国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説




手と足(Hand and Feet) 2


足の全欠損(Foot, Absent)
定義
足の全欠損。頸骨や腓骨遠位部まで骨成分がない状態(客観的)(図 22)。
コメント
類似の定義として Foot, partial absence of を参照。
同義語
Apodia
図 22 右足の全欠損
この患者は,図 27 と同一患者である。下肢の一側が足の部分欠損で,対側は全欠損である。
・Foot,brachydactyly of:Toe,shortを参照

幅の広い足(Foot, Broad)
定義
足の幅の計測値が年齢に比して 95 パーセンタイル以上広い足(客観的)(図 23)。 あるいは,足長に比べ不釣合いに広くみえる足(主観的)。
コメント
正常値とされるデータ[ Malina ら 1973;Hall ら 2007]は 4~16 歳の基準値だけを含んでいる点に留意する。グラフ上の 16 歳の時点では,足幅はまだ増大しているので,勝手に推測しないほうがよい。よって, 16 歳以上または4歳以下では,主観的に評価されているだけ,ということになる(適切な基準値が策定され普及するまで)。Hall らのハンドブック[ 2007,pp238-239]では,足幅は,第 1 趾の中足趾節関節(MTPJ:metatarsal-phalangeal joint)の内側面から,第 5 趾の MTPJ の外側面までと記されている。Short feetを認める患者では,主観的な定義に注意して用いるべきである。Hall ら[2007]による計測の定義によれば,過剰な中足骨を含む多趾症を伴う場合,過剰趾を考慮して計測する必要がある(たとえば,軸後性の多趾症を伴う場合,第 6 趾の MTPJ から計測するなど)。この場合,基準値は 6 本趾の四肢を有す患者由来となり,多趾症を二重に計測し幅の広い足としている点で,異論が生ずるかもしれない。
図 23 左の幅広い足この症例では,前足部が中足部(midfoot)よりも幅広く見えるが,その違いはこの用語では明らかではない。
同義語
Wide foot・Foot,cleft:Foot,splitを参照

長い足(Foot, Long)
定義
在胎 27~41 週の新生児平均値の 2 SD 以上あること(客観的)(図 24)。 または,出生後から 16 歳までの小児の 97 パーセンタイル以上あること。あるいは,年齢の平均値より長く見える足(客観的)。
コメント
16 歳以上の女子では注意が必要である。女子の成長曲線は 15 歳までに,原則,平坦化するため,16 歳の基準値や分布は,より年上の個体でも基準値として用いることができる[Anderson ら,1956;Hall ら,2007]。しかし,男子の場合,成長曲線が終わる 16 歳では,まだ有意に成長しているため,16 歳以上の男子に対しては,主観的な評価となっている可能性がある。乳児では,最初の起点に対し基準値が SD で明記されている[Merlob ら,1984]。足の計測値は,正常範囲が広いため,正常な幅の長い足と,正常な長さの狭い足とを区別するのが難しいかもしれない。したがって,主観的な定義は基本的に劣っている。もし,足趾も長いのであれば,それは別個に記載すべきである。
図 24 長い足 長い指も伴っている。

幅の狭い足(Foot, Narrow)
定義
足幅の計測値が,年齢に対する 5 パーセンタイル値よりも短い足(客観的)(図 25)。 あるいは,長さに比して,不釣合いに狭くみえる足(主観的)。
コメント
正常値とされるデータ[ Hall ら, 2007]は 4~16 歳の基準値だけを含む。グラフ上の 16 歳の時点では,足の幅はまだ増大しているので,勝手に推測しないほうがよい。よって, 16 歳以上または 4 歳以下では,主観的に評価されているだけ,ということになる(適切な基準値が策定され普及するまで)。足幅は,第 1 趾の MTPJ の内側面から,第 5 趾の MTPJ の外側面までを計測しなければならない。この用語を,重複する中足骨を含む多趾症を認める個体に対し使うのは,理にかなっていないように思う。
図 25 狭い左足

骨性合趾症(Foot, Osseous Syndactyly of)
定義
硬い組織(軟骨かつ・または骨)による,趾(趾骨かつ・または中足骨)の側方(A/P)への癒合(客観的)(図 26)。
コメント
中足骨合趾症は, 2 つの中足骨を手で動かすことができないことを示すこと,あるいは 2 つの中足骨の連続性を示すことで,明らかになる(手技に関する記載については Polydactyly, mesoaxial参照)。記載には,癒合する骨について明記すべきである。骨性合趾症は, Symphalang-ismとは異なる。なぜなら Symphalangismでは,長軸方向に指節骨関節の癒合が起こるからである(P/D 軸)。骨奇形の正確な性状については, X 線検査なしに決められない。合趾症が骨性か皮膚性かわからないとき,“syndactyly”という用語を無制限に使うべきではない。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Syndactyly(形容詞なしで用いる場合)
図 26 足の骨性合趾症
この所見の有無を判定するために,用いられる手技を示した図。異常所見は示されていない。 2 つの隣接する中足骨を握り,癒合しているのか,いないのかを決めるため,それらを交互に動かす。

足の部分欠損(Foot, Partial Absence of)
定義
中足骨の遠位まで骨成分を含まない不完全な足の欠損。中足骨のある程度,または,すべてが残っている状態(客観的)(図 27)。
コメント
類似語として Foot, absentがある。
図 27 左足の部分的な欠損
図 22 と同一患者。下肢の一側は完全欠損,対側は部分欠損。

軸後性多趾症(Foot, Postaxial Polydactyly of)
定義
母趾ではない,過剰趾が存在すること(客観的)(図 28)。
コメント
過剰趾(母趾ではない)はほとんどが腓骨側の趾である,と多くの症例で信じられてきたが,これには明確なエビデンスがない。足趾が小趾であるとき,単純化の原理(parsimony)により,このことは理にかなっているようにみえる。その趾が十分に形成され,過剰な中足骨を伴い,十分機能しているとき,どの趾が過剰であるかを決めることは困難かもしれない。とはいえ,軸後性とする表記は,今までも使われてきたことを考えると,理にかなった記述である。軸後性多趾症は,2 つの型に大別されてきた。すなわち, A が十分形成された趾,B が小さな,または肉茎程度の不明瞭な,機能しない付属物のような趾である。軸後性多趾症は実際,A から B までさまざまなスペクトラムがある点に留意すべきである。型が決まられないとき,亜型表記はしない。用語として,発生学的な posterior の代わりに postaxial という言葉を用いるが,これは postaxial が臨床医学の領域で確立された言葉であることに基づく。
同義語
Posterior polydactyly 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Posteror dupulication of the limb/foot;fibular polydactyly
図 28 左足の軸後性多趾症
  小さな爪も認められる。

軸前性多趾症(Foot, Preaxial Polydactyly of)
定義
第 1 ray のすべてあるいは一部の重複(客観的)(図 29)。
コメント
この奇形のスペクトラムは幅広い。スペクトラムの軽い症状としては, 2 つに割れた爪,中央の欠落や二分された趾尖を伴う母趾末節骨がある。前後の裂を認識できない幅広い母趾は, Broad halluxと表記すべきである。趾の数は,軸前性多趾症の所見に影響されるかもしれない。指趾の番号付けはイントロダクション参照。 ray 全体よりも少ない重複母趾には“部分(partial)”を,3 つすべての骨が完全に重複する趾には“完全(complete)”を付記して,用語を任意に修飾してよい。
同義語
Anterior polydactyly 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Anterior dupulication of the limb;Tibial polydactyly
図 29 A:右足,軸前性多趾症 ほぼ完全な重複である。B:右足,軸前性多趾症 同じ所見であるが,重複している趾は図 29A よりも分離している。

揺り椅子状の足底(Foot, Rocker Bottom)
定義
目立つ踵および凸面の曲線,両方を認める足底(主観的)(図 30)。
コメント
この用語は,バンドリング用語であるが,一般によく用いられるため,グループの総意により掲載した。
図 30 左足,揺り椅子状の足底

短い足(Foot, Short)
定義
足長が在胎 27-41 週の新生児に対する平均値より, 2 SD 以下の短いこと(客観的)(図 31)。 あるいは,出生後から 16 歳までの小児に対し, 3 パーセンタイル以上あること。あるいは,不釣合いに短くみえる足(客観的)。
コメント
16 歳以上の女子では注意が必要である。女子の成長曲線は 15 歳までに,原則,平坦化するため,16 歳の基準値や分布は,より年上の個体でも基準値として用いることができる[Anderson ら,1956;Hall ら,2007]。しかし,男子の場合,成長曲線が終わる 16 歳では,まだ有意に成長しているため,16 歳以上の男子に対しては,主観的な評価がなされている可能性がある。乳児では,最初の起点に対し基準値が SD で明記される[Merlob ら,1984]。足長は中足骨や第 1 趾と同様に,相対的に長い踵骨や足根骨を含む。したがって,計測された手足の長さは,種々の成長障害を反映している可能性がある。足長は,もし個体が Pes cavusや Pes planusを有すのであれば,解釈は注意すべきである。
図 31 短い足

裂足(Foot, split)
定義
第 1-5 趾を除く,縦方向への足の趾放射digital ray)の欠損(主観的)(図 32)。
コメント
欠損症と診断する閾値は, ray 上の指趾すべての欠損,および,少なくとも中足骨の一部欠損と記述すべきである。ただし,足趾がないだけなら,Absent toeを用いるべきである。中央列の欠損(central ray)はしばしば,裂足の概観を呈する。この場合,用語は指趾の低形成や切断のさまざまな形状に対し,しばしば用いるように“ectrodactyly of the foot”とするのがよい。カニ爪様変形“Lobster claw deformity”は叙述的でないうえ,受け入れがたい表現である。罹患した足のバリエーションは広いが,共通するのは中央列の欠損であり,臨床的な表記として, Split footが最も適している。
同義語
Cleft foot 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ectrodactyly;Lobster claw deformity
図 32 A:左足,裂足 B:裂足患者 A と比べて,B は足の刻み目は重度であり深い。ほかの罹患趾の形や数はかなり多様である。
・Foot,wide:Foot,broadを参照

母趾欠損(Hallux, Absent)
定義
母趾の指節とその軟部組織の両方にみられる欠損(客観的)(図 33)。
コメント
これは,中足骨の欠損を伴わない。定義では,部分的な母趾欠損を除外している。 Oli-godactyly や hypodactyly は,軸前性指趾(thumb や great toe)の喪失と第 2-5 指趾の喪失との違いを考慮して,もっと特異的な用語で置き換え表記される。母趾と 1 つ以上のその他の足趾が欠損するとき, Absent halluxと Absent toes,T2-3に分けて表記するのではなく, Absent toes,T1-3と記載するほうが簡便である。
同義語
Absent great toe 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypodactyly;Oligodactyly
図 33 右足,母趾の欠損

幅広い母趾(Hallux, Broad)
定義
腹側や背側への肥大がなく,幅が見た目にも増大している母趾(主観的)(図 34)。
コメント
幅広い母趾では周囲長の増大を認めるかもしれないが, Macrodactylyと区別しなければならない。なぜなら, Macrodactylyは長さも増大しているからである。短い母趾の場合,この評価は難しいかもしれない。Broad toesとは別個の定義であることに注意する。母趾と 1 つ以上の他の足趾が罹患している場合, Broad halluxと Broad toes,T2-5と分けて表記する代わりに, Broad toes,T1-5と記載するほうが簡便である。
同義語
Broad great toe
図 34 右足,幅広い母趾  
図 60 B も参照

ハンマー状趾(Hammertoe)
定義
MTPJ の過伸展に PIPJ の過屈曲を伴ったもの(主観的)(図 35)。
コメント
この用語は異常に対する不完全な記述であるので,“背屈された趾(dorsiflexed toe)”というフレーズに置き換えられる[Yourgら,2005]。この用語は小槌趾(mallet toe)と同義語ではない。 
図 35 左足 T3,ハンマー状趾 図 57 も参照
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Dorsiflexed toe

手の全欠損(Hand, Absent)
定義
橈骨や尺骨の遠位部に骨成分を認めない手の全欠損(客観的)(図 36)。
コメント
類似語に Hand, partial absenceがある。
同義語
Acheiria
図 36 左手の全欠損
この所見の定義に必要な所見ではないが,橈骨や尺骨の短縮を認める。
・Hand,brachydactyly of:Finger,shortを参照
・Hand,cleft:Hand,splitを参照

握りしめた手(Hand, Clenched)
定義
すべての指趾が中手指節関節(MCPJ)と指節間関節(IPJ)で完全に屈曲している状態(主観的)(図 37)。
コメント
Camptodactylyとは区別される。異常を認める指が 5 本よりも少なく,しかも, MCPJ を含まないという点で,Camptodactylyとは異なる。手指が手掌で屈曲位を取るとき,折り重なっていてもよい。観察される折り重なり指を別個に明記する必要はない。
図 37 右手の握りしめた手
左手はこの用語の定義を満たしてない。なぜなら,指のすべてが MCPJ や IPJ で完全には屈曲していないからである。左手は,折り重なり指(Overlap-ping fingers)であり, F23,F54 の所見を満たしている。
・Hnad,long:Palm,longを参照
・Hnd,narrow:Palm,narrowを参照

骨性合指症(Hand, Osseous Syndactyly of)
定義
硬性組織(軟骨かつ/または骨)による指趾(趾骨かつ/または中足骨)の側方(A/P)への癒合(客観的)(図 38)。
コメント
中手骨合指症は, 2 つの中手骨が検者によって別個に手で動かせることで,実証される(この手技に関する記述については Mesoaxial polydactyly参照)。合指趾症を X 線写真なくして実証するのは難しいかもしれない(“mitten hand”とよばれてきたものでよくみられる)。この用語では癒合した骨を含む。骨性合指症は, Sympha-langyとは異なる。Symphalangyでは,長軸方向に指節骨の癒合が起きる(P/D 軸)。多指症を伴う場合,この用語の使用法に関する考察は, Mesoaxial polydactylyを参照。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Syndactyly(形容詞なしで用いる場合)
図 38 手の骨性合指症
この所見の有無を判定するために,用いられる手技を示した図。異常所見は示されていない。 2 つの隣接する中手骨を握り,癒合しているのか,いないのかを決めるため,それらを交互に動かす。

軸後性多指症(Hand, Postaxial Polydactyly of)
定義
母指ではない,過剰指が存在すること(客観的)(図 39)。
コメント
過剰指(母指ではない)はほとんどが尺側の指である,と多くの症例で信じられてきたが,これには明確なエビデンスがない。手指が小指であるとき,単純化の原理(parsimony)により,このことは理にかなっているように思える。その指が十分形成されており,過剰な中手骨を伴い,機能しているとき,どの指が過剰であるかを決めることは難しいかもしれない。とはいえ,軸後性に関する記述では,今までも使われてきたものだが,理にかなった表記法がある。軸後性の多指症は, 2 つの型に大別されてきた。すなわち, A が十分に形成された指,B が小さな,または肉茎程度の不明瞭な,機能しない付属物のような指である。軸後性多指症は実際, A から B までさまざまなスペクトラムがある点に留意すべきである。型が決められないときは亜型表記しない。
図 39 A:右手,軸後性多指症タイプ A
B:右手,軸後性多指症 タイプ A と B の中間型のような指をしている。そのため,タイプを特定することはできない。図 49 A,
58 A,73 A も参照。タイプ B の軸後性多指症の例は図 9 A,11 A を参照。
同義語
Posterior polydactyly 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ulnar polydactyly;Posterior duplication of the limb/hand

軸前性多指症(Hand, Preaxial Polydac tyly of)
定義
第 1 ray のすべてあるいは一部の重複(客観的)(図 40)。
コメント
この奇形のスペクトラムは幅広い。スペクトラムの軽い症状としては, 2 つに割れた爪,中央の欠落や二分された指尖を伴う母指末節骨,がある。前後の裂を認識できない幅広い母指は,Thumb,broadと表記すべきである。指の数は,軸前性多指症の所見に影響されるかもしれない。指趾の番号付けはイントロダクション参照。 ray 全体よりも少ない重複母指(中手骨と 2 つの指節)には“部分(partial)”を, 3 つすべての骨が完全に重複する指には“完全(complete)”を付記し用語を任意に修飾してよい。
図 40 A:左手,部分軸前性多指症   B:右手,軸前性多指症
同義語
軸前性多指症(Anterior polydactyly) 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Anterior dupulication of the limb/hand;Radial polydactyly