国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説



口腔 2


目立つ歯槽堤(Palatine Ridges, Prominent)
定義
上顎の歯肉縁の口蓋側の軟部組織のひだの数/大きさの増加(図 42)。
コメント
軟部組織のひだは典型的には,口蓋の外側,とくに前方に位置する。
同義語
突出した外側の口蓋ひだ(Prominent lateral palatal ridges;Prominent palatine folds)
図 42 突出した歯肉縁のひだ
明らかな軟部組織の隆起とひだ

融合歯(Teeth, Fused)
コメント
融合歯または 2 つの歯(別々の歯根をもつ歯の結合)は双生(ひとつの歯胚が不完全に分裂)とは, X 線写真によってのみ区別される[Cameron と Widmer, 2003]。このためここで本用語の定義をしない。

歯間空隙の拡大(Teeth, Widely Spaced)
定義
同じ歯弓で殆どの歯間空隙(離開)が拡大すること(主観的)(図 43)。
コメント
異常に大きな歯列弓や,矮小歯,乳歯・永久歯の混在によって二次的に歯間が広がることがありうる。乳歯の小さな間隙は正常範囲内であり,この形態を評価するには,経験が必要である。この用語は離開(Diastema)とは区別して用いる。
同意語
多数歯間の歯隙の拡大(Multiple dia-stemata)
図 43 広く歯間があいた歯

二裂舌(分裂舌)(Tongue, Bifid)
定義
正中に彎入したまたは分岐した舌(客観的)(図 44)。
コメント
分裂舌は,舌癒着(Ankyloglossia)と関連していることがあるが,両者は個別に評価されるべきである。舌先のわずかな彎入は,分裂舌とすべきではない。
図 44 分裂した舌

溝状舌(Tongue, Furrowed)
定義
舌の背側に溝が集中していること(主観的)(図 45)。
コメント
通常,小さな放射状の溝を伴う正中溝がある。この深い溝は外側縁にむかって広がっていく。規則的または不規則な地図状模様を呈する。溝状の舌は成人の 10~25%に認められるが,小児ではまれである。 同意語 突出した溝状舌(Prominent tongue grooves)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
襟巻き状舌(scrotal tongue;軽蔑語)
図 45 溝状の舌
・Tongue grooves, prominent:Tongue furrowedを参照
・Tongue, hyperplasia:Tongue, largeを参照
・Tongue, hypertrophy:Tongue, largeを参照
・Tongue, hypoplastic:Tongue, smallを参照

巨舌(Tongue, Large)
定義
幅,長さの増大した舌(主観的)(図 46)。
コメント
正常値はない。大きな場合,通常,舌は突出している。バンドリング用語であるが,しばしば用いられており,舌の三次元の各方向の大きさの評価が必要になることはほとんどないため,正式な用語として認めることとする。 小顎症(Micrognathia)の場合,誤って舌が大きくみえるような印象を与えることがある。
同義語
Macroglossia,舌の過形成(hyperplasia of the tongue),舌の肥大(hypertrophy of the tongue)
図 46 大きな舌

分葉舌(Tongue, Lobulated)
定義
舌の側面ないし正面に認められる多数の彎入や不規則な突出(主観的)(図 47)。
コメント
分葉した舌は,二葉,三葉,または多葉に分かれる場合がある。
図 47 分葉した舌

舌挺出(Tongue, Protruding)
定義
安静時に,歯肉縁ないし歯よりも前方に突出した舌(主観的)(図 48)。
コメント
舌挺出は巨舌(Large tongue)を伴う場合も伴わない場合もある。両者は異なる所見であり,個別に記載されるべきである。
図 48 舌挺出
舌の位置に注意。
・Tongue, rudimentary:Tongue, smallを参照
・Tongue, scrotal:Tongue, furrowedを参照

小舌(Tongue, Small)
定義
舌の長さと幅の減少(主観的)(図 49)。
コメント
正常値はない。きわめて小さい舌に対して無舌症(aglossia)という呼称がしばしば用いられるが,どんなに小さくとも舌組織が存在することがほとんどで,厳密な意味においての無舌症はきわめてまれである。バンドリング用語であるが,しばしば用いられており,舌の三次元の各方向の大きさの評価が必要になることはほとんどないため,正式な用語として認めることとする。
同義語
小舌症(Microglossia),舌低形成症
(hypoglossia),未発達な舌(rudimentary tongue)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
無舌症(Aglossia),舌の低形成(hypoplastic/hypotrophic tongue)
図 49 小さな舌

平滑舌(Tongue, Smooth)
定義
舌全体の表面の光沢のある形態(主観的)
(図 50)。
コメント
本所見は糸状乳頭の数や大きさの減少を反映している。舌の全域ではなく局所的に平滑な場合に地図状舌(geographic tongue)という用語が用いられる。
図 50 平滑舌
患者の舌の表面に注目されたい。
・Tooth agenesis:Oligodontiaを参照

魔歯(Tooth, Natal)
定義
出生時から萌出している歯(客観的)(図 51)。
コメント
歯根*胞とは混同してはならない。魔歯は上顎中切歯よりも下顎の乳中切歯に起きることが多く,第一大臼歯ではまれである。魔歯は 1/3,000 の頻度で生じ,北米インディアンの一部に多くみられる[Mok と Suina, 1986]。
乳歯早期喪失(Tooth, Premature Loss)
定義
乳歯が正常より早期に脱落すること(客観的)。
コメント
Kleigman ら(2007),Gorlin ら(2001)の正常域を参照のこと。乳歯の脱落の正常域は各歯の萌出平均時期より, 1年弱程度先行する。
図 51 新生児歯新生児に認める歯の萌出。

過剰歯(Tooth, Supernumerary)
定義
歯牙数の過剰(客観的)(図 52)。
コメント
上顎正中切歯の間に正中歯(過剰歯)を認めることが最も多い。萌出障害をきたし,前部に広い隙間を生じるが,従来の診察では,検出は難しく,X 線撮影により診断する。この呼称は乳歯の脱落遅延により,乳歯と永久歯が混在する状態には用いない。
図 52 過剰歯 切歯の間に過剰な正中歯(過剰歯)下歯槽弓には,いくつかの歯間隙が空いた歯を認める。

口蓋垂欠損(Uvula, Absent)
定義
口蓋垂の欠如(客観的)(図 53)。
コメント
しばしば,軟口蓋裂(Submucous cleft palate)を伴うが,別に記載すべきである。
図 53 口蓋垂の欠損

幅広の口蓋垂(Uvula, Broad)
定義
幅広の口蓋垂(主観的)(図 54)。
コメント
しばしば軟口蓋裂(Submucous cleft palate)を伴うが,別に記載すべきである。二分された口蓋垂の不完全癒合として縦走する溝は,広い口蓋垂,または不全型の口蓋垂裂とも呼称される。
図 54 幅広の口蓋垂

口蓋垂裂(Uvula, Cleft)
定義
多くは先端が二分している口蓋垂(客観的)(図 55)。
コメント
粘膜下口蓋裂(Submucous cleft pal-ate)とは,別の用語である。
同義語
二分口蓋垂(bifid uvula)
図 55 口蓋垂裂
しばしば二分口蓋垂とよばれる。この形態は,軟口蓋の構成要素であるが,単独でみられることもある。
・Uvula, bifid:Uvula, cleftを参照

長い口蓋垂(Uvula, Long)
定義
口蓋垂長の伸長(主観的)(図 56)。
コメント
臨床の場においては,口蓋垂の大きさを測ることは容易ではなく,またその大きさは軟口蓋や舌の基部や頭の位置により依存する。このため,口蓋垂の長さに異常があるかどうかの判断は観察者の経験にもとづくことになる。
図 56 長い口蓋垂かつ,垂裂も認める。

狭い口蓋垂(Uvula, Narrow)
定義
口蓋垂の幅の減少(主観的)(図 57)。
図 57 狭い口蓋垂

短い口蓋垂(Uvula, Short)
定義
口蓋垂の長さの減少(主観的)(図 58)。
コメント
口蓋垂の客観的測定は,側方頭部 X 線規格写真(セファログラム)により決定される。しかし,本特集では,身体的特徴の評価に X 線写真を用いないことと決めている。臨床の場においては,口蓋垂の大きさを図ることは容易ではなく,また,その大きさは軟口蓋や舌の基部や頭の位置により依存する。このため,口蓋垂の長さに異常があるかどうかの判断は観察者の経験にもとづくことになる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
口蓋垂低形成(Hypoplastic uvula)
図 58 短い口蓋垂
・Uvula, hypoplastic:Uvula, shortを参照