手と足(Hand and Feet)
手の橈側偏位(Hand, Radial Deviation of)
定義
手首において,手の長軸が軸前(橈骨)側方向に偏位すること(主観的)(図 41)。
コメント
この所見は,橈骨の短小や無形成と関連しているかもしれないが,定義の要件としてこれらは必要なく,別個に表記されるべきである。 “clubhand”という用語は,軽蔑的な意味を含むため,ほかの用語で代用される。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Radial clubhand;Clubhand
図 41 右手,橈骨側への偏位・Hand, short:Palm, short;Finger, short
小さな手(Hand, Small)
定義
年齢や体格に比べ全体的に小さく,正常な均整が保たれている手(さまざまな手の要素は互いに均整が取れている)(主観的)(図 42)。
コメント
これはバンドリング用語であるが,聞き慣れた用語であり,扱いづらくなるので,構成要素の所見について記載することはない。この
図 42 小さな手 先細り指も認められる。
用語の代わりに,客観的に定義されてある Short fingers,Short palms,Narrow palmsなどを用いて患者を記載するほうが,間違いなく優れている。こうした評価に用いられる客観性のある基準値は,中指・手掌長や手掌幅以外に存在しないことに留意すべきである。肢端歪小症(acromicria)という用語も,いくつかの定義があり推奨されない。この用語は,小頭症,顔貌の特徴などの意味を含んでいるが,ほかの定義では,手足の指趾の意味だけを含んでいる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Acromicria
裂手(Hand, Split)
定義
第 1 もしくは第 5 指を除く,縦方向への手の指放射(digital ray)の欠損(主観的)(図 43)。
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Split hand と診断するには,中央列(central ray)にある指節骨(F1 や F5 ではない)の全欠損,かつ少なくともその指と関連する中手骨の部分欠損を伴うものでなくてはならない(単なる,手指の喪失であれば, Absent fingerとすべきである)。 中央列やその他の列の欠損は,しばしば裂手の概観を呈する。 Split hand は指節骨の低形成や切断という形態に対し用いられてきた“ectrodac-tyly of the hand”と記載するのもよいが,広く使われる用語であることも事実である。カニ爪様変形“Lobster claw deformity”は叙述的な記載ではなく,軽蔑的な意味を含むため受け入れ難い表現である。患者の罹患した手のバリエーションは広いが,共通するのは中央列の欠損であり,臨床的な表記としては,Split handが最も適している。
同義語
Cleft hand
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ectrodactyly;Lobster claw deformity
図 43 右手の裂手
三叉手(Hand, trident)
定義
F1 や F5 の相対的な位置関係は正常で, A/P 軸(手掌平面における)に沿って放射状に広がる F2-4(主観的)(図 44)。
コメント
この用語は,指の広がり方に対する亜型であるが,実用的な診断には,別個の定義が必要である。専門用語を扱うグループの間では,この用語に対するさまざまな定義が存在するため注意が必要である。しかしながら,ここで示す定義についてはコンセンサスが得られている。
図 44 左手の三叉手
先細り指もみられるが,この定義には必要ない所見である。
手の尺側偏位(Hand, Ulnar Deviation of)
定義
手首において,手の長軸が軸後(尺側)方向に偏位すること(主観的)(図 45)。
コメント
尺骨の短小や無形成と関連することがあるが,定義に必要な所見ではない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Ulnar clubhand;Clubhand
図 45 右手の尺側偏位 F2-3 の尺側偏位や F45 の折り重なり指も認められる。
・Hand, wide:Hand, broadを参照
突出した踵(Heel, Prominent)
定義
踵の後方突出部における,とりわけ目立つ突起(主観的)(図 46)。
コメント
この所見に関しては,実用的な閾値や際立った特徴が見当たらないので,検者の経験に頼らなければならない。
図 46 突出した踵
・Hypodactyly:Finger, absent;Hallux, absent; Thumb, absent;Toe, absentを参照
・Hypophalangy:Finger, partial absence of; Toe, partial absence ofを参照
小さな小指球(Hypothenar Eminence, Small)
定義
手掌の尺側における筋肉量の減少(主観的)(図 47)。
コメント
典型例では小指外転かつ短小指屈筋における軟部組織の減少がある。これは, Small thenar eminenceよりも区別するのがずっと難しいかもしれない。定義のなかでも,同じ考え方について要点がまとめられている。
図 47 左手,小さな小指球 F2-5 の短指症,F2-3 の橈骨側偏位もみられる。
・Limb,anterior duplication of:Foot,preaxial polydactyly of;Hand, preaxial polydactyly ofを参照
・Lobster claw deformity:Foot,split;Hand, splitを参照
巨指趾症(Macrodactyly)
定義
反対側の非罹患指,または,年齢/体格から予測される指と比較して,指のほとんどあるいはすべての長さや周囲長が明らかに増大していること。周囲長は,指の側方および腹側および背側への増大を伴っている(主観的)(図 48)。
コメント
指の周囲長に関する基準値は知られていない。一般集団でも実際には,指の周囲長はさまざまと考えられる。この所見は,期待されたものと,観察されたものとの大きさが有意に違うとき,検者の判断によって評価される。罹患している指を明記すべきである。増大したサイズの構成成分(骨成分,結合組織など)を定義では明示する必要はないが,浮腫は除外すべきである。周囲長は,指のほとんどなのか,または,全部なのかという要件は,巨指症と幅広い指尖とを区別する際,重要となる。巨指症では周囲長は全周を意味するので, Broad fingersあるいは Broad fin-gertipsと区別されなくてはならない。つまり,巨指症は幅広い指や指尖に対する用語ではなく,側方向(A/P)への幅だけが有意に増大している用語である。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
図 48 A:左手 F2-3 の巨指症 屈指症も認めるが,その所見は,別個に記載されるべきである。B:右足 T1-2 の巨趾症 幅広い趾間がみられる。 図 18,81,83 も参照
Megalodactyly;Pachydactyly・Megalodactyly:Macrodactylyを参照
短い中手骨(Metacarpal, Short)
定義
同一の手の他の中手骨または反対側の中手骨と比較して, 1 つあるいはそれ以上の中手骨の長さが短いこと(主観的)(図 49)。
コメント
中手骨短小は,いくつかの中手骨に及んでいる可能性がある,そして,罹患している列(ray)を明記すべきである。握ったとき手を手背側から観察することで,短い中手骨を評価することができる。もし, F2-5 の中手骨が短いのであれば,Short palmと修正すべきである。罹患している指を明記すべきである。
短い中足骨(Metatarsal, Short)
定義
中足骨の長さが短く,結果的に関連する趾が近位部へ偏位した状態(主観的)(図 50)。
コメント
これは主観的な評価であり,一般的には,MTP 関節の位置を,対側の同部位と比較,あるいは,他の列(ray)と比べて短縮している列の位置とを比較することで評価される。罹患した指を明記すべきである。
図 49 A:左手 F5 の短い中手骨 B:左手 F34,右手 F4 の短い中手骨
この患者の手は,指が屈曲した状態で背側からみたものであるが,短い中手骨が強調されて見えている可能性がある。
図 50 両足 T3,4 における中足骨の短縮
内転中足(Metatasus, Adductus)
定義
中足骨が脛骨側に偏位していること(主観的)(図 51)。
コメント
この所見に対する客観的な閾値がないので,主観的な考えに基づいた定義である。
・Oligodactyly:Finger,absent;Toe absentを参照
・Pachudactyly:Finger, broad;Macrodactylyを参照
図 51 左足の内転中足
サンダルギャップも認められる。
幅の広い手掌(Palm, Broad)
定義
出生後から 4 歳までの小児に対し,手掌の幅が平均値の 2 SD 以上あること,あるいは, 4 歳から 16 歳までの小児に対し,手掌の幅が 95 パーセンタイル以上あること(客観的)(図 52)。あるいは,手掌の幅が,手掌長に比べて不釣合いに広くみえること(主観的)。
コメント
手の幅は, MCPJ のレベルで手掌を計測する(F2 の MCPJ の橈骨面から, F5 の MCPJ の尺骨面までを計測)[Hall ら,2007]。短い中手骨(short metacarpals)は幅広い手掌(broad palm)と似た病像を呈すことがあるので,主観的な評価には注意が必要である。過剰な中手骨を伴う多指症では,過剰な中手骨を別個に記述し,また,Hall らの計測法[ 2007]を用いる場合,過剰指を考慮した変法で計測する必要がある(たとえば,軸後性多指症で第 6 MCPJ まで計測する場合)。
図 52 左手の幅広い手掌
手掌長が正常であることに注意する,つまり,明らかな幅広い手掌を認めるのみで,短い手掌を伴う症例ではない。
同義語
Wide palm
長い手掌(Palm, Long)
定義
出生後から 16 歳までは,手掌長が 97 パーセンタイル以上あること(客観的)(図 53)。手掌長が手指や四肢の長さに比べて相対的に長いこと(主観的)。
コメント
手掌長については, Feingold と Bossert[1974]と Hall ら[2007]によって基準が示されている。手掌長は,手首の遠位屈曲線から,F3 の MCPJ の屈曲線までを計測する。“long hand”という用語は,2 つの別個の用語,Long fin-gers(前述のように,これ自体がバンドリング用語の可能性あり)と Long palmのバンドリング定義であり,用いるべきではない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Long hand
図 53 長い手掌
手掌の幅が正常であることに注意する,つまり,明らかに長い手掌を認めるのみで,狭い手掌を伴う症例ではない。この図は,多くの他の特徴を示しているが,それらについては詳説しない。
図 63,85 も参照
幅の狭い手掌(Palm, Narrow)
定義
手掌の幅が,出生後から 4 歳児までは平均値の 2 SD 以上を下回っていること。 あるいは, 4 歳から 16 歳までは,手掌の幅が 5 パーセンタイル以下であること(客観的)(図 54)。あるいは,手掌の幅が,手掌長に比して不釣合いに狭く見えること(主観的)。
コメント
手掌の幅は, MCPJ のレベルで手掌をまたいで計測する(F2 の MCPJ 橈骨側面から, F5 の MCPJ 尺骨側面まで)。Hall ら[2007]によって基準が示されている。手掌が不釣合いに長く,幅が狭くみえるだけで,手掌の幅は正常範囲かもしれないので,主観的な評価であることに注意すべきである。この所見は,一般的に細長い四肢と関連するのかもしれないが,細長い四肢が,狭い手掌と一致するわけではない。手掌近位部の狭小は,小さく低形成な母指球を示唆するものかもしれない。この用語は,そうでもないのだが,母指を含む印象が残るため,“narrow hands”を代わりに用いることがある。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Narrow hand
図 54 狭い手掌
この患者は正常な手掌長であった,つまり,明らかに狭い手掌を認めるのみで,長い手掌を伴う症例ではない。
短い手掌(Palm, short)
定義
出生後から 16 歳までの小児に対して,手掌長が 3 パーセンタイル以下であること(客観的)(図 55)。あるいは,手掌長が,指や四肢の長さに比べて相対的に小さく見えること(主観的)。
コメント
手掌長については, Feingold と Bossert[1974]と Hall ら[2007]によって基準が示されている。この用語は,第 2-5 指の中手骨がすべて短縮している個体に対し用いられる。 4 本よりも短縮した中手骨が少ない個体では, Short metacarpalと表記すべきである。この所見に関するさまざまな意見に対しては, Small handのイントロを参照。“Short hand”は,すでにある 2 つの別個の用語,Short fingers(前述のように,これ自体,バンドリング用語の可能性あり)と Short palmの組み合わせになるので,用いるべきではない。
図 55 短い手掌
この患者では短指症もみられる。指の口径は正常なので,小さな手(small hands)の所見は認められない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Short hand・Palm,wide:Palm,broadを参照。
凹足(Pes, Cavus)
定義
定常的な高い足底動脈弓の存在(主観的)(図 56)。
コメント
閾値や基準値を設定できないので,
これは主観的な定義である。この所見を評価する場合,検者は経験に頼らざるをえない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
High arch
図 56 凹足
この患者では,尖足(pes equinus)がみられる,といわれる可能性があるが,そのような用語は,最近の専門用語セットには含まれていない。
扁平足(Pes, Planus)
定義
立位時に,地面や床に足底弓が接触している足(客観的)(図 57)。 あるいは,横たわっている患者に対し,体重を支えているときにかかるのと同様の圧力で検者が足を圧迫した場合,足底弓が平板の表面に接触する足(客観的)。あるいは,足底弓の高さが減少している状態(主観的)。
コメント
常識的な方法を用いて,どうしたら動けない個体にも 1 番目の定義を当てはめられるかと考え, 2 番目の定義を,このワーキンググループで考案した。この評価方法に関するデータはなく,有用性に関するフィードバックが必要である。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Dropped arches;Fallen arches
図 57 左足の扁平足
・Pollex:“Thumb”のついた用語を参照
・Polydactyle,anterior:Foot,preaxial polydac-tyly of;Hand,preaxial polydactyly ofを参照
・Polydactyly,central:Polydactyly,mesoaxialを参照
・Polydactyly,insertional:Polydactyly,mesoax-ialを参照
・Polydactyly,intercalary:Polydactyly,mesoax-ialを参照
軸間性多指症(Polydactyly, Mesoaxial)
定義
関連のある骨性合指趾症を伴い,第 3-4 指趾の中手骨/中足骨を含む過剰指趾(母指趾ではない)が存在すること(客観的)(図 58)。
コメント
X 線撮影を行わず,手の所見をとるために(X 線撮影の適応に関するさまざまな見解については Allanson ら[2009b]を参照),検者は,手の背側と手掌面において, 2 つの隣接する中手骨,母指と第 2 指を握り,別個に手で動かしてみる。もし,別個に動かなければ,骨性合指症が存在する。 Mesoaxial polydactyly というバンドリング用語の用法に関して,コンセンサスを得るに至っていない。したがって,当分の間は,専門用語の中に明記される。 2 つの別個の用語を用いて記載するほうが間違いなく優れている(たとえば,Osseous syndactyly of F3,4〔metacarpal〕と Postaxial polydactyly of the hand,type A)。 “insertional polydactyly”という用語は, “inser-tion”という言葉がメカニズムを意味するものであり,この発症メカニズムがおそらく挿入によるものではないことから,まず用いられない。この用語の用法については,何度か再検討すべきであろう。
同義語
Cantral polydactyly;Intercalary poly-dactyly
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Insertional polydactyly
図 58 A:右手の軸間性多指症 軸後性多指症タイプ B の外観を呈する, 7 本指である。 F6 の小さな爪,F56 の折り重なり指も認める。図 11A も参照
B:右足の軸間性多趾症 T23 の部分皮膚性合趾症も認める。
鏡画像を呈する多指趾症(Polydactyly, Mirror Image)
定義
対称性の認識可能な A/P 軸をもつ,5 本以上の指趾を伴った手または足。その軸は,正常に形づくられていたり,あるいは,中指,人差し指,母指趾に似た部分的な重複指趾が存在しうる。あるいは,軸が中指,人差し指,母指趾に似た,隣接する一対の指をもち,指趾間に存在しうる。典型例では,手の両側にある最も外側の指趾が,第 5 指趾に似ている(主観的)(図 59)。
図 59 右足の鏡面像を呈する多趾症
右足では多くの皮膚性合趾症が明らかである。
コメント
これは主観的な評価法である。多指趾症は明らかに客観的であるが,A/P 軸の対称性成分の評価は間違いなく主観的なものとなる。この所見では, 2 本の尺骨を伴う前腕が関連する可能性があるが,それは,この所見の必要な項目ではない。
・Polydactyly,fibula:Foot,postaxial polydac-tyly ofを参照
・Polydactyly,posterior:Foot,postaxial poly-dactyly of;Hand,postaxial polydactyly ofを参照
・Polydactyly,radial:Hand,preaxial polydac-tyly ofを参照
・Posterior duplication:Foot postaxial polydac-tyly of;Hand,postaxial polydactyly ofを参照
・Radial clubhand:Hand,radial deviation ofを参照