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PDZD8欠損マウスは脳の脂質異常により情動や認知や適応に関連する行動異常を示す

名古屋市立大学大学院薬学研究科
白根 道子

Kurihara, Y., Mitsunari, K., Mukae, N., Shoji, H., Miyakawa, T., and Shirane, M.
PDZD8-deficient mice manifest behavioral abnormalities related to emotion, cognition, and adaptation due to dyslipidemia in the brain
Mol. Brain, 16: 11 (2023). doi: 10.1186/s13041-023-01002-4
https://molecularbrain.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13041-023-01002-4


PDZD8は神経系に高発現しており、細胞内オルガネラ間の脂質輸送を介してエンドソーム成熟を促進し、神経細胞の健常性維持に働きます。また野生型(WT)マウスに比べてPDZD8 欠損(KO)マウスの脳ではコレステロールエステル(CE)の異常蓄積が認められます(図1A)。CEは超疎水性の脂質で、細胞外では低密度リポタンパク質(LDL)、細胞内では脂肪滴(LD)の主成分として存在しています。CEはLDとリソソームの融合によるリポファジーによって分解され、PDZD8 KOマウス脳におけるCE蓄積はそのリポファジー不全に起因します(図1B)。

そこで本研究でPDZD8 KOマウスの行動バッテリー解析を行ったところ、記憶や情動の不全を含む複数の異常を見いだしました。具体的には、WTマウスと比べてPDZD8 KOマウスは、成長の抑制、過活動傾向、不安や恐怖の低下、感覚運動ゲーティングの亢進、手がかり恐怖条件付け記憶の低下、作業記憶の低下などを示しました(図1C)。一方他グループより、複数の知的障害家系でPDZD8の遺伝子変異が報告されました。これらの知見より、ヒトにおいてもマウスにおいてもPDZD8は脳機能に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。

アルツハイマー病(AD)のリスク因子としてAPOEバリアントが同定され、ADの新たな病態として脳の脂質代謝不全が示唆されています。さらに近年AD患者脳やADモデルマウス脳やAD患者由来iPS神経細胞においてCE蓄積が示され、ADの病態機構のひとつとして脂質異常症(dyslipidemia)が示唆されています。これらの知見より、AD脳とPDZD8 変異脳では異常脳領域が異なる可能性はありますが、両者における神経変性のメカニズムには共通点が予想されます。現時点ではCE蓄積と神経変性疾患を繋ぐメカニズムには諸説有り明らかになっていませんが、その解明はADの新規治療標的の発見に繋がると期待されます。

本研究は先端モデル動物支援プラットフォームの支援を受け、藤田医科大学の宮川先生、昌子先生との共同研究で実施したもので、関係者の皆様に感謝申し上げます。


図1 PDZD8欠損マウスは脳の脂質異常により情動や認知や適応に関連する行動異常を示す

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