ヒトiPS細胞由来頭部神経堤細胞におけるMYCN高発現およびTP53変異を伴う骨肉腫モデルの開発
埼玉県立がんセンター臨床腫瘍研究所 迎恭輔
Mukae, K., Takenobu, H., Endo, Y., Haruta, M., Shi, T., Satoh, S., Ohira, M., Funato, M., Toguchida, J., Osafune, K., Nakahata, T., Kanda, H. and Kamijo, T.
Development of an osteosarcoma model with MYCN amplification and TP53 mutation in hiPS cell-derived neural crest cells.
Cancer Sci., 114(5): 1898-1911 (2023). doi: 10.1111/cas.15730
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.15730
骨肉腫は間葉系幹細胞および骨芽細胞に由来する最も一般的な骨悪性腫瘍であり、予後不良の悪性表現型は、TP53等の細胞周期関連経路の異常と関連しています。細胞周期調節遺伝子の転写を制御するMYCは、骨肉腫の代表的な予後マーカーとして用いられています。MYCファミリーには腫瘍性タンパク質であるMYCNが存在し、骨肉腫の一部にはMYCNを発現するものが報告されていますが、骨肉腫におけるその役割については広く解明されてはいません。そこで、本研究では、健常者由来414C2およびLi-Fraumeni症候群患者 (LF) 由来iPS細胞(iPSC)から分化させた間葉系幹細胞の前駆細胞である頭部神経堤細胞 (cNCC) において、レンチウイルス法を用いてMYCNを高発現させる人工的な発がんモデルの作製を試みました。
414C2およびLF cNCCを用いて、軟寒天コロニー形成アッセイを用いて、足場非依存的な形質転換したクローンを作製しました。414C2 cNCCにおいて、MYCN高発現株はmock株と比較して高いコロニー形成能を示しました。また、LF cNCCはMYCN発現に関係なく、高いコロニー形成能を示しました。このことから、MYCN高発現、およびTP53変異は細胞に足場非依存的形質を獲得させやすいことが明らかとなりました。TP53変異を有するMYCN発現形質転換クローンを軟寒天コロニー形成で単離し、免疫不全マウスの副腎近傍脂肪組織に注入したところ、軟骨芽細胞型骨肉腫を発生させました。MYCNを発現する骨肉腫細胞株 (SJSA-1、NY) に対して、shRNAを用いたMYCN抑制を行うと、細胞増殖が低下したことから、MYCNが骨肉腫治療のターゲットの一つである可能性が示唆されました。さらに、マイクロアレイを用いた遺伝子発現とエクソームシークエンスの解析によって、TP53変異およびMYCN高発現骨肉腫は、発がんに伴ってTGF-βシグナルの活性化やGLI1のDNAコピー数増加など、骨肉腫を特徴とする分子的背景が示されました (図1)。軟骨芽細胞型骨肉腫とTP53突然変異との関係は知られていますが、MYCNとの関係は報告されていません。本研究は、MYCNが一部の軟骨芽細胞型骨肉腫の増殖に不可欠な分子であることを示し、iPSC由来cNCCへのMYCN遺伝子導入による発がん的役割と突然変異およびDNAコピー数変化誘発効果を初めて明らかにしました。
iPSC由来の神経堤細胞からのMYCNを発現する骨肉腫のモデル開発の成功により、iPSC由来の前駆細胞を用いた遺伝子改変やin vitroでの形質転換による新しい腫瘍モデルの開発に有用なツールを提供することが可能となりました。さにら、臨床検体数が限られている希少がんのような研究にも応用することができ、希少がん研究への応用が期待できます。