることは、生命力を維持していく上で必須です。それゆえ訪問看護師は、消化能力や全身の衰えを的確にアセスメントし、本人や家族の意向を尊重した上で方針を再検討する必要があります。訪問看護師は食べることの重要性を認識しているがゆえに画一的に対応するのではなく、今回のケースのように食べたい時に食べ捕食を工夫し、対象のレベルに合わせた柔軟な対応が求められているのかもしれません。

周辺症状へのケア

Q:物の授受について
認知症の患者さんで、ものを下さろうとする方がおられます。お断りすると攻撃的になったり興奮されたりして、お付き合いが難しいのですが。

A:よいケアを提供すると利用者の方は感謝の気持ちを何らかの形で表したくなるものです。それは認知症に限らず人間として当たり前の行為であり、自然だと思います。しかし中には、もっとよくして欲しいから品物を差し出さないと良くしてもらえないと利用者・家族が考えているとすれば、訪問看護師としてそのようなオーラーが出ていないか反省してみることです。くださる品物の内容にもよりますが、高価な品物やお金、わざわざ買ってきたもののたぐいは受け取れません。一度は「ありがとうございます」と感謝して頭を下げ、受け取ります。そして訪問終了時に本人のいない所で家族に「利用者さんから~をいただきありがとうございます。お気持ちだけで充分です。本当に感謝いたします。お気持ちをいただいてこの品物はお返しします。」と言って対応します。それでもうまく行かない時は、ステーションの所長や介護支援専門員に相談し、本人や家族から品物を受け取れない趣旨を説明してもらい、納得していただきます。
認知症の方はもの忘れしやすいので、お礼の品物を差し出したことも忘れていることがあります。そんな時むげに断るとまた思い出すので悪循環になります。そこは家族とよく相談しましょう。私が勤務していたステーションで独居の高齢者が日切れのヨーグルトを看護師に出し、看護師は断っても受け入れてもらえず、その場の雰囲気を考慮し、無理に食べたと不快感を表していました。それとは別にその女性は、ステーション職員全員にTシャツをプレゼントされ、それはお返しできないと判断し、感謝の気持ちを伝え、変わりにお返しの品を準備しその女性にお渡ししました。相手の立場を充分考慮し、今後気を使わなくてもよいことを説明し、信頼関係を崩すこともなく納得していただきました。
訪問看護の場では、基本的にはお礼や金品の授受は禁止になっていす。訪問看護サービスを受ける時のオリエンテーションで利用料金の支払いに関して説明をする時、謝礼等についてもトラブルが発生しないように口頭や文章による説明が必要であり配慮したいものです。

カテーテル類の管理

Q:点滴の自己抜去対策法
胃の噴門部がん末期の患者様で、1日に流動物を1000ml程度引用しています。訪問で1週間に2回アミノレバン500mlの点滴にうかがっています。点滴のことは理解出来ていますが、先日自己抜去してしまいました。お嫁さんが介護しています。弾力包帯等で固定しても、自分が気に入らないとまた抜去する可能性があると思います。何かよい方法があったら御指導下さい。

A1:点滴の自己抜去は危ないことですし目が離せないので、介護されているご家族の方にも負担の大きいことですよね。現時点では、どこの部位にラインをとり、点滴バックの位置はどのようにされていらっしゃるのでしょうか。どのくらいの時間をかけて、点滴されているのでしょうか。状況がわからないまま、提案することは大変恐縮ですが、一案として書かせていただきます。ポイントとして、ラインや点滴バッグを療養者本人に見えないようにすることがあげられています。

  • 上腕の血管にラインを確保し、ルートは袖口ではなく、襟から出す。ルートや点滴バックは療養者本人が見えないようにするために、ルートは枕のわきに沿わせ、点滴バッグは頭側に置く。
  • 前腕の血管にラインを確保した場合でも、ルートや点滴バックは1)と同じにしてみる。
  • 足の血管にラインを確保する。歩ける場合は点滴バッグをリュックなどに入れて背負わせる。(高低差があるので、滴下されます)

現時点での工夫点や、他の案についてご意見いただけたら嬉しいです。

A2:一日1000mlの流動物はどのような感じで飲んでおられるのですか。また、それはエンシュアのようなものですか。なお、一日500mlの水分量を取ることについてですが、どうしても水分摂取が必要でしたら、大塚製薬のOS-1があります。点滴と同じような効果があるようで、発展途上国などでも使用されており、点滴にかわる水分を取る方法の一つとして利用しています。液体とゼリーの2種類あって、点滴を抜くというそもそもの心配はなくなるかもしれません。あくまでも利用者さんの状態次第ですが。


A3:「患者様の傍にずっと付いていてあげる」というのは難しいでしょうか?
訪問看護の時間内を有効に活用し、その前後の時間はご家族と時間を調整したり、訪問介護などのサービスを合わせて、誰かが必ず傍に付くケアを提案しても良いかもしれないと考えました。また患者様の状況によってなのですが、主治医に相談をしながら点滴の速度を少し早めて終了を早くする、という方法も同時にできたらと思いました。患者様の心肺機能の問題もあるかと思いますので、あくまで提案です。

A4:私も利用者の傍に付き添う案に賛成です。病態や利用者の背景も充分理解していないのに意見を述べるのは、心苦しいのですが。一般にターミナル期は、補液量を最小限度に止め全身の負担を軽くする必要があります。肝臓に転移し、肝脳症の悪化を予防するためにアミノレバンの点滴が必要であるならば、2回/週、500mlを分けて1回量を250mlとし、隔日あるいは週4回、あるいは毎日250mlの点滴を行うように主治医と相談してみてはいかがでしょうか。そうすれば点滴中は看護師及び誰かが傍に付き添うことも可能ではないでしょうか。点滴時間が長いと苦痛を伴い抜きたくなる気持ちを、受け止めてあげてください。費用負担については、ご家族に充分説明し、相談する必要があります。

Reply:その後、「点滴をしています。終了したら◯◯さんが抜きます。」カードをさげたり、点滴している箇所をハンカチでカバーしてその上を服の袖で隠したり、一件点滴していない事を装ったり、説明したことをすぐに忘れてしまう短期記憶障害の為、ハッと気が付いた時に、点滴にぶら下げたカードを見られるようにしました。勿論、訪問看護が入っている間は看護師が見ていました。アルツハイマーを発症したのは、一年前で、施設に金曜日の朝から月曜日の朝までショートステイ、水曜日・木曜日にデイサービスに通っていました。今回、胃癌末期で訪問看護が導入されました。本人の体調も何とか安定しており、4月から孫が新一年生になるためお嫁さんの気持ちが安定せず、ショート・デイを同じように続けながら、訪問で点滴を行うことになった経緯があります。本人は、今までお世話になったヘルパーさんに、いいところを見せたい、迷惑をかけたくないと思っているようで、施設にいるときは気を張って過ごしていました。流動食も施設の内容の方が本人とっては良いようでした。点滴事件が起こってすぐ位の時期に、本人が疲れてきているとの情報もあり、点滴週2回から週3回へ変更し、点滴時は訪問看護と時間差で慣れている施設のヘルパーさんに入って頂き、500mlの点滴を無事終了出来るようになりました。しかし、自分の納得のいく食事が取れないことに対する不満がお嫁さんに攻撃する事につながり、お嫁さんの介護困難となり、緊急的に当病院にショート入院になりました。現在入院中です。施設入院は難しく、また在宅に帰る予定です。

地域住民への働きかけ

コメント:社会との交流の確保について
地域住民への働きかけは訪問看護ではあまりしないように思います。

A:認知症高齢者と家族が地域で孤立することなく、安心して住みなれた地域で暮らし続けるためには、地域住民のバックアップが重要だと私は考えています。家族が疲れた表情をしている時にさりげなくねぎらいの言葉をかけたり、認知症高齢者に普通に声かけをしたりといった、住民の理解や協力を引き出す活動も、訪問看護師として大切な取り組みだと思うのです。例えば、認知症高齢者と訪問看護師が一緒に散歩している時に地域の人と出会い挨拶を交わしたり、話しかけて来られたりするような経験をしたことはありませんか。そんな時高齢者をよく観察すると、家族が周辺症状で苦しんでいても本人は他人の前ではしっかりとした対応や表情を見せることがありますね。本人にとってとても良い刺激になり、社会との交流の場にもなっているのです。地域差もあることと思いますが、認知症高齢者が道に迷った時には気軽に声かけを行ったり時には見守ったりできるような、密接な関係を地域と作り上げていくことが大切でしょう。このようなきっかけを作ることも、訪問看護師の重要な働きかけだと思います。
家族会の集いを紹介したり、地域の催し物への参加をよびかけたり、家族だけで困難を抱え込まないように荷を分かち合うことも重要です。そのためには、個別ケアの提供に止まらず、訪問看護師の多様な地域への働きかけが、今まさに求められているのではないでしょうか。多職種と認知症高齢者や家族を支える協働の輪の中に、訪問看護師も入っていく活動が大切ではないでしょうか。

家族への助言

Q:家族が受け止めていないケース
看護師からみて認知症があるなと思う人でも、家族が受け止めていない人はかかわりが難しいです。認知症が悪化していても家族が認識していない人も多いです。認知症の診断がついていない場合、訪問看護で話してしまっていいのでしょうか。明らかに進行性だと目に見えるでしょうが、加齢とともにゆるやかに進む症状の場合や、長く関わっていて途中から認知症が入ってきた場合に、それをどのように指摘すべきか迷います。

A:本人は勿論のこと家族も、認知症を認めず加齢のせいだと思っている。そんな時に、長く利用者・家族と関わってきた訪問看護師は「早期発見、早期治療で今なら認知症の進行を遅らせる事ができるのに、そして近い将来、家族の介護負担の軽減につながる。何とかしなくては」と専門医への受診や生活支援について、あれこれと利用者や家族へのサポートを考えます。しかし、利用者家族と訪問看護師との思いのずれがある時に訪問看護師から「認知症かもしれないから一度受診を」と勧められても「訪問看護師の分際にそんなことを言われたくもない」と頑なになる場合も往々にしてあります。家族は、医師から認知症といわれていないのに認知症の疑いをかけられたとくやしい思いをされ、逆に訪問看護師への信頼を失う場合さえもあり、慎重な対応が求められます。
利用者と家族、訪問看護師の相互関係で、中には先生の言うことには耳を課さなくても訪問看護師の言うことだけはよく聴くという人もいます。利用者や家族の気持ちをよく考え、「早期診断、早期混乱、早期絶望」にならないようにその辺を整えることが必要でしょう。認知症を起こす疾患は多彩であり、いくら症状を呈しても鑑別診断は難しく、うつ病や精神疾患、神経系やホルモン疾患、腫瘍などの鑑別が必要であり、基本的には専門医の診断を受けるようにサポートすることが求められます。訪問看護師の説得が困難であれば、認知症の症状と日常生活への支障となる事項を主治医に報告し、医師から利用者家族への説明を行ない、その後、訪問看護師が利用者・家族の理解を助け受診につなげていく方法もあります。しかし肝心の主治医までも取り上げてもらえない時には、物忘れ外来、包括介護支援センターと連携をとり、訪問看護師が抱え込まずに利用者家族を動かしていく事が大切ではないでしょうか。

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