Gastroesophageal Surgery

臨床

  • 患者さんに応じて最適な術式(ロボット、腹腔鏡)やアプローチ(縦隔・胸腔アプローチ)を選択
  • 6名の内視鏡外科学会技術認定医がすべての手術に立ち会い、安全性・根治性を追求
  • 進行がんに対する抗がん剤治療や免疫治療、ヘルニアなど良性疾患に対する手術もエキスパートが担当

当科で扱う疾患

  • 食道がん(食道がんについて)
  • 胃がん(胃がんについて)
  • 接合部がん(接合部がんについて)
  • 消化管粘膜下腫瘍(食道・胃・小腸GISTなど)
  • 消化管悪性腫瘍(食道・胃・小腸 NET、肉腫など)
  • 上部消化管穿孔(食道・胃・小腸の穿孔)
  • 上部消化管通過障害
  • 肥満症(肥満症について)
  • 食道裂孔ヘルニア
  • 鼠経ヘルニア
  • 腹壁瘢痕ヘルニア
以下の疾患については、当科では多数の方を治療しています。
  1. 食道がん・接合部がんに対する外科治療を中心とした集学的治療
    「食道がん・接合部がんに対するロボット・縦隔鏡・胸腔鏡手術」
    「頸部食道がんに対する集学的治療(咽頭喉頭食道摘出術を含む根治手術)」
  2. 胃がんに対する外科治療を中心とした集学的治療
    「胃がんに対するロボット・腹腔鏡手術」
    「胃がんに対する可及的胃温存手術:内視鏡治療との組み合わせによる胃全摘の回避」
  3. 胃/十二指腸粘膜下腫瘍に対するLECS(腹腔鏡内視鏡合同手術)
  4. 肥満症に対する腹腔鏡下スリーブ状胃切除
  5. 良性疾患・緊急疾患に対する低侵襲手術

診療方針

胸部食道がんに対する治療

食道がんの治療は 進行度に応じて、内視鏡治療・放射線治療・手術・薬物療法を組み合わせた「集学的治療」を行います。当科には 食道外科専門医・薬物療法専門医(抗がん剤専門医)が在籍しており、すべての症例を初診患者カンファレンスで多職種チームと共に検討し、適切な治療方針を決定しています。手術(根治的外科切除)に関しては、胸部食道がんの約9割に対して食道亜全摘が標準治療となります。従来、右開胸手術が行われてきましたが、肺炎・呼吸不全などの術後合併症が高頻度に発生する問題がありました。当科では2011年より「非開胸(胸に傷をつけない)」ロボット・縦隔鏡手術を開発し、現在では食道切除の約8~9割を占めています。この術式において、当院は日本を牽引する立場にあります。一方、腫瘍が大きい場合や放射線治療後の高度浸潤がんに対しては、右胸を経由する胸腔鏡手術・ロボット手術・開胸手術を適用し、症例ごとに最適な手術を提供できることが当科の強みです。

頸部食道がんに対する治療

頸部食道がんは咽頭や喉頭に近接しているため、手術を行うことで術後に失声のリスクが伴うことがあります。そのため、当科では根治性と術後のQOLのバランスを十分に考慮し、患者さんの希望を踏まえた治療方針を選択しています。主な治療法としては、化学放射線治療と手術の組み合わせを行い、個々の症例に応じた最適なアプローチを選択します。手術(咽喉頭食道摘出術+遊離空腸再建)が必要な場合は、耳鼻科や形成外科の先生方と合同で手術を行い、機能温存や再建の面でも最善の結果が得られるよう努めています。

食道胃接合部がんに対する治療

接合部とは、食道と胃がつながる部分を指し、その境界から上下2cmの範囲に中心があるがんを接合部がんといいます。接合部がんの治療方針は、腫瘍の組織型によって決まり、扁平上皮がんであれば食道がんに準じた治療、腺がんであれば胃がんに準じた治療が行われます。進行度に応じて、内視鏡治療・放射線治療・手術・薬物療法を組み合わせた集学的治療を行いますが、組織型によって使用する薬物療法(抗がん剤)の種類は大きく異なります。また、手術方法はがんが食道側にどれだけ広がっているか(食道浸潤長)によって決定されるため、患者さんの病状に応じて最適な治療を選択します。

胃がんに対する治療

胃がんの治療は、進行度に応じて内視鏡治療・手術・薬物療法を組み合わせて実施します。手術では、胃がんと潜在的な転移が想定される周囲のリンパ節を含めた切除が重要です。当科では、可能な限り胃を温存することを重視しており、従来は胃全摘が必要とされた症例でも、胃の上部を一部残す「極小残胃」や、胃の上半分のみを切除し下半分を温存する「噴門側胃切除」を適用することで、術後のQOL向上に努めています。また、ある程度進行したがんでも、大部分の症例でロボットや腹腔鏡を用いた低侵襲手術を実施しています。一方、高度に進行した症例で外科的切除が適応とならない場合でも、まず薬物療法を行い、その後に手術と組み合わせる「コンバージョン手術(conversion surgery)」を積極的に導入し、根治を目指した治療を行っています。
当科には、薬物療法専門医(抗がん剤の専門家)と高度な外科治療を遂行できる外科医が在籍しており、あらゆる進行度の胃がんに対して最適な治療(諦めないがん治療)を提供しています。

胃粘膜下腫瘍に対する治療

胃がんは胃の粘膜から発生するのに対し、胃粘膜下腫瘍は、より深い層から発生する腫瘤(こぶ)の総称です。その中でも、手術が必要となる代表的な疾患がGIST(消化管間質腫瘍)であり、「ギスト」または「ジスト」と呼ばれます。診断が確定していなくても、腫瘍の大きさが5cm以上ある場合や、徐々に増大している場合には、切除を検討します。手術の適応は腫瘍の大きさによりますが、多くの症例で腹腔鏡手術による低侵襲手術が可能です。さらに、胃の切除範囲を最小限に抑えるために、上部消化管内視鏡(胃カメラ)と腹腔鏡を併用する「LECS(Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery)」を積極的に導入し、機能温存を重視した治療を行っています。

肥満症に対する治療

肥満症に対する外科的治療として、主に腹腔鏡下スリーブ状胃切除(LSG)を実施しています。減量手術の対象となるのは、BMI(Body Mass Index)が35kg/m²以上 であり、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、または非アルコール性脂肪肝疾患(NASHを含む)を合併し、内科的治療では十分な効果が得られない患者さんです。減量手術の成功は、術前体重から理想体重を引いた余分な体重の50%以上を減量し、その体重を少なくとも5年間維持できることと定義されます。一般的に、術後6か月で30~50%の急速な減量がみられ、12か月で約77%の減量が達成されると報告されています。当科では、安全性を重視した減量手術を提供し、患者さんの健康改善と生活の質の向上を目指しています。

良性疾患(鼠経ヘルニア・食道裂孔ヘルニアなど)

良性疾患に対する外科治療も積極的に行っています。ヘルニアは、腹圧の上昇により内臓が腹膜に包まれたまま正常な位置から逸脱する病態を指し、鼠経ヘルニアや食道裂孔ヘルニアが代表的です。鼠経ヘルニアは特に一般的で、お腹に力を入れた際に足の付け根が膨らむ症状を呈します。一方、食道裂孔ヘルニアは、横隔膜の食道通過部が緩むことで胃の一部が胸腔内へ移動する状態を指し、逆流性食道炎の一因ともなります。これらの疾患は、根本的な治療には手術が必要となることが多く、当科では、腹腔鏡技術認定医が多数在籍し、安全かつ低侵襲な腹腔鏡手術を提供しています。なお、腹部手術歴のある患者さんでは、癒着の程度に応じて開腹手術を推奨する場合もあります。

感染性疾患・炎症性疾患(穿孔など)

腹部臓器に穿孔が生じ、腹腔内が汚染される状態を腹膜炎といいます。代表的な原因の一つに急性虫垂炎(いわゆる「もうちょう」)による腹膜炎があり、他にも胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどにより胃や十二指腸に穿孔が生じた場合も同様に腹膜炎を引き起こします。また、食道に穿孔が生じた場合には、縦隔や胸腔が汚染され、縦隔炎や膿胸といった重篤な感染症を引き起こすことがあります。これらの病態では、汚染源を除去し、腹腔や縦隔の十分な洗浄を行うことで感染のコントロールを図る必要があり、多くの症例で手術が適応となります。当科では、感染症に対する外科治療においても、可能な限り腹腔鏡や胸腔鏡を用いた低侵襲手術を実施し、患者さんの負担を軽減することを重視しています。