国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説



口:定義

口角瘻(Commissural Pit)
定義
口腔交連に位置する孔(客観的)(図 3)。
コメント
この孔は口唇の小窩(lip pit)とは無関係。
図 3 口角瘻 つねに口の角にある。
・Cupid ’s bow:Cupid’s bow, exaggeratedを参照
・Cupid’s bow, accentuated:Cupid’s bow, exag-geratedを参照

Cupid's bow の欠如(Cupid's Bow, Absent)
定義
正中稜と上口唇唇紅の正中部切痕の欠如(客観的)(図 4)。
コメント
この弓状の形は,薄い上口唇(thin vermilion of the upper lip)の場合,認められないことがしばしばあり,別に評価すべきである。この表現は通常,平坦な人中(smooth philtrum)と関連しているが,用語としては別である[ Hen-nekam ら, 2009]。
図 4 Cupid’s bow(二重弓形)の欠如

目立つ Cupid's bow(二重弓形)(Cupid's Bow, Exaggerated)
定義
深い側正中稜と正中切痕(客観的)(図 5)。
コメント
深い人中と関連するが,別に扱う[Hennekam ら, 2009]。
同義語
Cupid’s bow accenttuated
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Cupid’s bow(形容詞なしで使用される場合)
・口唇瘻(Lip fistula):口唇小窩(Lip pit)を参照
図 5 誇張された Cupid’s bow

口唇斑(Lip Freckle)
定義
口唇の朱部分の部分的色素沈着の増加(主観的)(図 6)。
図 6 下口唇の唇紅の斑
コメント
口唇斑は,口唇周囲の皮膚の色素沈着(perioral hyperpigmentation)に伴うかもしれないが,口唇周囲の皮膚の色素沈着とは別に評価すべきである。黒子は通常,朱部分の色素斑と同義語として用いられることが多いが,皮膚におけるものとは異なるものである。
同義語
Lip lentigo
・Lip, coarse:Vermilion, upper lip, thickを参照
・Lip, full:Vermilion, upper lip, thinを参照
・Lip, lentigo:Lip freckleを参照
・Lip, lower drooping:Vermilion, lower lip, evertedを参照
・Lip, lower full:Vermilion, lower lip, thickを参照
・Lip, lower thick:Vermilion, lower lip, thickを参照

口唇小窩(Lip Pit)
定義
下口唇の朱部分にある窪み。通常,傍正中部にある(客観的)(図 7)。
コメント
口唇の窪み(小窩)は瘻孔として小唾液腺粘膜に開口している可能性あり。ときに周囲の組織の盛り上がりを伴うこともある。唇交連にある窪み(口角瘻)は口唇のものと別に扱う。
同義語
口唇瘻(Lip fistula)
図 7 典型的な口唇小窩
通常,正中のすぐ側方に位置する。
・Lip, thick:Vermilion, upper lip, thickを参照
・Lip, upper thin:Vermilion, upper lip, thinを参照
・Mouth, tented: Vermilion, upper lip, tentedを参照
・Nasolabial crease, hypoplastic:Nasolabial fold, underdevelopedを参照
・Nasolabial crease, prominent:Nasolabial fold, prominentを参照
・Nasolabial crease, underdeveloped:Nasola-bial fold, underdevelopedを参照

目立つ鼻唇溝(Nasolabial Fold, Prominent)
定義
顔面の皮膚と鼻の基部が接する部分から口角の外側へ向かう鼻の外側縁に沿って走る皮膚のひだ・溝の誇張,かさばり(糸状,交連)(主観的)(図 8)。
コメント
通常,年齢ととも隆起は大きくなる。 Allanson ら(2009 b)を参照。
同義語
鼻唇溝(nasolabial crease)隆起
図 8 目立つ鼻唇溝

鼻唇溝,発育不全(Nasolabial Fold, Underdeveloped)
定義
顔面の皮膚と鼻の基部が接する部分から口角の外側へ向かう鼻の外側縁に沿って走る皮膚のひだ・溝の発育不全(主観的)(図 9)。
コメント
Allanson ら(2009 b)参照。
同義語
鼻唇溝発育不全(nasolabial crease, underdeveloped)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
鼻唇溝低形成(Nasolabial crease/fold, hypoplastic)
図 9 発育不全の鼻唇溝

口囲色素沈着(Perioral Hyperpigmentation)
定義
唇紅の周囲の皮膚の一部または全体に皮膚の色素沈着の増加(主観的)(図 10)。
コメント
口唇斑(lip freckling)に随伴する可能性もあるが,別に扱う。
・唇紅境界,薄い(Vermilion border, thin):薄い紅唇・上口唇(Vermilion, upper lip, thin)を参照
図 10 唇紅の周囲の色素沈着

唇紅,下口唇反転(Vermilion, Lower Lip, Everted)
定義
正面から下口唇の内側が見える状態(通常は歯に並びに沿う)(主観的)(図 11)。
コメント
正面から,平静時,下口唇の高さが通常より高く,下切歯がみえる。鼻顔角面では,唇紅は凸型に突出している。反転した口唇は,とがらしたように見えるが,これは,機能的な用途に用いるべき単語である。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
下口唇下垂(drooping lower lip)
図 11 下口唇の反転した唇紅
とがらした下口唇の呼称は時々使用されるが,これは機能的な意味合いをもつ。

唇紅,下口唇,肥厚(Vermilion,Lower Lip,Thick)
定義
正中において,下口唇の唇紅の高さが平均より 2 SD 以上の高さ(客観的)(図 12)。または正面において,下口唇の唇紅の高さの増大(主観的)。
コメント
唇紅の高さの正常値は[ Farkas, 1981]参照。ただし,測定は通常行われていない。ほとんどの臨床医は主観的にこの形態をとらえている。下口唇は典型的には上口唇より厚い。下口唇の唇紅の高さは民族差があり,同じ民族集団のなかで比較すべきである。唇紅が厚い時,鼻顔角面では,さらに突出・反転しているが,両者は個別に評価すべきであろう。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Thick lower lip,厚い下口唇(Full lower lip)
図 12 上口唇の厚い唇紅

唇紅,下口唇,薄い(Vermilion,Lower Lip,Thin)
定義
正中において,下口唇の唇紅の高さが平均より 2 SD 以下の高さ(客観的)(図 13)。または正面において,下口唇の唇紅の高さの明かな減退(主観的)。
コメント
唇紅の高さの正常値は[ Farkas, 1981]参照。ただし,測定は通常行われていない。ほとんどの臨床医は主観的にこの形態をとらえている。下口唇の唇紅の高さは民族差があり,同じ民族集団のなかで比較すべきである。下口唇・唇紅が薄いとき,唇紅の下縁はゆるやかな弓状を呈し,鼻顔角面では下口唇は通常より突出していない。
図 13 下口唇の薄い唇紅

唇紅,上口唇,反転(Vermilion, Upper Lip, Everted)
定義
正面から下口唇の内側が見える状態(通常は歯に並び沿う)(主観的)(図 14)。
図 14 上口唇の反転した唇紅
コメント
正面からみると,平静時に上口唇の高さが過剰であり,下切歯がみえる状態。鼻顔角面では,唇紅は凸型に突出している。反転した口唇は短い人中に伴い,二次的に上歯が突出しているように見えるが,これは別に評価すべきである。

唇紅,上口唇,テント状(Vermilion,Upper Lip,Tented)
定義
上口唇の正中先端部分と底辺をなす下口唇により口腔の形状が三角を呈する(主観的)(図 15)。
コメント
口腔の開口部の形態が,「目立つ
(exaggerated)cupid’s bow」とは異なる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
テント状の口(tented mouth)
図 15 上口唇のテント状の唇紅

唇紅,上口唇,厚い(Vermilion, Upper Lip, Thick)
定義
正中において,上口唇の唇紅の高さが平均より 2 SD 以上の高さ(客観的)(図 16)。または正面において,下口唇の唇紅の高さの明らかな増大(主観的)。
コメント
唇紅の高さの正常値は[ Farkas, 1981]参照。ただし,測定は通常行われていない。ほとんどの臨床医は主観的にこの形態をとらえたり,または Likert scale[Astley と Clarren,2000]を用いている(図 17)。上口唇の唇紅の高さには民族差があり,同じ民族集団のなかで比較すべきである。上口唇・唇紅の厚さは顔の表情に影響を及ぼす。鼻顔角面では,唇紅は凸型に突出している。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
粗な口(coarse lip),thick lip,full lip
図 16 上口唇の厚い唇紅
唇そのものではなく,唇紅の形を描記するため,粗い(coarse),full より,望ましい呼称である。

唇紅,上口唇,薄い(Vermilion, Upper Lip, Thin)
定義
正中において,上口唇の唇紅の高さが平均より 2 SD 以下の高さ(客観的)(図 18)。または,正面において下口唇の唇紅の高さの明かな減退(主観的)。
コメント
唇紅の高さの正常値は[ Farkas, 1981]参照。ただし,測定は通常行われていない。ほとんどの臨床医は主観的にこの形態をとらえたり,または Likert scale[Astley and Clarren,2000]を用いる(図 17)。上口唇の唇紅の高さには民族差があり,同じ民族集団のなかで比較すべきである。上口唇・唇紅の厚さは顔の表情に影響を及ぼす。側面から観察すると,唇紅は通常より引っ込んでいる。平坦な人中に随伴するものや, Cupid’s bow の欠如に伴い,二次的に上口唇が薄く見えるが,これは別に評価すべきである。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
薄い唇紅縁(Thin vermilion border),薄い上口唇(Thin upper Lip)
図 17 Likert scale 1~5 に用いられる形態上白人(上段)、
アフリカン-アメリカン(下段)の口唇の厚い唇紅(1)から薄い唇紅。
人中の計測も同様に 1~5 の scale を用いる。
図 18 上口唇の薄い唇紅 Cupid’s bow(二重弓形)の欠損に留意。