訪問看護師応援サイト

栄養管理

意思の尊重

Q:疲労した家族への指導
70歳代、パーキンソン症候群、要介護5、ADLは基本的に全介助が必要な患者さん家族についての相談です。病院から自宅へと帰り約3年になります。今年になり体調を崩すまでは食事は何とか自力で摂取していましたが、夏頃から全介助となっていました。日中は午前中から昼まで妻が不在なため昼はおにぎりを娘さんが作って、それは何とか自分で食べているそうです。秋頃になり、看護師が訪問した時に、妻からの情報収集で、ソファの上で寝たまま食べさせていることが判明しました。後日担当している私が訪問時に詳しくお話しを聞かせて頂くと、「自分で食べさせると首の回りを汚すから、食べさせている」と妻が話されていました。可能な限り起こしてご自分で食べて頂くようにお伝えしましたが、妻も日々の生活の中で仕事と介護を両立させており、どこまで指導した方が良いのか迷ってしまう場面でした(この3年間、夜間本人をトイレに3回以上誘導したり、1時間おきに寝返りをしてほしいと訴えるため十分な睡眠時間は確保できていなく、妻の疲労はかなり蓄積されています)。やはり、嚥下のこともありますし、きっちりと指導した方が良いのでしょうか。今でもはっきりとは指導していない状況です。

A:嚥下障害は出現していない利用者さんという前提で、以下にコメントしますね。夏頃から全介助とのことですが、日中だけは、今も自分でおにぎりを召し上がることはできているという理解でよいですか。まずはご本人と妻とよく話し合うことが大切ですね。もしもご本人が自分で召し上がりたいと思い食べる力があるならば、妻は「自分で食べると首の回りを汚す」をどの程度解消できれば、夫に自分で食べてもらおうと考えるのでしょうか。妻にとっても、食事介助をしなくて済めば、介護負担も軽減できるわけです。夫は食事のどの段階で汚してしまうのか、一度食事場面を見せていただいてアセスメントすることで、ポジショニング(姿勢)、食卓の高さや距離、食形態、食具の調整などによっても改善可能ことが多々あります。訪問看護師による丁寧な話し合いとアセスメントによって、お二人の方にとってより良い暮らしが再建できるとよいですね。

Reply:嚥下障害は軽度で以前トロミをつけていましたが、あまり変化がないという理由から現在はトロミをつけずに摂取されています。実際に訪問の時に水分の飲用を見せてもらうと極少量(10ml)ずつしか飲めないため、嚥下状況を評価できていませんでした。今まで、入院時しか食事場面を見たことがありませんでしたが、評価も含め一度見せてもらうのが一番良いですね。これまで、起きて食べさせていたのにどうしてソファ上(臥位)で食べさせるようになったのか理由を確認すると、「起きて食べさせていると、手で払いのける動作が激しく、床に食べ物がかなり飛び散ってひどいことになる。昼のおにぎりを食べた後もひどいのよ」と話されていました。また、自分で食べさせると口の中に掻き込んでしまうようで「一度窒息して大変なことになった」と言われていました(入院中に食事動作を見たことがありますが、奥さんの言われるように掻き込むため介助で摂取させていました)。少しでも良くなる部分があるかもしれないので食事を食べている様子を見せてもらいたいことを依頼してみましたが、「うちの貧しいご飯を人様に見せたくない」と拒否されてしまいました。私自身奥さんの介助が大変なこともわかっているので、新しく何かを依頼することで負担が増えてしまうのでは…と躊躇してしまいます。「寝たままで食べると消化管の構造から、流れは悪く消化にとても悪いですよ」とはやんわり伝えていますが、反応はいまイマイチでした。

低栄養のスクリーニング

Q:栄養アセスメント‐MNAについて
日本訪問看護振興財団で企画された「現場で役立つ栄養アセスメント」そこで、MNAという栄養評価尺度の紹介があり興味を持ちました。たった6項目のスクリーニングのみですので、体重や血液検査データなどの計測が難しい在宅向けである印象を強く受けました。尺度もネスレが無料で公開しており、訪問看護師に是非ご利用をというお話でした。在宅での栄養アセスメントを考えていらっしゃる訪問看護師の皆様もどのような印象を受けるかなど、ご意見などをいただけたら嬉しく思い、書き込みをさせていただきました。
MNAのオリジナルバージョンはこちら
http://www.mna-elderly.com/forms/MNA_japanese.pdf
MNAの短いもの(MNA-SF)はこちら
http://www.mna-elderly.com/forms/mini/mna_mini_japanese.pdf#search='nestle*回答
いろいろある栄養指標のうち、MNA(MiniNutritionalAssessment、簡易栄養状態評価表)は、高齢者の低栄養状態を採血せずに評価することができ、海外でも広く用いられている優れた指標であり、実は私もよく使用しているお薦めの指標です。いくつかの文献でもMNAの有効性が報告されていますので、是非使ってみてください。確かに多くの先行研究で、高齢者の予後や低栄養状態などには血清アルブミン値が有意に関係していることを報告していますが、高齢者施設や訪問看護では、採血が困難なことも多く、その点、MNAは採血を必要としない指標であり、スクリーニング欄(A~Fの6項目)とアセスメント欄(G~Rの12項目)をあわせても、10分程度で評価可能といった点でも使いやすいかと思います。ということで、実は本栄養管理指標でもMNAを参考にしているのです。ただし、MNA-SF(スクリーニング部分)は、低栄養状態の判定に対する特異度がやや低いため、PEMリスク者を多めに拾い上げてしまうこともあります。すなわち血清アルブミン値3.5g/dl以上かつBMI18.5以上であってもMNA-SFを使用するとPEMと判定される場合もあります。ただ、早期予防という視点から考えれば、それも大切なことかもしれませんね。いくつかの文献でもMNAの有効性(QOLや予後等とMNAとの関連など)が報告されていますので、1ツールとして、どうぞ使用してみてください。

A:勉強会で紹介されたものは、MNA-SFのほうでしたので、簡便すぎる気になっていたのですが、文献をいくつか探してみましたがオリジナルバージョンを利用している様子でした。大切なのは、まずスクリーニングをすることと、その後のフォローアップなのだと納得しました。物がない在宅の現場で、短時間で測定するには本当にありがたいスケールですので、使ってみたいと思います。現場でも使いやすい項目数かなと、自分は思いました。

低栄養のリスク要因

Q:味覚異常の利用者への食事の関わり方
90歳代、女性、多発性脳梗塞、認知症、時折起立性低血圧。身長約140cm台、体重30kg台前半、TP5.6、Alb3.2。歯は無く義歯もなし。食事は食卓で家族と召し上がっています。食がとても細く(一日約600kcal)、味付けの薄いものは苦く感じ、甘味以外美味しく感じないとのことで熱量はもっぱら好物の甘いおやつで得られています。エンシュアリキッドを1日半缶飲まれています。味覚異常は医師から梗塞によるものではないかと説明を受けたそうです。亜鉛不足用の処方では味覚は改善しなかったそうです。頭重感のある時、特に甘味以外のものは苦く感じるようです。味覚異常の方の食事の関わりで何か良い方法はないでしょうか?

A:食べると苦味がするので、少量食べて嫌になるという悪循環で食事量が減少してしまう高齢者のケアを私も何人か経験したことがあります。食事量が少ないとどうしても亜鉛不足になりがちですが、高齢者の場合には、それ以外にも薬剤(よく高齢者が服用する降圧剤等も含まれます)や、義歯をしていないことでドライマウス(口腔乾燥)になりやすく、歯周病などによっても苦味を誘発していることがあります。この方の口腔環境はいかがでしょう。特に舌の汚れや乾燥はないですか?高齢者の場合複合的な要因から味覚異常を起こしていることがありますので、この方の場合に考えられる要因について検討してみてはいかがでしょう。甘いものは食べられるとのことですので、少々クセ(亜鉛のキーンとする味?)はありますが、亜鉛を補ったプロッカゼリーというのもあります。1個120円前後で、亜鉛含有量は5mg程度です。いくつかの味もあります。亜鉛の1日の必要量は8~20mg(海外だと8~15mg)と言われ、1日10mg程補うと良いといわれていますので、2個くらいおやつ代わりに食べてみるという方法もあるかもしれません。

低栄養のアセスメント

Q:排便状況と低栄養の関係
80歳代、女性、住居型高齢者住宅入居中。2年前まで独居。視床出血で右不全麻痺になり、一人暮らしは無理とのことで入居されました。この時点ではつかまり歩行も可能だったそうですが、昨年秋にぎっくり腰になって以降動けなくなってしまい、寝たきりになっています。1年ほど前にリハビリ目的で訪問看護を開始しました。筋力低下が著しく、体位変換するだけで痛みを強く訴えていました。ジェイゾロフトが開始されてから痛みの訴えはなくなりましたが、相変わらず離床は拒否され食事の時に端座位になるのが精一杯でした。今年の夏の猛暑で脱水になり、食事も咀嚼が大変になってミキサー食に変更されました。その後施設で出される食事は全量摂取されるようになり、補食として出してもらっていたエンシュアも毎日飲んでいます。しかし、アルブミン値が2.6に低下(1ヶ月前は3.1)してしまいました。排便が自力で出せず、入院中より下痢をしているとの引き継ぎがあり、肛門周囲が真っ赤にただれていました。肛門診をすると便が詰まっている状態で、自力では出し切れずに軟らかい便のみが随時漏れている状態と思われました。浣腸・摘便で週2回出すようにして皮膚のただれはすぐに改善しましたが、便の量が多く、訪問看護が入る週2回では足りません。介護保険の点数が30分・週2回がギリギリなので、合間にヘルパーさんに座薬を入れてもらうようにしてみましたが、座薬では出せないようで、チビチビ出続けます。自力でも出せるように下剤を調整してみましたが、下剤を増やすと下痢。減らすと出せず…で、現在は浣腸前日にカマ0.5のみ飲んでいただいています。脱水で退院後から便の色が白っぽく、肝機能も検査していますが問題なかったそうです。排便状況と低栄養の関係があるのでは?と思うのですが、どうアセスメントすべきか迷っています。その他の合併症はありません。

A:血清アルブミンの半減期は2~3週間(約20日間)なので、アルブミン値2.6g/dLは、全量摂取する以前の食べられなかった状態を反映しているのではないでしょうか。もしも、全量摂取し続けて1ヶ月以上経った後もアルブミン値が上昇しない場合、感染症などの炎症も考えられますが、CRP値はいかがですか。アルブミン値は、確かに低栄養の指標としての感度は比較的高いのですが特異的ではなく、感染症などの炎症によっても大きく作用されます。すなわち、栄養補給によって体重が改善しても感染症などが治癒しない限り、アルブミン値は改善しないことがあります。逆に栄養状態とは無関係に、感染症が改善すると、自然にアルブミン値が改善することもあります。このため、アルブミン値とCRPを同時に測定して、アルブミン値の低下に炎症が関与していないかどうか確認します。それで、CRPが改善もしくは異常がないにもかかわらず、アルブミン値が改善しなときには、栄養の問題がある可能性が強くなります。ただ、アルブミン値は長期間の変化を表すのに対して、CRPは短期間の変化を表すので、その点に気をつける必要はあります。
排泄の調整も気になりますね。肛門周囲の発赤・ただれが、訪問看護が入ることで落ち着いたことは良かったです。ところで、便が白っぽくなる原因として考えられる肝炎・胆嚢炎は否定されたとのことですが、タンパク漏出性胃腸症でも白っぽい便が出ます。タンパク漏出性胃腸症は、消化管に血液中のタンパク質が大量に漏出してしまう症候群で、下痢や浮腫を主症状とし、腹水や白っぽい脂肪を含んだ便がみられ、顕著なアルブミン値の低下を認めます。治療は、まずは原因疾患の治療が最優先ですが、アルブミン製剤などの薬物療法や食事療法なども行われます。

低栄養改善に向けた面談

Q:なかなか増えない体重
70歳代、男性、パーキンソン症候群。当初、食事の他におやつなどを多量に摂取していたため、体重が42kg→55kgまで徐々に増加しました。妻の介助が困難になると考え、おやつや甘いものを制限していただき体重は50kg前半程度で今年の初めまでほとんど増減なく経過されていました。今年3月に帯状疱疹になり食欲が減退し食事摂取量が減少したのをきっかけに、夏季の猛暑も加わりますます食が細くなり9月には40kgまで体重は減少してしまいました(その間おやつや甘い物の制限はなくし、食べられる物は積極的に促して頂いていました。主治医に相談しても、エンシュアなどの補助食品はまだ様子をみましょうとのことでした)。最近やっと食欲は戻りつつあり、摂取量は増加していますが、いまいち体重が増加せず、11月の時点で500gしか増加していません。夜間多動なのもあり、エネルギーを消費するためかとも考えられましたが、何か他に考えられることはあるでしょうか? 今年腹部CTを撮影していますが、異常はありませんでした。

A:食欲は戻ってきたということですが、猛暑で食が細くなってから、活動に見合うだけの一日に必要な食事量が実際に取れているのでしょうか。可能ならば、利用者様の食事内容と量を数日間分(できれば一週間分)記録していただくと良いかもしれません。記録が難しいならば、デジタルカメラで撮影いただくという方法もあります。パーキンソン病(PD)の場合には、難治性の便秘からイレウス(腸閉塞)に近い状態になり、栄養状態が悪化し、体重が急速に減少するような場合もありますが、腹部CTでは異常がないとのことですものね。確かに経過の長いPDの多くの方に、体重減少を認めます。進行に伴いPD症状(振戦や無動など)が摂食動作にも影響して、症状に応じた支援がなされないと食べることに疲れてしまい食事量が減少していく方もいますが、時にその背景に嚥下障害やがんなども隠されていたり、内服薬の変更が影響していたりすることがあります。食事以外に体調の不調など生活状況で変わったことはありませんか。

Reply:訪問時は妻に摂取量を度々確認していますが、朝:茶碗1膳+納豆、昼:おにぎり、夕:茶碗1杯と副食少量(魚中心)、食間にお菓子を1/2~1袋程度・果物(バナナ1~3本やオレンジ1個など)、他1日1本500mlの炭酸ジュース。たいがい、ほぼ毎日このメニューで摂取されています。ざっとの計算ですが1,200kcal程度以上は摂取されていると思われます。基本的に副食はほとんど摂取されず、数口のみのことが多いようです。活動状況としては、体動は少なくほぼソファ上で過ごされ、夜間臥位のまま動いていることが多いとのことでした。嚥下は、以前は水分にトロミをつけて摂取されていましたが、トロミをつけてもつけなくてもあまり変わらないそうで、現在はつけずに飲用されています。訪問時に軽く喘鳴が聞かれることはありますが、それほど強くはありません。パーキンソンの症状としては姿勢反射障害が強い程度ですが、認知面ではかなり低下しており、ほとんどの質問には「わかんない」と返答されます。先生の助言に「内服の変更が影響していることもある」と書かれていましたが、妻が半年位前にあまりに多動・暴言がひどいことを訪問診療の時に医師に伝えたところ、リスパダールが処方となりました。最初のうちは毎晩内服させていましたが、夜間トイレ誘導の時に覚醒状態が悪く移動が困難なことや日中も傾眠傾向とのことで、1回/2日程度で内服しています。やはり日中の覚醒状態が最も影響しているでしょうか。

低栄養改善のための介入

Q:経腸栄養法導入後の改善しない栄養状態
進行性核上性麻痺(PSP)の嚥下障害で誤嚥性肺炎になり、この春より胃瘻管理になった方です。経口摂取が限界になり経管栄養を始めた時点から軽度の低蛋白と貧血があり、Naも低値が続いています。確実に栄養が入るようになったら改善があるかと思ったのですが、開始後もTP6.5Lg/dl、アルブミン値は胃瘻管理開始後2か月で3.5Lg/dl(その後検査無し)でした。赤血球値3.92、Hb13.0前後で変化が無く、NaClを処方してもらい、安価に入手できる野菜ジュース等を補食で入れてもらっています。金銭的にあまり負担できないとおっしゃるため、それ以上の介入が出来ていません。総カロリー数を増やしてもらうことも考えましたが、注入回数を増やすのも負担になるため、どのような提案をしたら良いか迷っています。

A1:PSPについては、臨床でも正直頭を悩ませることは少なくありません。現在、NSTで回診しておりますが、基本情報として体重、身長、基礎代謝量、IN成分(具体的に何をどの程度入れているか)についてお教えいただけますでしょうか?

Reply1:身長は多分170cm以上はあると思います。体重は昨年の9月頃は52kg前後ありましたが、現在は48~49kgです。栄養はラコール1200kcal(400×3回)、水分は800mlの指示で退院しましたが、夏場に汗が多く、1300mlまで増やしていただいていました。現在は1000ml(500×2回)。夜間多尿のため、午前中に多く入れています。1000mlのうちの200mlを野菜ジュース等にしていただいています。Na値は水分800mlの時から低く、ポカリスエットを入れていたのですが、改善がないのでNaClを3.0gで処方していただきました。それでも全く変わりありません。身長は奥様に再度確認してみます

A2:進行性核上性麻痺(PSP)は、歩行障害や眼球運動麻痺、嚥下障害、排泄障害など様々な日常生活に支障をきたす症状を伴うので、リスク管理も不可欠で訪問看護による支援はさぞ大変なことと拝察しています。1つご確認ですが、経口摂取の可能性に関する査定はいかがなものでしょうか。PSPは、初期には前頭葉症状によって口腔内に詰め込み過ぎて誤嚥したり、進行すると頸部の後屈が強くなり矯正することが難しくなるために、誤嚥しやすくなります。しかしながら、前者は食器の工夫で、後者は座位姿勢を工夫することで(具体的には腰を曲げることで口腔を水平に保つと)、誤嚥のリスクが軽減します。PSPは進行すると嚥下反射の惹起も弱くなるのですが、充分な咳嗽力があるうちは、「経口摂取と経管栄養とを併用」することで、栄養状態を保つ方法があります。「経口摂取こそ最高の栄養法」と言われるように、どんな栄養管理法よりも栄養素の消化・吸収力が高く、腸管免疫や感染防御力を高めるなどさまざまな生理学的効果があり、何よりも食べる楽しみといったご本人様の生活の質からも重要ですよね。経口摂取を併用される場合には、姿勢の調整に加え、食事前に頸部や口、舌などの筋肉をほぐすような嚥下体操や、増粘剤(トロミ剤)の使用や嚥下調整食など食形態の調整、口腔ケア(口腔清掃のみならず口腔環境を高めるケア)も導入していくなど安全面に留意していく必要があるので、専門家と協働しながら進めつつ、経口摂取の可能性があるならば低栄養の改善には最も有用な方法かと存じます。 「神経難病と栄養」に関するマニュアルがPDFで掲載されています。既にお持ちかもしれませんが、よろしければご参照ください。
「難病患者支援マニュアル4 神経難病と栄養」
事例の場合、6月に胃瘻(経腸栄養法)を導入しながら栄養状態がなかなか改善しないとのこと、もしかすると腸管絨毛上皮が萎縮しているのかもしれません。この場合、GFO療法(G:グルタミン酸9g/日、F:水溶性ファイバー、O:オリゴ糖7.5g/dlを少量の水やお湯で溶解して使用)が効果的なことがあります。消化管粘膜ではグルタミンの消費は非常に多く、主要なエネルギー源がグルコースではなくグルタミンであることから、最近は経腸栄養においても積極的にその栄養組成中に添加することが試みられており、高齢者の低栄養状態(PEM)への有用性も言われています。GFOは腸管絨毛上皮の萎縮抑制、増殖促進およびそれに伴う免疫能の促進という効果が期待できます。このため、感染予防や便秘にも効果があったという報告があります。最近は、全国のNSTを稼働する多くの施設で、GFO療法を施行するようになっています。GFOは市販されていて、63包入り7,938円、1日あたり126~378円でしょうか。経済的負担がかかりますが、何を大事にするかでしょうか。
GFOの参考URL: http://www.otsuka-plus1.com/product/medicalfoods/gfo/
なお、血清Alb値は、一般に3.5g/dlを下回ると内臓たんぱく質の減少が引き起こされ、2.8g/dlを下回ると浮腫が引き起こされると言われています。ただ、疾患をもつ虚弱な高齢者ですと、経験上で恐縮ですが、Alb値は3.2~3.6g/dlで維持していることが多いかもしれません。Alb値3.0g/dl以下の場合、術後の余病率は2~3倍になったり、高齢入院患者の死亡率は3.0g/dl以下では1年後で38.1%、2年後で63.2%など高い割合を占めることから、Alb値が3.0g/dl以下になると要注意といえるでしょうか。

A3:この事例は、特に過去に誤嚥性肺炎がありますので、相対的な危険(再度誤嚥性肺炎になる可能性)はかなり高くなります。口腔ケアは必須ですね。特にこの事例は経口摂取が限界のところまで来ていると記入がございましたので経口は難しい事例と思われます。 必要な情報として、身長、年齢でハリス-ベネディクト(Harris-BenedictEquation、HBE)でまずみてみましょうか。実はやせている人には、ハリスで出た計算よりもカロリーが多くて良いほどです。頚部ですが、後屈位になっていませんか?PSPで多くみられる症状です。その場合、基礎訓練も良いと思います。後屈していれば往診でも理学療法を入れるなど配慮が必要です。かなりかたくなる方がおられますし、進行性といわれるように悪化するのが特徴ですので、本人の苦痛緩和(呼吸なども含めて)に必要な対応といえます。姿勢保持のための工夫も必要となります。咳反射は強弱をみてください。さらに、他の基礎疾患有無により必要栄養量の組み立て方が変わりますので、必要な基本事項となります。なお体重身長比でいいますと、170cm以上でもまだこの程度の方は多く拝見しております。胃瘻のポンプ利用は、栄養改善をよくするということもいわれていますので、使用しても良いかもしれません。年齢、身長、ポンプ使用、他の疾患の存在、亜鉛などの微量元素を含む検査データ(特に9月以降の最近のデータ)をお教えください。最近のデータがなければ、まず検査してみることも必要かと考えます。また栄養療法に関する今後のことは、主治医を含めた関係者間での十分な検討が必要になってくると思います。

Reply3:この方は1年程前までは経口摂取をされていました。この時点で頸部の後屈がかなり強く、他動運動をしようにもほとんど動かない(わずかに動かせる程度)状態でした。首・肩のマッサージ等のリラクゼーションを行っていましたが、誤嚥性肺炎の後、びくともしないくらい固まってしまいました。現在は枕を外しても首が浮いている状態で、ほとんど動きません。リハビリ、鍼灸、マッサージを受けています。また誤嚥性肺炎後は意識レベルも低下しており、ほとんど閉眼して覚醒が良くありません。転倒による硬膜外血腫の既往があります。BMI17.85、ハリスベネディクト1079.83でしたので、1200kcal行っているので良いのでしょうか。経験的に、この程度であれば低栄養とも考えずに様子を見ることが多かったように思います。そのため私自身もどのあたりが介入時かの判断に迷っています。 GOFというのは初めて知りました。色々と参考にさせていただき、考えていきたいと思います。排便困難のため浣腸・摘便で排泄、排尿も失禁しています。コミュニケーションは取れません。口腔ケアは全介助。看護師が介入するときは吸引を使用して行い、家族介護者は口腔用ウェットティッシュで拭き取っています。自分で口まで喀痰を上げてこられるようになっていますが、出し切れない時は気管内吸引を行っています。

A4:後屈位もひどいようですね。胸郭を含む全身の萎縮も考えられます。肺理学も含めてリハビリでどこまで対応できるかですね。この様な状態だと鍼灸のレベルではないかもしれません。ボトックスという注射をすることもありますが、病院での治療と思われます。栄養量はなんらかのストレスがかかっているとしてもハリスからみて1200kcalで十分そうです。便秘だとすると過剰投与の検討、濃度の希釈、滴下速度を一応検討してみてはいかがでしょう。いずれにしましても臥床状態ですので、現在の状態を悪化させない為のケアを考えることが優先されます。誤嚥性肺炎は頻発ですので、その予防のための口腔ケアをしっかりと行うなどが必要になります。口腔ケアは歯が残っていればブラシを用いてしっかり行います。水の垂れ込みをしないよう、吸引しながら使えるブラシなどもあります。

経腸栄養法管理

Q:介入後に出現した発疹対策
経腸栄養(ラコール1000kcal)を使用し2年以上経つ高齢者の上下肢に発疹(丘疹)がみられるようになりました。上下肢に限局しており、意思疎通が難しいため自覚症状は不明です。補食として、通信販売による(亜鉛やタンパク質などが含まれた)補食ゼリーを摂取しており、また果物を食べやすくアレンジした食事を勧めています。このような例に対して何か対策を講じた例がありましたら、ご教示ください。

A:上下肢に発疹(丘疹)がみられるようになる前に、治療や栄養の内容が変わっていませんか。対象者に食物アレルギーなどの既往はありますか?「果物を食べやすくアレンジした食事を勧めた」時期と丘疹が出現した時期との関係はいかがですか。もしも特定の果物を開始した後から発疹が出現している場合には、その果物を一時止めてみることも必要と思われます。 また、処方薬等の変化はなかったですか。上下肢(左右対称)に限局してみられる発疹(丘疹)の場合、薬疹ということも考えられます。なお、ラコールに含まれるタンパク質(牛乳由来のガゼイン)に対するアレルギー反応で発疹がみられる方もいますが、ラコールは2年以上も前から使用されているようですので、この方の場合には考えにくいでしょうか。いずれにしても発疹(丘疹)が軽減しない場合には、皮膚科を受診することが必要です。

介入内容の評価と修正・追加

Q:適切な栄養剤の注入量
脳梗塞発症時に胃瘻を造設し、10年以上経過した利用者です。老々介護で、主介護者の奥様も認知症があり、生活の変化に適応することが難しくなっていました。それでも奥様なりに1日3回の経管栄養、吸引をこなして在宅療養を維持できていたのですが、利用者自身の消化能が落ち、逆流と誤嚥、肺炎がたびたび起こるようになってきました。本来ならば、栄養剤の減量を行うべきではないかと担当看護師が査定を行ったのですが、奥様の理解が「栄養剤を減らす=食事が減る→死につながる」というものであり、主治医も奥様に配慮して栄養剤の処方を変えることはありませんでした。この利用者さんは、最終的には胃瘻挿入部からの栄養剤の漏れが起こり、消化液による潰瘍がある状態で亡くなりました。誤嚥・発熱を繰り返す利用者さんに、本来ならばターミナル期であることを前提としたケアを行うべきなのに、このときは適切なケアを提供できなかったと感じています。このような場合、適切なアセスメント・看護がどのようなものであるべきだったか、今でも迷うところがあります。経口摂取であれば、自然に摂取量が減り介護者にも納得していただきやすいのですが、胃瘻は医療者・介護者が決めた量が確実に投与されるだけに、適切な量の決定が重要だと思います。

A1:ターミナル期にある方の補液や胃瘻からの栄養剤の注入量については、見極めが重要だと考えます。指示量だからとか家族の無理解だからと漫然と注入するのではなく、本人の身体的負担をアセスメントする必要があります。注入量に見合う消化吸収能力があるのかどうか、バイタルサインを測定し呼吸や循環がうまくいっているのか、電解質バランスが崩れていないか、浮腫や体重の増加、尿量の減少、嘔吐、傾眠などを観察し、全身状態を的確にアセスメントする必要があります。場合によっては、勇気をもって注入量の減量を主治医に相談することも必要だと思います。 私の失敗体験は、高齢で脳梗塞後遺症と糖尿病を有し、胃瘻を造設したベッド上全介助の方の例です。バイタル測定、血糖測定、肺炎の予防として肺のエア入り、肺音、全身症状をチェックしていました。浮腫が出現してはじめて、このまま補液を続けるべきかどうかを主治医に相談しました。採血の結果、低たんぱく血症、電解質バランスの崩れ、低Na血症を起こしていました。ターミナル期ではどの時点で減量するのかケースバイケースで、その見極めは大変難しいと思います。ターミナル期は、絶えず補液の減量を意識した関わりが重要だと考えます。 今回のケースでは、胃瘻のトラブル(逆流と誤嚥)を頻回に繰り返し肺炎の危険にさらされているにもかかわらず、医師の、妻の無理解を考慮した現状維持の方針には、疑問を感じて当然だと思います。カンファレンスの中で、このレベルでは胃瘻の適用外だという意見や腸瘻に変えるなどの意見は出なかったのでしょうか。

A2:まずはご本人にどのように療養いただくのが良いのか、そして一人の貴重な生をどのように閉じることが、ご本人にとってまたご家族にとっても最善と言えるのか、そのために医療者は何ができるのか、主治医や関係職種が一同に介して真摯に話し合える場(カンファレンス)をもつことが今後も大切なのだと思います。地域で勉強会を開催してもよいのかもしれませんね。今後も、このような事例は増えると思います。質問者さんの思いを医療チームで共有し、ご本人と家族が望み納得のいく最善の看取りの支援ができることを願ってやみません。 海外の文献では、胃瘻を用いた場合と用いない場合では、予後が変わらないかむしろ胃瘻を用いた方が悪かったという報告もある中、胃瘻のあり方が見直されつつあります。胃瘻がもつリスクを医療者が十分に知った上で、どのような栄養管理をするのが望ましいのか、常に評価・モニタリングしていくことが大切になります。

Reply2:看護師としてのアセスメントをもっと素直に主治医の先生と話し合えば、何か違った展開が生まれていたのかも、と思いました。そのためにも、各種のアセスメント項目を押さえて、根拠を持って話をしなければならないですね。また胃瘻を用いても「予後が変わらないか、むしろ胃瘻を用いた方が悪かったという報告」という情報は初めて知りました。基礎疾患の種類などによって違ってくるのでしょうか。 今回、ご相談させていただいた利用者さんは、胃瘻導入したことで長期間の生命維持ができた例であると思います(ターミナルケアで課題を残して終わってしまいましたが)。いずれにしても、きちんとアセスメントを行うことと、医師ときちんと話し合える関係性を普段から作っておくことが大切だな、と感じました。

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