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遺伝カウンセリングとはなにか

遺伝カウンセリングとはなにか

                                 (室月 淳 2014年12月23日)

オランダ埠頭(長崎県平戸) 

遺伝カウンセリングについてのもっとも一般的な定義は,日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2011年)にあります.そこは以下のとおりになっています.

「遺伝カウンセラーは,疾患の遺伝学的関与について,その医学的影響,心理学的影響および家族への影響を人々が理解し,それに適応していくことを助けるプロセスである.

このプロセスには,(1) 疾患の発生および再発の可能性を評価するための家族歴および病歴の解釈,(2) 遺伝現象,検査,マネージメント,予防,資源および研究についての教育,(3) インフォームド・チョイス(十分な情報を得た上での自律的選択),およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング,などが含まれる」

ここで,(1)と(2)のプロセスについては,医師にとって医療の延長として比較的理解しやすい内容だと思います.実感としてわかりづらいのは(3)の「リスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング」のところではないでしょうか.

ここには「カウンセリング」ということばがでてきます.すなわち「遺伝カウンセリング」も広い意味でのカウンセリングの一形態といえます.それではそもそもカウンセリングとはなにか? わたしの文章はいつも情緒的と批判されるのですが,ここはわたしのホームグラウンドなのですから,あえてまた書いてみますね(笑)

不安や悲しみを経験したことのない人間はいないでしょう.それをいたずらに励ますのがカウンセリングの目的ではありません.そうした人が望んでいるのは激励ではありません.そうではなく,だまって相手のことばを聞き,相手のかんたんにはことばにあらわせない感情を聞きとることです.

その結果,はからずもクライアントにやどっている不安や悲しみの意味があらわになってくることがあります.それを望まないひとももちろんいて,そこで感情をむきだしにしてくる場合もあります.しかしそこまでくればカウンセリングの目的はなかば達成されたともいえます.

それはクライアントのそばに単に寄り添うのとはすこしちがうことです.無配慮な励ましが意味がないように,ただ黙って話を聞くだけなのも遺伝カウンセリングとは異なります.その差は微妙のようにみえますが,実はそこにこそたいせつな意味をもっています.

カウンセリングはことばで成り立ちます.ことばのやりとりのなかで,なにかをきっかけとして,ひとは感情の様相をおおきく変えることがあります.不安や悲しみは,いやでつらく悲惨なものから,むしろ人生の新しい一面を教えてくれるひとつの経験のように感じられることがおきます.

そのことを生きはじめると世界はまったく変貌します.状況が変わったわけではなく,そのひとが変わったのです.不安や悲しみはけっして不幸なのではない.その意味は本人がよく,本人のみがよく理解するのです.

よくも悪くも遺伝カウンセリングの本質はそこにあります.カウンセリングは世界を変えることはありません.いまいる子の病気をよくするわけではなく,本人の年齢を若くするわけでもありません.そんなことは一種の問題のすりかえにすぎないという批判は甘んじてうけます.

本人のかかえている不安や悲しみの意味をあきらかにし,自分自身がそれを認識することによって,自らがかわっていく.遺伝カウンセラーは一歩さがったところからそれを支えるだけです.カウンセリングにおいて,自らだけが解決の道を知っているとよくいわれるのはそのような意味においてです.

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カウンタ 2283 (2014年12月23日より)