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  5. DNA二本鎖切断を指標とした表現型スクリーニングによる新規DNA損傷性化合物の探索

DNA二本鎖切断を指標とした表現型スクリーニングによる新規DNA損傷性化合物の探索
-発がん性物質の検出や新たな抗がん剤開発へ向けた研究基盤の構築-

順天堂大学
砂田 成章

Zhang, D., Shimokawa, T., Guo, Q., Dan, S., Miki, Y., and Sunada, S.
Discovery of novel DNA-damaging agents through phenotypic screening for DNA double-strand break.
Cancer Sci., 114: 1108-1117 (2023). doi: 10.1111/cas.15659

https://doi.org/10.1111/cas.15659


DNA二本鎖切断(double-strand break; DSB)は、最も深刻なDNA損傷であり、元通りにDNAが修復されない場合は、発がんや細胞死等が引き起こされます。一方で、DSB形成に伴う細胞致死を利用したがん治療は古くより行われており、多くのDNA障害型の抗がん剤が開発されてきました。したがって、細胞内でDSBを発生させるDNA損傷性化合物の探索は、発がん性物質の検出や新たな抗がん剤開発へ向けた研究の発展が期待されます。そこで本研究では、多種多様な化合物から、新たなDNA損傷性化合物を探索する方法の確立を目指しました。研究開発フローは、図1を参照ください。

9,600種の多様な構造の化合物で構成される化合物ライブラリー(Core Library, 東京大学創薬機構)を解析対象として、これら化合物により細胞内で形成されるDSBを定量しました。DSBの検出には、フローサイトメトリー法をベースに、DSBマーカーのγH2AXを迅速かつ高精度に定量化するハイスループットスクリーニング法(HTS)を用いました。スクリーニングの結果、DSBを形成させる81種類のDNA損傷性化合物候補を見出しました。一方で、本法のような表現型スクリーニングにより見出されるヒット化合物については、詳細な標的分子および作用機序が明確ではないことがほとんどです。そこで、ヒット化合物によるDSB形成機序を解明するため、DNA損傷性が最も高い化合物DNA Damaging Agent 1(DDA-1)を対象に、”分子プロファイリング”による標的探索を進めました。細胞パネル増殖解析により、類似作用を示す候補化合物を調べた結果、DDA-1は、トポイソメラーゼIIの阻害剤であることが予測されました。機能欠失実験を用いた検証により、DDA-1は、トポイソメラーゼIIの2種類のアイソフォーム(Top2およびTop2β)のうち、Top2αの特異的阻害剤であることが示唆されました。また、エトポシドやドキソルビシンなどの既存のTop2阻害剤と競合反応を示さず、既知の作用機序とは異なることが示唆されました。さらに、一部のDDA-1類縁体はDDA-1よりも高いDSB形成能を示し、腫瘍移植モデルにおいて、DDA-1は、既存のエトポシドと同等かそれ以上の抗腫瘍効果を示しました。以上のように、DDA-1に関して創薬展開が期待される結果が得られました。

応用研究へ向けた研究基盤として、ハイスループットかつ高精度なDSB定量法を利用し、多数のDNA損傷性化合物候補を見出しました。さらに、分子プロファイリングによる標的探索を組み合わせることで、多様な作用機序を有する化合物が同定されることが期待されます。

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