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摂食・嚥下障害ケア

摂食・嚥下障害時の年齢や原因疾患に基づいての情報収集

Q:脳性マヒの利用者の摂食・嚥下の特徴とアプローチの方法
40歳代、脳性麻痺・レノックス症候群。現在、胃瘻からの経管栄養が主でお楽しみ程度にゼリーや流動食を少しずつ経口摂取しています。ご家族は経口摂取時の笑顔がたまらないと言います。今後誤嚥など予防的計画を立てていく上で、脳性麻痺の方たちの摂食・嚥下の特徴とアプローチの方法がありましたら教えてください。

A:レノックス症候群は、いわゆる自律神経障害のある方なので、嚥下障害に限らずいわゆる神経支配野が問題になりそうです。確認すべき事項の一つは、誤嚥性肺炎の既往です。既往の有無で、注意勧告のレベルがかなり異なります。もし、現在少しずつでも問題なく食事をされていましたら、姿勢(余計な体幹の緊張は嚥下をしにくくします)と一口量、ペーシングを注意してください。また年齢とともに、脳血管疾患などの他疾患が生じやすくなりますが、発症の予防が誤嚥の長期的予防といえます。また加齢による筋力低下、運動不足により運動機能が低下し、誤嚥につながりますので、嚥下体操を現時点でも少し食前に導入されると良いと思います。特に疾患の特徴から筋力維持は重要です。

準備期・口腔期・咽頭期の摂食・嚥下障害の有無・程度

Q:嚥下の具体的な評価の指標
80歳代、男性、脳梗塞後。後遺症として左不全麻痺、軽度の脳血管性認知症があります。常に湿性嗄声があり、飲水したあとでも、咽頭部のゴロゴロが消失しません。空嚥下を促しても行えず、アイスマッサージや舌骨圧迫を数回繰り返して、ようやく軽い嚥下を行うような状況です。以前は、咳嗽するよう促して咽頭部の貯留物を自己喀出することが出来ていましたが、最近は、咳嗽も弱く喀出が困難になってきています。実際の摂食行動を観察できていないのですが、ご家族の話によると、見守りのもと、1口ずつをゆっくり飲み込んだときには、水分でも固形物でもむせることはなく、スムースに食べているとのことですが、家人が目を離し、本人のペースで食べたときには、左口腔に残渣が多かったり、むせたりしているとのことです。現在、嚥下体操、胸郭圧迫による排痰誘導、アイスマッサージ、発声訓練を行っていますが、訓練を行うことで、機能が回復しているのか、具体的な評価の指標がなく、スタッフそれぞれの主観での評価になっています。そこで、スタッフ全員が同じ視点で評価できる具体的なものがあったら、教えていただきたいです。また、現在行っているリハビリでは不十分であることは認識していますが、これからどのように進めていけば良いのか、より効果的な方法があれば教えてください。

A:<評価>

  • 普段の唾液の飲み方(スムースに飲めているか、嚥下をしようとした時の時間がかかるか)をご家族に確認。
  • ごろごろの様子。ごろごろしている感じから痰の性状を推測。粘度が高そうかゆるゆるしていそうか。
  • 頸部の可動域、活動性。以前と比較して低下していないか。自主的な動きの変化。

<ケア>

  • 頸部前屈位の保持(どのような体勢であっても咽頭残留には効果あり)
  • 可動域訓練(頸部、肩周辺部)
  • 一口量の調整(あまり多量にしない、目をはなしても一口が多くならないようスプーンを小さくするなど工夫)
  • 肺理学療法(喀出を促す、深呼吸だけでも行う。)
  • 咳払いの練習(呼吸訓練をすると促されることがあり)
  • アイスマッサージはそのまま続ける。食事前が効果大。
  • 発声(しっかり「いー」と発声、裏声にすると効果大)
  • プッシング訓練(力を入れるように腕を引っ張りあうことでも代用できます。上肢に力を入れれば咽頭にも力が入るのでOK)
  • 頭部挙上訓練(徒手的にでもOK、血圧上昇に注意。ただある程度の負荷が必要ですので、疲れる程度)

いずれもリハ的な内容は、1クール10回深くゆっくり行ってもらう。1日2クール程度行うだけでもやらないより良いです。一度にすべてはできないのですが、咽頭に介入がかけることが重要です。 パンフレットは「摂食・嚥下友の会ホームページ」の「左帯部分」からダウンロードできます。
http://engetomo.umin.jp/documents/gulp_tre.pdf

Q:唾液の誤嚥対策
胃瘻管理状態で、経口摂取のない利用者、唾液を誤嚥し、痰増量、発熱を繰り返しています。口腔内吸引をこまめに行うしか対策はないでしょうか?(頚部や唾液腺冷刺激は本人様のご理解は得られず、抵抗されてしまいます)

A:咽頭期機能の低下のために生じる症状ですね。口腔内吸引もしながら、ベッド上でしたら、臥位になって行う頭部挙上体操が良いです。徒手的にでもご本人が頑張れば頑張っただけ(回数をこなすのでも可能)舌骨上筋群に負荷がかかり強化し、嚥下を補助します。訓練ですので、通常の運動の時と同様に、循環動態、疲労、程度を考慮し回数を増減してみて下さい。また、プッシングエクササイズも声門閉鎖する訓練です。同じ要領でやってみてください。ご本人が疲れる程度に行うのがコツです。「摂食・嚥下友の会HP」左帯にパンフレットがありダウンロードできます。頚部可動域拡大といったリラクゼーションとは異なるメニューと考える必要があります。唾液腺冷刺激は、一次的なものですので、行うほうが大変ですね。
普段の姿勢(首含む)はやや前屈し、適切なリクライニングをはかります。可能な限り座位をとれるようにします。耐久性がなくなるとリハビリも進みが悪くなりますので、基礎体力・栄養保持に注意しながら進めてみてください。1~2週間で状況を再評価します(ただし発熱がない場合)。

脱水のリスク

Q:経管栄養中の利用者の排便コントロール
90歳代、男性、胃瘻による経菅栄養中(ラコールNFを、朝夕各400mlずつ注入)。とろみ剤をつけず、一時間かけての滴下での注入では便秘傾向となり、とろみ剤(ソフティア4g)をつけてワンショット注入する下痢をしてしまいます。管理上、できればとろみ剤を使用してのワンショット注入としたいので、下痢になりにくいとろみ剤がありましたらご教示下さい。

A:ワンショットによる下痢には固形化経腸栄養剤を使うと緩和できます。とろみ剤を用いる半固形化とは基本的に異なります。半固形化製品を用いる際は、注入速度をおとす必要があります。なお、固形化の多くは寒天を用いて行いますが、熱を加えないととけない寒天の性質を理解して上手に用いるとよいです。
http://gakken-mesh.jp/info/wp-content/uploads/2011/03/086_089.pdf
「手作りぱぱ寒天R」という製品はお湯を使うだけで簡単に固形化できるようです。
http://www.fukiage-clinic.com/peg/ronbun/l0329664.htm

摂食のセルフケア低下時の対応方法の指導

Q:ミキサー食の摂取方法
固形物が食べられなくなった利用者で、介護者の工夫でミキサー食をシリンジで与えています。ただ、ヘルパーの方の拒否感が強く(強制的に食べさせている感があり倫理的抵抗を感じる+医療行為に近い印象がある)、工夫の必要があると思います。なにか良いアイディアはあるでしょうか。

A:今は、流動食をシリンジで与えることはあまりしません。その代わり、ソフトパッケージでゼリーやとろみ食が入っているもの(ウィダーインゼリーなどの口にくわえて飲むドリンク剤のようなもの)で、適量を握り絞りいれ、自然な嚥下をしてもらうようにしています。食べ物を口唇から移送させるプロセスが重要で、いきなり口腔の奥にものが入ると誤嚥防止のために反応する防御的で無理な嚥下をさせることにもなりますし、シリンジでは見た目も良くないですよね。認知症の方などは病気によって舌運動が円滑にできないこともありますので、移送を補助することで、より自然な嚥下を誘発することもあります。また、このような絞りだす目的で使用する用具も販売されるようになりました。中身は入っておらず、ボトルをねじることで口が開け閉めできるようになっており、ボトルを押すとチューブから「にゅーっ」と食べ物が出てきます。これを口にくわえてもらいます。
食事の拒否が「食思不振」によるものでしたら、多少は改善を促す薬などもあるようですが、絶対的な効果が得られる方法はありませんので、原因といくつかの方法を試し、可能な限り、食事量が取れるように工夫するということになると思います。量が確保できなければ好みの味のものを優先して食べていただくなどの工夫が必要かもしれません。これまでの食生活をもとにした検討が必要です。なお介護の方で、タイミングと量をはかって上手に促されていたのをみたことがあります。普段から接することで、食べてもらえる方法を見出されているようにも思いました。仮にどうしても量が確保されなければ、栄養補助食品、あるいはそれにかわる方法を検討していくことになるのかもしれません。

Reply:今まで工夫されてきたことを否定しないようにしながら、家族の方にお勧めしてみます。

咽頭クリアランスの低下時の指導

Q:指示としての空嚥下
「医師の指示に従って嚥下後に空嚥下~」と書かれていますが、医師の指示がなくても行っているとの声がありました。医師の指示が必要な理由はなんでしょうか。

A:空嚥下は、機能学的にも残留除去のために必要な事項です。嚥下リハビリテーションの中では立派な指示になります。いわれなくてもやっていれば良いのですが、残念ながらすべての場所でそれがきちんと実施されているわけではありません。患者さん自身も空嚥下(舌運動機能、指示反応、反射強度、惹起といったことが正しくアセスメントされる必要があります)ができる場合は良いのですが、反射が弱く徒手的に喉頭挙上を行い、嚥下補助をする方法なども直接法の選択肢に入ります。おそらくやっていない場合も考慮し、そのように指示されたのだと思います。空嚥下を正しいアセスメントがなく行うと誤嚥の危険性はなくもありません。不顕性の誤嚥が臨床所見では事前に発見しにくいことは周知の事実です。指示書を書かれた先生が嚥下リハビリテーションの専門医でなければ、ようやく嚥下リハビリテーションそのものの理解が医師にも浸透されてきたという別の理解もできそうです。「わざわざ」と思うことでも言語化すれば、少なくともチーム医療の点で重要な意味をもってくるように思います。私として嚥下リハビリテーションを10年以上も前から手掛けているので、そのような医師の反応はとても嬉しいと率直に感じました。実際、3年位前までは一般医は嚥下リハビリテーションって?という反応が多かったですので。

Reply:指標30についてよく理解できました。回答ありがとうございました。今日はステーションで、嚥下訓練の実践の方を学びあいました。

誤嚥性肺炎リスク時の指導

Q:介護者への働きかけ~訪問看護で行えるケア
若干抱え込み気味の老々介護のご家庭で、奥様が食事介助を行っているのですが、利用者さんが飲み込む前に次の一口を入れてしまうために訪問するたびに食事残渣が口内に残っている状態です。数ヶ月に一度発熱を繰り返しており、肺炎リスクがあることは分かっているのですが、ご家族の「食に対する思い」が強く、認知症気味でもあるのでどうしても無理やりの食事介助になっているようです。このような場合、どのような働きかけを行えばよいでしょうか。ご家族への働きかけ・訪問看護/介護で行えるケアなどで良いものがあれば教えていただければ幸いです。

A:こういう状態の方はちょっとアプローチが難しそうですよね。誤嚥リスクに対する対応としては、他のところでご紹介したのですが、リラクゼーション、リハビリテーションとしてプッシング訓練、シャキア訓練などが良いですね。自身の運営する「摂食嚥下友の会」でパンフレットがダウンロードできます。対象のできる範囲である程度の強度をもって実施するのがコツです。誤嚥がみられるようですので、基本的にその訓練は必要そうですね。
あとは、ウィダーインゼリーやテレミールソフトのような外部から徒手的に送りこめるゲル状のものでいわゆる口腔内での移送を助けるタイプのものも試す価値があります。ただ、口腔内の認知が不良のようですので刺激も必要です。今はカプサイシンの入った食べ物を口腔内に貼り付けることで刺激による反射を促すものも開発販売されていますが、カプサイシンの効果はLancetという雑誌に紹介されていますし、やってみる価値はあると思います。「カプフィルム」という商品です。
また一口量は少量とし、でも口腔の奥の方に送り反射を促すような工夫も必要です。認知症により移送運動そのものができなくなっていると思われますので、誤嚥を気にしながらも反射の惹起を促すためにトロミと姿勢の工夫が必要そうです。リクライニングにし重力をつけ、少しトロミを付け(おそらくネクター状程度のもの)一方で頚部は前屈させ、少量ずつ提供するといった方法が考えられますがいずれにしましても機能評価は必要です。日本看護協会出版会の「高齢者の生活機能再獲得のためのケアプロトコール」のアセスメントチェックシートでどの項目がチェックされたかわかるとこちらも回答しやすいです。(宣伝ではありませんがどんな項目をみれば良いかが一覧となっているので、こういう場合、情報が系統的に得られやすく助かるのです)どうしてもリスクが大きすぎて、という場合には、胃瘻も視野にいれる必要がありますが、家族がどうしたいか、無理な嚥下になっていないか、など総合的に判断した上で、生活のあり方を考えないといけない事例だと思います。胃瘻は、正直つくりっぱなしの状況となることを考えれば、いずれその問題は無視できなくなると考えています。

Q:経鼻栄養注入後の介入方法
70歳代、男性、胸部大動脈瘤術後対麻痺、COPD、気管切開状態でのHOT管理、脳梗塞後遺症による嚥下障害により、経鼻栄養チューブ留置中(直接訓練は行っておりません)、寝たきり状態。現在、朝の栄養剤(アイソカルMAX400cc、増粘剤は未使用)を経鼻より2時間前後で注入直後、ないし数十分程度で、清拭、更衣、排便処置のケアを行う為にベッドを水平までダウンしています。栄養注入直後は、逆流回避する為、暫くファーラー位のままとし、消化吸収を優先し、時間をおいてから水平仰臥位にした方が、逆流による誤嚥の予防につながるのではないかと認識しています。ご家族(娘様は看護師)と連携病院側は、今まで嘔吐などの症状はなかったので、注入直後に水平にし、ケア実施しても問題ないという回答でした。リスク管理の視点から、現在の介入方法で問題ないかということと、何かケアの指標になるものがありましたら、教えていただけないでしょうか。ちなみに、胃瘻造設の予定はありません。 呼吸ケアの介入としましては、認知機能の低下があり、口腔ケアと発声程度が精一杯の状態です。

A1:現在こちらで受け持っている利用者で、脳梗塞後の摂食障害のため、4年以上経鼻経管栄養管理を続けている方がいます。当初はたびたび誤嚥性肺炎を繰り返していましたが、昨年の入院のときに、リキッドダイエットK-4A(キューピー)をREF-P1と併用することで、その後肺炎症状をほとんどおこさなくなりました。自費購入となるので、経済的な負担が気になる方は不適用かと思いますが。

A2:逆流についてですが逆流の既往がない場合には、注入後水平位にしてもほとんど問題がないことが多いように思います。ただ、リスク回避のためでしたら、流動物の内容と胃停滞時間を考慮し、体位調整をするのが妥当な考え方と思います。あるいは回答①で示していただいたようなものも検討されると良いのかもしれませんね。過去に誤嚥性肺炎があったかといった視点も重要で、既往の有無で随分とリスクは異なってくると思います。特に呼吸器疾患もございますので。また呼吸ケアでしたら、一般的な肺理学療法を行っても良いです。呼気にあわせて広げた手で肋骨全体を覆うように下に下げるとか、四肢を頭の上の方に挙げるようにして胸郭を広げる、あるいは、仰臥位で膝をたて体幹をそのままで横に倒すと胸郭の一方が斜めに広がる、など患者さんの現在の状況にあわせた呼吸ケアのメニューがあります。COPDの方でしたら、特に積極的に行われると良いですね。胸郭を柔軟に保つという考え方をされると良いと思います。具体的なメニューは、実際にやってみて無理なくでも効果がありそうなラインを決めます。抵抗感や痛みがないかなど患者さんの状況をみながら行うと良いと思います。回数も胸郭がかたければできる範囲で2-3回から行い、徐々に回数を増やしていくと良いと思われます。

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