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滑膜肉腫に対する標的アルファ線治療薬候補アスタチン211標識抗FZD10抗体の開発

量子科学技術研究開発機構 量子医学・医療部門放射線医学総合研究所 長谷川純崇

Li, HK., Sugyo, A., Tsuji, AB., Morokoshi, Y., Minegishi, K., Nagatsu, K., Kanda H., Harada Y., Nagayama S., Katagiri, T., Nakamura, Y., Higashi, T. and Hasegawa, S.
α-particle therapy for synovial sarcoma in the mouse using an astatine‐211‐labeled antibody against frizzled homolog 10.
Cancer Sci. 109: 2302 DOI: 10.1111/cas.13636 (2018).

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/cas.13636


滑膜肉腫は筋肉や皮下組織などの軟部組織から発生する肉腫(がん)の一つです。発生頻度は少ない「希少がん」に分類されますが、若年層の四肢を中心に全身に発症します。がんが限局している場合は外科的切除による治癒が期待出来ます。しかし、切除不能、転移がある場合は難治性で予後が悪いことが報告されています。効果的な治療がないため、新たな治療法が望まれていました。

最近、新しいがん治療として、標的アルファ線治療に注目が集まっています。放射線の一種であるアルファ線はヘリウム原子核の粒子放射線であり、アルファ崩壊するラジオアイソトープ(RI)から放出されます。アルファ線は細胞数個分(50-100 μm)の距離に数MeVの高いエネルギーを付与するため、修復不可能なDNA損傷を誘導し、細胞は致死となります。アルファ線の飛ぶ距離は前述の通り、細胞数個分ですので、がん細胞だけにアルファ線を送達させれば、周囲の正常組織を傷つけることなく、がん細胞だけを殺傷することが出来ます。こうしたアルファ線の特性、更に、アルファ線放出RIの製造技術が近年、格段に進歩したこともあり、標的アルファ線治療の臨床応用に向けた研究が活発化しています。

滑膜肉腫の治療標的分子としてFZD10が期待されています。多くの滑膜肉腫ではFZD10が高発現していることが明らかとなっています。そこで、我々はアルファ線を放出するRIのアスタチン-211を製造し、このRIから放出されるアルファ線を滑膜肉腫細胞特異的に送達させるために、アスタチン-211を標識した抗FZD10抗体を開発しました。また、アルファ線治療とベータ線治療を比較するため、ベータ線を出すRIのイットリウム-90標識抗FZD10抗体も合成しました。滑膜肉腫に対する治療効果を検証するため、ヒト滑膜肉腫細胞を皮下移植したモデルマウスを用いて、アルファ線放出もしくはベータ線放出RI標識抗体を尾静脈より単回投与し、これら2つのRI標識抗体のがん抑制効果を検証しました。アルファ線放出アスタチン-211標識抗FZD10抗体はベータ線放出抗体の半量である925 kBqで、無治療群と比べて有意にがん増殖抑制効果が認められました。その際、投与されたマウスの体重減少は軽微であり、明らかな毒性は認められませんでした。

先端モデル動物支援プラットフォームの病理形態解析支援事業で行われた病理解析により、今まで不明であったアルファ線治療の治療効果の詳細や経時的変化が明らかとなりました。ベータ線治療においては薬剤投与してから数日経って比較的軽度な病理学的変化が出現するのに対して、アルファ線治療では投与翌日にはがん組織が重篤なダメージを受けて、多くのがん細胞が致死となっていることが確認されました。

本研究で、難治性がんの滑膜肉腫に対するアスタチン211標識抗FZD10抗体を使った標的アルファ線治療の効果や安全性が動物実験で実証されました。今後の臨床応用が期待されます。

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