顔(FACE)
目立つ頬骨部(Cheekbone Prominence)
定義
側頭骨の頬骨突起(眼窩の内側および外側下部を形成)が大きい(主観的)(図 45)。
同義語
Zygomatic prominence
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Zygomatic hyperplasia
図 45 目立つ頬骨部
側頭骨頬骨突起の表面にあたる胸骨部が通常より目立つ。
頬骨部の低形成(Cheekbone Underdevelopment)
定義
側頭骨頬骨突起に相当する顔面頬骨部が小さい(主観的)(図 46)。
同義語
平坦な頬骨部(Cheekbone,flat;Zygo-matic underdevelopment)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
頬骨低形成(Zygomatic hypoplasia)
目立つ頬部(Cheeks,Full)
定義
頬骨弓と下顎骨の間の軟部組織が目立ち,丸い印象を与える(主観的)(図 47)。
図 46 頬骨部の低形成
側頭骨頬骨突起に相当する顔面頬骨部が小さい。
図 47 目立つ頬部
頬骨弓と下顎骨の間の軟部組織が目立ち,丸い印象に着目のこと。
落ちくぼんだ頬部(Cheeks,Sunken)
定義
頬骨弓と下顎骨の間の軟部組織が少なく見える(主観的)(図 48)。
コメント
この所見は歯を欠く患者によくみられる。
図 48 落ちくぼんだ頬部
頬骨弓と下顎骨の間の軟部組織の張りやふくらみの減少に着目のこと。
頬部の平坦化(Malar Flattening)
定義
上顎の頬骨突起部の低形成。側面からの観察や触診によってわかりやすい(主観的)(図 49)。
コメント
上顎骨の頬骨突起は上顎骨の最も内側で上方に位置し,鼻背部の外側部分と連続する。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
頬部低形成(Malar hypoplasia)(表面からの診察によっては低形成か萎縮かを区別することはできない)
図 49 頬部の平坦化
鼻背部の外側で内眼角から胸骨部の内側にかけての低形成を認める。
・頬部の過形成(Malar hyperplasia):目立つ頬部(Malar prominence)を参照
・Malar hypertrophy:目立つ頬部(Malar promi-nence)を参照
・Malar hypoplasia:頬部の平坦化(Malar flat-tening)を参照
目立つ頬部(Malar Prominence)
定義
上顎骨の狭骨突起と眼窩下縁の領域が目立つ。側面および正面からの観察によって評価しやすい(主観的)(図 50)。
コメント
頬骨前突起(Malar process)は上顎骨の最も内側で頭側の部分であり,鼻橋部(nasal bridge)の外側縁をなす。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Malar hypertrophy;malar hyperplasia
図 50 目立つ頬部
鼻背部の外側で内眼角から頬骨部の内側にかけての目立つ骨組織に着目のこと。
・Midface hyperplasia:顔面中部突出(Midface prominence)を参照
・Midface hypertrophy:顔面中部突出(Midface prominence)を参照
・Midface hypoplasia:顔面中部後退(Midface retrusion)を参照
顔面中部突出(Midface Prominence)
定義
眼窩下縁と鼻翼周辺の領域が前方に突出している状態(主観的)(図 51)。
コメント
この用語は上顎骨が大きいことを反映する。上顎骨が上下方向に高い場合と奥行きが深い場合とがある。下顎骨の大きさが正常であれば,下顎後退のようにみえる可能性がある。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Midface hyperplasia;Midface hypertrophy
図 51 顔面中部突出
眼窩下縁と鼻翼周辺が目立つ。眼窩下縁と鼻翼周辺の領域が前方に突出し,鼻唇角が増大している。
顔面中部後退(Midface Retrusion)
定義
眼窩下部および鼻翼の領域が後退しているか垂直方向に短縮しているときに起きる(主観的)(図 52)。
コメント
この用語は上顎の高さないし深さが小さいことを示している。下顎の大きさが正常であるときは,顔面中部の低形成は下顎突出の印象を与える。歯牙を欠く患者において顔面中部の後退に見えるときがあるので注意を要する。これは平坦な顔(Flat face)とは異なる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
midface hypoplasia
図 52 顔面中部後退
眼窩下部および鼻翼の領域が小さく,顔面が中央で凹型となっている。このため下顎が突出している印象がある。
・Nasolabial crease,hypoplastic:鼻唇溝の低形成(Nasolabial fold,underdeveloped)を参照
・Nasolabial crease, prominent:目立つ鼻唇溝(Nasolabial fold,prominent)を参照
・Nasolabial crease,underdeveloped:鼻唇溝の低形成(Nasolabial fold,underdeveloped)を参照
・Nasolabial fold,hypoplastic:鼻唇溝の低形成(Nasolabial fold,underdeveloped)を参照
目立つ鼻唇溝(Nasolabial Fold,Prominent)
定義
鼻の外側を走る鼻唇溝(鼻根部が顔面の皮膚と合する部分であり,口角より少し外側の部分に達する溝)が目立つ場合である(主観的)(図 53)。
図 53 目立つ鼻唇溝
鼻の外側を走る鼻唇溝(鼻根部が顔面の皮膚と合する部分であり,口角より少し外側の部分に達する)が目立つ。
コメント
鼻唇溝は加齢とともに目立つようになるのが通例である。
同義語
Nasolabial crease,prominent
鼻唇溝の低形成(Nasolabial Fold,Underdeveloped)
定義
鼻の外側を走る鼻唇溝が目立たない場合である(主観的)(図 54)。
同義語
Nasolabial crease,underdeveloped
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Nasolabial crease,hypoplastic;Nasolabial fold, hypoplastic
図 54 鼻唇溝の低形成
鼻の外側を走る鼻唇溝(鼻根部が顔面の皮膚と合する部分であり,口角より少し外側の部分に達する)が目立たない。
・Premaxillary hyperplasia:目立つ前上顎部(Premaxillary prominence)を参照
・Premaxillary hypoplasia:前上顎部の低形成(Premaxillary underdevelopment)を参照
目立つ前上顎部(Premaxillary Prominence)
定義
前上顎部の過形成(主観的)(図 55)。
コメント
前上顎部が目立つ結果,その上層に存在する鼻・人中などの構造物が目立って見える場合がある。顔面が全体として前方に突出する。もし下顎の大きさが正常であるとき,下顎後退としてとらえられるかもしれない。
図 55 目立つ前上顎部
顔面が全体として突出し,下顎後退の印象を与える。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Premaxillary hyperplasia
前上顎部の低形成(Premaxillary Underdevelopment)
前上顎部の低形成(Premaxillary Underdevelopment)
前上顎部の低形成(主観的)(図 56)。
コメント
前上顎部の低形成の結果,その上層に存在する鼻・人中などの構造物が平坦に見える場合がある。顔面の中央部分が陥凹して見える。下顎の大きさが正常である場合には,下顎が突出して見えることがある。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Premaxillary hypoplasia
図 56 前上顎部の低形成
顔面の中央部分が陥凹し,鼻唇角も減少して見える。下顎の大きさが正常である場合には,下顎が突出して見えることがある。
・Zygomatic hyperplasia:目立つ頬骨部(Cheek-bone prominence)を参照
・Zygomatic hypoplasia:平坦な頬骨部(Cheek-bone underdevelopment)を参照
・Zygomatic prominence:目立つ頬骨部(Cheek-bone prominence)を参照
・Zygomatic underdevelopment:平坦な頬骨部(Cheekbone underdevelopment)を参照
下顎(MANDIBLE)
・下顎後退(Chin,retruded):Retrognathiaを参照
・ハプスブルグ王家の顎(Habsburg/Hapsburg chin):下顎前突(Prognathism)を参照
・Habsburg/Hapsburg jaw:下顎前突(Prognathism)を参照
幅の広い下顎(Jaw,Broad)
定義
顎角点間距離(下部顔面の幅)が一般人口の 2 SD をこえる場合(客観的)(図 57)。下部顔面の幅が広い(主観的)。
コメント
下顎の大きさは左右の顎角点の距離により測定される。顎角点とは下顎体下縁と下顎枝後縁が移行する部分のうち,最も外側に突出する点である。顎角点は下方・内側に向かっており,皮膚を徐々に下方かつ内方にずらして触診することで同定することができる[ Farkas,1981]。幅の広い下顎(下部顔面)に幅の広い上部顔面を合併する場合は「四角い顔(Square face)」と表現される。
同義語
幅の広い下顎(Jaw,wide;Mandible, broad;Mandible, wide;Lower face, broad; Lower face,wide)
図 57 幅の広い下顎
幅の広い下顎に着目のこと。
狭い下顎(Jaw,Narrow)
定義
顎角点間の距離が-2 SD 以下(客観的)(図 58)。正面から見た場合に下顎が狭い(主観的)。
コメント
左右の顎角点間の距離を測定する。顎角点とは下顎体下縁と下顎枝後縁が移行する部分のうち,最も外側に突出する点である。顎角点は下方・内側に向かっており,皮膚を徐々に下方かつ内方にずらして触診することで同定することができる[Farkas,1981]。
図 58 狭い下顎
下顎が狭いことに着目。
同義語
狭い下顎(Mandible,narrow),狭い顔面下部(Lower face,narrow)・Jaw,small:Micrognathiaを参照
・Jaw,wide:Jaw,broadを参照
・Lower face,broad:Jaw,broadを参照
・Lower face,narrow:Jaw,narrowを参照
・Lower face,wide:Jaw,broadを参照
・Mandible,broad:Jaw,broadを参照
・Mandible narrow:Jaw,narrowを参照
・Mandible,wide:Jaw,wideを参照
下顎裂(Mandible,Cleft)
定義
下顎骨正中部ないしその表面の軟部組織の欠損(客観的)(図 59)。
図 59 下顎裂
左図では下顎正中部の完全欠損があり,右図では表層組織の欠損がある。
・Mandible,narrow:Jaw,narrowを参照
・Mandible,retruded:Retrognathiaを参照
・Mandible,wide:Jaw,broadを参照
小顎症(Micrognathia)
定義
正面から見たときに下顎の高さと幅が小さい状態(主観的)(図 60)。
コメント
この用語は下顎の高さと幅の両方が小さいことを指す点から,バンドリング用語であると考えられる。バンドリング用語は避けることが原則であるが,頻用される用語であるので掲載した。
図 60 小顎症
下顎の高さと幅の減少。
同義語
Micrognathism;Jaw,small・Micrognathism:小顎症(Micrognathia)を参照
・Prognathia:下顎前突(Prognathism)を参照
下顎前突(Prognathism)
定義
下顎の歯槽が上顎の歯槽よりも前方に突出した状態。側面から見たときに判断しやすい(主観的)(図 61)。
コメント
観察者は下顎の前方突出と前上顎部の低形成(Underdeveloped premaxilla)ないし,顔面中部の陥凹(Retruded midface)を区別しなければならない。いずれの場合にも ClassⅢの不正咬合を伴うことがある。
同義語
Prognathia
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Habsburg chin;Hapsburg chin;Habsburg jaw; Hapsburg jaw
図 61 下顎前突
下顎の前方偏位があり,下顎の歯槽が上顎の歯槽よりも前方に突出している。
下顎後退(Retrognathia)
定義
側面から観察した時に下顎が後方に偏位している(主観的)(図 62)。
コメント
この所見は小顎症(microretrog-nathia)を伴う場合がある。所見としては小顎症と下顎後退の両方を記載すべきである。この所見が下顎と前上顎の相対的な位置関係の異常によりもたらされていることがある。すなわち下顎の大きさは正常だが,不正咬合が目立っていることがある。
図 62 下顎後退
側面から観察したとき,下顎が後方に偏位している。
同義語
Chin,retruded;Mandible,retruded; Retrognathism・Retrognathism:Retrognathiaを参照