国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説



外耳2


耳局所欠損(Ear, Focal Absence)
定義
耳の一部分の欠損。それ以上詳述できないときに用いる(たとえば耳垂欠損のように)(客観的)(図 23)。
コメント
これは含まれる後により欠損構造が特定されない例に用いられる。たとえば三角窩の部分欠損(focal absence of the triangular fossa)というように用いられる。
・2度耳異形成(Ear, grade Ⅱ dysplasia):2 度小耳症(Microtia, second degree)参照
・3度耳異形成(Ear, grade Ⅲ dysplasia):3 度小耳症(Microtia, third degree)参照
・2度耳低形成(Ear, hypoplastic, group Ⅱ):3 度小耳症(Microtia, third degree)参照
図 23 部分的な無形成(focal aplasia of ear)

長い耳(Ear, long)
定義
耳の中央部の縦の長さの中央値が平均より 2 SD 以上長いこと。または著明に長い耳(客観的)(図 24)。明らかに増大した長さの耳(主観的)。
コメント
耳の長さは外耳の上端から下端までの最大径で測る。標準値は出生から 16 歳まで[Feingold と Bossert, 1974;Hall ら,2007]と男女別の出生から 18 歳までの[ Farkas, 1981]が入手可能である。成人の耳の長さと幅の値は性別により分けられ,アメリカ陸軍のサンプル(Tech Report NATICK/TR-89/027, pp 89-90)より求められているが入手しにくい。日本人成人のデータが入手可能である[ Itoh ら, 2001]。成人では耳の長さと大きさは女性より男性のほうが長く,大きい。頭部が小さい場合には耳は実際よりも大きく見えるため,耳の長さの評価は実際に計測して行うことが望ましい。主観的評価はやむを得ない場合にのみ用いるのがよい。耳の幅についても同様である[ Farkas, 1981]。実際に長さと幅の増加を含む用語として大きい耳(Macrotia)を通常用いる。
図 24 直線は最大径と最大幅を示す

耳介低位(Ear, Low-Set)
定義
耳介の上端が内眼角と外眼角を水平に結んだ線より下にあること(客観的)(図 25)。
コメント
耳の位置は 4 つの方法で定義される[Hall ら,2007]。耳の位置の評価については,それを一つの固定された平面上で見ることができないため,さまざまな議論がなされている[ Hall ら,2007]。フランクフルト平面では耳孔の位置をランドマークとして用いるための耳の位置評価は難しい。眼瞼裂が水平であれば平面的にみる指標となる。この定義は頭頸部の耳の位置の評価として評価者の主観的な印象による問題点を最小にする。耳の位置の主観的評価はそれを信頼しえないこと,しばしば頭部の形状や大きさ,傾斜や解剖学的変化により混乱の原因となりうることより用いにくい。
図 25 耳介の位置
外眼角の位置の違いで正常な耳介の位置が異なって見えることに留意。
・小型耳(Ear, mini):2 度小耳症(Microtia, sec-ond degree)を参照
・ピーナッツ耳(Ear, peanut):3 度小耳症(Mic-rotia, third degree)を参照

後方に傾いた耳介(Ear, Posterior Angulation, Increased)
定義
フランクフルト平面に垂直な直線と耳介中央の縦軸(最も離れた点を結んだ直線)の角度がが上記の年齢平均値より 2 SD 以上のもの(客観的)(図 26)。
コメント
正常値は入手可能[ Farkas, 1981; Hall ら, 2007]。平均角度は 20°。耳介が低位の場合はフランクフルト平面は不正確である。頭部の
図 26 後方に回転した耳の計測
*で示した角が回転角である。
位置の変化で不確実になるので耳の回転の評価は主観的に行うべきではない。耳介の形態異常があると縦軸を確実に定めることが困難である。その場合には耳介の回転を評価すること自体意味をなさない。
同義語
後方回転した耳(Ear, Posteriorly ro- atated)
・耳輪後部の溝(Ear, posterior helical groove):後部の陥凹のある耳(Helix, posterior pit)を参照
・耳輪後部の刻み(Ear, posterior helical notch Helix, posterior pit):同上
・後方回転した耳(Ear, posteriorly rotated):後方に傾いた耳(Ear, posterior angulation, inc-reased)を参照
・目立つ耳(Ear, prominent):突出した耳(Ear, protruding)を参照

突出した耳(Ear, Protruding)
定義
耳介の平面と乳様突起骨で形成される角度が,年齢人口の 97 パーセンタイル以上のもの(客観的)(図 27)。または,耳輪の外縁と乳様突起との最大距離が 2 cm 以上のもの(客観的)。
コメント
正常値は入手可能[ Farkas, 1981; Hall ら, 2007]。軽度の場合は対耳輪上脚が欠損している。程度が強い場合は耳輪の正常の折れ込みが広い範囲でみられない。しかし,これは別個に記載する。耳介が突出しているとサイズが大きく見えるが,これも別々に評価する。
同義語
Ear,prominent
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
コウモリ耳(Ear,bat)
図 27 突出して目立つ耳(protruding ears)・貝状耳(Ear, shell):2 度小耳(Microtia, sec-ond digree)を参照

短い耳(Ear, Short)
定義
耳の中央部の長径が平均の 2 SD 以下であるもの(客観的)(図 24)。明らかに耳の長さが小さい(主観的)。
コメント
耳の長さは外耳の最上部から最下部の最大距離で決められる。正常値は, Feingold と Bossert(1974),Hall ら(2007)が出生から 16 歳まで, Farkas(1981)が出生から 18 歳まで男女別に報告している。成人の男女別の長さと幅の計測値は,米軍関係機関から出版されているが入手困難である。 Ito ら(2001)による成人日本人のデータが入手可能。これらの成人の報告では,耳の長さは成人になるにしたがって大きくなり,男性のほうが女性よりも大きい。耳の長さの主観的評価は頭頸部の他の部位の大きさに影響を受けるため不正確であり,正確な計測に基づく評価が重要である。避けられれば主観的評価は行うべきではない。頻用される小耳(Microtia)という用語は耳の長さと幅の両方(表面積)の減少を含むバンドリング用語である。
・カタツムリの耳(Snail ear):2 度小耳(Micro-tia, second digree)を参照

耳輪裂(Helix, Cleft)
定義
耳輪の連続性の欠損。耳輪のどの部位にも起こりうる(客観的)(図 28,31)。
コメント
図 31 aにみられるように鋭角の裂け目の場合や,図 31 bの上方外側のように境界が不明瞭な場合がある。これはクエスチョンマーク耳とは区別する。欠損やくぼみが耳輪上部と下行部の間にある場合は,耳輪ダーウィン結節と分類される。
同義語
図 28 耳輪の正常解剖
a:上行部 b:上部 c:下行部または後部

凹んだ耳輪(Helix,notched)ひだのある耳輪(Helix, Crimped)
定義
耳輪外側表面に凹状の直線的なくぼみが耳輪に沿って存在するもの(主観的)(図 32)。
コメント
ひだ状のくぼみは耳輪下行部の中央 1/3 にみられる。あたかも耳輪をつままれたり縁を伸ばされたりしたように見え,そのために耳輪の縁も変形する。
同義語
陥凹した耳輪(Indented helix)
図 29 断面で示した耳輪の折れ込みの多様性
図 30 異常形態学の定義の検討に参加した臨床遺伝医集団にみられる耳輪の多様性
図 31 耳輪裂(cleft helix) b は凹んだ(notched)耳輪とも表せる。
図 32 ひだのある耳輪(crimped helix)

耳輪脚欠損(Helix, Crus, Absent)
定義
耳珠と耳輪上行部が連続体となり,耳甲介への延長(耳輪脚: crus)がまったく存在しないもの(主観的)(図 33)。
図 33 耳輪脚欠損(absent crus of helix)

対耳輪に連続した耳輪脚(Helix, Crus, Connected to Antihelix)
定義
耳輪脚の隆起が伸長して耳輪脚が対耳輪に連続しているもの(客観的)(図 34)。
図 34 対耳輪に結合した耳輪脚(crus helix connected to antihelix)

終端部が広がった耳輪脚(Helix, Crus, Expand-ed Terminal Portion)
定義
耳輪脚の終端部が対耳輪付近で狭くならず扇状に拡がりを示すもの(主観的)(図 35)。
図 35 広がった耳輪脚の終端

水平な耳輪脚(Helix, Crus, Horizontal)
定義
耳輪脚の主軸が,耳中央の縦軸に対して垂直であるもの(主観的)(図 36)。
コメント
水平な耳輪脚とそれに平行した対耳輪下脚で形成される平行線を「線路(Railroad track)sign」と称するが,それぞれの部分を分けて記載するのが好ましい。
図 36 水平な耳輪脚
(horizontal crus of helix)
・耳輪脚過形成(Helix, crus, hyperplastic):目立つ耳輪脚(Helix, crus, prominent)を参照
・耳輪脚過成長(Helix, crus, hypertrophic):同上
・耳輪脚形成不全(Helix, crus, hypoplastic):耳輪脚低形成(Helix, crus, underdeveloped)を参照
・耳輪脚発育不全(Helix, crus, hypotrophic):同上

目立つ耳輪脚(Helix, Crus, Prominent)
定義
耳輪脚が対耳輪幹や耳輪と同程度に成長して目立つもの(主観的)(図 37)。
コメント
この所見は図 37 に示すように多様性が大きい。「目立つ(prominent)」という判断は主観的であり,他の部位の発達の程度に影響される。耳輪脚の長さと相関があるが別個に記載する。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
耳輪脚過形成(Hypertrophic crus helix),耳輪脚過成長(hyperplastic crus helix)
図 37 耳輪脚の発達の程度
a:未発達 b:平均 c:著明

蛇行した耳輪脚(Helix, Crus, Serpiginous)
定義
耳輪脚が蛇行して対耳輪に達するもの(主観的)(図 38)。
図 38 蛇行した耳輪脚
(serpiginous crus of helix)

結合した耳輪脚(耳珠耳輪脚耳珠梁;Helix,Crus,Tragal Bridge)
定義
耳輪脚起始部の前方が耳珠の上端を包み込み,耳輪脚が耳甲介窩の上部から対耳輪まで覆っているもの(主観的)(図 39)。
コメント
対耳輪も形態異常の場合があるが別個に記載する。
図 39 結合した耳輪脚と耳珠
(tragal bridge of crus of helix)

耳輪脚低形成(Helix, Crus, Underdeveloped)
定義
平均より平坦で短い耳輪脚(主観的)(図 37a)。
コメント
この所見は図 37 に示すように非常に多様である。耳輪脚の長さとその目立ち方は比例する。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
耳輪脚形成不全(Hypoplastic crus helix),耳輪脚発育不全(hypotrophy crus helix)

耳輪 ダーウィン切痕(Helix, Darwin Notch)
定義
耳輪の上部と下行部の接続部の巻き込みが欠失した凹状のくぼみ(客観的)(図 40 b)。
コメント
耳輪の他の部位での巻き込みの欠失は耳輪裂(Cleft helix)という。

耳輪 ダーウィン結節(Helix, Darwin Tubercle)
定義
耳輪の上部と下行部の境目にある,耳輪の巻き込み部分の小さな膨らみ(客観的)(図 40 a)。
図 40 ダーウィン結節(Darwin tubercle)(a)とダーウィン切痕(Darwin notch)(b)

上行部が不連続な耳輪(Helix, Discontinuous Ascending Root)
定義
耳輪上行部と耳輪脚の間が断絶し,耳輪上行部が直接乳様突起領域に付いている(客観的)(図 41)。
コメント
まれな形態である。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
分離した耳輪上行部(Helix, ascending, detachment)
同義語
耳輪上行部の異常起始(Anomalous origin of ascending most of the helix)
図 41 耳輪上行部の分離
(Park と Roh の許可を得て掲載)
・陥凹した耳輪(Helix, indented):ひだのある耳輪(Helix, crimped)を参照
・刻み目のある耳輪(Helix, notched):耳輪裂(Helix, cleft)を参照

過剰に折れ込んだ耳輪(Helix, overfolded)
定義
耳輪の縁が耳の平面と平行になるほどの,耳輪の縁の過剰な折れ込み(主観的)(図 29 例 3,図 42)。
コメント
耳介上部の変形としては頻度が高い。耳輪後部の凸状の丸みが失われた,垂れ下がった耳輪(lop ear)とは区別する。耳輪の折れ曲がりは図 29,30 に示すように多様性が著しい。
図 42 過剰に折れ込んだ耳輪(overfolded helix)

耳輪後部の陥凹(Helix, Posterior Pit)
定義
耳輪後部中央部の永久的な陥凹で,境界が明瞭なものから不明瞭なものまでさまざまである(客観的)(図 43)。
コメント
通常は線状から楕円形であり一つまたは複数でみられる[Prescott と Hennekam, 2007]。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
後部耳輪の溝(ear, posterior helical groove),後部耳輪のくぼみ(ear, posterior helical)
図 43 耳輪後部の陥凹(pits in posterior helix)

四角い耳輪上部(Helix, Squared Superior Portion)
定義
耳輪上部が丸く曲がるかわりに平らになり,通常より水平になったもの(主観的)(図 44)。
コメント
垂れた耳(lop ear)や,サテュロス耳(satyr ear)とは混同しないこと。耳介の上部 1/3 の成長不良を示すものである。通常は短い耳輪上行部を伴う。
図 44 角張った耳輪上部
(squared superior portion of helix)

折れ曲がりの少ない耳輪(Helix, Underfolded)
定義
耳輪全体もしくは一部の耳輪の不十分な成長(主観的)(図 45)。
コメント
耳輪の折れ込みは,図 29,30 に示すように多様性が著しい。この用語は耳輪裂(cleft helix)とはいえないほど長い部位が折れ曲がりが少ないものに用いる。折れ曲がりの少ない耳輪部分は舟状窩が広がっている印象を与える。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
犬が咬んだ耳(dog-bite ear)
図 45 部分的に未発達な耳輪
(localized underdeveloped helix)