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EBウイルス関連疾患の発症に至るメカニズムの一端を解明
-エプスタイン・バールウイルス感染後の骨髄における顆粒球形成の増加-

東海大学 総合医学研究所 片平 泰弘、幸谷 愛(被支援者)

Katahira Y, Higuchi H, Matsushita H, Yahata T, Yamamoto Y, Koike R, Ando K, Sato K, Imadome KI, Kotani A.
Increased Granulopoiesis in the Bone Marrow following Epstein-Barr Virus Infection.
Sci Rep. 9(1):13445. DOI:10.1038/s41598-019-49937-w (2019).

https://www.nature.com/articles/s41598-019-49937-w


エプスタイン・バールウイルス(EBV)は90%以上の成人に潜伏感染している、ごくありふれたウイルスです。ほとんどの感染者では生涯にわたり潜伏感染を維持しますが、ごくまれにEBV関連リンパ増殖性疾患(EBV-LPD)を発症し、白血病などの致死的な血液腫瘍へ移行することが知られています。EBウイルス関連疾患は日本を含む東アジアで多いため、効果的な治療法の開発を目指した詳細な研究が望まれています。しかしながら、目下、ウイルス感染から発症までの詳しいメカニズムはわかっていません。

 これまで、いくつものウイルスが感染を介して免疫を減弱させる機序が報告されてきました。例えばヒトサイトメガロウイルスはIL-10の発現を介してT細胞の抗ウイルス免疫を抑制します。また、いくつかの腫瘍においても、本来は腫瘍を攻撃するはずの免疫細胞が他の免疫システム(リンパ球の活性化)を抑制するなど、免疫細胞が腫瘍の悪性化を支持する事例が報告されています。このような状況の中、私たちの研究室では、EBV-LPDを発症させたEBウイルス感染マウスを用いた解析によって、発症マウスの脾臓にマクロファージが浸潤したEBV陽性腫瘍が発生し、そのマクロファージは腫瘍の増悪に必須であることを明らかにしました。このことから、他のウイルスや腫瘍において報告されてきたように、EBウイルスもその感染が免疫細胞を介して腫瘍の生存を正に制御するようにふるまうことが予想されました。

 そこで、EBウイルス感染が免疫細胞にどのような影響を与え、腫瘍の増悪に関与するのか調べるために、支援を受けた病理解析や感染マウス免疫細胞の解析に取りかかりました。まず、マクロファージになる前の細胞、単球の割合をFACS解析によって調べたところ、未感染マウスに比べて有意に増加していました。このことから、すでに造血の場である骨髄で他の細胞に対しても変化が起きている可能性を考え解析すると、感染マウスでは未熟な顆粒球が劇的に増加しており、自然免疫に機能する成熟顆粒球はほとんど末梢へ出ていないことが明らかになりました。そこで、顆粒球の分化に重要なサイトカインの一つ、GM-CSFをELISA解析により定量すると、感染マウスの血漿中では未感染マウスに比べて劇的に増加していることがわかりました。さらに感染マウス脾臓のq-PCR解析から、EBV陽性細胞由来のGM-CSFの増加が示され、EBV感染によって増えたサイトカインが造血に影響を与えることが示唆されました。

興味深いことに、マウスの実験結果と同様に、ヒトにおいてもEBウイルス陽性患者の解析から、骨髄中の顆粒球増加と末梢血内GM-CSFの増加が起きていることがわかりました。

以上から、私たちはEBウイルスに感染した宿主内では、異常なサイトカインの分泌と、それに伴う骨髄での顆粒球の分化異常が起き、免疫による防御応答が低下することで抗腫瘍免疫が低下し、EBV関連疾患の発症へつながるのではないかと考えています(図1)。本研究では、未発症の感染マウスにもGM-CSFと顆粒球の増加が検出されました。GM-CSFの阻害がEBV関連疾患の発症を抑制できるのか、または異常な顆粒球の分化制御が発症を阻止できるのか、予防医療への応用が今後の解析に期待されます。

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