国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説




手と足(Hand and Feet)

・Acheiria:Hand,absentを参照
・Acromicria:Hand,smallを参照

定義
体肢のすべての指趾における,すべての指趾節骨および,それと関連する軟部組織の欠損(図 1)。
コメント
この記述子(discriptor)では,中手骨または中足骨の欠損を伴う必要はない。どの体肢が無指趾症に影響を及ぼしているか特定するために,的確な表現が付記される。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Aphalangy
無指趾症(Adactyly)
図 1 両足の無趾症
・Amniotic band:Digital constriction ring参照・Aphalangy:Adactylyを参照
・Apodia:Foot,absentを参照
・Arachnodactyly:Finger, long;Toe, long; Finger,slender;Toe,slenderを参照
・Arch,dropped or fallen:Pes planusを参照
・Arch,high:Pes cavusを参照
・Brachytelephalangy:Finger,short distal pha-lanx of;Toe,short distal phalanx ofを参照

屈指症(Camptodactyly)
定義
指の DIPJ かつ/または PIPJ を,能動的または受動的に伸ばしても,180°まで伸展できない状態(主観的)(図 2)。
コメント
第 5 指 PIP 関節が伸展困難な場合,この用語の使用を制限すべきとする意見がある。この場合,われわれは使用を制限しない。患者が握りしめた手(clenched hand)を有す場合は,この用語を使うべきではない。同様のことが,骨端の肥厚を伴う末節骨を含む橈骨角(radial angu-lation)によって生ずることがあるが,この所見は Kirner 変形や dystelephalangy[Ozonoff, 1992]とよばれる。罹患した指趾を明記すべきである。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Streblodactyly
図 2 両側,第 4-5 指の屈指症

彎指趾症(Clinodactyly)
定義
手掌平面上で,側方に彎曲している指趾(主観的)(図 3)。
コメント
この用語の彎曲は,指趾節骨に限定され, MCPJ/MTPJ の偏位(deviation)には適用されない(Radial deviation of the fingers参照)。典型例では異常形態を示す中節骨を認めるが,絶対的なものではない。どの指趾で起きたことか,また偏位している方向性について明記すべきである。この所見は第 5 指でよくみられ,ほとんどすべて橈骨側へ偏位しているが,どの指,どの方向へも起こりうる。同様のことが,骨端の肥厚を伴う末節骨を含む橈骨角(radial angulation)によって生ずることがあるが,この所見は Kirner 変形や dystelephalangy[Ozonoff, 1992]とよばれる。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Incurved finger
図 3 両側,第 5 指の彎指症両側,第 5 指の短指症もみられる。 
図 13 や 20 も参照

太鼓ばち指(Clubbing)
定義
爪の長軸方向および側方向への屈曲増大と関連する,すべての方向へ向けた,指尖部の軟部組織の拡大(軟部組織の浮腫による腫脹とは異なる)(主観的)(図 4)。
コメント
種々の理由により,この定義では爪甲角に関する詳記は用いられない。 1 つ目の理由として,どの角度を測定すべきかという点で合意が得られていない。 2 つ目に,角度に関する基準値として確立されたデータが知られていない。 3 つ目に,臨床医はまれにしかそのような計測を行わない,などの理由による。太鼓ばち指は,しばしばドラムスティックの端様と形容される。罹患指趾を明記すべきである。もし,サブタイプの識別子(identifier)が明記されないのであれば,すべての指趾を含むものと想定される。肥大した軟部組織は,部分的あるいは全体的に太鼓ばち指の構成要素であるが,骨棘や適度な末節骨の過成長と関連しているかもしれない。太鼓ばち指の臨床的な評価と関連性がない(X 線写真評価ではない)ため,このことは,用語の定義として明記されていない。
図 4 太鼓ばち指
側方への太鼓ばち指がよくみてとれるが(たとえば母指),一方,背側から観察されるほかの指は,評価がむずかしいことに注意する。
図 5 および 63 も参照
・Clubhand:Hand radial deviation of;Hand, ulnar deviation ofを参照
・Digit:digit の代わりに“ finger”や“toe”に関するさまざまな用語を参照

隆起した指腹(Digit Pad, Prominent)
定義
指尖または趾尖の腹側局面の軟部組織の隆起(主観的)(図 5)。
コメント
指趾の隆起の程度は,生涯を通じてさまざまであるが,新生児期により目立ち,水分貯留に依存する。この用語は太鼓ばち指には用いるべきではない。同義語の“fetal fingertip pads”では,その個体において,胎児期以来必ずしも指尖腹側が隆起していたことを意味するわけではないので注意する。“Persistent fetal pads”という用語は,判明しているようでしていない,自然歴に関する情報を含むので容認できない。
図 5 右手,第 3-4 指の隆起した指尖腹側
太鼓ばち指と単一手掌屈曲線も有している点に注目。
同義語
Fetal finger/toe tip pads 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Persistent fetal pads

絞扼輪(Digital Constriction Ring)
定義
指趾の周囲が著明に減少している狭い分節(主観的)(図 6)。
コメント
罹患した手と指,および指趾節骨と関連し隣接するバンドの位置を明記すべきである。もし,それが指趾の全周囲を含まないならば,部分的に記述すればよい。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Amniotic bands
図 6 MCPJ に近い,左手,第 1-5 指の絞扼輪・Ectrodactyly:Foot,split;Hand,splitを参照
・Fetal fingertip pads:Digit pad,prominentを参照

欠指症(Finger, Absent)
定義
手指のすべての指趾節骨および関連する軟部組織の欠損(客観的)(図 7)。
コメント
この用語では中手骨の欠損を必要としない。罹患した指趾を明記すべきである。この定義では Partial absence of fingerは除外される。もし,失われている指が真ん中の指であれば,失われた指に番号付けすることはチャレンジである。このような場合,「母指ではない」などの記述を付記し,補足する必要がある。その一方,母指があるのかないのか明らかにするのは容易であろう。また,重度の骨性・皮膚性合指を伴う 2 つの指趾と欠指症(absent finger)を区別するのは難しいかもしれない。もし患児がある体肢のすべての指趾を欠損していれば,Adactylyという用語を用いるべきである。乏指症(oligodactyly)という用語は,同義語として用いてもよいが,失われた指趾が特定されないときだけ用いる。たとえば,ある患者における第 5 指の乏指症を記述するのは悩ましいというのも,乏指症は存在する指に対し用いる用語で,F5 は失われている指に使われているからである。もし,特定できない指が欠損しているならば,たとえば“欠指症, 2 本”というように,はっきりした数字を用いて記述するとよい。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypodactyly
同義語
Oligodactyly
図 7 右手の欠指症
有意な臨床データがないので,失われた指の特定はできない。
図 68 も参照
幅の広い指(Finger, Broad)
定義
母指以外の手の指の幅が増大していること(主観的)(図 8)。
コメント
周囲長が増大する幅広い指(broad thumb)では,長さも増大する Macrodactylyと区別しなければならない。その違いは軽微かもしれない。増大した幅が末節骨に限定する場合,この用語を使用すべきではなく, Broad fingertipsを用いるべきである。罹患した指趾を,本稿の「イントロダクション」の番号付けの方法にならって明記すべきである。この用語は,第 1 指には用いられない(Broad thumbs参照)。母指および 1 つ以上の指が罹患している場合, “Broad thumb”と“Broad fingers,F2-5”と区別して記載するかわりに, “Broad fingers,F1-5”と明記するほうが簡便であろう。
同義語
Wide fingers 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Pachydactyly;Thick fingers
図 8 右手の幅広い指
これらの指が背側-腹側方向へ増大せず,その一方で,側方(軸前-軸後)へ増大している点に注目する。
図 99 も参照

皮膚性合指症(Fingers, Cutaneous Syndactyly of)
定義
2 つの指の前後軸において,末端側に向かって少なくとも PIPJ レベルまで,連続して伸展する軟部組織(客観的)(図 9)。 または 2 つの指の間に存在し,前後軸において連続する軟部組織。隣接する指の中手指節関節(metacarpophalangeal joint)にまたがる屈曲線が,有意に末端方向へ伸びている状態(主観的)。
コメント
われわれは主観的な所見と客観的な所見を区別するため,独断的ではあるものの,ほぼ間違いない閾値を定めている。重度の皮膚性合指症では,客観的判定が容易だが,より軽微なものでは,主観的となり難しい。この 2 つの状況を区別するため閾値を設定した。指あるいはその一部が,P/D 軸上のある一点において,通常,指間に存在しない軟部組織により合わさっている。もし,皮膚性合指が指の爪床の末端まで伸展していれば,“完全(complete)”という修飾語句を付加するとよい。罹患した指を明記すべきである。無制限に使われる syndactyly という用語は,これが骨性なのか皮膚性なのか不明瞭なので,もはや使用しないほうがよい。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
“Long hand”という用語は,2 つの異なる用語, Syndactyly(without adjective);ZygodactylyLong fingersと Long palmの意味を併せもつ定
図 9
A:左手,F2-5 の完全な皮膚性合指症 幅広い母指,タイプ B 軸後性多指症, F2-5 における爪の癒合などを伴っていることに注意。
B:F2-4 の部分的な皮膚性合指症がみられる。
図 14 も参照
・Finger,hypoplastic:Finger,smallを参照
・Finger,incurved:Clinodactylyを参照

長い指(Finger, Long)
定義
中指の長さが,在胎 27~41 週の新生児平均値の 2 SD 以上あること,または,出生後から 16 歳までの小児の 97 パーセンタイル以上で,しかも 5 本の指が互いの指に対して正常な長さの比率を保っていること(たとえば中指だけが唯一長い指である場合,該当しない)(主観的)(図 10)。または,手の手掌に対して不釣り合いに長くみえる指(主観的)。
コメント
最初の定義は問題があると思われる。なぜなら,この定義は,中指以外の指がすべて同様に長いことを意味している。ほかの 4 つの指との長さの均整は,明らかに主観的に決まるものであり,主観的な用語とみなさなければならない。Arachnodactyly という用語は,細くて長い指という意味で用いられてきたが,しばしば,細い,あるいは,長いというだけで使われることがある。 義なので,用いられるべきではない。もし,四肢の指趾のサブセットだけが長いのであれば,罹患した指趾を明記すべきである。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Arachnodactyly
図 10 右手の長い指・Finger,narrow:Finger,slenderを参照

折り重なり指(Finger, Overlapping)
定義
安静時に,隣接する指の背側表面に乗っている指(客観的)(図 11)。
コメント
この記述子は,どの指が含まれるかにしたがって,順序づけられる(たとえば図の説明文を参照)。罹患している指を明記すべきである。数の序列は,どの指が背側にあるかを明記する,すなわち,一番上にある指に面している手の背側を最初に記述し,折り重なる指はコンマを用いて記載する。側方に偏位するものの,隣接する指の上に載っていない指は,Clinodactylyとして記述すべきである。
図 11
A:右手 F54,F56 の折り重なり指 この患者は,軸中性多指症(mesoaxial polydac-tyly)とタイプ B 軸後性多指症を有する。
B:右手 F23,F54 の折り重なり指
図 37,45,58A も参照

指の部分欠損(Finger, Partial Absence of)
定義
指の指節骨領域の欠損(客観的)。
(図 12)
コメント
欠損している部分を明記するとよい。“遠位の”という修飾語句は,末節骨の喪失を表すものであり,臨床的には爪の欠損で特徴づけられる。“近位の”という修飾語句は,基節または中節骨の喪失を表わし,爪がまだ存在し,かつ/または末節骨のような指節骨の残存を X 線写真上認めることをさす。どの指節骨が欠損しているかを X 線写真撮影なしに決めることは難しく,撮影した場合でも,失われた骨を正確に同定することは難しいかもしれない(中節骨と末節骨の欠損を区別しようとする必要はない)。この所見は Short fingersとは異なる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypophalangy
図 12 左手,F2-5 近位の部分的欠損 F1-5 の小さな爪もみられる。

指の橈側偏位(Finger, Radial Deviation of)
定義
四肢の軸前方向(橈骨側)に向かう指の偏位(主観的)(図 13)。
コメント
偏位は MCPJ で起こる。罹患した指を明記すべきである。この所見は Clinodactylyとは異なる。
図 13 左手,F2 の橈側偏位
さらに F2 の橈骨側への彎指症も認めており,これら 2 つの所見が異なる所見であることに留意する。
図 47 も参照

短指症(Finger, Short)
定義
中指の長さが,在胎 27~41 週の新生児平均値の 2 SD 以下あること,または,出生後から 16 歳までの小児の 3 パーセンタイル以上で,しかも 5 本の指が互いの指に対して正常な長さの比率を保っていること(たとえば,中指だけが短指症である場合は該当しない)(主観的)(図 14)。または,手に比べて不釣合いに短く見える指(主観的)。
コメント
これはよく知られたバンドリング用語である。多くの人体計測値における定義は,ほかのすべての指が中指同様,相対的に短い,ということを前提にしている。ほかの 4 本の指との均整を決めることは,明らかに主観的な判断なので,これは主観的な用語とみなさなければならない。短指症に関する Bell の分類(Temtamy と McKu-sick らによる総括[1959])は,手のパターンを複合的に評価したものである。 “Brachydactyly”という言葉の使用法は,ここで使われている用法とは別ものである。“Brachydactyly X 型”が使われているときは,Bell の分類を引用したものである。Brachydactyly of the handが用いられているときは,記載された指の長さが短いことに言及しているだけである。 “Short hand”は Shot fin-gersと Short palmのバンドリング定義であり,用いられるべきではない。もし,末節骨が不釣合いに短いと判定された場合,付加用語(additional term)である Short distal phalanges of the fin-gersを使うべきではない。指が全体的に短く末節骨も全体として不釣合いに短い場合,そのときは両方の用語を用いるべきである。
図 14 短指症
短い手掌や右手 F4,5 の皮膚性合指症も認められる。
図 3,47,69,99 も参照
同義語
Brachydactyly of the hand

指の末節骨短小(Finger, Short Distal Phalanx of)
定義
指の末端から遠位指節皮線または DIPJ(中節骨と末節骨の間にある関節)の屈曲点までの距離が短いこと(主観的)(図 15)。
コメント
この用語は,指節骨が失われてなければならない Partial absence of the fingerとは異なる。一方,この用語では指が小さくとも存在していればよい。遠位指節長は,指の残りの部分や患者の他の正常な指,または年齢や体格を同じくする典型罹患者と比較することで,主観的に判断される。屈曲皺のない個体に対する,主観的な定義に関しては,DIPJ を屈曲させ,指の末端からの長さを評価し,決定すればよい。もう一つの別の方法として,関節を触診すればわかるかもしれない。
図 15 左手 F1,末節骨の短小
F1 に短い爪もみられる。図 60A も参照
同義語
Brachytelephalangy 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Short terminal phalanges;Short terminal finger

細長い指(Finger, Slender)
定義
手足や個体の体格に比べて不釣合いに狭い(周囲長が短い)指趾(主観的)(図 16)。
コメント
罹患した指趾を明記すべきである。この所見に対する評価は,指が長いと難しい。軽蔑的な意味を含む用語“arachnodactyly”は,Long fingerや Slender fingerなど別個の記述子で書き換えられる。
同義語
Narrow digits;Narrow fingers 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Thin digits;Arachnodactyly
図 16 右手 F2-5 の細長い指
この図では,いくつかの指だけに認められる。

小さな指(Finger, Small)
定義
反対側の指と比較して,あるいは,年齢を適合させた個体に対する典型的な指のサイズと比較して,長さや周囲長が有意に減少している指
(主観的)(図 17)。
コメント
これは, Short fingerや Slender digitを包含するバンドリング用語であるが,あまりにも広範に用いられるので掲載されている。この用語は,正常な指節数を有すときに限り使用できる。第1指のみに異常を認める場合は,もう一つ別の適切な用語, Small thumbを用いる。第1指とその他ひとつ以上の指に異常を認める場合,“Small thumb”と“Small fingers F2-5”と分けて表記するより, “Small fingers F1-5”と表記したほうがより簡便かもしれない。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Underdeveloped finger;Hypoplastic finger
図 17 左手 F3,4 の小さな指
      深い手掌皺も認められる。

裾広がりの指(Fingers, Splayed)
定義
手掌面において,A/P 軸(手掌平面)に沿った指趾の分岐(主観的)(図 18)。
コメント
これは Macrodactylyと関連するかもしれないが,別個に評価し記述すべきである。罹患した指は明記されるべきである。
同義語
Spreading of the fingers
図 18 左手 F23,F34 の裾広がりの指    F2-4 の巨指症も認められる。
・Fingers,spreading of:Fingers,splayedを参照

先細り指(Finger, Tapered)
定義
近位から遠位へと周囲長が徐々に減少している指(主観的)(図 19)。
コメント
一様に指が罹患してなければ,罹患した指を明記すべきである。罹患した指が明記されていないのであれば,手のすべての指が先細り指である。
図 19 A:左手 F4 の先細り指  B:右手 F2-5 の先細り指
図 42,44,93 も参照
・Finger,thick:Finger,broadを参照
・Finger,thin:Finger,slenderを参照

指の尺側偏位(Finger, Ulnar Deviation of)
定義
四肢の後方あるいは軸後方向(尺側)へ向かう指の屈曲(主観的)(図 20)。
コメント
偏位は MCPJ で起こる。罹患した指を明記すべきである。この所見は Clinodactylyとは別個のものである。
図 20 右手 F4 の尺側偏位
F4 の彎指症もみられる。中指 F3 は明らかに橈側へ彎指症を示しているが,この指は偏位していない。これら 2 つの違いを明瞭に表している点に注目する。図 45 も参照
・Finger,underdeveloped:Finger,smallを参照
・Fingerm wide:Finger,broadを参照
・Finger-like thumb:Thumb,triphalangealを参照

幅広い指突(Fingertip, Broad)
定義
幅が増大した指の末端部分(主観的)(図 21)。
コメント
この用語は,遠位部が明らかに中間部よりも幅広いときに用いるための表記法である。もし Clubbingや Macrodactylyを認めたり,指全体が幅広いのであれば,代わりに Finger broadを用いる。
同義語
Wide fingertips 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Spatulate fingertips
図 21  A:右手 F1 の幅広い指尖 指は IPJ で広がっている。
B:左手 F3,4 の幅広い指尖
図 93 も参照
・Fingertip,spatulate:Fingertip,broadを参照
・Fingertip,wide:Fingertip,broadを参照
・Fingertip pads, fetal:Digit, prominent padを参照

足の全欠損(Foot, Absent)
定義
足の全欠損。頸骨や腓骨遠位部まで骨成分がない状態(客観的)(図 22)。
コメント
類似の定義として Foot, partial absence of を参照。
同義語
Apodia
図 22 右足の全欠損
この患者は,図 27 と同一患者である。下肢の一側が足の部分欠損で,対側は全欠損である。
・Foot,brachydactyly of:Toe,shortを参照

幅の広い足(Foot, Broad)
定義
足の幅の計測値が年齢に比して 95 パーセンタイル以上広い足(客観的)(図 23)。 あるいは,足長に比べ不釣合いに広くみえる足(主観的)。
コメント
正常値とされるデータ[ Malina ら 1973;Hall ら 2007]は 4~16 歳の基準値だけを含んでいる点に留意する。グラフ上の 16 歳の時点では,足幅はまだ増大しているので,勝手に推測しないほうがよい。よって, 16 歳以上または4歳以下では,主観的に評価されているだけ,ということになる(適切な基準値が策定され普及するまで)。Hall らのハンドブック[ 2007,pp238-239]では,足幅は,第 1 趾の中足趾節関節(MTPJ:metatarsal-phalangeal joint)の内側面から,第 5 趾の MTPJ の外側面までと記されている。Short feetを認める患者では,主観的な定義に注意して用いるべきである。Hall ら[2007]による計測の定義によれば,過剰な中足骨を含む多趾症を伴う場合,過剰趾を考慮して計測する必要がある(たとえば,軸後性の多趾症を伴う場合,第 6 趾の MTPJ から計測するなど)。この場合,基準値は 6 本趾の四肢を有す患者由来となり,多趾症を二重に計測し幅の広い足としている点で,異論が生ずるかもしれない。
図 23 左の幅広い足この症例では,前足部が中足部(midfoot)よりも幅広く見えるが,その違いはこの用語では明らかではない。
同義語
Wide foot・Foot,cleft:Foot,splitを参照

長い足(Foot, Long)
定義
在胎 27~41 週の新生児平均値の 2 SD 以上あること(客観的)(図 24)。 または,出生後から 16 歳までの小児の 97 パーセンタイル以上あること。あるいは,年齢の平均値より長く見える足(客観的)。
コメント
16 歳以上の女子では注意が必要である。女子の成長曲線は 15 歳までに,原則,平坦化するため,16 歳の基準値や分布は,より年上の個体でも基準値として用いることができる[Anderson ら,1956;Hall ら,2007]。しかし,男子の場合,成長曲線が終わる 16 歳では,まだ有意に成長しているため,16 歳以上の男子に対しては,主観的な評価となっている可能性がある。乳児では,最初の起点に対し基準値が SD で明記されている[Merlob ら,1984]。足の計測値は,正常範囲が広いため,正常な幅の長い足と,正常な長さの狭い足とを区別するのが難しいかもしれない。したがって,主観的な定義は基本的に劣っている。もし,足趾も長いのであれば,それは別個に記載すべきである。
図 24 長い足 長い指も伴っている。

幅の狭い足(Foot, Narrow)
定義
足幅の計測値が,年齢に対する 5 パーセンタイル値よりも短い足(客観的)(図 25)。 あるいは,長さに比して,不釣合いに狭くみえる足(主観的)。
コメント
正常値とされるデータ[ Hall ら, 2007]は 4~16 歳の基準値だけを含む。グラフ上の 16 歳の時点では,足の幅はまだ増大しているので,勝手に推測しないほうがよい。よって, 16 歳以上または 4 歳以下では,主観的に評価されているだけ,ということになる(適切な基準値が策定され普及するまで)。足幅は,第 1 趾の MTPJ の内側面から,第 5 趾の MTPJ の外側面までを計測しなければならない。この用語を,重複する中足骨を含む多趾症を認める個体に対し使うのは,理にかなっていないように思う。
図 25 狭い左足

骨性合趾症(Foot, Osseous Syndactyly of)
定義
硬い組織(軟骨かつ・または骨)による,趾(趾骨かつ・または中足骨)の側方(A/P)への癒合(客観的)(図 26)。
コメント
中足骨合趾症は, 2 つの中足骨を手で動かすことができないことを示すこと,あるいは 2 つの中足骨の連続性を示すことで,明らかになる(手技に関する記載については Polydactyly, mesoaxial参照)。記載には,癒合する骨について明記すべきである。骨性合趾症は, Symphalang-ismとは異なる。なぜなら Symphalangismでは,長軸方向に指節骨関節の癒合が起こるからである(P/D 軸)。骨奇形の正確な性状については, X 線検査なしに決められない。合趾症が骨性か皮膚性かわからないとき,“syndactyly”という用語を無制限に使うべきではない。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Syndactyly(形容詞なしで用いる場合)
図 26 足の骨性合趾症
この所見の有無を判定するために,用いられる手技を示した図。異常所見は示されていない。 2 つの隣接する中足骨を握り,癒合しているのか,いないのかを決めるため,それらを交互に動かす。

足の部分欠損(Foot, Partial Absence of)
定義
中足骨の遠位まで骨成分を含まない不完全な足の欠損。中足骨のある程度,または,すべてが残っている状態(客観的)(図 27)。
コメント
類似語として Foot, absentがある。
図 27 左足の部分的な欠損
図 22 と同一患者。下肢の一側は完全欠損,対側は部分欠損。

軸後性多趾症(Foot, Postaxial Polydactyly of)
定義
母趾ではない,過剰趾が存在すること(客観的)(図 28)。
コメント
過剰趾(母趾ではない)はほとんどが腓骨側の趾である,と多くの症例で信じられてきたが,これには明確なエビデンスがない。足趾が小趾であるとき,単純化の原理(parsimony)により,このことは理にかなっているようにみえる。その趾が十分に形成され,過剰な中足骨を伴い,十分機能しているとき,どの趾が過剰であるかを決めることは困難かもしれない。とはいえ,軸後性とする表記は,今までも使われてきたことを考えると,理にかなった記述である。軸後性多趾症は,2 つの型に大別されてきた。すなわち, A が十分形成された趾,B が小さな,または肉茎程度の不明瞭な,機能しない付属物のような趾である。軸後性多趾症は実際,A から B までさまざまなスペクトラムがある点に留意すべきである。型が決まられないとき,亜型表記はしない。用語として,発生学的な posterior の代わりに postaxial という言葉を用いるが,これは postaxial が臨床医学の領域で確立された言葉であることに基づく。
同義語
Posterior polydactyly 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Posteror dupulication of the limb/foot;fibular polydactyly
図 28 左足の軸後性多趾症
  小さな爪も認められる。

軸前性多趾症(Foot, Preaxial Polydactyly of)
定義
第 1 ray のすべてあるいは一部の重複(客観的)(図 29)。
コメント
この奇形のスペクトラムは幅広い。スペクトラムの軽い症状としては, 2 つに割れた爪,中央の欠落や二分された趾尖を伴う母趾末節骨がある。前後の裂を認識できない幅広い母趾は, Broad halluxと表記すべきである。趾の数は,軸前性多趾症の所見に影響されるかもしれない。指趾の番号付けはイントロダクション参照。 ray 全体よりも少ない重複母趾には“部分(partial)”を,3 つすべての骨が完全に重複する趾には“完全(complete)”を付記して,用語を任意に修飾してよい。
同義語
Anterior polydactyly 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Anterior dupulication of the limb;Tibial polydactyly
図 29 A:右足,軸前性多趾症 ほぼ完全な重複である。B:右足,軸前性多趾症 同じ所見であるが,重複している趾は図 29A よりも分離している。

揺り椅子状の足底(Foot, Rocker Bottom)
定義
目立つ踵および凸面の曲線,両方を認める足底(主観的)(図 30)。
コメント
この用語は,バンドリング用語であるが,一般によく用いられるため,グループの総意により掲載した。
図 30 左足,揺り椅子状の足底

短い足(Foot, Short)
定義
足長が在胎 27-41 週の新生児に対する平均値より, 2 SD 以下の短いこと(客観的)(図 31)。 あるいは,出生後から 16 歳までの小児に対し, 3 パーセンタイル以上あること。あるいは,不釣合いに短くみえる足(客観的)。
コメント
16 歳以上の女子では注意が必要である。女子の成長曲線は 15 歳までに,原則,平坦化するため,16 歳の基準値や分布は,より年上の個体でも基準値として用いることができる[Anderson ら,1956;Hall ら,2007]。しかし,男子の場合,成長曲線が終わる 16 歳では,まだ有意に成長しているため,16 歳以上の男子に対しては,主観的な評価がなされている可能性がある。乳児では,最初の起点に対し基準値が SD で明記される[Merlob ら,1984]。足長は中足骨や第 1 趾と同様に,相対的に長い踵骨や足根骨を含む。したがって,計測された手足の長さは,種々の成長障害を反映している可能性がある。足長は,もし個体が Pes cavusや Pes planusを有すのであれば,解釈は注意すべきである。
図 31 短い足

裂足(Foot, split)
定義
第 1-5 趾を除く,縦方向への足の趾放射digital ray)の欠損(主観的)(図 32)。
コメント
欠損症と診断する閾値は, ray 上の指趾すべての欠損,および,少なくとも中足骨の一部欠損と記述すべきである。ただし,足趾がないだけなら,Absent toeを用いるべきである。中央列の欠損(central ray)はしばしば,裂足の概観を呈する。この場合,用語は指趾の低形成や切断のさまざまな形状に対し,しばしば用いるように“ectrodactyly of the foot”とするのがよい。カニ爪様変形“Lobster claw deformity”は叙述的でないうえ,受け入れがたい表現である。罹患した足のバリエーションは広いが,共通するのは中央列の欠損であり,臨床的な表記として, Split footが最も適している。
同義語
Cleft foot 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ectrodactyly;Lobster claw deformity
図 32 A:左足,裂足 B:裂足患者 A と比べて,B は足の刻み目は重度であり深い。ほかの罹患趾の形や数はかなり多様である。
・Foot,wide:Foot,broadを参照

母趾欠損(Hallux, Absent)
定義
母趾の指節とその軟部組織の両方にみられる欠損(客観的)(図 33)。
コメント
これは,中足骨の欠損を伴わない。定義では,部分的な母趾欠損を除外している。 Oli-godactyly や hypodactyly は,軸前性指趾(thumb や great toe)の喪失と第 2-5 指趾の喪失との違いを考慮して,もっと特異的な用語で置き換え表記される。母趾と 1 つ以上のその他の足趾が欠損するとき, Absent halluxと Absent toes,T2-3に分けて表記するのではなく, Absent toes,T1-3と記載するほうが簡便である。
同義語
Absent great toe 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypodactyly;Oligodactyly
図 33 右足,母趾の欠損

幅広い母趾(Hallux, Broad)
定義
腹側や背側への肥大がなく,幅が見た目にも増大している母趾(主観的)(図 34)。
コメント
幅広い母趾では周囲長の増大を認めるかもしれないが, Macrodactylyと区別しなければならない。なぜなら, Macrodactylyは長さも増大しているからである。短い母趾の場合,この評価は難しいかもしれない。Broad toesとは別個の定義であることに注意する。母趾と 1 つ以上の他の足趾が罹患している場合, Broad halluxと Broad toes,T2-5と分けて表記する代わりに, Broad toes,T1-5と記載するほうが簡便である。
同義語
Broad great toe
図 34 右足,幅広い母趾  
図 60 B も参照

ハンマー状趾(Hammertoe)
定義
MTPJ の過伸展に PIPJ の過屈曲を伴ったもの(主観的)(図 35)。
コメント
この用語は異常に対する不完全な記述であるので,“背屈された趾(dorsiflexed toe)”というフレーズに置き換えられる[Yourgら,2005]。この用語は小槌趾(mallet toe)と同義語ではない。 
図 35 左足 T3,ハンマー状趾 図 57 も参照
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Dorsiflexed toe

手の全欠損(Hand, Absent)
定義
橈骨や尺骨の遠位部に骨成分を認めない手の全欠損(客観的)(図 36)。
コメント
類似語に Hand, partial absenceがある。
同義語
Acheiria
図 36 左手の全欠損
この所見の定義に必要な所見ではないが,橈骨や尺骨の短縮を認める。
・Hand,brachydactyly of:Finger,shortを参照
・Hand,cleft:Hand,splitを参照

握りしめた手(Hand, Clenched)
定義
すべての指趾が中手指節関節(MCPJ)と指節間関節(IPJ)で完全に屈曲している状態(主観的)(図 37)。
コメント
Camptodactylyとは区別される。異常を認める指が 5 本よりも少なく,しかも, MCPJ を含まないという点で,Camptodactylyとは異なる。手指が手掌で屈曲位を取るとき,折り重なっていてもよい。観察される折り重なり指を別個に明記する必要はない。
図 37 右手の握りしめた手
左手はこの用語の定義を満たしてない。なぜなら,指のすべてが MCPJ や IPJ で完全には屈曲していないからである。左手は,折り重なり指(Overlap-ping fingers)であり, F23,F54 の所見を満たしている。
・Hnad,long:Palm,longを参照
・Hnd,narrow:Palm,narrowを参照

骨性合指症(Hand, Osseous Syndactyly of)
定義
硬性組織(軟骨かつ/または骨)による指趾(趾骨かつ/または中足骨)の側方(A/P)への癒合(客観的)(図 38)。
コメント
中手骨合指症は, 2 つの中手骨が検者によって別個に手で動かせることで,実証される(この手技に関する記述については Mesoaxial polydactyly参照)。合指趾症を X 線写真なくして実証するのは難しいかもしれない(“mitten hand”とよばれてきたものでよくみられる)。この用語では癒合した骨を含む。骨性合指症は, Sympha-langyとは異なる。Symphalangyでは,長軸方向に指節骨の癒合が起きる(P/D 軸)。多指症を伴う場合,この用語の使用法に関する考察は, Mesoaxial polydactylyを参照。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Syndactyly(形容詞なしで用いる場合)
図 38 手の骨性合指症
この所見の有無を判定するために,用いられる手技を示した図。異常所見は示されていない。 2 つの隣接する中手骨を握り,癒合しているのか,いないのかを決めるため,それらを交互に動かす。

軸後性多指症(Hand, Postaxial Polydactyly of)
定義
母指ではない,過剰指が存在すること(客観的)(図 39)。
コメント
過剰指(母指ではない)はほとんどが尺側の指である,と多くの症例で信じられてきたが,これには明確なエビデンスがない。手指が小指であるとき,単純化の原理(parsimony)により,このことは理にかなっているように思える。その指が十分形成されており,過剰な中手骨を伴い,機能しているとき,どの指が過剰であるかを決めることは難しいかもしれない。とはいえ,軸後性に関する記述では,今までも使われてきたものだが,理にかなった表記法がある。軸後性の多指症は, 2 つの型に大別されてきた。すなわち, A が十分に形成された指,B が小さな,または肉茎程度の不明瞭な,機能しない付属物のような指である。軸後性多指症は実際, A から B までさまざまなスペクトラムがある点に留意すべきである。型が決められないときは亜型表記しない。
図 39 A:右手,軸後性多指症タイプ A
B:右手,軸後性多指症 タイプ A と B の中間型のような指をしている。そのため,タイプを特定することはできない。図 49 A,
58 A,73 A も参照。タイプ B の軸後性多指症の例は図 9 A,11 A を参照。
同義語
Posterior polydactyly 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ulnar polydactyly;Posterior duplication of the limb/hand

軸前性多指症(Hand, Preaxial Polydac tyly of)
定義
第 1 ray のすべてあるいは一部の重複(客観的)(図 40)。
コメント
この奇形のスペクトラムは幅広い。スペクトラムの軽い症状としては, 2 つに割れた爪,中央の欠落や二分された指尖を伴う母指末節骨,がある。前後の裂を認識できない幅広い母指は,Thumb,broadと表記すべきである。指の数は,軸前性多指症の所見に影響されるかもしれない。指趾の番号付けはイントロダクション参照。 ray 全体よりも少ない重複母指(中手骨と 2 つの指節)には“部分(partial)”を, 3 つすべての骨が完全に重複する指には“完全(complete)”を付記し用語を任意に修飾してよい。
図 40 A:左手,部分軸前性多指症   B:右手,軸前性多指症
同義語
軸前性多指症(Anterior polydactyly) 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Anterior dupulication of the limb/hand;Radial polydactyly

手の橈側偏位(Hand, Radial Deviation of)
定義
手首において,手の長軸が軸前(橈骨)側方向に偏位すること(主観的)(図 41)。
コメント
この所見は,橈骨の短小や無形成と関連しているかもしれないが,定義の要件としてこれらは必要なく,別個に表記されるべきである。 “clubhand”という用語は,軽蔑的な意味を含むため,ほかの用語で代用される。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Radial clubhand;Clubhand
図 41 右手,橈骨側への偏位・Hand, short:Palm, short;Finger, short

小さな手(Hand, Small)
定義
年齢や体格に比べ全体的に小さく,正常な均整が保たれている手(さまざまな手の要素は互いに均整が取れている)(主観的)(図 42)。
コメント
これはバンドリング用語であるが,聞き慣れた用語であり,扱いづらくなるので,構成要素の所見について記載することはない。この
図 42 小さな手 先細り指も認められる。
用語の代わりに,客観的に定義されてある Short fingers,Short palms,Narrow palmsなどを用いて患者を記載するほうが,間違いなく優れている。こうした評価に用いられる客観性のある基準値は,中指・手掌長や手掌幅以外に存在しないことに留意すべきである。肢端歪小症(acromicria)という用語も,いくつかの定義があり推奨されない。この用語は,小頭症,顔貌の特徴などの意味を含んでいるが,ほかの定義では,手足の指趾の意味だけを含んでいる。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Acromicria

裂手(Hand, Split)
定義
第 1 もしくは第 5 指を除く,縦方向への手の指放射(digital ray)の欠損(主観的)(図 43)。
コメント
Split hand と診断するには,中央列(central ray)にある指節骨(F1 や F5 ではない)の全欠損,かつ少なくともその指と関連する中手骨の部分欠損を伴うものでなくてはならない(単なる,手指の喪失であれば, Absent fingerとすべきである)。 中央列やその他の列の欠損は,しばしば裂手の概観を呈する。 Split hand は指節骨の低形成や切断という形態に対し用いられてきた“ectrodac-tyly of the hand”と記載するのもよいが,広く使われる用語であることも事実である。カニ爪様変形“Lobster claw deformity”は叙述的な記載ではなく,軽蔑的な意味を含むため受け入れ難い表現である。患者の罹患した手のバリエーションは広いが,共通するのは中央列の欠損であり,臨床的な表記としては,Split handが最も適している。
同義語
Cleft hand
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ectrodactyly;Lobster claw deformity
図 43 右手の裂手

三叉手(Hand, trident)
定義
F1 や F5 の相対的な位置関係は正常で, A/P 軸(手掌平面における)に沿って放射状に広がる F2-4(主観的)(図 44)。
コメント
この用語は,指の広がり方に対する亜型であるが,実用的な診断には,別個の定義が必要である。専門用語を扱うグループの間では,この用語に対するさまざまな定義が存在するため注意が必要である。しかしながら,ここで示す定義についてはコンセンサスが得られている。
図 44 左手の三叉手
先細り指もみられるが,この定義には必要ない所見である。

手の尺側偏位(Hand, Ulnar Deviation of)
定義
手首において,手の長軸が軸後(尺側)方向に偏位すること(主観的)(図 45)。
コメント
尺骨の短小や無形成と関連することがあるが,定義に必要な所見ではない。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ulnar clubhand;Clubhand
図 45 右手の尺側偏位 F2-3 の尺側偏位や F45 の折り重なり指も認められる。
・Hand, wide:Hand, broadを参照

突出した踵(Heel, Prominent)
定義
踵の後方突出部における,とりわけ目立つ突起(主観的)(図 46)。
コメント
この所見に関しては,実用的な閾値や際立った特徴が見当たらないので,検者の経験に頼らなければならない。
図 46 突出した踵
・Hypodactyly:Finger, absent;Hallux, absent; Thumb, absent;Toe, absentを参照
・Hypophalangy:Finger, partial absence of; Toe, partial absence ofを参照

小さな小指球(Hypothenar Eminence, Small)
定義
手掌の尺側における筋肉量の減少(主観的)(図 47)。
コメント
典型例では小指外転かつ短小指屈筋における軟部組織の減少がある。これは, Small thenar eminenceよりも区別するのがずっと難しいかもしれない。定義のなかでも,同じ考え方について要点がまとめられている。
図 47 左手,小さな小指球 F2-5 の短指症,F2-3 の橈骨側偏位もみられる。
・Limb,anterior duplication of:Foot,preaxial polydactyly of;Hand, preaxial polydactyly ofを参照
・Lobster claw deformity:Foot,split;Hand, splitを参照

巨指趾症(Macrodactyly)
定義
反対側の非罹患指,または,年齢/体格から予測される指と比較して,指のほとんどあるいはすべての長さや周囲長が明らかに増大していること。周囲長は,指の側方および腹側および背側への増大を伴っている(主観的)(図 48)。
コメント
指の周囲長に関する基準値は知られていない。一般集団でも実際には,指の周囲長はさまざまと考えられる。この所見は,期待されたものと,観察されたものとの大きさが有意に違うとき,検者の判断によって評価される。罹患している指を明記すべきである。増大したサイズの構成成分(骨成分,結合組織など)を定義では明示する必要はないが,浮腫は除外すべきである。周囲長は,指のほとんどなのか,または,全部なのかという要件は,巨指症と幅広い指尖とを区別する際,重要となる。巨指症では周囲長は全周を意味するので, Broad fingersあるいは Broad fin-gertipsと区別されなくてはならない。つまり,巨指症は幅広い指や指尖に対する用語ではなく,側方向(A/P)への幅だけが有意に増大している用語である。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
図 48  A:左手 F2-3 の巨指症 屈指症も認めるが,その所見は,別個に記載されるべきである。B:右足 T1-2 の巨趾症 幅広い趾間がみられる。 図 18,81,83 も参照
Megalodactyly;Pachydactyly・Megalodactyly:Macrodactylyを参照

短い中手骨(Metacarpal, Short)
定義
同一の手の他の中手骨または反対側の中手骨と比較して, 1 つあるいはそれ以上の中手骨の長さが短いこと(主観的)(図 49)。
コメント
中手骨短小は,いくつかの中手骨に及んでいる可能性がある,そして,罹患している列(ray)を明記すべきである。握ったとき手を手背側から観察することで,短い中手骨を評価することができる。もし, F2-5 の中手骨が短いのであれば,Short palmと修正すべきである。罹患している指を明記すべきである。

短い中足骨(Metatarsal, Short)
定義
中足骨の長さが短く,結果的に関連する趾が近位部へ偏位した状態(主観的)(図 50)。
コメント
これは主観的な評価であり,一般的には,MTP 関節の位置を,対側の同部位と比較,あるいは,他の列(ray)と比べて短縮している列の位置とを比較することで評価される。罹患した指を明記すべきである。
図 49  A:左手 F5 の短い中手骨  B:左手 F34,右手 F4 の短い中手骨
この患者の手は,指が屈曲した状態で背側からみたものであるが,短い中手骨が強調されて見えている可能性がある。
図 50 両足 T3,4 における中足骨の短縮

内転中足(Metatasus, Adductus)
定義
中足骨が脛骨側に偏位していること(主観的)(図 51)。
コメント
この所見に対する客観的な閾値がないので,主観的な考えに基づいた定義である。
・Oligodactyly:Finger,absent;Toe absentを参照
・Pachudactyly:Finger, broad;Macrodactylyを参照
図 51 左足の内転中足
サンダルギャップも認められる。

幅の広い手掌(Palm, Broad)
定義
出生後から 4 歳までの小児に対し,手掌の幅が平均値の 2 SD 以上あること,あるいは, 4 歳から 16 歳までの小児に対し,手掌の幅が 95 パーセンタイル以上あること(客観的)(図 52)。あるいは,手掌の幅が,手掌長に比べて不釣合いに広くみえること(主観的)。
コメント
手の幅は, MCPJ のレベルで手掌を計測する(F2 の MCPJ の橈骨面から, F5 の MCPJ の尺骨面までを計測)[Hall ら,2007]。短い中手骨(short metacarpals)は幅広い手掌(broad palm)と似た病像を呈すことがあるので,主観的な評価には注意が必要である。過剰な中手骨を伴う多指症では,過剰な中手骨を別個に記述し,また,Hall らの計測法[ 2007]を用いる場合,過剰指を考慮した変法で計測する必要がある(たとえば,軸後性多指症で第 6 MCPJ まで計測する場合)。
図 52 左手の幅広い手掌
手掌長が正常であることに注意する,つまり,明らかな幅広い手掌を認めるのみで,短い手掌を伴う症例ではない。
同義語
Wide palm

長い手掌(Palm, Long)
定義
出生後から 16 歳までは,手掌長が 97 パーセンタイル以上あること(客観的)(図 53)。手掌長が手指や四肢の長さに比べて相対的に長いこと(主観的)。
コメント
手掌長については, Feingold と Bossert[1974]と Hall ら[2007]によって基準が示されている。手掌長は,手首の遠位屈曲線から,F3 の MCPJ の屈曲線までを計測する。“long hand”という用語は,2 つの別個の用語,Long fin-gers(前述のように,これ自体がバンドリング用語の可能性あり)と Long palmのバンドリング定義であり,用いるべきではない。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Long hand
図 53 長い手掌
手掌の幅が正常であることに注意する,つまり,明らかに長い手掌を認めるのみで,狭い手掌を伴う症例ではない。この図は,多くの他の特徴を示しているが,それらについては詳説しない。
図 63,85 も参照

幅の狭い手掌(Palm, Narrow)
定義
手掌の幅が,出生後から 4 歳児までは平均値の 2 SD 以上を下回っていること。 あるいは, 4 歳から 16 歳までは,手掌の幅が 5 パーセンタイル以下であること(客観的)(図 54)。あるいは,手掌の幅が,手掌長に比して不釣合いに狭く見えること(主観的)。
コメント
手掌の幅は, MCPJ のレベルで手掌をまたいで計測する(F2 の MCPJ 橈骨側面から, F5 の MCPJ 尺骨側面まで)。Hall ら[2007]によって基準が示されている。手掌が不釣合いに長く,幅が狭くみえるだけで,手掌の幅は正常範囲かもしれないので,主観的な評価であることに注意すべきである。この所見は,一般的に細長い四肢と関連するのかもしれないが,細長い四肢が,狭い手掌と一致するわけではない。手掌近位部の狭小は,小さく低形成な母指球を示唆するものかもしれない。この用語は,そうでもないのだが,母指を含む印象が残るため,“narrow hands”を代わりに用いることがある。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Narrow hand
図 54 狭い手掌
この患者は正常な手掌長であった,つまり,明らかに狭い手掌を認めるのみで,長い手掌を伴う症例ではない。

短い手掌(Palm, short)
定義
出生後から 16 歳までの小児に対して,手掌長が 3 パーセンタイル以下であること(客観的)(図 55)。あるいは,手掌長が,指や四肢の長さに比べて相対的に小さく見えること(主観的)。
コメント
手掌長については, Feingold と Bossert[1974]と Hall ら[2007]によって基準が示されている。この用語は,第 2-5 指の中手骨がすべて短縮している個体に対し用いられる。 4 本よりも短縮した中手骨が少ない個体では, Short metacarpalと表記すべきである。この所見に関するさまざまな意見に対しては, Small handのイントロを参照。“Short hand”は,すでにある 2 つの別個の用語,Short fingers(前述のように,これ自体,バンドリング用語の可能性あり)と Short palmの組み合わせになるので,用いるべきではない。 
図 55 短い手掌
この患者では短指症もみられる。指の口径は正常なので,小さな手(small hands)の所見は認められない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Short hand・Palm,wide:Palm,broadを参照。

凹足(Pes, Cavus)
定義
定常的な高い足底動脈弓の存在(主観的)(図 56)。
コメント
閾値や基準値を設定できないので,
これは主観的な定義である。この所見を評価する場合,検者は経験に頼らざるをえない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
High arch
図 56 凹足
この患者では,尖足(pes equinus)がみられる,といわれる可能性があるが,そのような用語は,最近の専門用語セットには含まれていない。

扁平足(Pes, Planus)
定義
立位時に,地面や床に足底弓が接触している足(客観的)(図 57)。 あるいは,横たわっている患者に対し,体重を支えているときにかかるのと同様の圧力で検者が足を圧迫した場合,足底弓が平板の表面に接触する足(客観的)。あるいは,足底弓の高さが減少している状態(主観的)。
コメント
常識的な方法を用いて,どうしたら動けない個体にも 1 番目の定義を当てはめられるかと考え, 2 番目の定義を,このワーキンググループで考案した。この評価方法に関するデータはなく,有用性に関するフィードバックが必要である。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Dropped arches;Fallen arches
図 57 左足の扁平足
・Pollex:“Thumb”のついた用語を参照
・Polydactyle,anterior:Foot,preaxial polydac-tyly of;Hand,preaxial polydactyly ofを参照
・Polydactyly,central:Polydactyly,mesoaxialを参照
・Polydactyly,insertional:Polydactyly,mesoax-ialを参照
・Polydactyly,intercalary:Polydactyly,mesoax-ialを参照

軸間性多指症(Polydactyly, Mesoaxial)
定義
関連のある骨性合指趾症を伴い,第 3-4 指趾の中手骨/中足骨を含む過剰指趾(母指趾ではない)が存在すること(客観的)(図 58)。
コメント
X 線撮影を行わず,手の所見をとるために(X 線撮影の適応に関するさまざまな見解については Allanson ら[2009b]を参照),検者は,手の背側と手掌面において, 2 つの隣接する中手骨,母指と第 2 指を握り,別個に手で動かしてみる。もし,別個に動かなければ,骨性合指症が存在する。 Mesoaxial polydactyly というバンドリング用語の用法に関して,コンセンサスを得るに至っていない。したがって,当分の間は,専門用語の中に明記される。 2 つの別個の用語を用いて記載するほうが間違いなく優れている(たとえば,Osseous syndactyly of F3,4〔metacarpal〕と Postaxial polydactyly of the hand,type A)。 “insertional polydactyly”という用語は, “inser-tion”という言葉がメカニズムを意味するものであり,この発症メカニズムがおそらく挿入によるものではないことから,まず用いられない。この用語の用法については,何度か再検討すべきであろう。
同義語
Cantral polydactyly;Intercalary poly-dactyly 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Insertional polydactyly
図 58  A:右手の軸間性多指症 軸後性多指症タイプ B の外観を呈する, 7 本指である。 F6 の小さな爪,F56 の折り重なり指も認める。図 11A も参照
B:右足の軸間性多趾症 T23 の部分皮膚性合趾症も認める。

鏡画像を呈する多指趾症(Polydactyly, Mirror Image)
定義
対称性の認識可能な A/P 軸をもつ,5 本以上の指趾を伴った手または足。その軸は,正常に形づくられていたり,あるいは,中指,人差し指,母指趾に似た部分的な重複指趾が存在しうる。あるいは,軸が中指,人差し指,母指趾に似た,隣接する一対の指をもち,指趾間に存在しうる。典型例では,手の両側にある最も外側の指趾が,第 5 指趾に似ている(主観的)(図 59)。
図 59 右足の鏡面像を呈する多趾症
右足では多くの皮膚性合趾症が明らかである。
コメント
これは主観的な評価法である。多指趾症は明らかに客観的であるが,A/P 軸の対称性成分の評価は間違いなく主観的なものとなる。この所見では, 2 本の尺骨を伴う前腕が関連する可能性があるが,それは,この所見の必要な項目ではない。
・Polydactyly,fibula:Foot,postaxial polydac-tyly ofを参照
・Polydactyly,posterior:Foot,postaxial poly-dactyly of;Hand,postaxial polydactyly ofを参照
・Polydactyly,radial:Hand,preaxial polydac-tyly ofを参照
・Posterior duplication:Foot postaxial polydac-tyly of;Hand,postaxial polydactyly ofを参照
・Radial clubhand:Hand,radial deviation ofを参照

中手骨/中足骨の欠損(Ray, Absent)
定義
関連する中手骨/中足骨のすべての指節骨の欠損(客観的)(図 60)。
コメント
この用語では,指節骨の欠損に加え,中手骨や中足骨の欠損が必要である。 Absent thumb,Absent hallux,Absent toes,Absent fin-gersとこの所見を比較すべきである。多くの場合,中手骨/中足骨の欠損が,触診によって評価できるが,なかには X 線撮影が役立つ場合もある。この定義は,Split handや Split footの除外が必要である。もし患者がこれらいずれの用語にも当てはまるのであれば,それらを使用すべきであり, Absent rayを用いるべきではない。
図 60 A:右手,中手骨の欠損(absent ray) 末節骨の短縮や,短い爪などもみられる。
B:左足,中足骨の欠損(absent ray) 幅広い母趾もみられるが,別個に記載すべきである。

サンダルギャップ(Sandal Gap)
定義
第 1-2 趾間の幅広く開いた間隙(主観的)(図 61)。
コメント
用語は主観的なものであるが,趾間の間隙は,第 2 趾の幅と同じぐらい広い。
図 61 A:右足,サンダルギャップ  B:両足,サンダルギャップ 図 48,51 も参照

凸状の論郭を伴う足底(Sole, Convex Contour of)
定義
足の側面の曲線が,凸状に形づくられていること(主観的)(図 62)。
コメント
この用語は,尖った踵を伴わず凸状の曲線が形成されるときに使われるもので,バンドリング用語 Rocker bottom footも包含している。
・Streblodactyly:Camptodactylyを参照
・Syndactyly:Finger, cutaneous syndactyly of;Toes, cutaneous sundactyly of;Foot, osseous syndactyly of;Hand, osseous syn-dactyly ofを参照
図 62 右足,足底側面の凸状の曲面
この患者の踵は,Rocker bottom foot の定義を満たすほど,十分に突出してはいない。

小さな母指球(Thenar Eminence, Small)
定義
母指周辺の手掌軟部組織の減量(主観的)(図 63)。
コメント
減少している軟部組織は,通常,短母指外転筋と短母指屈筋群である。とくに軽度の症例では,異常所見の判定に,臨床的な判断が必要である。母指基部の筋群が減少すると,第 1 中手骨の手掌面上に軽度の凹面が認められるかもしれない。片側性の場合,両手を比較することで,母指球筋の曲面における軽微な変化に気づくだろう。程度の重い場合,手掌の幅は近位部にかけて先細りになるかもしれない。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Thenar hypoplasia・Terminal phalanx,Short:Finger,short distal phalanx of;Hallux, short distal phalanx of;Thumb, short distal phalanx of;Toe, short distal phalanx ofを参照
・Thenar hypoplaisa:Thenar eminence,smallを参照
・Thumb aducted:Thumb,hitchihikerを参照
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypodactyly;Oligodactyly
図 63 右手,小さな母指球
母指のみで太鼓バチ指も認める。右手の長い手掌長もみられる。

母指欠損(Thumb, Absent)
定義
母指の指節骨,および,それと関連する軟部組織,両方の欠損(客観的)(図 64)。
コメント
この用語では,中手骨の欠損は必要条件ではない。この定義では, Partial absence of the thumbを除外する必要がある。 Oligodactyly や hypodactyly は,母指と F2-5 の喪失を区別するよう,さらに特異的な用語で置き換えられてきた。“oligodactyly”という用語は,母指以外の指に対応する用語のため, “oligodactyly of thumb”や“oligodactyly F1”という言い方は無意味である。
図 64 左手の母指欠損

内転母指(Thumb, Adducted)
定義
安静時に母指の指尖が第 4-5 指の基部に接するか,近傍にあること(主観的)(図 65)。
コメント
母指は屈曲内転している。ここで記述した以上に程度の軽い内転,たとえば, F2 あるいは F3 基部の近くまでしか母指の指尖が達していない場合も,この用語を用いてよい。
図 65 右手の内転母指

幅の広い母指(Thumb, Broad)
定義
背側や腹側方向への増大がない,幅の広い母指(主観的)(図 66)。
コメント
本来,母指の幅は個人差が大きく,この所見に関する閾値を設定することは難しい。通常,両側性なので,対側と比較することは役立たない。なかには, DIPJ で計測された第 2 指の幅の 1.5 倍以上ある母指(IP で計測)を Broad thumb と定義する,と提案しているものもある。しかし,これを支持するデータはない。この用語は,Macrodactylyに合致する母指については用いられるべきではない。出生時に 9.8 mm(1 SD= 0.5 mm)とする母指幅の基準値が報告されているが,広く用いられてないうえ,在胎週数や SGA の体格が考慮されていない。母指が短いとき,この評価が難しい。
図 66 幅広い母指  図 9A も参照
同義語
Broad pollex;Wide thumb・Thumb,digitalized:Thumb,triphalangealを参照

ヒッチハイカー母指(Thumb, Hitchhiker)
定義
力の入っていない手と手掌平面にある母指において,母指の軸が手の長軸に対して 90°以上の角度にあること(客観的)(図 67)。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Abducted thumb
図 67 右手のヒッチハイカー母指

母指の部分欠損(Thumb, Partial Absence of)
定義
母指の指節骨の欠損(客観的)(図 68)。
コメント
欠損部分を明記してもよい。“遠位の(distal)”という修飾語句は末節骨の欠損を示しており,臨床的には爪の欠損で定義される。この所見は Short thumbと区別される。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypophalangy
図 68 右手,母指の部分欠損 F2-4 の手指欠損と F5 の手指部分欠損も認める。

母指の近位位置異常(Thumb, Proximal Placement of)
定義
母指位置指数(thumb placement index)が 0.55 より大きい(客観的)(図 69)。母指の基節部が通常よりも手首の近くにみえること(主観的)。
コメント
thumb placement index の測定法については,Malina ら[1973],Hall ら[2007]が詳述している。簡単にいえば, thumb placement index とは,第 2 指の近位皮線から第 1 指間間隙の角度までの距離を,第 2 指の近位皮線から母指基節部の手関節屈曲皺までの距離で除したものである。この用語を,Preaxial polydactylyとともに用いるべきではない。
図 69 右手,母指の近位部への位置異常 F2 の短指症も認められる。

三関節母指(Thumb, Triphalangeal)
定義
近位から遠位へかかる一つの軸において,3 指節骨を有す母指(客観的)(図 70)。
コメント
1 つの PD 軸上で,という条件が必要な理由は,Preaxial polydactylyの一部において,2 つの末節骨と 1 つの基節骨を有す,部分重複母指の形態を呈した場合,問題となるからである。この所見は,母指多指症の軽症型で代用される。三関節母指は,母指を診察かつ/または理学的に触診することで評価できる。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Digutalized thumb;Finger-like thumb
図 70 右手,三関節母指・Tibial polydactyly:Foot, preaxial polydac-tyly ofを参照

欠趾症(Toe, Absent)
定義
母趾ではない,すべての趾の趾節骨および関連する軟部組織の欠損(客観的)(図 71)。
コメント
この用語では,中足骨の欠損は必要項目ではない。難しいかもしれないが,罹患した趾を明記すべきである。後者の場合であれば,(失われた趾の由来は特定できないので)Absent toe, right foot と表記すべきである。この定義は, Par-tial absence of the toeを除外している。この, absent toe という定義は,Absent halluxを考慮していない。なぜなら,失われた趾が母趾であれば,通常明白だからである。極端な骨性かつ皮膚性合趾症を有す 2 つの趾と無趾症(absent toe)を区別することは難しいかもしれない。もしすべての趾が喪失していたら,Adactylyという用語を使用すべきである。 Oligodactyly という用語は,同義語として用いられるかもしれないが,失われた趾が特定されない場合に限られる。たとえば,患者が olygodactyly F5 を有す,と記載するのは誤りである,なぜなら, oligodactyly は実在する趾に使われ,しかも F5 が欠損している趾に用いられているからである。これは厄介な問題であり,多く欠損した趾の序列を決める際に混乱を招く可能性がある。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypodactyly
同義語
Oligodactyly
図 71 右足の欠趾症

幅の広い趾(Toe, Broad)
定義
背側腹側方向に増大せず,明らかに幅が増大している母趾以外の趾(主観的)(図 72)。
コメント
幅広い趾では周囲長が増大するかもしれないので注意すべきであるが,加えて長さも増大する Macrodactylyとは区別しなくてならない。罹患した趾は明記されるべきである。趾が短いと,この評価は難しいかもしれない。この用語は,第 1 趾には用いられない, Broad hallux参照。もし, 5 本すべての趾が幅広いならば,その患者には,両方の用語を用いるべきである。
図 72 左足 T1 の幅広い趾 図 92,94,101 も参照

皮膚性合趾症(Toe, Cutaneous Syndactyly of)
定義
2 つの趾の一方の P/D 軸の長さの少なくとも半分を含んだ,隣接する趾の間で, A/P 軸上でみられる軟部組織の連続性(客観的)(図 73)。あるいは,先の客観的なクライテリアに合致しない 2 つの趾の間で,A/P 軸上で軟部組織が連続していること(主観的)。
コメント
趾(または一部)が, P/D 軸上にある趾間において,通常存在し得ない軟部組織によって結合していること。合趾症の定義は,合指症のそれと若干異なっている。趾節骨の長さが短く,程度の評価が実用的ではないため,手の定義を足に用いるのは困難と考えられてきた。“完全(complete)”という修飾語句は,合趾症が爪床の末端部まで続くのであれば,使われるかもしれない。罹患した趾を明記すべきである。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Syndactyly(without specification);Zygodactyly
図 73 A:左足 T1-6 の完全な皮膚性合趾症
左足の軸前性多趾症も認められる。
図 58B,59,78,92,101 も参照
B:両足 T2-4 の皮膚性合趾症
定義で明記されているように,趾の腹側背側の半分以上,合趾症が伸長していれば,客観的な所見といえる。
・Toe, great;第 1 趾にあたる語は‘Hallux’や‘ Toe’で始まる語で列挙されている。
・Toe,hypoplastic:Toe,smallを参照

長い趾(Toe, Long)
定義
足に比して不釣合いに長くみえる趾(主観的)(図 74)。
コメント
この所見は,正常な趾の長さであるものの薄い趾節骨や,正常な長さの趾をもつ中足かつ後足の趾節骨と区別されなければならない。罹患した趾を明記すべきである。 Arachnodactyly という用語は,患者の指趾を蜘蛛のそれに似ている,と軽蔑して表現したものと考えられ,用いるべきではない。四肢の一塊の趾だけが長いのであれば,罹患した趾を詳記すべきである。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Arachnodactyly
図 74 左足,長い趾 図 24,79 も参照
・Toe,narrow:Toe,slenderを参照

折り重なり趾(Toe, Overlapping)
定義
安静時に隣接する趾の背側表面に重なっている足を表記したもの(客観的)(図 75)。
コメント
この用語は,イントロダクション(項目 3)で示されたように,どの趾が関与しているかにしたがって序列化される。たとえば, T3,4 では,序列化した番号は,どの趾から背側にあるかを明示している,すなわち足の背側が上方に向いている状態で,まず一番上にある趾が記録され,折り重なっている趾から順にカンマで区切られる。側方に偏位するものの,隣接する趾には重ならない趾は,Clinodactylyとして表記すべきである。
図 75 両足,T45 の折り重なり趾

趾の部分欠損(Toe, Partial Absence of)
定義
足趾あるいは母趾の指節骨の部分的な欠損(客観的)(図 76)。
コメント
欠損した趾の一部は明示されるかもしれない。“遠位の(distal)”という修飾語句は末節骨の欠損を示すもので,これは臨床的には爪の欠損によって定義される。“近位の(proximal)”という修飾語句は,爪が存在する基節骨あるいは中節骨の欠損を示すものである。X 線撮影なしにどの指節骨が欠損したか知るのは難しく,撮影しても失われた骨は同定されないかもしれない(中節骨と基節骨を区別しようとするのは難しい)。この場合,隣接する状況は除外されるべきである。この所見は, Short toes(長さの減少はあるものの,指節骨の数は正常な状態)と区別しなければならない。 Partial absence of the halluxは母趾に対して用いるべき,もう一つの用語である。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypophalangy
図 76 右足,T2,4 の部分的な趾の欠損先細りの趾を示す 図 82 とまったく同じ所見である。

短趾症(Toe, Short)
定義
足に比して不釣合いに短く見える趾(主観的)(図 77)。
コメント
周囲長の増大はあるものの長さ正常な趾,および正常な長さの趾を有す中後足の趾と,この所見は区別されなければならない。罹患した趾は,イントロ内の既述のように,明記されるべきである。同義語として brachydactyly を記載したが,この用語の使用法は Bell の分類法での同じ言葉の使い方と区別する必要がある(Short fin-gers参照)。
同義語
Brachydactyly of the foot
図 77 右足,T1-5 の短い趾  T2,3 の末節骨の短縮も認められる。

趾の末節骨短小(Toe, Short Distal Phalanx of)
定義
趾端部から最も遠位にある指節間皺あるいは DIPJ 屈曲点までの距離が短いこと(主観的)(図 78)。
コメント
この用語は,Partial absence of the toeとは異なる。なぜなら,その用語では趾節骨を失われなければならないが,ここで用いる用語は小さな趾節骨が存在するからである。趾の末節骨の相対的な短縮を評価するのは,通常きわめて短いので,指の相対的短小を評価するより難しい。末節骨長は,趾節をその趾の残りの部分や,患者のほかの正常な趾,あるいは同年齢の典型的な患者と比較することで,主観的に評価できる。屈曲線は手において役立ちうるもの(Short distal phalanx of the finger参照)だが,足での実用性は乏しいかもしれない。その代わりに,関節を触診できるかもしれない。
図 78 右足,T2-4 の末節骨の短縮 T23 の皮膚性合趾症も認められる。図 77 も参照
同義語
Brachytelephalangy
 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Short terminal phalanx of the hallux

細長い趾(Toe, Slender)
定義
手足のサイズや個体の体格に比して不釣合いに狭い(周囲長の減少した)指趾(主観的)(図 79)。
コメント
罹患した指趾を明記すべきである。この所見の評価は,指趾が長い場合,難しくなる。バンドリング用語,かつ軽蔑的な意味を含む arachnodactyly は,Long toeや Slender toeといった別個の記述子で置き換えられる。
同義語
Narrow digit;Narrow toe 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Thin digits;Arachnodactyly
図 79 右足 T2-5 の細長い趾  長い趾(T1-5)も認められる。

小さな趾(Toe, Small)
定義
対側の趾や,あるいは,年齢がマッチする個体の典型的な趾のサイズと比較して,長さと周囲長の両方が有意に減少している趾(主観的)(図 80)。
コメント
これは,広く知られたバンドリング用語である。この所見には基準値がなく,臨床的な判断が必要とされる。罹患した趾を番号付けすべきである。
図 80 左足 T1 の小さな趾 図 81 も参照

裾広がりの趾(Toe, Splayed)
定義
A/P 軸に沿った趾の(足底の平面において)偏位(主観的)(図 81)。
コメント
これは, Macrodactylyと関連する部分があるかもしれないが,別個に扱わなければならない。罹患した趾を明記すべきである。
同義語
Spreading of the digits
図 81 右足 T23 および左足 T12 の裾広がりの趾
広く間隔の開いた趾とは違うことに注意する,なぜなら,裾広がりの趾では,偏位した軸がみられる。この患者では,右足 T1 の小さな趾や右足 T2,3 および左足 T1,2 の巨趾症も認められる。

先細り趾(Toe, Tapered)
定義
近位から遠位にかけて,周囲長が徐々に減少した趾(主観的)(図 82)。
コメント
趾が一様に罹患していなければ,それらを明記すべきである。もし,明記されていなければ,足のすべての趾を注意して観察する。
図 82 T5 の先細り趾 図 76 の部分的な趾の欠損と同じイメージである。
・Toe,thick:Toe,broadを参照
・Toe,thin:Toe,slenderを参照
・Toe,wide:Toe,broadを参照

広く開大した趾間(Toes, Widely Spaced)
定義
趾間において全体的に広く間隔の開いた趾(主観的)(図 83)。
コメント
この記述は趾間間隙の広さに基づく。それは趾が薄く狭い状態よりも,むしろ趾の幅が正常な状態のときに用いられる。この用語は所見が T1,2 間の間隙に限定される状況では用いるべきではない(Sandal gap参照)。
図 83 T1,2 と T4,5 の広く開大した趾間  T1,2 の巨指症も認められる。
・Ulnar clubhand:Hand,ulnar deviation ofを参照
・Ulnar polydactyly:Hand,postaxial polydac-tyly ofを参照
・Zygodactyly:Fingers,cutaneous syndactyly of;Toe,cutaneous syndactyly ofを参照

手掌皮線(CREASES)
 主な 3 つの手掌皮線に関する略図(図 84)を参照。 Distal transverse crease の一端は,第 2 指あるいは第 2 指間スペース基部の近位,橈骨側にあり,手掌の尺側に向けて伸びる。 Proximal trans-verse crease の一端は,第 1 指間にある手掌の橈骨(前方)側から始まり,手掌を横切り尺側まで伸びる(通常,尺側に達しない)。Thenar crease の一端は, proximal transverse crease の橈骨側部分と一致し,手首に向かい近位部へ伸びる。
図 84 正常な手掌皮線
  説明は本文を参照 ・Crese,simian:Palmar crease,single trans-verseを参照

手掌皮線の欠損(Palmar Crease, Absent)
定義
手掌の主な皮線(distal transverse crease,proximal transverse crease,thenar crease)の欠損(主観的)(図 85)。
コメント
この用語は,単一の手掌屈曲線(sin-gle transverse palmar crease)を認める患者で,“失われた”皺を記述する際には用いられない。
図 85 左手の手掌皮線の欠損左手の長い手,右手の transverse crease も認められる。

架橋する手掌皮線(Palmar Crease, Bridged)
定義
近位と遠位の transverse palmar crease を結合する皺(客観的)(図 86)。
コメント
2 つの transverse crease を架橋する皺は,長軸(近位-遠位)方向よりも,横断(前後)方向へ伸展するものが多い。
同義語
Transitional palmar crease
図 86 右手の架橋する手掌皮線

減少した手掌皮線(Palmar Creases, Decresed)
定義
明瞭ではない,または,浅い手掌皺(主観的)(図 87)。
コメント
これは完全に主観的な用語であり,この所見とよくある皺のバリエーションとの区別は,経験ある検者でないと難しい。それは,皺の全体的な減少を指しており,皺の部分的な減少を指すものではない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Smooth palms
図 87 右手の減少した手掌皮線

深い手掌皮線(Palmar Crease, Deep)
定義
手掌のかなり深い皺(主観的)(図 88)。
コメント
Decreased palmar creasesという用語のように,この所見とよくある皺のバリエーションとの区別は,経験ある検者でないと難しい。一つの考え方ではあるが,深い皺とは,たとえ手掌が十分に開いた状態でも,汚れがまだこびりついているような皺を意味する。
図 88 深い手掌皮線 図 17 も参照

単一手掌屈曲腺(Palmar Crease, Single Transverse)
定義
遠位と近位の transverse crease が単一手掌屈曲線(single transverse palmar crease)に融合したもの(客観的)(図 89)。
コメント
Proximal transverse crease と関連する“five finger crease”という用語は, Hall ら[2007]に起源するものである。単一手掌屈曲線のいくつかの亜型は,ここでは認められていない。“サルのような皮線(simian crease)”という用語は,軽蔑した意味を含んでおり,ほとんど意味をなさない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Simian crease
図 89 右手の単一手掌屈曲線  図 5,85 も参照
・Palmar crease,transitional:Palmar crease, bridgedを参照
・Palms,smooth:Palmar creases,decreasedを参照

長軸方向の深い足底皮線(Plantar Crease, Deep Longitudinal)
定義
前足の足底皮膚において,傍正中位,長軸方向に伸びた狭いくぼみ(主観的)(図 90)。
コメント
数多くの他の用語と同様,臨床医がこの所見を評価する閾値や指針は存在しない。代わりに,臨床医は経験を必要とする。
図 90 右足の深く長軸方向の足底皮線

シドニー皺(Sydney Crease)
定義
手掌の尺側端まで伸びる , proximal transverse crease(five finger crease)(客観的)(図 91)。
コメント
proximal transverse(five finger) crease は,第 2 指の基部近くの橈骨側から始まり,手掌の尺側へ向けて伸びるが尺側までは届かない。Sydney crease では,皺が完全に手掌の尺側縁まで伸長している。
図 91 左手のシドニー皺

爪(NAILS)
・Brachyonychia:Short nailを参照
・Koilonychia:Nail,concaveを参照
・Micronyuchia:Nail,smallを参照

二分爪(Nail, Bifid)
定義
少なくとも 2 つの爪の間に,何らかの軟部組織を有する指趾(主観的)(図 92)。
コメント
二分爪に関連する事項については, Preaxial polydactylyの定義を参照。罹患した指趾を明記すべきである。もし患者に,完全に分割された爪を伴った,部分的な重複指趾を認めるのであれば,この用語を使うべきではない。
図 92 左足 T1 の二分爪 図 99 も参照 T1 の幅広い母趾と T23 の部分皮膚性合趾症も認める。

凹状爪(Nail, Concave)
定義
自然にみられる長軸(P/D)方向への凸面アーチが,存在しないか,反転した状態(主観的)(図 93)。
コメント
しばしば結果的に皿状爪や匙状爪を呈し,典型例では爪の端部が反転する。罹患した指趾を明記すべきである。バンドリング用語 koi-lonychia は爪の形態異常,すなわち爪の縁がめくり上がったり,薄くなったり,凹状になることを意味する言葉である。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Koilonychia;Spoon shaped nails Nails,dystrophic:“dystrophic”という用語は,通常と異なる形態を示す爪に対し使う用語としては,もはや用いられていない。
図 93 左手 T4 の凹状爪  図 103 も参照左手 F23 および左手 F4 の幅広い指尖も認められる。

融合爪(Nails, Fused)
定義
部分的に分割された爪をもち,長軸方向に分かれている爪板。これらはそれぞれ屈曲し分割された橈骨外側をもつ(主観的)(図 94)。
コメント
“Fused”という言葉が使われているが,病理学的にこれらの爪が分かれ融合したことを意味するものではない。融合爪(fused nail)は,爪の 2 つの部分が彎曲した同じ橈骨を共有しており,裂爪(split nail)または分割爪(cleaved nail)と区別される。関連している指趾を明記すべきである。潜在的な合趾症の趾と関連するものかもしれないが,これらは別個に記述される。
・Nail,hypoplastic:Nail,smallを参照
図 94 右足,T1 の融合爪  図 9A も参照この患者は, T1 の幅広い趾および T23 の部分的な皮膚性合趾を認める。 

過度に凸化した爪(Nail, Hyperconvex)
定義
端を見たときに(指先が検者の眼の方をさしている状態で),爪の曲線がきつい凸状のカーブを描くこと(主観的)(図 95)。
コメント
この所見に関しては客観的な基準値は定められていない。この所見に関する別の表記法として,観察された曲線が,典型的な爪と比べて,小さな半径を描いている,というものがある。罹患した指趾を明記すべきである。
図 95 左手 F3,4 の過度に凸状化した爪
図 102 も参照

幅の狭い爪(Nail, Narrow)
定義
爪の幅の減少(主観的)(図 96)。
コメント
新生児の標準値は知られている
[Seaborg と Bodurtha, 1989]が,年長者の基準値は明らかではない。よって,新生児に関しては客観的といえるが,測定されるのはまれである。罹患した指を明記すべきである。
図 96 左足 T2 の狭い爪
この爪の長さは正常であり, small ではなく, narrow と表記する。

爪のくぼみ(Nail Pits)
定義
背側からみえる爪表面の小さなくぼみ(典型例では 1 mm 以下)(主観的)(図 97)
コメント
罹患した指趾を明記すべきである。
図 97 右手 T2-4 の爪のくぼみ

爪の線状隆起(Nail, Ridged)
定義
爪板における長軸方向の線状隆起(主観的)(図 98)。
コメント
隆起は 1 つだけのことも複数のこともある。罹患した指を明記すべきである。
図 98 両側 F1 の線状隆起を伴う爪

短い爪(Nail, Short)
定義
爪の長さの減少(主観的)(図 99)
コメント
爪の長さが短いものの,幅は正常なときこの表記を使う。新生児の標準値は知られている[Seaborg と Bodurtha, 1989]が,年長者の基準値は明らかではない。よって,新生児に関しては客観的といえるが,測定されるのはまれである。罹患した指を明記すべきである。
同義語
Brachyonychia
図 99 左手 F1,5 の短い爪  図 15,60A も参照左手 F5 の二分爪,幅広い指,左手 F1 の短い指,F5 の短い中手骨も認められる。

小さな爪(Nail, Small)
定義
長さと幅が減少している爪(主観的)(図 100)。
コメント
これはバンドリング用語であるが,よく使われるので残されている。 Short nailと Narrow nailの両方を有しているというように,記述するのが望ましいのかもしれないが,爪の幅と長さが減少していればこの用語を用いてよい。新生児の標準値は知られている[Seaborg と Bodurtha, 1989]が,年長者の基準値は明らかではない。よって,新生児に関しては客観的といえるが,測定されるのはまれである。罹患した指を明記すべきである。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypoplastic nails
同義語
Micronychia
図 100 左足の小さな爪 図 12,28,58A も参照

分裂爪(Nail, Split)
定義
長手方向への分離がみられ, 2 つに分かれた部分を有す爪板が彎曲した同じ橈骨外側側面を共有していること(主観的)(図 101)。
図 101 左足 T1 の分裂爪
幅広い左足 T1 の母趾や左足 T23 の部分皮膚性合趾症も認められる。
コメント
これは Fused nailとは,爪の 2 つの部分が別個の彎曲した橈骨を共有している点で異なる。イントロダクションで述べられているように,罹患した指を明記すべきである。
・Nails,spoon shaped:Nail,concaveを参照

爪肥厚(Nail, Thick)
定義
端から見たときに厚くみえる爪(主観的)(図 102)。
コメント
爪の厚さに関する客観的な基準値は知られていないが,根拠のない主張ながら,女性で 0.5 mm,男性で 0.6 mm というものがウェブ上(http://www.emedicine.com/orthoped/topic421.htm)に掲載されている。爪板が爪床から持ち上がるようケラチンが積み上がる。厚くなった爪板は通常とても硬い。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Onychogryposis;Pachyonychia
図 102 右手 F1-5 の爪肥厚

薄い爪(Nail, Thin)
定義
爪の端から見たときに爪が薄くみえる(主観的)(図 103)。
コメント
爪の厚さに関する客観的な基準値は知られていないが,根拠のない主張ながら,女性で 0.5 mm,男性で 0.6 mm というものがウェブ上(http://www.emedicine.com/orthoped/topic421.htm)に掲載されている。薄い爪は通常もろく,爪縁で容易に擦り減り,割れる可能性がある。薄い爪はゆっくり伸びるが,この条件は定義上必要ではない。Koilonychia は,指の爪が縁で捲れあがったり,薄かったり,凹状になっているなど,異常な形態を示す用語である。薄い爪以外の他の特徴も含む用語であり,爪が薄いことを示す場合,使用すべきではない。罹患した指趾を明記すべきである。
図 103 右手 F2,5 の薄い爪   左手 F2 の凹型の爪も認められる。
・Onychogryposis:Nail,thickを参照
・Pachyonychia:Nail,thickを参照