国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説



眼窩周囲領域

眼瞼欠損(Ablepharon)
定義
眼瞼の欠損状態(客観的)(図 4)。
コメント
眼瞼欠損では眼球が常に露出している[Stevens と Sargent,2002]。眼瞼の真の欠損が存在するのか,単に重度低形成なのか議論がある。議論はあるにせよ,実施臨床ではこの差を明らかにすることは困難あるいは不可能なので,この用語が使用されている。
同義語
Absent eyelid
図 4 この患者は眼瞼欠損と同時に眼角開離と眼瞼裂斜下を伴う(courtesy of C. Stevens, MD)。

眼瞼癒着(Ankyloblepharon)
定義
上眼瞼と下眼瞼の縁が単一あるいは複数の帯状組織で,部分的に癒着した状態(客観的)(図 5)。
図 5 この患者は眼瞼癒着に眼瞼裂狭小も伴う。
コメント
この用語は Weiss ら(1992)による。最も程度の軽い現れ方の場合,とくに外側部に出現している場合は確認が困難であり,主観的判断による。帯状組織が離断して癒着の痕跡がなくなる場合がある。この用語は伏在眼球(Cryp-tophthalmos)とは明確に区別すべきである。
同義語
Eyelid syechiae;Ankyloblepharon fil-forme adnatum・Ankyloblepharon filiforme adnatum:Ankylo-blepharonを参照
・Antimongoloid slant:Palpebral fissures, downslantedを参照
・Atrichia:Eyelashes, sparseを参照

眼瞼皮膚弛緩(Blepharochalasis)
定義
弛緩して皺が多く,だぶついた眼瞼皮膚(主観的)(図 6)。
コメント
この所見は上眼瞼に現れやすい。通常,眼瞼組織の厚さも減少している。高齢者により多くみられる[ Held と Schneiderman,1990]。
図 6 この患者は上眼瞼のみの眼瞼皮膚弛緩症で,皴の多い薄い眼瞼である。

眼瞼裂狭小(Blephaophimosis)
定義
上眼瞼と下眼瞼の垂直方向の距離が減少し,眼瞼裂が短い状態(主観的)(図 7)。
コメント
この用語は Cunniff ら(1998)が用いた。バンドリング用語である。もし眼瞼裂が高度に短縮していれば,能動的にも受動的にも広く
図 7 眼瞼裂狭小,眼瞼裂は短縮し,眼瞼下垂様である。
この患者は逆内眼角贅皮も認める。この所見は必発ではないが,よく合併する。
眼をあけることができない。眼瞼下垂(ptosis)は,眼瞼の開き方が固定されておらず,自動的にも他動的にも広げることが可能な状態である。眼瞼裂狭小は逆内眼角贅皮(Epicanthus inversus)と関連していることが多い。
・Blepharoptosis:Ptosisを参照
・Ciliary trichomegaly:Eyebrows, longを参照

伏在眼球(Cryptophthalmos)
定義
眼瞼裂がなく,前頭部あるいは眉から頬部にかけて皮膚が連続している(主観的)(図 8)。
コメント
この用語は Saal ら(1992)の記載に基づく。バンドリング用語であるが,眼瞼裂欠損や睫毛の存在を併記することは非実用的である。通常,痕跡的あるいは小眼球を伴う。しばしば眼球を覆う皮膚には毛が生えている。訳者追加:Fraser 症候群(OMIM#219000)でみられる所見である。
図 8 眼瞼および眼瞼裂を覆う皮膚による伏在眼球
(John M. Graham 先生のご厚意による) ・Dystopia canthorum:Telecanthusを参照

眼瞼外反(Ectropion)
定義
眼瞼縁が外側に翻転している状態(客観的)(図 9)。
コメント
この用語は Cheng と Biglan(2002)による。この所見がある場合,眼瞼結膜と強膜結膜や角膜の過剰な露出を伴いやすい。通常,下眼瞼にみられる。必要に応じて「下」ないし「外側」という修飾語をつける。訳者追加: Kabuki 症候群(OMIM%147920)によくみられる所見である。
図 9 下眼瞼外反 下眼瞼縁が外側にめくれている状態。図 34 も参照

眼瞼内反(Entropion)
定義
眼瞼縁が内側に反転している状態(主観的)(図 10)。
コメント
眼瞼内反により,睫毛による眼球の機械的刺激の可能性が生じやすい[Cheng と Biglan,2002]。これは眼瞼贅皮(Epiblepharon)と鑑別が必要である。
図 10 眼瞼内反あるいは下眼瞼の反転である。
この患者は先天性リンパ浮腫を合併しているが,これは眼瞼内反に必須ではない(図 41 のイラストも注意のこと。上眼瞼のむくみはこの患者の母方祖母にみられたものである)。この患者は眼間開離も認めている。

眼瞼贅皮(Epiblepharon)
定義
眼瞼の皮膚が余剰になり,睫毛が角膜や結膜に押さえつけられてる状態(主観的)(図 11)。
コメント
この用語は Lemke と Stasior(1981)が用いた。上述の眼瞼内反(Entropion)と区別する必要がある。
・Epicanthal fold:Epicanthusを参照
図 11 男児にみられた眼瞼贅皮である。
上眼瞼皮膚は巻き込まれており,眼瞼の隙間に重なっている。児は眼瞼裂斜下も伴う。

内眼角贅皮(Epicanthus)
定義
上眼瞼内側部より起始し,内眼角を上から下に覆う皮膚のひだで,側方に向かってのびる(主観的)(図 12 A)。
コメント
極端な例では,皮膚の襞は眉毛の部分から始まっている[Hall ら,2007]。これを眉毛贅皮(Epicanthus superciliaris)とよぶ(図 12  B)。
同義語
Epicanthal fold;Epicanthus palpebralis

逆内眼角贅皮(Epicanthus Inversus)
定義
下眼瞼内側部あるいはその下方から起始する皮膚の襞で,内眼角を正面から外側にかけて覆っている(主観的)(図 12 C)。
コメント
追加情報は[ Oley と Baraitser, 1988]を参照のこと。訳者追加: Blepharophimo-sis,ptosis,and epicanthus inversus 症候群(BEPS)(OMIM#110100)は逆内眼角贅皮,眼瞼裂狭小,眼瞼下垂を特徴とし, FOXL 2が責任遺伝子である。
図 12
A:内眼角贅皮は,内眼角を覆い,眼瞼の前に存在する皮膚のひだである。
B:眉毛贅皮(Epicanthus superciliaris)は,眉毛から連続する,より範囲の広い内眼角贅皮をいう。
C:逆内眼角贅皮は,下眼瞼から連続する逆方向のものである。図 7 も参照

眼球近接(Eyes,Closely Spaced)
定義
瞳孔間距離が平均の 2 SD 以下である(客観的)(図 13)。 瞳孔間距離が 3 パーセンタイル以下という場合もある(客観的)。瞳孔間距離が短い(主観的)。
コメント
この所見は Hall(2007)が提唱した。Hall ら(2007)のデータでは新生児では SD 値を使い,年長児ではパーセンタイルを使っている。年長児のデータでは, 14 歳と 15 歳の間でも測定値が増加していることから,15 歳以上では主観的な判断はできない。図 3 に正常と変異の眼間隔の図を示した。
同義語
Hypotelorism
図 13 小児における眼球近接 図 36 も参照

深い眼球(Eye,Deeply Set)
定義
標準よりも顔の面よりも奥に位置する眼球(主観的)(図 14)。
コメント
この所見は眼窩上縁突出や下眼瞼縁突出とは区別する必要がある。「深い眼球」では,眼球は顔面の他の部分よりも深い位置にある。客観的な測定方法は存在しない。この所見の診断は観察者の経験による部分が大である。
同義語
沈んだ眼球(Sunken eyes)
図 14 小児にみられた深い眼球

眼間開離(Eyes,Widely Spaced)
定義
瞳孔間距離が基準値の 2 SD 以上(在胎27~41 週の新生児の場合)離れている状態(客観的)(図 15)。
 0~15 歳までは瞳孔間距離が 97 パーセンタイル以上をいう(客観的)。瞳孔間距離が離れている(主観的)。
コメント
この所見は Hall ら(2007)のデータによる。 Hall ら(2007)のデータによれば, 14 歳と 15 歳の間でも継続的に測定値が増えていることから,この所見は 15 歳以上では主観的にのみ判断される。瞳孔間距離の真の増加と眼角開離(telecanthus)による見かけ上の開離を区別することは重要である。図 3 には眼間隔の各種変異を図示した。
同義語
Hypertelorism
図 15 眼間開離の男児
眼角距離は開いていない。両所見は別個のものであることを示す。 図 10,30,33,40B も参照

広い眉(Eyebrow,Broad)
定義
眉毛が部分的に太さを増した状態(主観的)(図 16)。
コメント
眉毛の拡大(broadening あるいは flaring)は内側よりのこともあれば外側よりのこともある。したがって,部位を示す修飾語をつける場合もある(図 16)。「Flaring」は,眉毛を構成する毛の方向の変化を伴う広がりに関する用語であるが,これらの用語は区別せずに用いている。
同義語
広がった眉毛(Flared eyebrow)
図 16 男児における内側部の広い眉毛
この患者では「内側部」という修飾語を用いている。
・Eyebrow, bushy:Eyebrows, thickを参照

高い眉毛(Eyebrow,Highly Arched)
定義
眉毛中央部の位置が高く,三日月型ないしは半円状,逆 U 字型を呈する(主観的)(図 17)。
コメント
多くの場合,眉毛は内側と外側で下側に向けて弧状になる。眉毛の弧の形状についてとくに正常の基準はない。記載は観察者の経験に基づく。同胞や親の眉毛の形を比較することは参考になるだろう。
図 17 青年における高い眉毛
この患者では眉毛の位置が高く,細い。眉毛は眼窩上縁にそっているが,定義上必ずしもそうでなくともよい。
・Eyebrow, hirsutism of:Eyebrow, thickを参照

水平の眉毛(Eyebrow,Horizontal)
定義
カーブを描かず,brow に水平に位置する眉毛(主観的)(図 18)。
コメント
安静時の顔面で評価すべきである。水平の眉毛はまれな所見である。訳者追加:染色体 1p36 欠失(サブテロメア)(OMIM#607872)では,このような眉毛を認めることがある。
同義語
まっすぐな眉毛(Straight eyebrows)
図 18 この女児では内側から外側に水平に眉毛が伸びている。図 19 も参照
・Eyebrow, hypertrichosis of:Eyebrow, thickを参照

外側に広がる眉毛(Eyebrow, Laterally Extended)
定義
眉毛は通常眼窩の縁で緩く下方に曲がるが,眼窩縁をこえて外側に広がっている状態(主観的)(図 19)。
コメント
どの程度まで眼窩の縁をこえて広がれば異常であるか,という基準は明確でない。この所見をみることはまれである。
図 19  10 代の男児で外側眼窩領域をこえて外側に伸びる眉毛
同時に眉毛は水平であるが,これは別個に記載すべきである。

疎な眉毛(Eyebrow,Sparse)
定義
眉毛の密度ないし本数が減少している。同時に眉毛の太さも細くなっている場合もある(主観的)(図 20)。
コメント
疎な程度は部分的な場合(内側部,中央部,外側部)もあれば全体的な場合もある。必要に応じてどの部分か付記するとよいであろう。
同義語
眉毛減毛症(Hyprotrichosis of the eye-brow)
図 20 女児にみられた疎な眉毛
外胚葉形成不全の他の徴候もみられる。図 25 も参照
・Eyebrow, straight:Eyebrow, horizontalを参照

濃い眉(Eyebrow,Thick)
定義
眉毛の密度が濃いか本数が多い状態で,同時に眉毛の径が太い場合もある(主観的)(図 21)。
コメント
濃い部分は局所的(内側部,中央部,外側部)あるいは全体的な場合がある。必要に応じて濃い部位を表す修飾語をつける。
同義語
睫毛多毛症(Hypertrichosis of the eye-brow);密な睫毛(Bushy eyebrow)
図 21
濃い眉毛であるが,この患者は睫毛も目立っている。
10 歳前の男児であるが,顔面の毛を剃っている。