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転倒予防

転倒リスクアセスメント

コメント:在宅高齢者用の「転倒スコア」
いつもどのような転倒リスクアセスメントツールを使用されていますか?
在宅高齢者用の「転倒スコア」の簡易版を見つけましたのでご紹介します。5項目で転倒のハイリスク者を識別できようになっています。訪問看護の利用者の方々の場合は、さらに歩行障害の様子、ご家族や生活環境などもリスクになるかと思いますが、訪問看護の利用者用の転倒リスクアセスメントの短縮版のようなものをご自分で考えてらっしゃる方はいらっしゃいませんか。あるいは、在宅の場合はこんな転倒リスクは見逃せないなどのご意見をいただけないでしょうか。 ―指標―

あるものにチェックしてください。スコア
質問1過去1年に転んだことがあるはい・いいえ(はい 5点)
質問2※背中が丸くなってきたはい・いいえ(はい 2点)
質問3歩く速度が遅くなってきたと思うはい・いいえ(はい 2点)
質問4※杖を使っているはい・いいえ(はい 2点)
質問5※毎日5種類以上の薬を飲んでいるはい・いいえ(はい 2点)

7点以上は「要注意」です。
質問2※=骨粗鬆症による円背(腰が曲がっている)/質問4※=転倒不安がある
質問5※=持病が多い。

A:以前、利用者さんの移動手段の決定のアセスメントツールとして、BergBalanceScale(BBS)を紹介しました(理学療法MOOK11.中間浩一、笠原岳人:施設内における転倒予防.三輪書店.2009)。このツールはPT・OTだけでなく実施可能です。ただ14のテスト項目があるので、実施する方、される方の双方に負担があるかもしれません。ただ、「移動手段の決定」の際には14項目すべてチェックし、合計点から移動手段を検討する必要があります。
BBSの14項目すべてではなく、利用者さんのADLをチェックする中で、スクリーニングとしていくつかを用いることも可能かと思います。例えば「トイレ動作が危なっかしくなってきた」場合は立位保持、トランスファー、振り返り、360°方向転換などをチェック。「冷蔵庫の下のものを取り出しにくくなった」「靴をはくのがつらくなってきた」場合は両手前方(ファンクショナル・リーチ)、拾い上げなどをチェックすると、以前より点数が低下していることが分かるかと思います。チェックができたら「リハで強化するか」「安全な代替案を提供するか」を、ご本人、ご家族などと相談して対応を決めます。ポイントは「利用者さんのどの動作が危なくなってきたか」を早期にどのように具体的にチェックするか、どのように適切な介入を早期に行うかということかと考えています。リスクアセスメントツールを使用して、その項目一つ一つが利用者さんのADLのどの部分に影響するかをしっかりとイメージすることが重要だと思います。

コメント:在宅用転倒リスクアセスメントツール
在宅用の転倒リスクアセスメントツールとしてどのようなものを使用していらっしゃるでしょうか。今回、下記のようなものを作成してみましたが、皆様のステーションで使用されているアセスメントツールや効果的なリスク指標などを是非お教えください。

A:アセスメントとしては、「転倒するかどうか」とともに「いつ転倒しそうか」の把握が大事ではないでしょうか。転倒リスクがあるからと家族にずっと見守りをしてもらうのは現実的でないからです。在宅療養中の高齢者が一番危ないのは「トイレに行く時」だと思います。リスクの高い時に集中的に家族に見てもらうようにお話しします。夜間の訪問介護はトイレの支援が中心であることが多く、転倒リスクの高そうな人にケアマネさんがアセスメントして導入しています。これは立派な転倒予防&早期発見ですよね。あと、転倒してもすぐに助けが呼べるようなペンダント型電話装置もよく導入しますが、これはどちらかというと「転倒しないように」ではなく「転倒しても迅速に対応できる状況作り」ですね。在宅では「転倒しても大丈夫」にしておくというのも必要な視点だと思います。

コメント:転倒対策のグッズ
転倒した場合の対策は重要ですし、大事に至らないためのグッズを考えてみました。
  • ティッシュを取ろうとして箱が滑ってベッドから転落する。→ティッシュの下に滑り止めのシートを敷くとティッシュが滑らない。輪ゴムをティッシュの箱に掛けるだけでも違います。
  • TVのリモコンを紐で結びつけたり、よく使用するものは、S字型のフックのついたカゴをベッド柵につけて、入れておきます。
  • 起立性低血圧や筋力低下で頻回に転倒する→家具の角に安心クッション、ゴッツン防止クッションを付ける。ベッド柵はクッション材のパイプカバーを使用するとよいようです。
  • 風呂場の転倒予防では、滑り止めシートを用いる。
  • 外出時では帽子の中にセーフティークッションを付けると万が一の外傷をできるだけ予防しようとするものです。クッション材を用いる場合は、少し大き目の帽子を用います。

A1:施設・在宅を問わず「転倒を予測し、事前に防止策をたてる」「ハイリスク者の場合、転倒事故を起こすことを前提に被害を最小限に抑える工夫をする」「転倒が発生した場合の早期発見と対応」などが重要です。利用者さんの一日の行動パターンを把握し、どの活動の際に転倒リスクが高まるかをチェックし、対策をたてることが大切です。身体機能、認知機能の客観的なアセスメント結果を家族と共有し、「この動作を行うときにリスクが高まる」ということを認識することは重要です。例えば、(バランス機能の低下などで)床のものを拾うなどの姿勢で転倒しやすくなっている場合、「冷蔵庫の下段からものを出すとき」「庭の手入れをするとき」「玄関で靴を履くとき」など、必ず椅子を使用するなどの具体的なアドバイスが可能になってくると思います。

Q:風呂場での転倒防止
風呂場の滑り止めシールを一度使ってみたのですが、タイルがややざらついたものであったことと、お湯を毎日つかっているので、あっという間に全部はがれてしまいました。何かいい工夫はあるでしょうか。

A1:現在、知り合いに少し調べてもらっています。転倒予防グッズの情報交換はとても大切です。シール式は熱いお湯にはどうしても弱いのかもしれません。下記の浴室風呂用滑り止めマット「オーバルリンク」は、介護のプロが選んだと書いてあるのでよいかもしれませんので、取り上げてみました。担当の利用者の方々の使用状況などご存じの方は是非お教えください。
http://www.okitatami.com/hcf/goods/mat/oval.htm?gclid=CPGJ3uH36qMCFROmbwodZXL32A
ご指摘のように訪問看護の場合にはその人の生活や障害に合わせて、バランスを失いやすく転倒しやすい動作を把握して、その動作をどうやってすくなくしていけばよいか、家族と具体的に検討しなければなりません。それにはご推薦いただいたBergBalanceScale(BBS)なども有効ですね。ただ項目が多いので、最低どのあたりを把握するとよいか、ご提案いただければ幸いです。

A2:病院に入院中の患者のリスクを点数化して、危険度をランクづけする転倒リスクアセスメントツールは下記にも掲載されています。
http://www.medsafe.net/contents/recent/45kyoto.html
在宅の患者さんの場合は個別性が高いのでなかなか点数化が難しいということもあります。そこでリスク項目で該当する項目に関して、何らかの対策を検討していただければと思います。特に、リスクとして気をつけていただきたいのは、移動、移乗、排泄動作、排泄のコントロールなどのADLと認知機能、介護者の介護力などと思われます。

A3:転倒のリスクについても、在宅ではさまざまな要因があるかと思います。本サイトの参加者の方からご本人の性格との関係も関連する場合もあるのではとご意見をいただきました。私のメールの方にいただいたご意見では、『先日のリハビリ中の事故については、歩行練習はよく行っている援助なので自分自身改めて気をつけなくてはと思いました。慣れてきていると怖いです。余談ですがチェックリストの項目のことでふと思ったのは、先日私の受け持ち患者さんが起こした転倒事故を考えると、性格が原因の一つだったのかと思いました。というのは、来客があったためトイレに行くのを我慢していて、帰ったから急いで行って転倒事故を起こしてしまったのです』とありました。遠慮深い性格でご自分のことを抑えて他の方を優先してしまう性格が関連している可能性が高いですね。また、排泄は転倒にとても深く関係しているのですが、「余裕をもってトイレに行こう」と思っても、いつもギリギリになるまで気がつかない切迫性の尿失禁の可能性もあります。「何度もおしっこがしたくなり、トイレに駆け込む」ことがないのかもうかがってみて、もし、切迫性尿失禁の可能性があれば、治療などにつなげることで、転倒の可能性も低くなります。

生活環境の整備

Q:環境を整えた後のストレス
80歳代、女性、認知症、日中独居。日常の動作:立位ができないため這っての移動。転倒予防のためベッド柵をつけ、ドアを閉めて窓に鍵をかけています。人がいない時に外に出て行ってしまうため、玄関の所に挟まれたりしている所を見つけられた事がありました。行動を抑制されてしまっているため、ストレスが大きいようです。そのためか、ケアを拒否したり押入れの物の出し入れを繰り返したりします。外に出かければ気分転換が出来るのでは、と散歩を促しても拒否されます。特に天気の良い日等は庭の草が気になるようです。現在は玄関に柵を置き様子をみていますが、人の居ない時に出て行ってしまうので、どのように転倒予防をしていったらよいか難しいです。またストレスをどのように解消したらよいか、何かアドバイスがありましたらお願いします。

A:環境を整えて頂いたのですが、それによってかえって行動が制限されてしまってストレスになってかもしれません。ご自分の意志で行動したいというのは、誰もが持っている基本的なニーズの一つで、大切にしたいものです。庭の草が気になるということですが、お元気な時は庭の手入れなど積極的にされた方だったのではないでしょうか。転倒予防の方法として、行動を制限するよりも外で過ごす時間帯を積極的に作ることも大切です。朝の日光にあたることで、睡眠障害が改善する場合もあります。また、昼間の一定時間に外で活動する時間などが取れれば、ご本人の活動したいというニーズも満たされて、他の時間は穏やかにお部屋で過ごすことができるかもしれません。ご家族にもご協力いただいて、一緒に庭の草を取りながら、ご自分でも草を取ったようなお気持ちになれるような支援も穏やかに過ごしていただけるようになるかもしれません。

Reply:カンファレンスで転倒予防、ストレス軽減について話し合ってみました。この方は、息子さんと二人暮らしでこれまで介護に協力してもらうことが困難で、訪問看護と訪問介護で在宅介護を行っている状況です。ただ、これまでのことを思い起こしてみると、枯葉が積もって気になっていた際に、息子さんにお願いして片付けてもらったところ落ち着いたということがありました。直接介護していただくのは困難でも、気になるところを片付けてもらうことも一つのストレス軽減につながると思われました。
一緒に外に出ることも検討しましたが、現在のケア内容では訪問時間も目一杯で困難です。また、利用者のこれまでの様子から、一緒に外に出ることで、一人で外に出てもいいと思ってしまう危険があります。暑いのが嫌いなためか、現在は、少し行動が落ち着いてきています。そこで、玄関の柵は一旦はずしました。ここ数年を振り返ってみると、春先に外に出ようとするなどの行動が活発になる傾向がうかがわれるため、今後この時期にはさらに転倒予防と行動制限によるストレスへの対応を強化していきたいと考えています。また、雑誌を提供してみたところ、興味を示し文字を読んでいる様子が見られました。雑誌などを提供することで、室内で穏やかに過ごしていけるよう今後も検討していきたいと思っています。

セルフケアと家族指導

Q:転倒を繰り返すパーキンソンの利用者
70歳代、女性、パーキンソン病関連疾患。夫と二人暮らし。転倒を繰り返しており、服薬もきちんとできていない。夫が仕事に行く週3日は、通所リハと通所介護、訪問介護サービスを利用。すくみ足等の歩行障害があり一人では移動がなかなか困難ですが、夫の留守の際などに一人で動いてしまいベッドから落ちていたり、起き上がれなくなっていたりトイレで転倒したりしており内出血や小さな傷が絶えません。注意を呼びかけていますが、一人で動いてしまいます。転倒したことなどを話してもあまり深刻な様子がみられません。最近物忘れや、被害妄想がみられたり、お化粧の仕方が変だったりします。怪我を最小限にするにはどうしていったらよいのか、ご本人へのアプローチはどうしたらよいのか困っています。

A:転倒のリスクが非常に高く難しい方のようで、日々の訪問看護は大変ではないかと思われます。少し考えられる方向性をざっと挙げてみました。もう少しこちらでも考えてみますので、また新しい情報があったらお教えください。このような方の訪問看護のご経験のある方もご意見いただければ幸いです。

  • 服薬の管理については、看護師・訪問介護サービスで飲み忘れのないように、支援する必要があります。忘れずに飲めるように、大き目なカレンダーなどに薬を貼って、飲み忘れのないようにするなど、本人の生活に合わせた工夫が必要かと思われます。
  • 通所リハと通所介護を使用されているようですが、現在は筋力の維持向上と認知機能の低下もあるので混乱させないためにも通所リハで一本化するのはいかがでしょうか。
  • ご自宅から通所の状況もふくめてトータルに理学療法士にリハビリの検討をして頂く必要があると思われます。パーキンソン病関連疾患ということですので、ADLも1日の間で変化すると思いますので、ご主人から聞いたり、時間を変えて何回か訪問してもらって、自宅の状況を把握して、通所リハのプログラムとして、ADLが低下しないようなリハ訓練をできるだけ受けるような体制作りが必要かと思われます。
  • 転倒しやすいので、住宅環境の整備の整備が必要です。歩行する場所は、手すりを付けたり、転びやすい場所はマットを引いておくことでケガができるだけ少なくできないか検討してみてください。
  • トイレやベッドからの転倒の原因はどのような理由だったのでしょうか。布団を挙げようとして、体がずれて転倒してしまうようでしたら、布団を落ちないようにする必要があります。トイレも、例えば便器が高くて落ちてしまうようでしたら、高さが合うよう改修する必要があるかもしれません。
  • ご主人が不在になる時があるようですが、できるだけその時はサービス利用時にしていただくなどスケジュールを調整することはできないでしょうか。
  • 認知症の症状もでてきたような状況ですので主治医にも相談する必要もあります。記憶の障害が初期程度でしたらメモをとったりしてもらうことも必要かもしれません。トイレに手すりがあってもそれを使用しないで転倒してしまう場合は、トイレに「手すりを使ってください」と書いておけば忘れないかもしれません。

Reply:服薬管理に関しては、訪問開始時より服薬カレンダーの使用を開始し、日付を記入してセットするようにしました。飲み忘れは完全にはなくなっていませんが、しっかり内服できている週もあり、訪問開始前よりは内服できるようになってきているようです。
住居環境は、文面にすると説明しづらいのですが、大まかな作りを書かせていただきます。居室の隅にベッドがつけてあります。その壁側となるところにふすまがあり、ふすまを開けると直線で3メートルくらいの突き当りがトイレです。ふすまを開けてすぐ右には右方向に進む廊下、左側は荷物置き場になっているので手すりがつけられません。その他の廊下の壁からトイレの中まで手すりが設置されています。トイレは最近シャワートイレにしたので便座が高くなりました。自己にて手すりにつかまり衣服の上げ下ろしが、きちんとではありませんができています。今週より夫の出勤後、通所サービスのお迎えまでの間に訪問介護サービスを利用するようになりました。それまではお迎えにくると、トイレや洗面所などで動けなくなっているという状況のときもあったそうです。本日訪問日だったのですが、大腿や上腕に新たな内出血斑がみられました。状況をお聞きしてもはっきりと言われず実際どのように転倒しているのか把握できていないのが現状です。本日訪問中薬をセットしている際に、さっと立ち上がりベッド下においてある日用品をまたいで近くの物を取りに行ってしまい急いで傍に行きました。しかし、向きをかえられずベッドに戻れないまま静止してしまい介助でベッドまで戻りました。いつも「これくらいはできる」と思って移動してしまうと話されていましたのでそのような時に、転倒事故を起こしていると思われました。認知症の症状や妄想に関しては主治医も承知されています。本日も化粧をするのに化粧品をしばらく探していました。同じところにしまうようにと話してみましたが、様子を見ながら片付けるところに物品名をメモするなどの方法も考えていきたいと思います。自分の手の届く所(ベッドの足元)に必要な物をあれこれおいてあり、はさみ等も入っていたりして危険な状況です。歩行状態は、通所リハでは介助で歩行できているそうですが、歩行練習以外は車椅子で過ごされています。訪問時は1、2のリズムで歩行できる時と全く足が前に出ない時があります。夫は自分の足で足を前に押し出しながら室内を移動されています。リハビリに関しては、一度通所でのリハビリを所長が見学してきていますが私は直接連絡をとってはいませんでした。今後、直接プログラムについて相談する機会を作っていきたいと思っています。

歩行・移動障害(歩行補助具の使用も含む)

Q:導入困難な杖
高齢者に杖の使用を働きかけても、なかなか使用してくれません。杖をつく、というイメージが許容できないようです。1年ぐらい前から話をしているのですが、いつも笑って「伺っておきますね」と言われてしまいます。電車に乗るときなどは引っかかって邪魔になるしかえって危ないと言う人もいる、などと抗弁されることもあります。気持ちはわかるのですが、いよいよふらつきもひどくなり、壁などを伝いながら歩き、よろよろとひっくり返りそうになるので、危なっかしくてみていられません。老いを受け入れるということの難しさなのかと、そのあらがい方の壮絶さに言葉をなくしています。みなさんはどんな風に言葉をかけておられますか。

A:とても難しいですが、重要な問題だと思います。私が勤務している病院でも同様のことが起こっています。年を重ね、疾患を有し、様々な障害を抱えている…そのような状況の中でさらに杖を持たなければならない…となるととてもつらいことだと思います。私たちは利用者さんの機能が低下し、移動手段の変更(例えば、歩行補助具なしの歩行⇒杖、歩行器の使用。杖、歩行器を使用した歩行⇒車いすの使用など)の必要性が生じたときは、まずチームで相談します。どの職種が、いつ、どのような伝え方をするか、ということをディスカッションします。医師から伝えるのがいい方、看護師から伝えるのがいい方、リハビリスタッフから伝えるのがいい方、家族が伝えるのがいい方など様々です。タイミング、伝え方には細心の注意を払うことが求められます。少し時間がかかるかと思いますが、「歩行補助具を使用した方が安全性と耐久性が向上する」といったことを、じっくりとお話をしてデモを重ねると納得していただけることが多いです。もう一方で、利用者さんの認知機能の評価が必要です。こちらが歩行補助具の必要性を説いても上手くはぐらかされてしまう…しかし、日常生活では危険がいっぱいという方は、現在の自分の身体状況の把握とそれがもたらす危険性が理解できていない可能性があります。認知機能の詳細なプロフィールをアセスメントすると「抽象的な思考」が障害されていることがあります。このような利用者さんの場合、誰がどのように必要性を説明しても受け入れられることはありません。その際は、環境を整備する、さりげなく人的な介助を提供するなどの手段を講じます。いずれにしても、「なぜ受け入れを拒否するか」を(そんなに時間をかけるわけにはいきませんが)じっくりと検討してみてはいかがでしょうか。

Reply:認知機能の確認もした方が良いですね。普段の会話では認知症を疑うような感じはなく、その言動から杖が気持ちの上で受け入れられないのだろうと感じていたのですが、確かに現状の認識が正確にできない理由に認知機能障害もあるかもしれません。少し強く勧めると「ほかの人はみんな元気なのになんで私だけこんな思いをしなければならないんだろう」と嘆かれます。腰痛・膝痛や歩行の困難は高齢者にこれほど頻繁にみられるのにと少々驚きでした。が、そのような症状のない方も沢山居られることも事実ですし、当の本人にとってはこのような症状をよりによって自分が引き受けなければならないことが理不尽で受け入れ難いのだろう、老いの実感というのは私などが思うのと違うのだなと思っていました。しかし、これも認知のゆがみなのかもしれません。白内障の手術のため入院されたので、病棟の看護師のご意見もうかがってみようと思っています。

事例紹介:転倒事故
日本看護協会出版会の「訪問看護の安全対策」から転倒事故事例が掲載されていたので、ご紹介します。

A:[自宅内での歩行訓練中の転倒]

  • 60歳代、脳梗塞、左半身麻痺、歩行障害(つかまり立ち歩行可)
  • 30歳代訪問看護経験2年
  • 利用者宅・玄関踊り場(段差なし、手すりあり)

内容

  • 自宅内の玄関踊り場において、訪問看護師が利用者の後ろから見守る中、利用者が自立歩行訓練を行っていた。
  • 手すりにつかまりながら方向転換を行おうとしたところ、手すりから手が離れバランスを崩した。訪問看護師が支えようとしたが間に合わず、左側から倒れこんでしまった。
  • 訪問看護師は、利用者をすぐに平坦な床に移動し、意識レベル・バイタルチェック・痛みの有無などの確認を行うと、転倒直後から左大腿部に痛みを訴え、骨折が疑われた。至急病院に連絡し、主治医と管理者に報告。家族の車で家族とともに病院へ向かい、医師の診察を受けた。
  • 訪問看護師は病院から訪問看護ステーションに戻ると、市町村・介護支援専門員へ事故の報告をした。利用者は、左大腿部骨折と診断され、約1カ月間入院することとなった。

対応のポイント
1.麻痺の利用者のアセスメント

  • 訪問看護師は、日常生活におけるADL、歩行訓練を行う場合には利用者の日常生活のおける歩行状況について事前に利用者や家族に確認し、把握しておくことが必要である。なお、その際には利用者の麻痺や空間認知障害の状態や身体状況の把握も忘れないようにしておく。今回のケースでは、左半身麻痺と左半側無視の空間認知障害があるため、日常生活における歩行時には、左半身麻痺と左側に対する空間認知障害の状態を確認しておくことが必要である。

2.歩行訓練中の転倒予防

  • 歩行訓練直前には、利用者とどの程度距離を保ち、利用者からどの方向に立ち、利用者がどちらの向きに方向転換すればよいかなどを考えておく。今回のケースでは、左半身麻痺と左半側無視の空間認知障害があるため、左側に倒れて転倒する危険性が十分に考えられる。いつでも転倒予防または大きな転倒を防ぐことができるような見守りが必要である。例えば、腰ひもをつけて歩行訓練中は常につかんでおくなど、転倒予防や転倒をしても大きな事故につながらないようにするとよい。転倒予防のために滑りにくい靴下や履物の工夫も必要である。

3.安全確保の環境整備

  • 自宅内とはいえ、歩行訓練前に必ず安全確保が転倒予防のために重要である。「住み慣れた自宅だから安全」と安易に考えず、訪問看護師自身の目で事前に安全確認を行うことが重要である。今回のケースでは、左半身麻痺と左半側無視の空間認識障害のため、右側に歩行訓練時や転倒の際につかまることのできる補助具の有無に確認が重要だといえる。
  • また、歩行の妨げになるような床上の障害物を除去し、場合によっては空間確保のために家具の位置を変えるなど、レイアウトの変更が必要な場合もある。
  • 屋内に取り付けられた手すりの不具合の有無を必ず事前にチェックする。手すりの傷み、取り付けの緩み、手すりの代わりに利用者がつかむようなもの(タオルかけやドアのノブなど)も併せて安全確認を行うことが重要である。

Check

  • 利用者の状態や状況をアセスメントし、安全な見守り位置や適切な訓練方法・転倒予防などを把握する。
  • 自宅内での歩行訓練をする場所で、自宅内の危険な場所や想定されるリスクを認識する。またそのことを利用や家族に伝え、理解してもらう。
  • 歩行訓練の場所で、手すりやタオルかけ、ドアのノブなど歩行中に利用者がつかまりそうなものを事前にチェックする。また、安全な空間確保、障害物の除去を行う。
  • 事故直後、利用者のバイタルサインを確認し、異常があれば医師の診察を受けてもらう。

生活リズムの調整・運動習慣の維持(日常生活の運動機能改善)

コメント:文献紹介:在宅高齢者に対する転倒予防プログラムの検討
低頻度の運動プログラムでも地域高齢者の身体機能の維持・向上への効果に寄与できることに関する報告がありましたのでご紹介します。

A:■井口茂、松坂誠應、陣野紀代美、在宅高齢者に対する転倒予防プログラムの検討─低頻度プログラムの適応─、理学療法科学22(3):385?390、2007
月2回6ヶ月間の計12回開催、運動内容は、体操を中心とし、体幹、上下肢のストレッチ、等尺性収縮による股関節及び膝関節周囲筋の筋力強化、片足立ち、継ぎ足歩行などのバランス訓練、音楽に合わせたステップ運動などを含む10~15種類の運動を各10回ずつ実施しました。その結果、抑うつ尺度が有意に低下し、椅子起立時間、6m歩行で有意に向上した。転倒数の減少に関わる要因として、年齢70歳以上、腰痛有り、服薬数3つ以上、転倒経験者、転倒リスク数3個以上、FallEfficacyScaleの得点29点以下で有意差が認められました。
今回の結果より、虚弱の程度が重度でない高齢者に、低頻度のプログラムでも有効であることが示されたものと考えられました。さらに、転倒回数の減少に関わる年齢、有痛性疾患の有無、服薬状況、転倒既往などの要因は、そのスクリーニング項目の参考になるものと思われました。訪問においても運動プログラムを積極的に活用していらっしゃると思いますので、是非、事例や方法ご紹介ください

生活リズムの調整・運動習慣の維持(リハビリテーションなど)

Q:独居高齢者の効果的なリハビリ
80歳代、女性、認知症。独居。デイケア、訪問看護、介護を利用。時折セニアカーで外出をします。この方は、以前の転倒事故により右肩関節脱臼を起こし、その後の転倒事故で左も脱臼を起こしてしまいました。一時寝返りを打っても脱臼を起こしてしまうことがあり、固定したりしていました。現在は両腕とも動きが悪くなり、左手にしびれが残っています。自宅には手摺り、手摺り付の踏み台、つかまり棒を設置してあります。また、転倒予防のため下肢筋力低下予防の運動をしてもらっています。最近(踏み台設置後)転倒事故は減っていますが、多いときは毎週転倒の報告が聞かれていました。転倒すると、手の動きが悪いため顔面を怪我してしまいます。このような方に、転倒予防のための効果的なリハビリがありましたら教えてください。

A:下肢の筋力増強に関する訓練が必要かと思います。立ったままでは多分安定せずに転倒の危険もあるかと思いますので、座位や仰臥位で行う訓練などがよいかと思います。仰向けに寝て、おしりだけを上げる中殿筋の訓練、椅子に座って両足の踵を上げる下肢の三頭筋の訓練など安定した状態でできる訓練がよいと思います。上肢も筋力がつけばよいのですが、痛みがあると体操をしてくれないと思います。できたら理学療法士の訪問リハなどを一度受けられて、ご本人にあったプログラムを作成してもらうと良いでしょう。訪問看護師だけではなくヘルパーやケアマネとも連携して、在宅に訪問時には一緒に運動を実施してもらうとよいと思います。ご近所の親しい方も巻き込んで、一緒に運動をしてもらうようにして、実施できた回数など記録していくと他の人とも実施の回数を共有できます。フォーマル・インフォーマルのサポートを巻き込んで、ご自宅で運動プログラムが実施できるとよいのですが、いかがでしょうか。また転倒しやすい場所には、マットを敷いたり、転倒してもケガをしないようにする工夫も検討してください。独居の高齢者のサポートは難しいですね。

Reply:やはり下肢筋力の増強は重要だと思います。アドバイスを参考に強化していきたいと思います。また、訪問看護以外にも協力してもらえるか今後検討していきたいと思います。あと転倒時に上肢が前に出ると顔面の怪我を防げるのではないかと思っているのですが、ご本人も手をついて再び脱臼を起こすことを恐れているのかもしれません。脱臼を起こしやすかったり、痛みがあったりすると上肢のリハビリは難しいでしょうか。

転倒に対する不安・恐怖感

Q:転倒後の精神面フォロー方法
80歳代のご夫婦のことですが、夫の病院受診に妻が付き添って行ったところ、妻がエスカレーターを降りる際につまずき、それを支えようとした夫ともども転倒してしまったそうです。幸いお二人とも大きな怪我はなかったのですが、妻はもう着いていきたくないと話されています。常々外出することはあまりなく、下肢筋力の低下が心配されるご夫婦です。このような場合、精神面ではどのようなフォローをしたらよいでしょうか。

A:ご夫妻お二人にとって、今回の転倒のご経験はとてもショッキングなできごとだったと思われます。精神面のフォローとしては、どういう状況で転んだのかを聞くなど、今後の不安について、じっくり時間を掛けて聞いてあげてください。奥様の方も体力低下などの問題を抱えてらっしゃるかもしれません。また、ご主人様もエレベーター以外にもふらついたり、転びそうになったりしているのかもしれませんので、外出時には、杖などの使用や携帯用の折りたたみ杖・ステッキを使用していただくなど対策を話し合うとよいでしょう。ご主人様の歩行状況についてアセスメントしていただいて、下肢筋力の低下を回復するような体操や家の周りでの散歩などをご夫婦でご一緒にされるように、日課に取り入れてはいかがでしょうか。今後、お二人は家に閉じこもりがちになる可能性もあります。ご自宅でも同じように転倒しそうだなと不安に感じる動作や場所などを確認して、ご自宅での再転倒を予防するための対策を立てる必要があります。
外出時にヒッププロテクターを使用することで不安が軽減する、という英文の研究報告もあります。骨粗鬆症などで骨折が予測される場合には、ヒッププロテクターの使用を検討することも一つの方法かもしれません。転倒に関する不安は身体機能の状況にも関連していますので、両面のアセスメントが必要と思われます。
Reply:訪問開始後3年近く経ちますが、なかなか生活を変えるのが困難な状況です。しかし、身体機能に自信をもてることにより今後の閉じこもりを防いでいけるよう、不安など傾聴しながら室内での簡単な運動から少しずつ促していこうと思います。

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