国際基準に基づく小奇形アトラス 形態異常の記載法 ―写真と用語の解説




手と足(Hand and Feet) 4


中手骨/中足骨の欠損(Ray, Absent)
定義
関連する中手骨/中足骨のすべての指節骨の欠損(客観的)(図 60)。
コメント
この用語では,指節骨の欠損に加え,中手骨や中足骨の欠損が必要である。 Absent thumb,Absent hallux,Absent toes,Absent fin-gersとこの所見を比較すべきである。多くの場合,中手骨/中足骨の欠損が,触診によって評価できるが,なかには X 線撮影が役立つ場合もある。この定義は,Split handや Split footの除外が必要である。もし患者がこれらいずれの用語にも当てはまるのであれば,それらを使用すべきであり, Absent rayを用いるべきではない。
図 60 A:右手,中手骨の欠損(absent ray) 末節骨の短縮や,短い爪などもみられる。
B:左足,中足骨の欠損(absent ray) 幅広い母趾もみられるが,別個に記載すべきである。

サンダルギャップ(Sandal Gap)
定義
第 1-2 趾間の幅広く開いた間隙(主観的)(図 61)。
コメント
用語は主観的なものであるが,趾間の間隙は,第 2 趾の幅と同じぐらい広い。
図 61 A:右足,サンダルギャップ  B:両足,サンダルギャップ 図 48,51 も参照

凸状の論郭を伴う足底(Sole, Convex Contour of)
定義
足の側面の曲線が,凸状に形づくられていること(主観的)(図 62)。
コメント
この用語は,尖った踵を伴わず凸状の曲線が形成されるときに使われるもので,バンドリング用語 Rocker bottom footも包含している。
・Streblodactyly:Camptodactylyを参照
・Syndactyly:Finger, cutaneous syndactyly of;Toes, cutaneous sundactyly of;Foot, osseous syndactyly of;Hand, osseous syn-dactyly ofを参照
図 62 右足,足底側面の凸状の曲面
この患者の踵は,Rocker bottom foot の定義を満たすほど,十分に突出してはいない。

小さな母指球(Thenar Eminence, Small)
定義
母指周辺の手掌軟部組織の減量(主観的)(図 63)。
コメント
減少している軟部組織は,通常,短母指外転筋と短母指屈筋群である。とくに軽度の症例では,異常所見の判定に,臨床的な判断が必要である。母指基部の筋群が減少すると,第 1 中手骨の手掌面上に軽度の凹面が認められるかもしれない。片側性の場合,両手を比較することで,母指球筋の曲面における軽微な変化に気づくだろう。程度の重い場合,手掌の幅は近位部にかけて先細りになるかもしれない。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Thenar hypoplasia・Terminal phalanx,Short:Finger,short distal phalanx of;Hallux, short distal phalanx of;Thumb, short distal phalanx of;Toe, short distal phalanx ofを参照
・Thenar hypoplaisa:Thenar eminence,smallを参照
・Thumb aducted:Thumb,hitchihikerを参照
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypodactyly;Oligodactyly
図 63 右手,小さな母指球
母指のみで太鼓バチ指も認める。右手の長い手掌長もみられる。

母指欠損(Thumb, Absent)
定義
母指の指節骨,および,それと関連する軟部組織,両方の欠損(客観的)(図 64)。
コメント
この用語では,中手骨の欠損は必要条件ではない。この定義では, Partial absence of the thumbを除外する必要がある。 Oligodactyly や hypodactyly は,母指と F2-5 の喪失を区別するよう,さらに特異的な用語で置き換えられてきた。“oligodactyly”という用語は,母指以外の指に対応する用語のため, “oligodactyly of thumb”や“oligodactyly F1”という言い方は無意味である。
図 64 左手の母指欠損

内転母指(Thumb, Adducted)
定義
安静時に母指の指尖が第 4-5 指の基部に接するか,近傍にあること(主観的)(図 65)。
コメント
母指は屈曲内転している。ここで記述した以上に程度の軽い内転,たとえば, F2 あるいは F3 基部の近くまでしか母指の指尖が達していない場合も,この用語を用いてよい。
図 65 右手の内転母指

幅の広い母指(Thumb, Broad)
定義
背側や腹側方向への増大がない,幅の広い母指(主観的)(図 66)。
コメント
本来,母指の幅は個人差が大きく,この所見に関する閾値を設定することは難しい。通常,両側性なので,対側と比較することは役立たない。なかには, DIPJ で計測された第 2 指の幅の 1.5 倍以上ある母指(IP で計測)を Broad thumb と定義する,と提案しているものもある。しかし,これを支持するデータはない。この用語は,Macrodactylyに合致する母指については用いられるべきではない。出生時に 9.8 mm(1 SD= 0.5 mm)とする母指幅の基準値が報告されているが,広く用いられてないうえ,在胎週数や SGA の体格が考慮されていない。母指が短いとき,この評価が難しい。
図 66 幅広い母指  図 9A も参照
同義語
Broad pollex;Wide thumb・Thumb,digitalized:Thumb,triphalangealを参照

ヒッチハイカー母指(Thumb, Hitchhiker)
定義
力の入っていない手と手掌平面にある母指において,母指の軸が手の長軸に対して 90°以上の角度にあること(客観的)(図 67)。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Abducted thumb
図 67 右手のヒッチハイカー母指

母指の部分欠損(Thumb, Partial Absence of)
定義
母指の指節骨の欠損(客観的)(図 68)。
コメント
欠損部分を明記してもよい。“遠位の(distal)”という修飾語句は末節骨の欠損を示しており,臨床的には爪の欠損で定義される。この所見は Short thumbと区別される。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypophalangy
図 68 右手,母指の部分欠損 F2-4 の手指欠損と F5 の手指部分欠損も認める。

母指の近位位置異常(Thumb, Proximal Placement of)
定義
母指位置指数(thumb placement index)が 0.55 より大きい(客観的)(図 69)。母指の基節部が通常よりも手首の近くにみえること(主観的)。
コメント
thumb placement index の測定法については,Malina ら[1973],Hall ら[2007]が詳述している。簡単にいえば, thumb placement index とは,第 2 指の近位皮線から第 1 指間間隙の角度までの距離を,第 2 指の近位皮線から母指基節部の手関節屈曲皺までの距離で除したものである。この用語を,Preaxial polydactylyとともに用いるべきではない。
図 69 右手,母指の近位部への位置異常 F2 の短指症も認められる。

三関節母指(Thumb, Triphalangeal)
定義
近位から遠位へかかる一つの軸において,3 指節骨を有す母指(客観的)(図 70)。
コメント
1 つの PD 軸上で,という条件が必要な理由は,Preaxial polydactylyの一部において,2 つの末節骨と 1 つの基節骨を有す,部分重複母指の形態を呈した場合,問題となるからである。この所見は,母指多指症の軽症型で代用される。三関節母指は,母指を診察かつ/または理学的に触診することで評価できる。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Digutalized thumb;Finger-like thumb
図 70 右手,三関節母指・Tibial polydactyly:Foot, preaxial polydac-tyly ofを参照

欠趾症(Toe, Absent)
定義
母趾ではない,すべての趾の趾節骨および関連する軟部組織の欠損(客観的)(図 71)。
コメント
この用語では,中足骨の欠損は必要項目ではない。難しいかもしれないが,罹患した趾を明記すべきである。後者の場合であれば,(失われた趾の由来は特定できないので)Absent toe, right foot と表記すべきである。この定義は, Par-tial absence of the toeを除外している。この, absent toe という定義は,Absent halluxを考慮していない。なぜなら,失われた趾が母趾であれば,通常明白だからである。極端な骨性かつ皮膚性合趾症を有す 2 つの趾と無趾症(absent toe)を区別することは難しいかもしれない。もしすべての趾が喪失していたら,Adactylyという用語を使用すべきである。 Oligodactyly という用語は,同義語として用いられるかもしれないが,失われた趾が特定されない場合に限られる。たとえば,患者が olygodactyly F5 を有す,と記載するのは誤りである,なぜなら, oligodactyly は実在する趾に使われ,しかも F5 が欠損している趾に用いられているからである。これは厄介な問題であり,多く欠損した趾の序列を決める際に混乱を招く可能性がある。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypodactyly
同義語
Oligodactyly
図 71 右足の欠趾症

幅の広い趾(Toe, Broad)
定義
背側腹側方向に増大せず,明らかに幅が増大している母趾以外の趾(主観的)(図 72)。
コメント
幅広い趾では周囲長が増大するかもしれないので注意すべきであるが,加えて長さも増大する Macrodactylyとは区別しなくてならない。罹患した趾は明記されるべきである。趾が短いと,この評価は難しいかもしれない。この用語は,第 1 趾には用いられない, Broad hallux参照。もし, 5 本すべての趾が幅広いならば,その患者には,両方の用語を用いるべきである。
図 72 左足 T1 の幅広い趾 図 92,94,101 も参照

皮膚性合趾症(Toe, Cutaneous Syndactyly of)
定義
2 つの趾の一方の P/D 軸の長さの少なくとも半分を含んだ,隣接する趾の間で, A/P 軸上でみられる軟部組織の連続性(客観的)(図 73)。あるいは,先の客観的なクライテリアに合致しない 2 つの趾の間で,A/P 軸上で軟部組織が連続していること(主観的)。
コメント
趾(または一部)が, P/D 軸上にある趾間において,通常存在し得ない軟部組織によって結合していること。合趾症の定義は,合指症のそれと若干異なっている。趾節骨の長さが短く,程度の評価が実用的ではないため,手の定義を足に用いるのは困難と考えられてきた。“完全(complete)”という修飾語句は,合趾症が爪床の末端部まで続くのであれば,使われるかもしれない。罹患した趾を明記すべきである。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Syndactyly(without specification);Zygodactyly
図 73 A:左足 T1-6 の完全な皮膚性合趾症
左足の軸前性多趾症も認められる。
図 58B,59,78,92,101 も参照
B:両足 T2-4 の皮膚性合趾症
定義で明記されているように,趾の腹側背側の半分以上,合趾症が伸長していれば,客観的な所見といえる。
・Toe, great;第 1 趾にあたる語は‘Hallux’や‘ Toe’で始まる語で列挙されている。
・Toe,hypoplastic:Toe,smallを参照

長い趾(Toe, Long)
定義
足に比して不釣合いに長くみえる趾(主観的)(図 74)。
コメント
この所見は,正常な趾の長さであるものの薄い趾節骨や,正常な長さの趾をもつ中足かつ後足の趾節骨と区別されなければならない。罹患した趾を明記すべきである。 Arachnodactyly という用語は,患者の指趾を蜘蛛のそれに似ている,と軽蔑して表現したものと考えられ,用いるべきではない。四肢の一塊の趾だけが長いのであれば,罹患した趾を詳記すべきである。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Arachnodactyly
図 74 左足,長い趾 図 24,79 も参照
・Toe,narrow:Toe,slenderを参照

折り重なり趾(Toe, Overlapping)
定義
安静時に隣接する趾の背側表面に重なっている足を表記したもの(客観的)(図 75)。
コメント
この用語は,イントロダクション(項目 3)で示されたように,どの趾が関与しているかにしたがって序列化される。たとえば, T3,4 では,序列化した番号は,どの趾から背側にあるかを明示している,すなわち足の背側が上方に向いている状態で,まず一番上にある趾が記録され,折り重なっている趾から順にカンマで区切られる。側方に偏位するものの,隣接する趾には重ならない趾は,Clinodactylyとして表記すべきである。
図 75 両足,T45 の折り重なり趾

趾の部分欠損(Toe, Partial Absence of)
定義
足趾あるいは母趾の指節骨の部分的な欠損(客観的)(図 76)。
コメント
欠損した趾の一部は明示されるかもしれない。“遠位の(distal)”という修飾語句は末節骨の欠損を示すもので,これは臨床的には爪の欠損によって定義される。“近位の(proximal)”という修飾語句は,爪が存在する基節骨あるいは中節骨の欠損を示すものである。X 線撮影なしにどの指節骨が欠損したか知るのは難しく,撮影しても失われた骨は同定されないかもしれない(中節骨と基節骨を区別しようとするのは難しい)。この場合,隣接する状況は除外されるべきである。この所見は, Short toes(長さの減少はあるものの,指節骨の数は正常な状態)と区別しなければならない。 Partial absence of the halluxは母趾に対して用いるべき,もう一つの用語である。 
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Hypophalangy
図 76 右足,T2,4 の部分的な趾の欠損先細りの趾を示す 図 82 とまったく同じ所見である。

短趾症(Toe, Short)
定義
足に比して不釣合いに短く見える趾(主観的)(図 77)。
コメント
周囲長の増大はあるものの長さ正常な趾,および正常な長さの趾を有す中後足の趾と,この所見は区別されなければならない。罹患した趾は,イントロ内の既述のように,明記されるべきである。同義語として brachydactyly を記載したが,この用語の使用法は Bell の分類法での同じ言葉の使い方と区別する必要がある(Short fin-gers参照)。
同義語
Brachydactyly of the foot
図 77 右足,T1-5 の短い趾  T2,3 の末節骨の短縮も認められる。