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活動依存性マンガン造影 MRI のための塩化マンガン全身投与後のマウス脳におけるマンガン動態

大阪大学 大学院医学系研究科 保健学専攻 小山内 実

Tanihira, H., Fujiwara, T., Kikuta, S., Homma, N. and Osanai, M.
Manganese dynamics in mouse brain after systemic MnCl2 administration for activation-induced manganese-enhanced MRI.
Frontiers in Neural Circuits 15: 787692 doi: 10.3389/fncir.2021.787692 (2021)
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fncir.2021.787692/full


 活動依存性マンガン造影MRI (Activation-Induced Manganese-enhanced MRI, AIM-MRI) は、次の3つの原理に基づき、Mn2+をCa2+の代理マーカーとして用いる、非侵襲全脳神経活動履歴イメージング法です: (i) Mn2+濃度はMRIで定量化することができる。(ii) 細胞外にMn2+が存在すると、活動電位が生じた際に開口する電位依存性Ca2+チャネルを通して、Mn2+が細胞内に流入する。(iii) 細胞内に流入したCa2+は速やかにCa2+排出機構により細胞外に排出されるが、Mn2+は排出されにくいため、神経活動に依存して細胞内に蓄積する。つまり、AIM-MRIは神経活動に伴って細胞内に流入したMn2+を後でMRIで計測する、全脳神経活動マッピング法です。しかし、Mn2+の脳内動態が明確ではなかったため、MnCl2全身投与後、どのタイミングで細胞内にMn2+が流入し、どのタイミングで計測すると最も神経活動を反映した計測結果が得られるのかは不明でした。
そこで、MnCl2の全身投与後、(1) Mn2+が細胞に流入するタイミングはいつなのか、(2) 最適な計測タイミングはいつなのか、(3) 繰り返し実験するためにはどの程度の間隔を空けなければならないのか、の3つのタイミングを明確にすることを目的として、脳内Mn2+動態の計測を行いました。
 まず、脳室内つまり脳脊髄液のMn2+濃度の変化をMRIで定量化したところ、MnCl2溶液の腹腔内投与後、1時間以内に最大になり、3時間後まで高い濃度を維持し、24時間後には元の濃度付近まで戻りました。この結果はマイクロダイアリシス法により採取した細胞外液のMn2+濃度動態とほぼ一致しました。細胞外液のMn2+濃度が高いほどCa2+チャネルが開口した際に細胞内に流入する量が多くなるため、(1) のタイミングはMnCl2投与1-3時間後ということが分かりました。続いて脳実質のMn2+濃度はMnCl2投与24-48時間後に最大になりました。この時細胞外液のMn2+は投与前のレベルに戻っているため、MRIで計測された脳実質のMn2+濃度は主に細胞内のMn2+濃度を反映していると考えられます。そのため、(2) のタイミングはMnCl2投与24-48時間後であることが分かりました。また、脳実質のMn2+濃度は投与約5日後におおよそ投与前のレベルに戻りました。この結果から、(3) の繰り返し実験を行うための間隔は1週間程度である、ということが分かりました。
 これらの結果を踏まえて実験を行うことで、動物に行動課題を課したり、神経活動を操作したり、薬物を投与したりした際の全脳の神経活動変化をAIM-MRIを用いてより正確にマッピングすることが可能になり、AIM-MRIによる脳機能解析の普及が期待されると共に、先端モデル動物支援プラットフォームによる支援の幅が広がることが期待されます。

図は神経活動依存的に細胞内にMn2+が蓄積することを示した模式図 (A) と、MnCl2投与後の実験の流れ(B-D) とその時のMn2+動態を示している (E)。(F) は神経活動依存的に順行性にMn2+が越シナプス輸送されることを示した模式図。(Osanai et al., Front Neural Circuits 16: 918500, 2022 からの引用, https://doi.org/10.3389/fncir.2022.918500)

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