訪問看護師応援サイト

家族支援

虐待のアセスメント

Q:虐待の看護記録方法
聞いた事例で詳細は分からないのですが、虐待をしていることについてご家族自身にも自覚があった、ある事例についてです。訪問看護師が訪問中に虐待についてアセスメントしそれを記録したところ、記録内容について家族から苦情があったそうです。この事例をふまえ、虐待についてのアセスメント等の記録は社内ですることになりました。みなさんのステーションではどのようにされていますか。

A:虐待に関する記録については、地域包括支援センターではある程度書式を定めているようですが、訪問看護ステーションでは定石がないようです。日々の記録を訪問先に残す場合は特に、どのように記録をするかを検討する必要がありますね。虐待(あるいはその可能性のある場合)への対応についてはステーションで質問を受けることが多い一方で、地域でもステーションに向けた発信は少ないようで、対応についてまとめる必要があると思っています。他のステーションでのご経験もインプットいただけると幸いです。

家族と共に看護計画の策定

Q:本人に伝えられない看護計画
看護計画の策定は本人同席の方がベストだと思われますが、本人に伝えられない内容もあり、本人同席と家族のみの話し合いが必要と思います。その場合、看護計画は2種類必要で、患者家族へ手渡す計画も2種類手渡していますか。

A1:私自身は2通作らなければならなかったことはないのですが、ご本人に伝えられない内容とは、たとえばどのようなものでしょうか。書ける範囲で書いてみてくださいませんか。長い目で見た時に、ご本人の知らされていない看護計画で進めて不整合が生じても…と懸念したりしています。

A2:私の所属するステーションでは、計画書を2部(本人用・家族用)作成したことはありません。訪問開始当初の話し合いやこちらの考えも盛り込んだ計画をもって行っていても、訪問時の状況や家族・本人の希望、様子によって変更されることもあれば、変更なく継続、あるいは改善で終了など看護計画は変化しますので、書面にする月末は毎月大変な思いをしています。本来は毎月提示すべきなのかもしれませんが、当ステーションでは年に2回、看護計画書の内容を説明し了承を得て、お宅に置いていきます。平易な言葉で簡潔に説明しています。看護計画の策定の際に、ご本人を別として立てるケースというのは、どのような場合なのでしょうか。ご家族の参加を呼びかけるというのは、みなさんされていることだと思います。でも、ご本人が高次脳機能障害の方や重度の認知症の方など意思疎通が難しい方々へは、訪問を重ねていく中で意向や好き嫌い、不快・快なことを把握していくため、計画内容が後付けになることがあると思いました。

A3:あれからもう少しいくつかのステーションに聞いてみました。やはり看護計画を家族と本人に別々に作成されているという事例は聞かれませんでした。

外部資源の情報提供

コメント:外部資源利用希望の家族と希望しない本人
介護負担が大きいためにデイサービスなどの理由を勧めても、利用者さんが拒否して利用できない時も多いです。私は精神疾患を合併した身体機能障害をもつ高齢利用者に「家族が病気になったら家に居続けることができない」と率直に相談したこともあります。その利用者さんは、自宅で家族と生活したかった方なので、そのように相談しました。いつもすべてうまくいくとは限りませんし、あるきっかけで急に社会サービスを使わなければならない状況が発生したりするので、「チャンスがあったらいつでも勧めよう」と気長に待つことも、一案かもしれません。お困りの状況がよくわからないまま回答してしまっていますので、的を得ていないかもしれず、お役に立たないかもしれませんが、私の経験を返事させていただきます。

A1:私も訪問看護をしているときに、家族の介護負担を考えてショートステイをすすめても、利用者さんに断わられることがありました。高齢の利用者さんの場合、外出型の福祉サービスは家から出されるという不安につながっていたり、自分の体を他の人にさらすことに抵抗があったり、家族以外に下の世話など身の回りの世話をされることに抵抗があったりと、理由は様々でした。利用者さんが懸念する理由を探り、その理由にあったアプローチをしていくというのはいかがでしょうか。

A2:介護サービスを利用したくない理由には、①経済的理由、②他人の世話にはなりたくない、③外との交流がしたくない、④家族の理解・協力が得られない、⑤サービス内容が自分に合わない、⑥近所の嫌いな人が利用している、⑦場所や施設に関するもの、など様々な要因が考えられます。今回、経済的理由が第一の要因だとすれば、無料の保健所の事業活動や地域独自のサービスの利用を検討してみるのも1つの方法です。地域によっては、高齢者が集まるサロンやお店の活動、健康友の会や患者会活動、自治体での介護教室、サークル活動、など種々のサービスがあり、それらについて情報の収集を行い、利用できないか検討してみる必要があるのではないでしょうか。そして、一方で介護にあてるお金はいくらまでなら可能なのか、具体的につめた話し合いも必要ではないでしょうか。訪問看護や介護サービスのある日にスタッフと一緒に見学に行ったり、本人が行ってみたいなと思えるようにサポートしたりすることも必要でしょう。本人や家族と真剣にサービス内容を検討していく中で、意外とスムースに解決していくこともあり、その多くは、サービス利用の必要性と勧める側の熱意にかかっているのかもしれません。

利用者と家族との緊張緩和

コメント: 質指標:人間関係の維持・改善について
人間関係の維持・改善は実現が難しい/家族員間のコミュニケーションを促進することが良いとは思われない場合もあります。

A:この指標は、「相互のコミュニケーションをとることがその家族にとって有効であると判断したら、コミュニケーションを促すように関わることができる」という能力を問題にしています。個別の状況によっては、相互にオープンに話し合い、コミュニケーションをとることが必ずしも問題解決に役立たない場合もあるでしょう。そのような場合には、コミュニケーションを促すという働きかけをやめるという選択ができなければならないでしょう。訪問看護質指標は「必要な時に提供すべき看護が提供できる状態にある」かどうかを確認するものです。ここに挙げられている支援方法をいつも使うように勧めているものではありません。

家族看護の習得

Q:家族支援を行うべき範囲
家族支援ってなにをどこまですべきでしょうか。訪問看護における家族支援って、どこまでを範囲を考えるべきなのだろう、と仲間内で話し合っているとき話題になりました。たとえば、サービスや医療処置の利用を考慮しているとき、別居しているご利用者さまの実子が反対されました。その実子の方に訪問看護師から働きかけようとするでしょうか。ご家族とご利用者さまのコミュニケーションが良くなくて、そのことが、ご利用者様が不安定になる要因の一つと思われるとき、ご家族に対してその点について話をするでしょうか。このあたりは人によって状況によってさまざまと思われますが、ご経験の中から教えていただけると幸いです。

A:私は「ご本人が困っていないか?」「ご本人の身体的・精神的状態は大丈夫か?」という2点を基準に、家族への働きかけを考えることが多いように思います。「最近、○○(ご本人)様の調子が以前と違うと感じて(具体的にあればそのことを説明する)、心配しているのですが、いかがでしょうか」などといった感じです。その際は管理者や同僚と相談し、介護支援専門員にも状況を報告します。別居家族の場合にはなかなかお会いできないため管理者と相談して働きかけ方を考えます。家族への支援を考える上では、家族構成や家族の今までの様々な経過を踏まえてどうアプローチしていくかを、ステーションの管理者や同僚がみなで一緒に考えられることが大切と思います。

コメント:家族システム理論について
家族システム理論について何も知りません。

A:ここでは、「家族システム看護『など』・・・・」と、「など」という言葉がついていることに注目してください。家族システム看護だけをお勧めしているわけではなく、何らかの理論的枠組みを学習して家族への支援にのぞんでいるか、ということをこの指標はたずねています。看護が専門職である限り、訪問看護師の行う支援には何らかの理論的またはデータに基づく根拠が必要(evidencebasednursingですね)ですが、こと家族支援のあり方には、適当な理論枠組みが少ないことが悩みです。家族システム理論は、数少ない家族看護モデルであるカルガリー家族システム看護モデルが依拠している理論です。カルガリー家族システム看護では、家族を個別の家族員に分解して個々の家族員への支援を考えるのではなく、家族員ひとりひとりがお互いに影響しあいながら生活しているひとつのシステムとして、家族を丸ごととらえます。そして、家族員間の関係のあり方に働きかけることによって、家族がより健康なライフスタイルを獲得してゆくように図るものです。カルガリー家族システム看護に基づくアセスメントと家族への働きかけの概要は、以下のようにまとめることができます。カルガリー家族システム看護は、もともと、複数の家族員が一堂に会し、看護師と一定回数の話し合いの場(セッション)を持つ、というセッティングのもとで提供されることが前提になっています。しかし、訪問看護の現場でも、家族システム看護の家族観と働きかけの考え方を借用することは可能ではないかと思われます。
家族アセスメントでは、Ⅰ.家族の構造、Ⅱ.家族の発達段階と絆、Ⅲ.家族の機能を把握します。このアセスメントから、家族が機能障害に陥っている部位を発見し、問題解決のための介入の糸口を考えます。
Ⅰ.家族の構造家族構成
家族間の境界線の存在と強さ、家族間の力関係の存在とその方向性などを把握します。
Ⅱ.家族の発達段階と絆結婚初期
小さい子供のいる家族、思春期の子供のいる家族、子供が巣立ってゆく家族、老年期を迎えた家族、などの発達段階とそれに伴う発達課題を把握します。
Ⅲ.家族の機能日常生活を営む力
問題解決能力、家族間コミュニケーションのスタイルなど、家族の行動の基盤となるものの見方や考え方などを把握します。
家族アセスメントに基づき、働きかけが決定されます。家族への働きかけは、大きく分けて、①家族の感情への働きかけ、②家族の認知への働き掛け、③家族の行動への働きかけ、の3種に分けられます。
①家族の感情への働きかけ家族員の感情をありのままに認める
病気による体験を語れる場を作るなどして、家族員が自分や他の家族員の感情を認め受け入れられるように働きかけます。
②家族の認知への働きかけ家族の強みを認め称賛する
問題に関する新たな見方を提供する、問題となっていることを当事者の人格から切り離して考える、などの働きかけによって、問題となっていることに対する認識を変化させようとします。
③家族の行動への働きかけ
家族がレスパイト(休息)を取れるようにする、お互いにサポートできるように働きかける、時間を共に過ごす時間を作るように働きかける、など、具体的な行動を提案することで、家族が共同して問題に立ち向かえるように働きかけます。
カルガリー家族システム看護についてより詳細な学習を望む場合は、成書をご覧になることをお勧めします。例えば、「森山美知子編集:ファミリーナーシングプラクティス:家族看護の理論と実践医学書院」があります。このほかに、渡辺裕子さん(家族看護研究所所長)も家族支援のモデルを提供しています。「渡辺裕子:家族ケアの技を学ぶ3渡辺式家族アセスメントモデルで事例を解く医学書院」
大切なのは、「家族システム理論」だけではなく、家族支援に焦点をあて、何らかのよって立つ枠組みを持って、明確なゴールを設定し意図的に家族に関わることではないかと思います。

家族行事への支援

Q:質指標:家族の生活の維持・管理について
実際に家族にレスパイトをとってもらうことができない場合もある。そんなときは、この指標には「できていない」と回答すべきでしょうか。

A:ほかの質指標にも当てはまることですが、家族が看護師の意図したとおりに意志決定するかどうかは、質指標に回答する際には考慮する必要はありません。看護師としてレスパイトや家族の行事の実現の必要性を判断し、それが可能となるように意図的に関われればよいと思います。結果的に家族がそのような行動(レスパイトをとるなど)を選択するかどうかは、ここでは問いません。

終末期のあり方の希望

Q:揺らぐ在宅での看取り希望
本人・家族ともに在宅での看取りを希望して意思の統一ができている場合でも、遠方から親戚がやってきて「これだけ具合が悪いのに、なぜ入院させないのか」と責めることがあります。そのために家族が揺らぎ、場合によっては在宅生活が維持できなくなることもありました。そのような、「これまで登場していないが発言力の強い親戚」が出てきた場合、どのようにして在宅療養継続の意志を持つ本人・家族を支えるか悩みます。訪問の機会や時間は限られるため、在宅医療スタッフが知らない間に事が進んでいたりするときに、どのようにして御本人・御家族を支えていらっしゃるのでしょうか。

A1:在宅死を希望するご家族の前に、新にそれに反対するご家族が出てきた場合、ご家族がその方に説明したり説得したりするのは、とても勇気がいることで、現実的には難しい状況が多いような気がします。私自身はご家族に医療者からの説明が必要かどうか、希望するかどうか、真意を確かめた上で、可能であれば訪問看護時に病状や在宅死を選択した経緯などを説明したりしています。電話でのやりとりでは相手の反応が見えにくい分、誤解や行き違いが多くなりそうなので、できる限り対面しての説明を心がけていますが、日程が合わなかったり、ご家族が逆に医療者が介入する事で家族間の関係性が悪くなる事を心配して、行動を起こす事をためらったりすることもありました。訪問看護以外では医師の往診時にその家族にいてもらうように調整したりもしました。(看護師よりも医師の方がご家族もとどまってくれる確率が高いようにも思います)板ばさみになった家族が困らない事が一番だと思いますので、どう調整したらいいか十分話し合った中で、在宅死か否か再度考えてみてもいいのかもしれません。大切な事は死ぬ場所がどこかではなくて、患者・家族が満足できる見取りのプロセスを体感できるかですものね。在宅死に反対するご家族の意向を確認したら、案外在宅死でなくてもよいなんて事もあるかもしれませんし、あまり在宅死ということにとらわれすぎずに、在宅死もそれ以外もありと考えた上で調整し、ご家族の気持ちをまとめる支援がポイントになりそうですね。言葉で言うのは本当に簡単ですが、実際の調整は結構しんどいですよね。

A2:家族内の意思決定の調整に関わってゆくのは勇気とエネルギーが要りますね。以前終末期の訪問看護について全国の訪問看護師さんにインタビューしたときやはり同様のケースについての話題がありました。あるベテランの訪問看護師は主介護者家族に「必要だったらご兄弟(そのときは主介護者のご兄弟が在宅の看取りに反対されました)に私から話しますよ?」と語りかけ、主介護者家族の依頼を受けて近くの喫茶店で状況と彼女自身の経験を話されたそうです。そのときは確か在宅での看取りになったのですが、ご本人とご家族が在宅死を選択しなくなったとしても、その意思決定が無理強いされたものでない限り、それを尊重することが大事だなと、そのときのほかのインタビュー内容を思い出しても感じます。どのような意思決定であっても、決定がなされた上では、訪問看護師はそれを全面的に支持し、ご本人とご家族がその決定に後悔を残さないように支援します。

Reply:在宅で最期を迎えるか否かについては支援する医療者の価値観がご本人・ご家族に無理を強いないよう、気を遣います。つまり、私自身が訪問看護師として、在宅での最期を良いものとして過剰にセールストークしないよう気をつけています。そして、その過程で出てきた利用者の決定は尊重します。ただ、ご家族の意思が強くてご本人が望む生活ができなかったり、遠くの親戚に決定を覆されているように思えるときは、もっと調整力をつけなければいけないな、とか、それすらも訪問看護師としてのエゴなのだろうか、と考えたりすることもあります。利用者さんを取り巻く状況をできるだけ客観的に見定めて、介入するか否か、介入するなら、誰にどのようにするか、と、ケースごとに考えなければならないですね。このような場合は、状況をある程度分かってくれる同僚と話をして自分のなかで整理をすることも必要だな、と思いました。

Q:保険適応の連日訪問看護
終末期を在宅で過ごされる方で食事が思うように食べられず毎日点滴が必要な場合はどうしたら毎日点滴が出来るのでしょうか?介護保険での特別指示書は14日間だと思いますが、これだと14日間だけしか訪問点滴は出来ないと言うことでしょうか。訪問看護で点滴を毎日継続できる方法はないのでしょうか。

A:点滴のために連日訪問看護が保険適用で行くためには、利用者様の年齢と疾患等が関係してくると思いますが、思いつくところで以下の方法が考えられます。
医療保険での訪問
・基本的に医療保険での訪問は3回/週となっていますが、厚生労働大臣が定める疾病等の患者(末期の悪性腫瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、ALS等)に該当する場合には訪問看護は4日以上/週(連日必要であれば連日)を医療保険でいくことになります。あるいは上記の厚労大臣の定める疾病等に該当しない場合でも、医療保険の特別訪問看護指示書(急性増悪ということであれば、疾患は問いません)を使い14日間を医療保険で訪問し、1か月のうちの残りの日数を介護保険で認定されていれば、ケアプランの中で連日の訪問看護をプランに組み込んで訪問することも可能かと思います。ちなみに、カニューレを装着し吸引が必要な場合や、褥瘡の状態によっては、医療保険の特別訪問看護指示書を月2回まで制度上利用できることになっています。連日点滴抜去の訪問も想定されますが、高齢の同居者の方でもはじめは点滴を抜くことに恐怖心が強いようですが、何度か指導することでできるようになるご家族の方がほとんどであると現場の方からうかがっています。

終末期の不安や思いの受け止め

Q:本人と家族の異なる意思
本人の意思が最期に尊重できなかったことにジレンマを感じた事例です。皆様は同様の経験などありますでしょうか?死の数時間前に出現した喘鳴に家族の気持ちが揺らぎ、混乱し、搬送の希望があったため搬送し、病院で死に至ったケースがありました。在宅死を望んでいた患者さんでしたが最後の力を振り絞ってこちらの手に爪を立てて抵抗しました。この事例を思い出すと、結局は本人の意思より家族の意思が大切なのかと不全感を感じている次第です。

A:最期は在宅でと決めていても、家族は利用者の苦しむ姿に耐えきれなくなり、とっさに入院を決断する場合があります。特に激しい疼痛や呼吸困難、大発作、吐血を伴う場合には、家族は、何にもしてやれない苛立ちや恐怖心から、入院すればもっと楽にしてやられるのではと考えるのでしょう。それには、主治医より予測できる最期の状況を家族に伝えてもらい、家族の反応を把握しておくことや入院によるメリット・デメリットを伝え、緊急往診はいつでも依頼することができること、在宅ではどんな時でも訪問看護師は家族に変わりレスパイトケアを実施する事が可能であることなど事前によく説明をしておきます。それでも家族の心の揺らぎは、一筋縄ではいかない場合も多々あるようです。最期は、入院も選択肢の一つであり、本人や家族の状況に合わせ柔軟に対応せざるを得ない側面もあります。
一方で、今回のケースは、訪問看護師にとっては不全感が残るのも否めない現実ですね。私は「家族は本人の気持ちにどこまで応えられそうか」「在宅で最期を乗り切ることができそうか」など、利用者や家族の気持ちの変化に絶えず気づかいながら限界点を見極め、信頼関係を重視し、求められている家族支援のあり方を模索するようにしています。それでもうまく対応できる時とそうでない時があり、家族は訪問看護師以上に辛い選択を迫られているのだと思います。

終末期の家族へのケア

Q:終末期の患者を受け入れられない家族の強い希望
90歳代、女性。糖尿病、脳卒中後遺症。全身のADLが何年もかけて落ちてきており、拘縮も進んで、話しかけるとたまにうなずくなどで反応が得られる程度のコミュニケーション能力。娘と息子(どちらも独身です)が協力して何年も介護を継続されています。長い経過をたどっており、疾患と加齢の双方から考えて、今後大幅な回復は見込めないと感じられます。けれど、娘と息子は一生懸命に介護しており、なんとか母に回復してほしいと思っておられます。拘縮の進行防止など維持的なリハビリが精一杯と思われるのですが、もっと積極的なリハをしてほしい、維持的なものは自分たちがもうマスターしているのだから、専門職たる看護師にはもっと高度なことをやってほしい、とおっしゃいます。褥瘡の状態など確認したいのですが、褥瘡のケアは自分たちができるからわざわざドレッシング剤をはがさないでほしい、と言われます。看護師のちょっとした言動に非常に敏感で、そんな言い方をしないでほしい、こんなふうにされては困る、と注意を受けるので、スタッフもそのお宅に訪問するのが徐々に気重になってしまっています。
このように、子供さんたちは必死に介護をしてなんとか回復を願っているが、ご本人の病態としては高齢であることもあってどちらかといえばターミナルに向かっているという事例に、最近複数回いきあいました。子供は大切な母が死を迎えようとしている(脳卒中などでは、がんのようなはっきりした進行は目立たないのでターミナルと呼ぶのは難しいのですが)ことを到底受け入れられず、現実離れした観のある要求を看護師になさり、看護師がどうしたらよいかと途方に暮れています。

A1:私たちが心がけていることは「否定しない」ことです。家族の認識はそうそう変わりませんので、なるべく待つようにしています。ある程度距離をおいて客観視し、看護師の問題として悩むことをあまりしないようにしています。看護師は看護師としてできることをしているのですからそれでいいのではないでしょうか。無理に人間関係を良好に保とうと必死になる必要もなく、そういう態度は見透かされると思います。自然に家族を理解しようという気持ちで接するので良いのではと思います。リハビリについては、(理学療法士に相談もしますが)アセスメントしたことを家族に分かりやすく伝えながら、なるべくご希望に沿ってすすめていきます。そして、できない状況や途中で中止をせざるを得ない、どうしようもない状況を一緒に見てもらい、その理由を訪問ごとに何度も繰り返し説明していきます。稀にできたときには一緒に喜び、ご本人にも明るく声をかけながらすすめています。家族から「そんなこと言わないで欲しい」など言われたときはすぐに謝ります。家族のやり方が詳細に決まっていることもあり、それを注意されることもあります。看護師のやり方、看護師がよかれと思って言った言葉が、家族にしてみれば受け入れがたいわけで、このようになると一つのことを直しても次から次へと言われました。ある看護師ならばいいのにある看護師だとダメという場合もあります。そのような場合には、看護師を変えることも方法だと思います。このような事例は、看護師にとっては本当にストレスになると思います。うちの場合は、他の看護師と交替しました。その後は家族が看護師のやり方に意見をしなくなり、きつい言葉も使わなくなりました。関係をつくるというのはそう簡単にはいかないことを学びました。

A2:ご家族に対してはまずその介護にかける熱意や労力に敬意を示し、否定しないことが大切だと思います。また、このように看護師が疲弊することが予想されるような療養者への訪問看護は、一人で受け持たず、複数の看護師で交代して訪問することも必要ではないでしょうか。看護師同士でそのご家族について話すことで、感情的に巻き込まれすぎることを防ぎ、ネガティブな気持ちを整理できると思います。また、このようなご家族は、細かい変化や家族の決まりごとに丁寧に対応できるという点で、気に入った看護師ひとりだけの訪問を希望されることも多いように感じるのですが、これに応えてしまうと緊急時にその看護師が対応することができなかった場合に、ご家族に不全感・不信感が残るかもしれず、それでなくても、その看護師に対して不満が生じた時に訪問看護のサービス自体を拒絶してしまう可能性があるように思います。

A3:私たちのかかわる療養者の中にも同様の反応をされる方がいました。私たちのステーションでは複数の看護師が関わるシステムですのでご家族から同じような拒否や質問をいただくことがあります。そうするとできるだけ状況を伝え合い、全員が同じ気持ち(姿勢)でお返事したり、ケアをしたりするように心がけます。大体がご家族は同じ質問を訪問する看護師に繰り返します。そのうちに随分と時間が経過した頃に「あの時のことはこういう意味だったんですね」とか「今ならわかります」とかという言葉を聞く機会があって…。ご家族の一生懸命な思いを理屈や科学的根拠で説明しても次元の異なるところでその事象をとらえているのでしっくりと落ちてきにくいのだと思います。看護師として必要なケアを選択しながら、ご家族の思いとの重なり具合をみつめて寄り添っていくことが難しくもあり最も重要であると思います。

A4:看護師としてご家族を支援する上で時折出会う典型的な状況なのだとわかります。そして、ご家族を否定せず、看護師も疲弊せず、病院とは比較にならない長期的なスパンで支援なさっている様子が書き込みからうかがわれました。
今月号の「家族看護」誌の誌上コンサルテーションで、類似のご家族についてのものがありましたので、そこでの回答をこの事例にあてはめながらご報告します。
「佐藤律子・櫻井大輔(2011):患者と家族の思いにずれがあり、苦情の多い家族.家族看護9(1)93-99.」
状況のアセスメント
1) 家族の言動の意味と背景を文脈的に理解する
家族は母親を失ってしまうかもしれない危機感に、将来の不安を重ねて、居ても立っても居られない状態なのではないか。母親を頼りにしてきた日々があり、よりどころとしていた人の喪失におののき、つよい心痛を抱えていることが推察される。2) 家族と看護師の相互関係を把握する家族があれこれと言い募り(緊張が高い)、看護師が避ける(パワーが低い)、という悪循環が生じていることが推察される。
改善策としては
3) 看護師として家族をどのように見るかを変えてみる
家族を「要求の多い人」から「大切な人を失う不安、悲しみで強い要求を出さずにはいられない家族」とリフレーミング(ものの見え方を変えてみる)してみる。
4) 家族が言い募らなくてもいいように家族の思いをがっぷりと受け止める:
看護師のパワーをステーションで応援して高め、家族から逃げ姿勢にならないでがっぷり受け止める。家族の話を聞くときに、なるべく家族の「大切な人を失う不安、悲しみ、心痛」を先に察するような言葉かけを心がける(毎日介護なさっていて大変でしょう。心配で離れるのもままならないのではとお察しします。大切なお母様ですものね。寒いですからお身体お大事にされてくださいね。」など)。
5) 家族の心痛のゆえの要求にもなるべく答える方向で応じる
家族の要求は大切な人を思う気持ちの現れと捉え、「そうですね。患者さんを思うご家族の気持ちはよくわかります。」と伝えた上で、「できるリハビリをもう少し検討しますね」などと家族の提案に応じてみる。別の言い方をすると、相手の感情に焦点をあてて理解しながら、歩み寄る姿勢で関係を作る(ジョイニング)。6) 家族の悲嘆作業への支援家族の緊張が高いのは、大切な母親を失う恐怖と不安のためと推察される。家族はこうした追い詰められた思いを誰にも言えずに気を張っていると推察される。このような強い恐怖と不安を軽減させるかかわり(悲嘆作業)が重要。苦しみの言葉は聞く耳があってこそこぼれ落ちてくるものなので、関係を作って、家族の悲しみの語りを聞きましょう。家族の緊張が下がれば、積極的治療に固執するのではなく、患者の安寧こそが大事と気づくことができるでしょう。
6) 家族の悲嘆作業への支援
家族の緊張が高いのは、大切な母親を失う恐怖と不安のためと推察される。家族はこうした追い詰められた思いを誰にも言えずに気を張っていると推察される。このような強い恐怖と不安を軽減させるかかわり(悲嘆作業)が重要。苦しみの言葉は聞く耳があってこそこぼれ落ちてくるものなので、関係を作って、家族の悲しみの語りを聞きましょう。家族の緊張が下がれば、積極的治療に固執するのではなく、患者の安寧こそが大事と気づくことができるでしょう。
7) 家族それぞれの悲嘆作業への支援
表面に出てこない家族の悲嘆作業にも注目してなるべく支援し、悲嘆の思いを聞きとって緊張を下げるようにします。家族に余裕ができれば、家族同士もお互いに支援できる可能性が生まれます。
8) 家族と看護師のパートナーシップで目標に向かう
「大切な母親に安寧の日々を」と一緒に考える。「看護師は私と一緒に母のためにケアをしてくれる人、相談できる人」と、家族が看護師に対する捉え方を転換(家族が行うリフレーミング)できれば、家族とのパートナーシップが組める。
このようには簡単にいかないかもしれませんが、ご参考までにまとめてみました。

Q:死亡診断
私も死亡診断は医師がすることになっているので、看護師による死亡確認は出来ないものと思っていますが、訪問看護師は特に夜間は、医師より先に患者宅へ行き死亡を確認する事が多くなります。その時、医師が都合で中々患者宅へ来られない状況が生じた時は医師の診断のもと死亡推定時刻という診断になるのでしょうか。それとも医師が診た時間でしょうか。または、死の三兆候を確認した時間帯になるのでしょうか。

A1:「死亡したとき」は、死亡確認時刻ではなく、死亡時刻を記入します。訪問看護師が確認した時は、把握内容を医師に伝達することが必要になるでしょう。「死亡したとき」の一部が不明の場合でも、分かる範囲で記入します(家族や訪問看護師から信頼できる情報が得られれば参考にするとよいでしょう)。
参考文献:死亡診断書記入マニュアル平成18年度版
Q:死亡の確認は何をもって行えば良いのか?
A:死亡判定の条件に関して、日本の法律には「死亡」についての明確な定義はないため、死亡の定義はもっぱら学説に頼ることになっています。
三兆候説:旧来からの死亡認定の通説です。「呼吸の不可逆的停止」「心臓の不可逆的停止」「瞳孔拡散(対光反射の消失)」の3つの兆候をもって死亡したものとします。

A2:いくつかのステーションの実践を聞いてみました。死亡診断書に書かれる時刻はおおよそを推定することが多く、医師にもよるということでした。

A3:看取りを考えている家族に対しては、「呼吸が停止したと感じた時間を覚えていてください」というようなお話をしていますが、実際には死亡確認した医師の判断で、
1.家族が死亡を感じた時間
2.訪問看護師が訪問し、死亡を確認した時間
3.医師が死亡を確認した時間のいずれかになっています。
(訪問看護師が在宅で死亡を確認した場合は、医師に1)と2)を伝えて、判断をゆだねています)
家族には、「1)が本来亡くなった時間かもしれないが、死亡確認は医師が行なうので、(本来の時間とは異なっていても)医師が確認した時間が死亡時刻となりうることもある」と説明し、それで問題がないかを確認しています。家族の精神状況によって受け入れ方はさまざまかもしれませんが、その事でご家族とトラブル(行き違い)になった経験はありません。医師による死亡確認前の死後の処置の実施については、事前に医師や家族に確認を取った上で、実施するようにしています。家族が看取りに納得し、医師到着前の処置を希望し、主治医の了解も得ている場合は、医師の到着を待たずに処置を実施する事もあります。訪問看護師が医師に連絡し、あまり時間を待たずに医師が死亡確認できる場合は、家族に説明し、死亡確認後に処置を行なうこともあります。医師の訪問時間はその時の状況によってさまざまです(1時間以内に到着する場合も、8時間以上空く場合もあります)。いずれの場合にも、関係者の同意と理解を得る事が大事かと思います。良い関係ができていれば、死亡直後の関係者への確認でも死亡確認前の処置は不可能ではないと考えていますが、みなさまはいかがお考えですか。

A4:1つ文献からの情報を投稿させていただきます。
「死亡24時間前に医師が往診していれば、死後往診しなくても死亡診断書が書けるので、死亡診断を待たずに死後のケアを始めることもある」(コミュニティケア2004.5月、p54、57)
この文言は、患者さんの死亡前の24時間以内に医師が往診し、患者さんの死が近づいているとの判断がなされ、その後の訪問看護で死に立ち会った看護師が医師との連携のもと処置を行うことが可能と理解でき、関係者間の同意と理解を得ていることが大事になってくると思います。

A5:死亡の確認、関係者の同意(信頼関係)、連携をしっかりすることが重要ですね。

Q:訪問看護師による死亡確認
訪問看護師による死亡確認という文言が聞かれますが、訪問看護師による死亡確認が出来るようになったと言うことでしょうか。また、それはどの様な過程をとるのか教えていただければと思います。

A:この件は以前調査した経験があります。死亡診断は医師がすることになっています。なので、原則的には主治医が継続して診ている患者に対し死亡が原疾患に起因することなどの確認をして、死亡診断書を書くという流れになっています。訪問看護の場では、看護師が医師よりも先に患者宅に到着し、死亡を確認した後に医師に往診の依頼をする、あるいは主治医と連絡をとってその後の対応を相談する、という実践のあることが複数報告されました。主治医との事前の打ち合わせに基づいて看護師が死の三兆候を確認し、死亡が確認されたことを家族に告げ、死後の処置を実施した後に医師が往診、という手順を取っている場合もありました。このような場合のことを「看護師が死亡を確認」と言っているのではと思います。このあたりの実践については、現在ターミナルの領域に参加してくださっているステーションにも、おたずねしてみます。

懸念される虐待への対応

Q:自覚のない虐待
あざはできない程度の軽い暴力のようなものが見られる場合で困っています。ケアマネに相談し、ケアマネから家族と相談してもらったりしたこともありますが、家族は否定しています。家族は虐待だと思っていなくて、家族が疲れていることに自分たち自身が気づいてないこともあります。

A:「家族内及び訪問看護で解決可能かを判断する」ということについての私の考えです。まずは、ご本人の受け止めを確認することが必要でしょう。しかし、長期間にわたる虐待では、介護されている、世話になっているという思いが強く、ご本人も虐待を受けているという意識を抑えていたり、そのように思うことすらない場合もあります。また、つらい思いをされていても、手を挙げる家族が自分の子供であると、他人に言えないこともあります。さらに、意思伝達がうまくいかない状態であったりすると、療養者ご本人の受け止めを確認するということは難しいのが現状でしょう。ただ、家族の歴史の中で、このような関係になりやすいことに理解を示す姿勢、また介護を放棄したり、手を挙げたくなったりするほど負担が大きいことに理解を示す姿勢をとることは重要です。訪問看護師としては、実際の状況を見て働きかける糸口を探すしかないでしょう。
蹴る、殴打する等の明らかに行為自体が危害を加えるものでなくても、身体に影響が出る行為があります。介助の動作で強くつかむ、関節を乱暴に曲げる、強すぎる力で体位変換するといった行為は、徐々にエスカレートし、ご家族としては「通常のやり方」になってしまっている可能性もあります。介護状況を見る機会を作り、その中で、ご家族が少しでも負担なく介護することに焦点を当てて、家族介護者側に立った見方で介護をサポートする姿勢を見せることは、ご家族に近づく一つの方法でしょう。家族介護者に介護を受けることで、療養者本人が満足であるのか、またどんな気持であるかということを確認し、ご家族に肯定的は療養者の反応を返すような働きかけをすることも必要でしょう。自分の行為で療養者が喜んでいるということを実感することほど、介護の動機づけになるものはありません。
既に色々取り組んでいらっしゃる方には、この手もダメだったということもあるかもしれません。そうなったら、看護師さんの思いを率直にご家族に投げかけてみてはいかがでしょう。虐待していることを追求するのではなく、手を挙げなければならないご家族の心境に関心を寄せていることを伝えれば、何か変化があるかもしれません。

明らかな虐待への対応

Q:具体的な虐待への対応方法
話し合いを拒まれた場合はどう次に進んでいくのですか?

A:高齢者虐待の可能性のあるケースへの対応ですね。この質指標は、高齢者虐待防止法が施行され、さらに介護保険法が改正された2006年より以前の2004年に(もともと)作成しました。まだどのような対応が望ましいかなどといった知識がほとんどなく、地域包括支援センターも開始されていない頃でしたので、経験者の意見を聞きながらまとめました。その後法律が施行され、地域包括の活動内容も明確化される中で、いろいろと知識の蓄積もあります。
先日の第16回日本家族看護学会学術集会のテーマセッションで、名古屋大学の吉田久美子さんが、虐待の可能性のある事例についての対応を以下のようにまとめて報告されていました。
1)虐待を疑ったら:
虐待のサインに気づく
虐待のサインを記録しておく
継続的に残す
客観的な事実
(必要に応じ)写真
通報・相談(地域包括支援センターへ)
2)発見後の対応
援助は単独では始めない。関連機関の役割分担と連携が大切
常識からの開放。虐待者を責める態度は禁物。不安や悩みの相談を。
できる力の「発見」を援助。まず受容から。
外部への秘密の保持。知りえた情報は絶対に外部には漏らさない。
緊急のとき(重い外傷や命が危ぶまれる状態のときは)、警察または地域包括支援センター、市介護福祉課、高齢者虐待相談センターに通報
3)初期対応のポイント:事前情報収集

  • 1 疑いを持つ。
  • 2 所属への報告・相談
  • 3 情報収集と観察記録
  • 4 緊急性の判断、通報・相談
  • 5 対応策の検討(ケース検討会)

4)援助の基本

  • 批判的、審判的な態度をとらない
  • 介護者のケアをねぎらいながら、大変なこと、困ったことを尋ねながらケアしてきたことを認める
  • 虐待者や家族の立場、心理、感情等の理解
  • おきている問題の認識を促す

5)支援の例
不適切な介護状況には…ストレスの解決や問題解決に向けて相談及び関係機関との調整。介護保険サービス等の導入や介護方法などについて技術支援による介護負担軽減。
以上から、訪問看護師としては

  • 疑い例も含め、地域包括や虐待相談センターなどに早めに相談し、訪問看護師としての役割分担を明確化する
  • 重い外傷や生命の危険がある場合には分離を念頭に置く
  • それ以外の場合は、利用者や家族との信頼関係の構築、介護負担の軽減への働きかけにまず取り組む

というところでしょうか。

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