外耳 1
無耳症(Anotia)
定義
耳の構造の完全な欠損(客観的)(図 2)。
同義語
耳欠損症(Ear, absent)
図 2 無耳症(Anotia)
対耳輪棚(Antihelical Shelf)
定義
対耳輪が側方より前方へ突出し,後耳介の上に耳甲介の後方を覆うように棚を形成する(主観的)(図 3,4)。
コメント
著明な症例では対耳輪の側方への突出がないように見える。
同義語
耳介棚(Conchal shelf)
図 3 対耳輪の解剖(Anatomy of antihelix)
図 4 対耳輪棚(Antihelical shelf)
対耳輪欠損(Antihelix, Absent)
定義
耳甲介と三角窩,耳輪の間に隆起を認めないこと(客観的)(図 5)。
コメント
この所見は聳立耳(protruding ear)やカップ状耳(cupped ear)にみられ,対耳輪の上部や下部が欠損することが多い。これは対耳輪下脚の低形成(underdeveloped inferior crus of the antihelix)のような対耳輪の部分欠損とは区別される。
図 5 対耳輪欠損(absent antihelix)
対耳輪過剰脚(Antihelix, Additional Crus)
定義
対耳輪から始まる過剰な隆起または脚(客観的)(図 6)。
コメント
過剰脚は通常,対耳輪もしくはその分岐部から後方へ生じるが,由来は異なるかもしれない。前者は Stahl earとよばれる[Yamadaと Fukuda, 1980]。
図 6 対耳輪過剰脚(Additional crus of antihelix; Stahl 耳)
対耳輪の過剰脚を矢印で示す。
対耳輪の過剰脚を矢印で示す。
角張った対耳輪(Antihelix, Angulated)
定義
対耳輪の隆起が対珠とその分岐に対して急な角度を形成していること(主観的)(図 7)。
図 7 角張った対耳輪(angulated antihelix)
左図の二分耳垂にも留意。
幅広い対耳輪下脚(Antihelix, Inferior Crus, Broad)
定義
対耳輪下脚の断面の幅が広いこと(主観的)(図 8c)。
コメント
これは非常に多様であり,図 8 に示すようにその程度もさまざまである。下脚は通常,幅の狭い構造が折りたたまれるようになしている。
図 8 対耳輪下脚の多様性
a:狭い b:平均 c:広い
・対耳輪下脚形成不全(Antihelix, inferior crus, hypoplastic):対耳輪下脚低形成(Antihelix, inferior crus, underdeveloped)を参照
・対耳輪下脚発育不全(Antihelix, inferior crus, hypotrophic):対耳輪下脚低形成(Antihelix, inferior crus, underdeveloped)を参照
・対耳輪下脚過形成(Antihelix, inferior crus, hyperplastic):対耳輪下脚隆起(Antihelix, inferior crus, prominent)を参照
・対耳輪下脚肥大(Antihelix, inferior crus, hypertrophic):対耳輪下脚隆起(Antihelix, inferior crus, prominent)を参照
対耳輪下脚隆起(Antihelix, Inferior Crus, Prominent)
定義
下脚が対耳輪幹の隆起より突出していること(図 9c)。
コメント
これは非常に多彩にみられ,その程度もさまざまで図 9 に示している。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
対耳輪下脚過形成(Inferior crus of antihelix, hyperplastic),対耳輪下脚肥大(inferior crus of antihelix, hypertrophic)
対耳輪下脚低形成(Antihelix, Inferior Crus, Underdeveloped)
定義
下脚が対耳輪幹の隆起より突出していないこと(主観的)(図 9a)。
コメント
これは非常に多彩にみられる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
対耳輪発育不全(Inferior crus of antihelix, hypotro-phic),対耳輪形成不全(inferior crus of antihelix, hypoplastic)
図 9 目立つ対耳輪下脚と未発育の対耳輪下脚
a:未発育 b:平均 c:隆起して目立つ
・Antihelix,stem,hyperplastic:Antihelix,stem, prominentを参照
・Antihelix,stem,hypertrophic:Antihelix,stem, prominentを参照
・Antihelix,stem,hypoplastic:Antihelix,stem, underdevelopedを参照
・Antihelix,stem,hypotrophic:Antihelix,stem, underdevelopedを参照
隆起して目立つ対耳輪幹(Antihelix, Stem, Pro-minent)
定義
対耳輪の隆起がより突出し,その分岐が耳輪の隆起より近位にあること(主観的)(図 10 d,e)。
コメント
これは非常に多彩にみられ,その程度もさまざまで図 10 に示している。これは軟骨の増加と,もしくは折れ曲がりの角度の急峻さにより相対的に隆起してみえる。相対的隆起は耳介が解剖的に歪んでいるとき,たとえばカップ状耳(Cupped ear)のときには難しい。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
対耳輪幹過形成(Antihelix stem, hyperplastic),対耳輪幹肥大(antihelix stem, hypertrophic)
図 10 多様な対耳輪幹の突出の程度
a:強度の発育不良 b:軽度の発育不良 c:平均的 d:軽度の突出 e:強度の突出
蛇行した対耳輪幹(Antihelix, Stem, Serpiginous)
定義
対耳輪下部の対珠からのカーブが下降脚に対してほぼ垂直をなして,耳甲介が目立たないこと(主観的)(図 11)。
図 11 蛇行した対耳輪幹
対耳輪幹低形成(Antihelix, Stem, Underdeveloped)
定義
対耳輪の分岐より近位の隆起の突出の程度が通常より少ないこと(主観的)(図 10 a,b)。
コメント
図 10 に示すように,その程度は非常に多様である。隆起の程度は軟骨やその折れ曲がりの角度による。カップ状耳(Cupped ear)の場合には解剖学的に歪みがあるためその解釈が難しい。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
対耳輪幹発育不全(Antihelix stem, hypotrophic),対耳輪上行脚形成不全(antihelix stem, hypoplastic)
・対耳輪上行脚過形成(Antihelix, superior crus, hyperplastic):対耳輪行脚隆起(Antihelix, superior crus, prominent)を参照
・対耳輪上行脚肥大(Antihelix, superior crus, hypertrophic):対耳輪行脚隆起(Antihelix, superior crus, prominent)を参照
・対耳輪上行脚形成不全(Antihelix, superior crus, hypoplastic):対耳輪上行脚低形成(Anti-helix, superior crus, underdeveloped)を参照
・対耳輪上行脚発育不全(Antihelix, superior crus, hypotrophic):対耳輪上行脚低形成(Antihelix, superior crus, underdeveloped)を参照
目立つ対耳輪上行脚(Antihelix, Superior Crus, Prominent)
定義
対耳輪の上行脚の隆起が通常の対耳輪幹の隆起より突出して目立っていること(主観的)(図 12 d,e)。
コメント
これは非常に多彩にみられ,その程度は図 12 にみられるとおりである。上行脚と下行脚の大きさには逆数的な関係があると考えられ,別にコードされる必要がある。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
対耳輪上行脚過形成(superior crus of antihelix, hypertrophic),対耳輪上行脚肥大(superior crus of antihelix, hyperplastic)
対耳輪上行脚低形成(Antihelix, Superior Crus, Underdeveloped)
定義
対耳輪の上行脚の隆起が通常の対耳輪幹の隆起より低いこと(主観的)(図 12 a,b)。
コメント
これは非常に多彩にみられ,その程度は図 12 にみられるとおりである。上行脚と下行脚の大きさには逆数的な関係があると考えられ,別に評価される必要がある。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
対耳輪上行脚発育不全(Superior crus of antihelix, hypotrophic),対耳輪上行脚形成不全(Superior crus of antihelix, hypoplastic)
・対耳輪第三脚(Antihelix, third crus):対耳輪過剰脚(Antihelix, additional crus),Stahl耳(Stahl ear)を参照
図 12 突出したまたは未発達の対耳輪上脚
a:欠損または不明瞭 b:やや不明瞭 c:平均 d:やや明確 e:非常に明確
対耳珠欠損(Antitragus, Absent)
定義
珠間切痕下部と対耳輪内縁の間の前上方が欠損していること(客観的)(図 13,14 a,b)。
コメント
対耳珠の大きさは非常に多彩でその程度は図 14 b にみられるとおりである[Lange, 1966 より改変]。
図 13 対耳珠の正常形態
図 14 対耳珠の大きさの多様さ
a:対耳珠欠損 b:対耳珠の大きさは 4 つに分類される。0 は欠損,1 は未発育,2 は平均,3 は著明な突出
二分対耳珠(Antitragus, Bifid)
定義
対耳珠の上端部が単一ではなく 2 つあること(客観的)(図 15)。
同義語
二重対耳珠(Antitragus, double)・二重対耳珠(Antitragus, double):二分対耳珠(Antitragus, bifid)を参照
・対耳珠拡張(Antitragus, enlarged):対耳珠隆起(Antitragus, prominent)を参照
反転した対耳珠(Antitragus, Everted)
定義
対耳珠が耳の面に対して垂直な角度で位置していること(客観的)(図 16)。
図 15 二分対耳珠
コメント
これは通常でもみられる。
図 16 反転した対耳珠(Everted antitragus)
・対耳珠過形成(Antitragus, hyperplastic):対耳珠隆起(Antitragus, prominent)を参照
・対耳珠肥大(Antitragus, hypertrophic):対耳珠隆起(Antitragus, prominent)を参照
・対耳珠形成不全(Antitragus, hypoplastic):対耳珠低形成(Antitragus, underdeveloped)を参照
・対耳珠発育不全(Antitragus, hypotrophic):対耳珠低形成(Antitragus, underdeveloped)を参照
突出した対耳珠(Antitragus, Prominent)
定義
珠間切痕下部と対耳輪内縁の間の部分の前上方が盛り上がっていること(主観的)(図 14b〔line 3〕,17c)。
コメント
突出の程度は非常に多彩であり,図14 と 17 に示す。
同義語
対耳珠拡大(Antitragus, enlarged)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
対耳珠過形成(Antitragus, hyperplastic),対耳珠肥大(antitragus, hypertrophic)
図 17 突出したまたは未発達の対耳珠(Prominent and underdeveloped antitragus)
a:未発達 b:平均 c:突出・小対耳珠(Antitragus, small):対耳珠低形成(Antitragus, underdeveloped)を参照
対耳珠低形成(Antitragus, Underdeveloped)
定義
珠間切痕下部と対耳輪内縁の間の部分の前上方が盛り下がっていること(主観的)(図 14b〔line 1〕と 17a)。
コメント
これは非常に多彩にみられ,その程度は図 14 と 17 にみられるとおりである。
同義語
小対耳珠(Antitragus, small)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
対耳珠形成不全(Antitragus, hypoplastic),対耳珠発育不全(antitragus, hypotrophic)
耳甲介過剰ひだ(Concha, Extra Fold)
定義
耳甲介内に耳輪脚とは区別されるひだや隆起があること(客観的)(図 18,19)。
コメント
これらの隆起は耳輪脚がよく発達していないときにみられ,そのつながりや位置で区別されうる。
・耳甲介棚(Conchal shelf):対耳輪棚(Antihe-lical shelf)を参照
・収縮耳(Constricted ear):クエスチョンマーク耳(Question mark ear)を参照
・コズマン耳(Cosman ear):クエスチョンマーク耳(Question mark ear)を参照
concha
図 18 正常な耳甲介の領域
図 19 耳甲介過剰ひだ(Extra folds in the concha)
埋没耳(Cryptotia)
定義
側頭部の皮膚の下に耳介の上部が埋没していること(客観的)(図 20)。
コメント
これは対耳輪上部や対耳輪脚の奇形と関連する。耳介の上部 1/3 はもともと埋没しており,下内側部はらせん状ダーウィン結節(Heli-cal Darwin tubercle)に置換されている。 2 つのタイプがあり,タイプⅠは対耳輪と上行脚のサイズが低下している(図 20 a)。タイプⅡは対耳輪と下行脚が埋没している(図 20 b)[Hirose ら, 1985]。
図 20 埋没耳
a:typeⅠ b:typeⅡ
・耳欠損(Ear, absent):無耳症(Anotia)を参照
・耳過剰脚(Ear, additional crus):対耳輪過剰脚(Antihelix, additional crus),Sthal耳(Stahl ear)を参照
・こん棒耳(Ear, bat):耳突出(Ear, protruding)を参照
・カプチン耳(Ear, capuchin):カップ状耳(Ear, cupped)を参照
・コックルシェル耳(Ear, cockleshell):小耳症, 2 度(Microtia, second degree)を参照
・らせん状耳 4 型(Ear, constricted helix type Ⅳ):小耳症,2 度(Microtia, second degree)を参照
しわくちゃ耳(Ear, Crumpled)
定義
正常な耳のひだの方向が歪み,脚やひだが過剰にみえるもの(主観的)(図 21)。
コメント
これはときに同一視される Stahl耳(Stahl ear)や Shell耳(Shell ear)とは区別される。この所見は生後目立ってくる。
図 21 しわくちゃ耳(crumpled ear)
カップ耳(Ear, cupped)
定義
対耳輪のひだがなく(下行脚がないものも,上行脚がないものも含む),側方へ突出した耳(主観的)(図 22)。
図 22 カップ耳(cupped ear)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
カプチン耳(Ear, Capuchin)・カップ状耳,重症型,Ⅲ型(Ear, cupped, severe/ type Ⅲ):小耳症, 2 度(Microtia, second degree)を参照
・悪魔の耳,立ち耳(Ear, devil):サテュロス耳(Satyr ear)を参照
・犬咬耳(Ear, dog-bite):折りたたみの少ない耳(Helix, underfolded)を参照
耳形成異常(Ear, dysplastic):形成異常(dys-plastic)という言葉は耳の独自の形態を表わすのに適切ではない。耳の外観が特別(abnormal)であるときはそれぞれの特異な解剖学的な耳の構成要素により表現されるべきである。