国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説



外耳 3


耳垂欠損(Lobe, Absent)
定義
耳珠と珠間切痕の下方に肉厚で軟骨のない組織が存在しない(客観的)(図 46,47)。
コメント
付着した耳垂(Lobe, Attached)とは異なることに留意。
図 46 耳垂の正常形態
図 47 耳垂欠損(Absent lobe)

耳垂前部の溝〔Lobe, Anterior Crease(s)〕
定義
耳介外側の表面にある,明確に区別できる線状でほぼ水平のくぼみ(主観的)(図 48)。
コメント
浅い溝やへこみは,とくに大きい耳朶にあっては珍しいことではない。耳垂の折れ目のへこみは出生後に形成されることがある[Chi-tayat ら, 1990]。耳介後部の陥凹(posterior heli-cal pits)との関連もありうるが,区別して評価記載されるべきである。
図 48 耳垂前部の溝(anterior creases in lobe)

付着した耳垂(Lobe, Attached)
定義
上方にカーブすることなく耳垂の最下点が顔の側面に付着(客観的)(図 49)。
コメント
耳垂はそれそのものとしての独立した部分を構成しない。
・Lobe,bifid:耳垂裂(Lobe, cleft)を参照
図 49 (顔面に)付着した耳垂
(attached lobe)

耳垂裂(Lobe, Cleft)
定義
耳垂の下縁が凹状に不連続なもの(客観的)(図 50)。
コメント
耳垂を前方に引っ張るか裏側から見ると耳垂裂が視認しやすい。ピアスによる裂け目と区別する。
同義語
二分耳垂(bifid lobe),凹んだ耳垂(notched lobe)
図 50 耳垂裂(cleft lobe)・肉々しい耳垂(lobe, fleshy):大きい耳垂(lobe, large)を参照

前向きの耳垂(Lobe, Forward Facing)
定義
耳垂の前面が耳の他の部位に比べてより冠状断平面に位置する(主観的)(図 51)。
コメント
耳垂は正面から観察する。この所見は耳介全体が前を向いて目立っている状態とは別である(例として図 27)。耳垂は通常は耳介の他の部位とほぼ平面にある。この所見はもち上がった耳垂(uplifted lobe)とも区別すべきである。
・耳垂過形成(Lobe, hyperplastic),耳垂過成長(Lobe, hypertrophic):大きい耳垂(Lobe, large)を参照
・耳垂形成不全(Lobe, hypoplastic),耳垂発育不全(Lobe, hypotrophic):小さい耳垂(Lobe, small)を参照
図 51 前向きの耳垂(forward facing lobe)
c では耳垂が持ち上がっていることにも留意。

大きい耳垂(Lobe, Large)
定義
耳垂の体積の増大(主観的)(図 52d,e)。
コメント
欠損から平均に比べて明らかに大きいものまで程度の幅は広い。この所見は多様であり,その範囲を図 52 に図示する。耳垂は成人期の間増大し続ける[Ferrario ら, 1999;Itoh ら, 2001]。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
耳垂過形成(Hyperplastic lobe;hypertrophic lobe),肉々しい耳垂(fleshy lobe)
・刻み目のある耳垂(Lobe, notched):割れた耳垂(Lobe, cleft)を参照

小さい耳垂(Lobe, Small)
定義
耳垂の体積が小さいもの(主観的)(図 52 a,b)。
コメント
耳垂はまったく欠損しているものから明らかに正常より大きいものまでその大きさは連続して多様である。本所見は高度に多様でありその形態の幅は図 52 に図示する。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
耳垂形成不全(Hypoplastic lobe),耳垂発育不全(Hypotrophic lobe)
図 52 耳垂の容量の多様性
a:非常に小さい b:小さい c:平均 d:大きい e:非常に大きい

持ち上がった耳垂(Lobe, Uplifted)
定義
耳垂の外側面が上方を向いたもの(主観的)(図 53)。
同義語
上向きに曲がった耳垂(lobe, upturned)
図 53 持ち上がった耳垂(uplifted lobe) b は前向きの耳垂でもある。
・Lobe,upturned:Lobe,upliftedを参照

垂れた耳(Lop Ear)
定義
三角窩と舟状窩を覆い隠すほどに耳介の上部が前下方に垂れ下がり巻き込んだもの(主観的)(図 54)。
コメント
軽度のものは耳介上部に限局し,より重度のものは耳介の上部から後部にかけて変形する。耳甲介は過剰に凹むことがある。耳介の外形態が正常な耳輪過屈曲(overfolded helix)とは区別すべきである。
図 54 垂れ下がった耳(lop ear)

大耳(Macrotia)
定義
耳中央の縦径が平均の 2 SD より大きく,かつ中央の横径が平均の 2 SD より大きいこと(客観的)(図 24)。または明らかに耳介が長さも幅も増加していること(主観的)。
コメント
これはバンドリング用語として認知されているが,臨床で有用であるためここに掲載する。耳の長さは外耳の最上面と最下面の最大距離で定義される。標準値は出生から 16 歳まで[Feingold と Bossert, 1974;Hall ら, 2007]と出生から 18 歳までの男女別[ Farkas, 1981]が入手可能である。単に長さだけが増加しているときには長い耳(Long Ear)を用いる。耳の幅の正常値も入手可能である[Farkas, 1981]。第 1 度小耳(Macrotia, Frist Degree) 小耳の定義は,Weerda[1998]が示した外科的な耳介奇形の分類に従う。小耳は少なくとも長さと幅の減少があることを示し,その重度のものは異常形態を含むようにあらゆる形態を包括した用語である。しかし,広く用いられているために,今回も引き続き使用する。
定義
すべての正常な構成要素をもち,正中部の縦径が平均の-2 SD 以下のもの(客観的)(図 55)。
コメント
耳介の長さの違いについては短い耳(short Ear)を参照。大きさの評価は長さと幅を含む(すなわち表面積の評価)。長さと幅の正常は計測値は入手可能である[Farkas, 1981;Hall ら, 2007]。
図 55 第 1 度小耳(microtia, first degree)

第 2 度小耳(Microtia, Second Degree)
定義
中央部の縦径が-2 SD 以下であり,すべてではないがいくつかの正常形態があるもの(主観的)(図 56)。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ⅱ度異形成耳(Ear, grade Ⅱ dysplasia),Ⅲ度の重度カップ耳(ear, cupped severe, type Ⅲ),ザル貝の殻の耳(ear, cockleshell),耳輪狭窄Ⅳ型(ear, con-stricted helix type Ⅳ),カタツムリ耳(ear, snail),貝耳(ear, shell),ミニ耳(ear, mini)
図 56 第 2 度小耳(microtia, second degree)

第 3 度小耳(Microtia, Third Degree)
定義
耳の構造物が存在するが,構成要素として認識できないもの(客観的)(図 57)。
コメント
この形成異常は通常は外耳道閉鎖を伴う。しかし,それぞれ別個の奇形として分類される。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
第 3 度の耳異形成(Ear, grade Ⅲ dysplasia),第 2 種低形成耳(ear, hypoplastic, group Ⅱ),ピーナッツ耳(ear, peanut)

耳瘻孔(Pit, Auricular)
定義
耳輪上行部の下部,耳甲介,耳輪脚にあ
図 57 第 3 度小耳(microtia, third degree)
る小さな陥凹(客観的)(図 58)。
コメント
耳瘻孔は第一鰓溝の癒合平面に位置する[Wood-Jones と I-Chuan, 1933]。
図 58 耳瘻孔(auricular pits)

耳前瘻孔(Pit, Preauricular)
定義
耳介の挿入部の前方にある小さな陥凹(客観的)(図 59)。
コメント
耳前瘻孔は第一鰓溝の癒合平面に位置する[Wood-Jones と I-Chuan, 1933]。
図 59 耳前瘻孔(preauricular pits)

異所性前耳珠(Pretragal Ectopia)
定義
多様な形態をした外耳道の前方にある軟骨性の組織(客観的)(図 60)。
コメント
複雑な形態を呈することが多く,副耳(preauricular tag)との鑑別が必要。横紋筋過誤腫や耳珠の重複(Tragal duplications)との区別が難しいことがある。異所性前耳珠はしばしば耳輪のような形態になることがあり(図 60a),多耳(polyotia)と称される(図 60c)。
同義語
前耳珠重複(Pretragal duplication; polyotia)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
副耳珠(Accessory tragus)
図 60 異所性前耳珠(pretragial ectopias)
a では正常の耳介との類似に留意,c の過剰耳孔の症例は舌骨要素の重複が認められる。 b は重複部位の毛髪に留意,患児の耳介にはあるが耳珠にはない。いずれも正常な耳珠は存在しない。

クエルプルード結節(Quelprud Nodule)
定義
耳甲介後部(裏側)の小さな軟骨性の突起(客観的)(図 61)。
コメント
耳朶を前方に倒すと視認しやすい。
・多耳(polyotia):異所性前耳珠(pretragial ectopia)を参照
図 61 クエルプルード結節(quelprud nodule)
・前耳珠重複(pretragal duplication):異所性前耳珠(pretragial ectopia)を参照

クエスチョンマーク耳(疑問符耳,?型の耳 Question Mark Ear)
定義
耳輪と耳朶の間が裂けている耳(主観的)(図 62)。
コメント
報告はかなりまれである[ Priolo ら, 2000]。小さな刻み程度のものから耳朶と耳輪が完全に分離しているものまで知られている。片側,両側のいずれもある。耳介の上部に比べて耳朶の外側は小さく耳甲介はみられない。裂け目が耳輪のみにある耳輪裂(Cleft helix)とは異なる。
同義語
コズマン耳(Cosman ear),締めつけられた耳(constricted ear)
図 62 クエスチョンマーク耳(a)
b はその軽度のもの(c は Dr Alison Stewart の好意による)

サテュロス耳(Satyr Ear)(訳注:サテュロスはギリシャ神話の半獣半人の森の神)
定義
過度に巻き込んだ耳輪を伴い,上部が鋭く尖った耳(主観的)(図 63)。
コメント
サテュロス耳は耳の上側方部が異常に小さい。耳朶まで続く広範な耳介の発育不良が,不幸にも悪魔の耳とかつて称された極端な形態異常を生じる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
デビル耳(悪魔の耳)(ear, devil)
図 63 サテュロス耳(Satyr ear)

貝殻耳(Shell Ear)
定義
対耳輪上脚が欠損し,対耳輪下脚が幅広くなり,通常よりも水平に鋭く耳輪から離れてゆく(主観的)(図 64)。
コメント
バンドリング用語で,対耳輪上脚の欠損,幅広い対耳輪下脚,対耳輪の異常な位置関係の 3 者から構成される。この用語は慣習的に今も使われている。また,耳輪の巻き込みはより多様な異常を呈する。耳輪脚は通常よりも突き出して耳甲介に伸びる。
図 64 貝殻耳(shell ear)

スタール耳(Stahl Eer)
定義
第 3 の脚が対耳輪の正常な分岐部から生じているもの(客観的)(図 65)。
コメント
多くの場合,耳輪は形成が弱い。外科の論文では 4 種に分類されている[Yamadaと Fukuda, 1980]が,ここでは説明を省く。
同義語
対耳輪の第 3 脚(Antihelix, third crus),付加脚(ear, additional crus)
図 65 スタール耳(Stahl ear)

耳介突起(Tag, Auricular)
(訳注:日本医学会用語では Preauricular Tag を副耳と訳し, Auricular Tag に相当する用語はない)
定義
耳介に存在する小さな突起(客観的)(図66)。
コメント
突起は耳介のどちらの側にも生じる。
図 66 副耳(auricular tag)両者ともに耳介後部の副耳である。 a はクエスチョンマーク耳(Dr Alison Stewart のご好意による)

>副耳(Tag, Preauricular)
定義
耳が皮膚への挿入部の前方にある小さい非軟骨性の突出(客観的)(図 67)。
コメント
これらの突出物は,第一鰓溝の癒合した平面に位置する[Wood-Jones と I-Chuan, 1933]。この領域の有茎性病変,とくに耳の構成物の重複,異所性前耳珠(Pretragal ectopia),横紋筋過誤腫などとの区別が困難なこともある。副耳は通常無毛であり,融合面に限局し,横紋筋を含まない。
図 67 典型的な副耳(a) b は発生学的に下顎骨舌骨癒合面の外に位置することから副耳ではなく重複した耳珠である。

耳珠欠損(Tragus, Absent)
定義
珠間切痕の底部と,耳輪上行部と耳輪脚の合流部との間の隆起が,凸状もしくは突出した形態をしていないこと(客観的)(図 68,69)。
コメント
Lange の論文(1966)参照。本所見はほかに異常のない耳においては通常はみられない。外耳道閉鎖を伴う小耳において多くみられるが,これらの所見は別々に分類するのがよい。
図 68 耳珠の正常形態
図 69 耳珠の大きさの多様性
a:耳珠欠損  b:耳珠の大きさは 4 つに分類される。0:欠損 1:未発達 2:平均 3:著明 ・副耳珠(Tragus, accessory):重複した耳珠(tragus, duplicated)を参照

二分耳珠(Tragus, Bifid)
定義
先端部分に浅いへこみを伴って耳珠の両端が高くなり, 2 つの頂点があるように見えるもの(客観的)(図 70)。
同義語
刻みのある耳珠(tragus, notched)

重複した耳珠(Tragus, Duplicated)
定義
完全または部分的な耳珠の重複。正常な耳珠の前方に隆起する(客観的)(図 67b)。
コメント
頻度はもとより,下顎要素の重複を示すこの形態が実際に起こるかどうかも不明である。この領域にはいわゆる副耳(Preauricular tag)と舌骨由来の前耳珠重複がより多くみられる。
同義語
Accessory tragus
図 70 二分耳珠(bifid tragus)
・拡大した耳珠(Tragus, enlarged),耳珠過形成(Tragus, hyperplastic),耳珠過成長(Tragus, hypertrophic):突出した耳珠(Tragus promi-nent)を参照
・耳珠形成不全(Tragus, hypoplastic),耳珠発育不全(Tragus, hypotrophic):耳珠低形成(Tragus underdeveloped)を参照
・刻み目のある耳珠(Tragus, notched):二分耳珠(Tragus, bifid)を参照

突出した(目立つ)耳珠(Tragus, Prominent)
定義
後側方への突出の程度が強い耳珠(主観的)(図 69 b[line 3],71 d)。
コメント
この所見は非常に多様性に富み,その程度は図 69 と図 71 に示す。
同義語
拡大した耳珠(Enlarged tragus)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
過形成耳珠(Hyperplastic tragus),肥大性耳珠(hypertrophic tragus)・小さい耳珠(Tragus, small):耳珠低形成(Tra-gus underdeveloped)を参照

耳珠低形成(Tragus, Underdeveloped)
定義
後方への突出が少ない(主観的)(図 69b[line 1],71 a,b)。
コメント
この所見は非常に個人差が大きい。その程度の幅を図 69,71 に示す。
同義語
小さい耳珠(small tragus)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
耳珠形成不全(hypoplastic tragus),耳珠発育不全(hypotrophic tragus)
図 71 耳珠の突出の程度
a:非常に未発達 b:軽度に未発達 c:平均 d:著明