脳外科医 澤村豊のホームページ

様々な脳腫瘍や脳神経の病気について説明しています。さわむら脳神経クリニックで診療しています。Eメールによる相談や手術治療も受け付けています。

下垂体細胞腫 pituicytoma,トルコ鞍部顆粒細胞腫 granular cell tumor of the sellar region,下垂体紡錘形細胞オンコサイトーマ spindle cell oncocytoma

pituicytoma 下垂体細胞腫

granular cell tumor of the sellar region トルコ鞍部 顆粒細胞腫

spindle cell oncocytoma 紡錘形膨大細胞腫

    • WHO 2016年脳腫瘍分類では,上記いずれもTTF1核発現が認められるので,同じ疾病と考えられるとしています
    • 増大速度は遅く,基本的には良性の臨床経過をたどる腫瘍です
    • 極めて稀なものでめったに見るものではありませんから,手術前に診断されることはないというくらいです
    • 大きなものでは治療が必要ですが,手術摘出のみです
    • とても硬くて,出血が激しい腫瘍で,下垂体組織からはがすことができません
    • 浸潤性ではないのですが癒着が強く,視床下部方向へ進展すると,視床下部脳組織から剥離できません
    • ですから,部分摘出に終わることも多く,手術難易度はかなり高いと言えます
    • 手術後残存腫瘍は数年単位で増大すると考えます


下垂体後葉腫瘍の典型的な画像です。下垂体柄(黄色の矢印)が伸びて前方へ偏移しています。またその直下に下垂体前葉(強い白の部分)がみえます。
ジャーミノーマでは下垂体柄も同時に太くなるのでジャーミノーマは否定的な所見です。


下垂体細胞腫 pituicytoma

    • 成人のトルコ鞍内から鞍上部にできます
    • 発症年齢中央値は50歳くらいです
    • 病理分類としては,視床下部神経下垂体・下垂体柄・下垂体後葉にできるグリオーマです
    • 視床下部下垂体の神経組織 pituicyteから発生するとされています
    • 症状は,視交叉圧迫による視野障害と下垂体ホルモンの不足です
    • 性欲の減退,頭痛,易疲労性などです
    • 高プロラクチン血症で無月経で発症することがあります
    • 病理学的には境界明瞭なグレード1の良性腫瘍とされます
    • 数年かけてゆっくり大きくなります
    • 手術摘出できれば治る腫瘍です
    • でも視床下部に癒着して摘出ができない例があります
    • 一般的には予後は良好とされます
画像診断

MRIとCTでは後床突起の上に乗っているように見え,後床突起髄膜腫とも紛らわしいです
この例は下垂体柄が認識できて,灰白隆起から発生したとしか思えませんでした

    • 画像上は境界が明瞭な腫瘍です
    • 腫瘍内部にvascular voidsが多く見えて激しく出血する腫瘍です
    • トルコ鞍内から発生することが多いと記載されていますが,実際は灰白隆起か下垂体柄からの発生が多く,鞍上部腫瘍となります
    • トルコ鞍内にあるものは,下垂体腺腫と間違えることがあります
治療は手術摘出
    • 手術で取れれば治りますし,手術摘出しか治療手段はありません
    • 稀ですがトルコ鞍内中心で,鞍上部にあまり大きくないものでは経鼻手術で摘出できます
    • 境界明瞭で周囲組織との癒着は少ないと記載されていますが,そうではありません
    • 下垂体組織や視床下部との剥離は極めて困難です
    • 下垂体柄を一緒に摘出してしまえば腫瘍はとれます
    • 高度に出血性の腫瘍です
    • 大きなものは激しい出血をきたし摘出ができないことがあります
    • 視床下部障害を招くので摘出できない例もあります
    • 手術により下垂体柄断裂あるいは後葉損傷となります
    • 術後の合併症として尿崩症は多いです
    • 汎下垂体機能低下症となる可能性が高いです

トルコ鞍部 顆粒細胞腫 granular cell tumor of the sellar region

    • 神経下垂体あるいは下垂体柄から発生するWHOグレード1の良性腫瘍です
    • 中年女性に好発します
    • 中でも鞍上部の下垂体柄から出ることが多いので,鞍背の上にある境界明瞭な腫瘤となります
    • 症状は下垂体腺腫と同様に両耳側半盲です
    • 神経下垂体から発生するのですが尿崩症を呈することはまれです
    • 大きなものでは下垂体前葉機能低下となります
    • 症状経過は数年単位のゆっくりしたものです
    • MRIでガドリニウム増強されるのですが,CTでの石灰化はありません
    • 硬膜のtail signがないことで鞍隔膜の髄膜腫と鑑別されます

紡錘形膨大細腫 spindle cell oncocytoma 

    • 上記2つの腫瘍と同じような臨床経過と画像所見を有します
    • 発生部位のみが異なり,腺下垂体(前葉)から発生します
    • 鞍上部,海綿静脈洞,トルコ鞍底部に浸潤することがあります
    • 症状と画像所見は非機能性下垂体腺腫に類似します
    • MRIガドリニウム増強で,下垂体腺腫は正常下垂体より増強が弱いのですが,spindle cell oncocytomaは血流が激しい腫瘍なので,より強くいびつに増強されます
    • まれに石灰化や腫瘍内出血があり,頭蓋咽頭腫と誤診されることがあります
    • 血管撮影では,内頸動脈からの腫瘍動脈が描出されます

40代の女性に,軽度の両耳側半盲で発生したものです。視交叉と視床下部の下面に腫瘍があり,下垂体柄の位置が全くわからず,下垂体の前葉と後葉は侵されていません。ですから,下垂体柄から発生した腫瘍であり,pituicytomaが強く疑われます。T2ではほぼ等信号,小さなのう胞があり,ガドリニウムで強く増強されます。手術では正常下垂体柄の一部が右側にうすく残っており,幸運にも亜全摘出できて下垂体機能は温存できました。残存腫瘍は増大傾向を示していません。でも,このようなタイプを積極的に摘出すると,汎下垂体機能低下症を招くことが多いので,手術するかどうかの判断はとても難しいです。

 

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