Breast and Endocrine Surgery
研究について
乳癌治療の変遷~世界発の全身麻酔手術は乳癌~
1804年
華岡青洲 全身麻酔下の外科手術(進行乳癌)
1890年代
William Halsted⇒局所疾患(en bloc切除)
1970年代
Fisherら⇒臨床的に顕在化した時点で全身疾患
1990年代
Hellmanら⇒局所疾患傾向~全身疾患傾向を連続的な幅spectrumでとらえ、局所疾患と全身疾患(微小転移)の中間にあたるオリゴ転移では局所治療と全身治療の併用で根治が得られると考えた。
華岡青洲は1804年に世界で初めて全身麻酔下の外科手術を成功させました。進行乳癌の腫瘤を乳房から切除するものでありました。1890年代、William Halstedは、乳癌は基本的に局所疾患で、リンパ節は癌細胞をとらえるバリアの役割を果たしており、リンパ節を含めて切除範囲を広げるほど癌を克服できると考え、全乳房・大胸筋・小胸筋・腋窩リンパ節をen bloc(ひとかたまり)に切除する定型的乳房切除術(Halsted手術)を普及させました。en bloc切除はその後の癌手術の基本となりました。1970年代、Fisherらは、乳癌は診断された時点で全身疾患であり、手術などの局所治療が生命予後を改善させるのではなく、全身の微小転移を全身治療で制御することが重要であると考えました。実際、拡大手術ではなく、化学療法や内分泌療法の併用が生存率を改善させることが示されました。1980年代、Hellmanらは、乳癌には、経過を通じて局所・領域にとどまる傾向から診断時既に全身疾患である傾向まで連続的に幅(spectrum)があることを提唱し、局所・領域にとどまる乳癌の局所治療の意義を再確認しました。また、局所疾患と全身疾患(微小転移)の中間にあるようなオリゴ転移(遠隔転移の局在や個数が限局された状態)では局所治療と全身治療の併用で根治が得られると考えました。
乳癌治療の個別化
乳癌は、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、Human epidermal growth factor receptor type 2(HER2)の発現に応じて、性質や治療反応性が全く異なることがあり、現在では「サブタイプ」に応じた治療に加え、手術前の全身治療が効いたか効かなかったかでその後の治療薬剤を選択する「レスポンスガイド治療」が一般的となりました。
サブタイプ分類に応じた周術期全身治療とレスポンスガイド治療
サブタイプ | ホルモン受容体 | HER2 受容体 |
Ki67 | 周術期 (術前・術後) 全身治療 |
中間リスク以上の 追加治療 ※レスポンスガイド治療 (治療期間) |
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Luminal A-like | ER高 PgR高 |
陰性 | 低 | 内分泌療法 | |
Luminal B-like | ER陽性 PgR低~中 |
陰性 | 中~高 | 化学療法 内分泌療法 |
S1(1年)、または、 CDK4/6阻害剤(2年) |
Luminal HER2 | ER陽性 PgR低~高 |
陽性 | 中~高 | 化学療法 抗HER2薬 内分泌療法 |
※トラスツズマブ・ペルツズマブをT-DM1へ(9ヶ月) |
HER2タイプ | ER陰性 PgR陰性 |
陽性 | 中~高 | 化学療法 抗HER2薬 |
※トラスツズマブ・ペルツズマブをT-DM1へ(9ヶ月) |
トリプルネガティブ | ER陰性 PgR陰性 |
陰性 | 中~高 | 化学療法 免疫チェックポイント阻害薬 |
※カペシタビン(注) (4.5-6ヵ月) |
ER:エストロゲン受容体 PgR:プロゲステロン受容体 HER2:ハーツー受容体 |
※術前化学療法を実施して遺残癌がある場合 (注)ガイドラインで推奨あるが保険適用外 |
さらに、遺伝性乳癌卵巣癌を中心とする「遺伝性腫瘍医療」、がんゲノムを網羅的に調べて治療標的となる分子をみつける「がんゲノム医療」による個別化医療が行われています。
当教室の研究テーマ
当教室では、乳癌および甲状腺癌の発生分子機構や増殖分子機構の解明を目指しています。また、日頃の臨床で生じた疑問を研究テーマとして、治療や診断に直結する研究を目指しています。乳癌は、固形癌の新規治療法開発のモデル癌の1つとして研究が進んできました。例えば、エストロゲン受容体を高発現している乳癌に抗エストロゲン剤を投与すると乳癌の増殖は抑制されます。分子生物学的に確かめられたことが実際の治療に応用され、多くの人々の命が救われています。当教室では、癌がどのように発生するのか、その発生分子機構に迫ることでより深く癌を知り、治療に活かすことを目指しています。以下に、主な研究テーマをご紹介いたします。共同研究も盛んに行っています。
乳癌幹細胞のゲノム解析(G3567-(3))
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乳癌発生の基盤となる遺伝学的要因の探索((G10142-(4)) |
乳癌に対する免疫染色を用いた研究(11436-(2)) |
乳癌における化学療法ならびにホルモン療法耐性に関与する因子の発現に関する臨床病理学的研究(第2期)(2018080NI-(2)) |
乳腺内分泌外科診療記録を利用したデータベースの包括的後ろ向き研究(10144-(6)) |
ホルモン受容体陽性HER2陰性進行転移乳癌に対し一次治療としてアベマシクリブ、アロマターゼ阻害薬併用療法施行症例を対象とした、ESR1変異に基づく治療戦略の有用性を検討する第2相研究(JBCRG-M08 AMBER trial)(2022709SPe-(2)) |