国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説




手と足(Hand and Feet)


趾の末節骨短小(Toe, Short Distal Phalanx of)
定義
趾端部から最も遠位にある指節間皺あるいは DIPJ 屈曲点までの距離が短いこと(主観的)(図 78)。
コメント
この用語は,Partial absence of the toeとは異なる。なぜなら,その用語では趾節骨を失われなければならないが,ここで用いる用語は小さな趾節骨が存在するからである。趾の末節骨の相対的な短縮を評価するのは,通常きわめて短いので,指の相対的短小を評価するより難しい。末節骨長は,趾節をその趾の残りの部分や,患者のほかの正常な趾,あるいは同年齢の典型的な患者と比較することで,主観的に評価できる。屈曲線は手において役立ちうるもの(Short distal phalanx of the finger参照)だが,足での実用性は乏しいかもしれない。その代わりに,関節を触診できるかもしれない。
図 78 右足,T2-4 の末節骨の短縮 T23 の皮膚性合趾症も認められる。図 77 も参照
同義語
Brachytelephalangy
 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Short terminal phalanx of the hallux

細長い趾(Toe, Slender)
定義
手足のサイズや個体の体格に比して不釣合いに狭い(周囲長の減少した)指趾(主観的)(図 79)。
コメント
罹患した指趾を明記すべきである。この所見の評価は,指趾が長い場合,難しくなる。バンドリング用語,かつ軽蔑的な意味を含む arachnodactyly は,Long toeや Slender toeといった別個の記述子で置き換えられる。
同義語
Narrow digit;Narrow toe 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Thin digits;Arachnodactyly
図 79 右足 T2-5 の細長い趾  長い趾(T1-5)も認められる。

小さな趾(Toe, Small)
定義
対側の趾や,あるいは,年齢がマッチする個体の典型的な趾のサイズと比較して,長さと周囲長の両方が有意に減少している趾(主観的)(図 80)。
コメント
これは,広く知られたバンドリング用語である。この所見には基準値がなく,臨床的な判断が必要とされる。罹患した趾を番号付けすべきである。
図 80 左足 T1 の小さな趾 図 81 も参照

裾広がりの趾(Toe, Splayed)
定義
A/P 軸に沿った趾の(足底の平面において)偏位(主観的)(図 81)。
コメント
これは, Macrodactylyと関連する部分があるかもしれないが,別個に扱わなければならない。罹患した趾を明記すべきである。
同義語
Spreading of the digits
図 81 右足 T23 および左足 T12 の裾広がりの趾
広く間隔の開いた趾とは違うことに注意する,なぜなら,裾広がりの趾では,偏位した軸がみられる。この患者では,右足 T1 の小さな趾や右足 T2,3 および左足 T1,2 の巨趾症も認められる。

先細り趾(Toe, Tapered)
定義
近位から遠位にかけて,周囲長が徐々に減少した趾(主観的)(図 82)。
コメント
趾が一様に罹患していなければ,それらを明記すべきである。もし,明記されていなければ,足のすべての趾を注意して観察する。
図 82 T5 の先細り趾 図 76 の部分的な趾の欠損と同じイメージである。
・Toe,thick:Toe,broadを参照
・Toe,thin:Toe,slenderを参照
・Toe,wide:Toe,broadを参照

広く開大した趾間(Toes, Widely Spaced)
定義
趾間において全体的に広く間隔の開いた趾(主観的)(図 83)。
コメント
この記述は趾間間隙の広さに基づく。それは趾が薄く狭い状態よりも,むしろ趾の幅が正常な状態のときに用いられる。この用語は所見が T1,2 間の間隙に限定される状況では用いるべきではない(Sandal gap参照)。
図 83 T1,2 と T4,5 の広く開大した趾間  T1,2 の巨指症も認められる。
・Ulnar clubhand:Hand,ulnar deviation ofを参照
・Ulnar polydactyly:Hand,postaxial polydac-tyly ofを参照
・Zygodactyly:Fingers,cutaneous syndactyly of;Toe,cutaneous syndactyly ofを参照

手掌皮線(CREASES)
 主な 3 つの手掌皮線に関する略図(図 84)を参照。 Distal transverse crease の一端は,第 2 指あるいは第 2 指間スペース基部の近位,橈骨側にあり,手掌の尺側に向けて伸びる。 Proximal trans-verse crease の一端は,第 1 指間にある手掌の橈骨(前方)側から始まり,手掌を横切り尺側まで伸びる(通常,尺側に達しない)。Thenar crease の一端は, proximal transverse crease の橈骨側部分と一致し,手首に向かい近位部へ伸びる。
図 84 正常な手掌皮線
  説明は本文を参照 ・Crese,simian:Palmar crease,single trans-verseを参照

手掌皮線の欠損(Palmar Crease, Absent)
定義
手掌の主な皮線(distal transverse crease,proximal transverse crease,thenar crease)の欠損(主観的)(図 85)。
コメント
この用語は,単一の手掌屈曲線(sin-gle transverse palmar crease)を認める患者で,“失われた”皺を記述する際には用いられない。
図 85 左手の手掌皮線の欠損左手の長い手,右手の transverse crease も認められる。

架橋する手掌皮線(Palmar Crease, Bridged)
定義
近位と遠位の transverse palmar crease を結合する皺(客観的)(図 86)。
コメント
2 つの transverse crease を架橋する皺は,長軸(近位-遠位)方向よりも,横断(前後)方向へ伸展するものが多い。
同義語
Transitional palmar crease
図 86 右手の架橋する手掌皮線

減少した手掌皮線(Palmar Creases, Decresed)
定義
明瞭ではない,または,浅い手掌皺(主観的)(図 87)。
コメント
これは完全に主観的な用語であり,この所見とよくある皺のバリエーションとの区別は,経験ある検者でないと難しい。それは,皺の全体的な減少を指しており,皺の部分的な減少を指すものではない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Smooth palms
図 87 右手の減少した手掌皮線

深い手掌皮線(Palmar Crease, Deep)
定義
手掌のかなり深い皺(主観的)(図 88)。
コメント
Decreased palmar creasesという用語のように,この所見とよくある皺のバリエーションとの区別は,経験ある検者でないと難しい。一つの考え方ではあるが,深い皺とは,たとえ手掌が十分に開いた状態でも,汚れがまだこびりついているような皺を意味する。
図 88 深い手掌皮線 図 17 も参照

単一手掌屈曲腺(Palmar Crease, Single Transverse)
定義
遠位と近位の transverse crease が単一手掌屈曲線(single transverse palmar crease)に融合したもの(客観的)(図 89)。
コメント
Proximal transverse crease と関連する“five finger crease”という用語は, Hall ら[2007]に起源するものである。単一手掌屈曲線のいくつかの亜型は,ここでは認められていない。“サルのような皮線(simian crease)”という用語は,軽蔑した意味を含んでおり,ほとんど意味をなさない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Simian crease
図 89 右手の単一手掌屈曲線  図 5,85 も参照
・Palmar crease,transitional:Palmar crease, bridgedを参照
・Palms,smooth:Palmar creases,decreasedを参照

長軸方向の深い足底皮線(Plantar Crease, Deep Longitudinal)
定義
前足の足底皮膚において,傍正中位,長軸方向に伸びた狭いくぼみ(主観的)(図 90)。
コメント
数多くの他の用語と同様,臨床医がこの所見を評価する閾値や指針は存在しない。代わりに,臨床医は経験を必要とする。
図 90 右足の深く長軸方向の足底皮線

シドニー皺(Sydney Crease)
定義
手掌の尺側端まで伸びる , proximal transverse crease(five finger crease)(客観的)(図 91)。
コメント
proximal transverse(five finger) crease は,第 2 指の基部近くの橈骨側から始まり,手掌の尺側へ向けて伸びるが尺側までは届かない。Sydney crease では,皺が完全に手掌の尺側縁まで伸長している。
図 91 左手のシドニー皺