1. HOME
  2. 支援成果論文
  3. 主要論文の解説文
  4. 分子プロファイリング支援
  5. 線維化抑制薬ニンテダニブは、腫瘍血管形成を阻害することにより、骨肉腫の生体内進展を抑制する

線維化抑制薬ニンテダニブは、腫瘍血管形成を阻害することにより、骨肉腫の生体内進展を抑制する

星薬科大学病態生理学研究室
清水 孝恒

Shimizu, T., Sagara, A., Fukuchi, Y., Muto, A.
Single-agent nintedanib suppresses metastatic osteosarcoma growth by inhibiting tumor vascular formation. Oncol. Lett. 27: 123 (2024). doi: 10.3892/ol.2024.14254
https://www.spandidos-publications.com/10.3892/ol.2024.14254


骨肉腫は若年者に発症の多い、骨原発の悪性腫瘍です。化学療法と手術療法を組み合わせた治療が行われ、約7割の患者さんは長期に生存することができるようになりましたが、転移巣を形成するなど進行症例の予後は依然として不良です。分子標的療法、免疫療法もこのような進行例には、奏効するものが現時点ではなく、新規治療法の開発が求められております。

私たちはこれまでに、Ink4a/Arf遺伝子を欠損したマウスの骨髄間質細胞に、c-MYCを過剰発現させることにより、骨肉腫マウスモデル(AXT細胞)を樹立しました。AXT細胞はC57BL/6マウスに移植することにより、類骨形成を伴う腫瘍を形成し、肺などに遠隔転移をします。

骨肉腫へ効果を示す新たな薬を見出すため、分子プロファイリング班より供与頂いた、化合物ライブラリを用いてAXT細胞の増殖を抑制する化合物のスクリーニングを行ってきました。その結果、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)の阻害薬は、骨肉腫細胞に対して増殖抑制効果を示すことが明らかとなりました(図1)。

そして、それらの抑制効果は、正常細胞である骨髄間質細胞にもみられました。そこで、これらの受容体の活性化を同時に阻害し、骨肉腫細胞への直接効果が得られないか、さらに、がん細胞を囲む微小環境を修飾することにより、生体内でのがん進展を阻害できないか、可能性に注目しました。肺線維症の薬であるニンテダニブ(製品名オフェブ)は、FGF、VEGF、PDGFの受容体を同時に阻害するマルチキナーゼ阻害薬です。本研究では、ニンテダニブの抗骨肉腫効果を、マウス疾患モデルを用いてin vitro、in vivoで検証し、そのメカニズムを解析しました。

ニンテダニブは容量依存的にAXT細胞の増殖を抑制しました。しかし、標的受容体の活性化を阻害するIC50は150 nM以下であるのに対し、1μMで10%程度の増殖抑制率を示し、apoptosis誘導効果、細胞周期にあたえる影響は弱く、その効果は標的分子以外の経路の阻害による可能性が示唆されました。

次に、in vivoの検討を行ったところ、AXT細胞をC57BL/6マウスに皮下移植し、50 mg/kgで1日1回、週5日間、ニンテダニブを経口投与した結果では、原発巣の形成が、半分以下に縮小し、血中循環腫瘍細胞量、肺転移巣形成が有意に抑制されました。マウスに重量変化を含めて副作用はみられず、ニンテダニブは単剤で安全に、抗骨肉腫効果を示すことが示唆されました。腫瘍から抽出した、たんぱく質では、PDGFRの活性化と下流のERKのリン酸化が抑制されていることが明らかとなり、ニンテダニブはin vivoで標的分子の活性化を抑制していました。腫瘍縮小効果における腫瘍免疫の関与を免疫染色で調べたところ、投与後にCD8陽性T細胞が腫瘍内に増加している所見はありませんでした。さらに、免疫不全マウス(C57BL/6 SCID)にAXT細胞を移植し、ニンテダニブの効果検証をおこなっても、野生型マウスと同様の骨肉腫縮小効果を認めました。このことから、ニンテダニブの効果は、腫瘍免疫を介したものではないことが示唆されました。ニンテダニブは線維芽細胞の増殖を抑えることで、肺線維症に効果を示すことが報告されております。このため、腫瘍関連線維芽細胞への影響を、 α-Smooth muscle actinの免疫染色で検討したところ、ニンテダニブ投与後に骨肉腫への線維芽細胞の遊走が減少することはありませんでした。

ニンテダニブの標的分子であるVEGFRは血管内皮細胞に発現し、腫瘍血管形成の亢進に重要な役割を果たします。ヒト血管内皮細胞株HUVECを用いたin vitroの血管形成の検討において、ニンテダニブは容量依存的にHUVECの血管網形成、生存を抑制しました。そこで、骨肉腫の腫瘍血管形成に関する影響を調べたところ、CD31抗体による血管内皮細胞の組織染色の結果、ニンテダニブ投与群では、腫瘍血管形成が優位に阻害されていることが明らかとなりました。

以上の結果から、ニンテダニブは、単剤投与により骨肉腫のin vivoにおける腫瘍形成、転移巣形成を抑制すること、その抗腫瘍効果は骨肉腫細胞への直接効果よりも、腫瘍血管形成を抑制するがん微小環境への影響が強いことが明らかとなりました。一方で、腫瘍関連線維芽細胞、免疫担当細胞を介した抗腫瘍効果は弱いことも示唆されました(図2)。

ニンテダニブは、既に肺線維症に対して実臨床で使用されている薬です。本研究から、難治性骨肉腫に対する新たな治療選択肢になる可能性が示唆され、今後は、既存の治療法との併用効果も検証する必要があります。

Page Top