2024年度「若手技術支援講習会」を終えて
若手支援技術講習会実行委員長
近藤 豊(名古屋大学 大学院医学系研究科)
2024年8月29日〜8月31日に愛知県のウインクあいちで、先端モデル動物支援プラットフォーム主催の若手支援技術講習会を開催しました。
今年も蒸し暑く、ギラギラとした晴天が続く名古屋で、「とことん討論-暑い名古屋で熱盛!」の開催が予定されていました。しかし台風10号の影響で激しい雨が降り、山陽新幹線が29日から広島―博多間で計画運休となり、さらに東海道新幹線も30日から3日間の運休が見込まれたため、プログラムの見直しや、場合によっては開催中止の可能性も生じました。それにもかかわらず、約141名の学部生、大学院生、博士研究員、若手教員を中心とする研究者が集結し、例年を上回る活気の中、発表や熱気あふれる議論が繰り広げられました。
今年は、口頭発表の時間を短縮し、その分質疑応答の時間を長めに設定しました。発表者は、例年通り簡潔な自己紹介に続き、研究背景から結論に至るまで、要領よくまとめられた質の高い発表が多く見受けられました。発表後には、質問者が列をなし、設定された時間では足りなくなるほど白熱したセッションが展開されました。ポスター会場も活気に満ち、研究を熱心に説明する姿や、活発に質問を交わす光景が多く見られました。今年は、口頭発表者もポスターを掲示していたため、口頭発表では時間の都合で質問できなかった点をポスター会場で尋ねる若者の姿も数多く見られました。まさに「とことん討論」が実現されたと感じられました。昨年から導入した「きっかり3分間トーク」では、ポスター発表者の中から選抜された14名の研究者が、それぞれ自身の研究を中心に、3分間以内でフリートークを行いました。制限時間内でハイレベルな発表が次々と披露される中、トーク賞を受賞した中村彩音さん(がん研究会 がん化学療法センター)は、これまでのキャリアを踏まえつつ、非常に魅力的にご自身の研究内容を紹介してくれました。
プロフェッショナルレクチャーでは、今回も若手研究者3名と、研究歴の長いラボ主催者3名(うち1名は特別講演者)に、それぞれの研究についてお話しいただきました。特別講演では、京都大学の高橋淑子先生が、研究者としての道のりをユーモアを交えながら魅力的にお話しされ、さらに最新の発生学分野における研究についてもご紹介いただきました。東京大学の浦野泰照先生には、有機小分子蛍光プローブの最先端の研究について、開発から応用までを驚嘆のイメージとともにご講演いただきました。また、最終日にはがん研究会がん化学療法センターの清宮啓之先生が、テロメアの基礎研究から始まる新たながん治療創薬について、若手研究者へのメッセージを交えてお話しくださいました。高橋先生と浦野先生は名古屋へのアクセスが困難だったためオンラインでのご参加となりましたが、会場では笑いと嘆息が漏れるほど、臨場感あふれる講演となりました。
新進気鋭の若手研究者としては大阪大学の井上大地先生、京都大学の垣内伸之先生、名古屋市立大学の高岸麻紀先生の3名にご講演いただきました。井上先生は、マウスモデルを駆使した最先端のRNAバイオロジーによる血液腫瘍の理解について、垣内先生は、正常組織におけるクローン性の遺伝子変異の蓄積とその拡大様式、さらに発がんへの関与について、そして高岸先生は、脳の運動性多繊毛の挙動に関する非常に興味深い研究について、それぞれお話しくださいました。参加者にとって、研究者としてのキャリアの積み方や最先端の研究の進め方、そしてその応用について考える貴重な機会となったと思います。
技術支援を紹介するテクニカルセミナーでは、以下のラインアップでご講演いただきました。京都大学の井上謙一先生は、動物モデル作製支援として「ウイルスベクターによる遺伝子発現制御」について、がん研究会がん研究所の高松学先生は、病理形態解析支援として「デジタル病理と人工知能による新しい病理形態学」について、理化学研究所環境資源科学研究センターの室井誠先生は、分子プロファイリング支援として「プロテオーム解析を用いた分子プロファイリングによる化合物の標的同定」について、そして富山大学の新田淳美先生は、生理機能解析支援として「精神疾患関連遺伝子のクロストーク」についてそれぞれお話しいただきました。各先生方はご自身の研究歴を基に、技術支援の内容と最先端の研究について詳しく解説され、若手研究者が活用できる具体的かつ有用な情報が提供されました。
今回参加された皆様には、悪天候の中、大変な思いをして名古屋にお越しいただきました。特に復路では、通常よりもずっと長い時間をかけて帰路につかれた方も多くいらっしゃったことと思います。皆様のご尽力に感謝申し上げるとともに、この講習会が楽しく、充実したものだったことを心より願っております。また、最後まで試行錯誤を続けながら進めてきた実行委員を力強くサポートしてくださった、研究支援代表の武川睦寛先生(東京大学)、総括支援の清宮啓之先生(がん研究会がん化学療法センター)をはじめ、悪天候の中、時には激しい雨に濡れながらも献身的に本講習会を支えてくださった事務局およびスタッフの皆様に、心より感謝申し上げます。
なお、名古屋での若手支援技術講習会は今年度が最後の開催となります。来年度からは、場所を長野県の蓼科高原に移して実施する予定です。来年もまた"研究交流を楽しむ心"を持った多くの若手研究者が集うことを願っております。
受賞者
ベストプレゼンター賞(口頭発表)2名
宇野 枢さん 名古屋大学大学院 医学系研究科
畠山 淳さん 熊本大学 発生医学研究所
ベストプレゼンター賞(ポスター発表)(3名)
相川 享さん 東北大学大学院 医学系研究科
三上 夏輝さん 筑波大学 ヒューマンバイオロジー学位プログラム
目黒 史也さん 筑波大学 プレシジョンメディスン開発研究センター
ベストディスカッサー賞(3名)
魚本 真理さん 神奈川県立がんセンター 臨床研究所
(表彰式にご出席されなかったため、上司の佐藤先生と記念撮影)
藤岡 正喜さん 大阪公立大学大学院 医学研究科 分子病理学
渡辺 新也さん 名古屋大学大学院 医学系研究科 腫瘍生物学
きっかり3分間トーク賞(1名)
中村 彩音さん 公益財団法人がん研究会 がん化学療法センター
当日の様子
【参加者の声】
本講習会の感想・意見
- 初めて参加させていただきました。皆さん積極的に質問していて、その熱量に驚きました。自然と自分も質問しようとする気になりました。(大学院生(修士)・男性)
- 多くの若手研究者と議論することができ、非常に有意義であり、自身のモチベーションを高めることができた。一方で、プラットフォームの特性上、ガンを対象とした印象が強く、その他の分野の割合が増えるとより多くの視点から議論が展開できるのではないかと感じた。(大学院生(博士)・男性)
- 初めて参加しましたが、様々なバックグラウンドをお持ちの方とたくさん話すことができました。そして、多くの参加者の研究内容が、私の研究内容と少し分野が違いましたが、どのお話もとても興味深く拝聴しました。(大学院生(博士)・女性)
- とても刺激的な会でした、最先端の知識を得るだけではなく、今後の研究生活でも支えあっていけそうな友人をたくさん作ることができました。(学部生・女性)
懇親会について
- あまり社交的ではないのですが、たくさんの方に声を掛けていただき、嬉しかった。横のつながりが広かったのも本当に嬉しい。(40代講師・男性)
- 多くの参加者とディスカッションを行うことができ、親睦を深めることができた。(大学院生(博士)・男性)
- 先生方が、他の参加者と話せるように声かけをして下さったことが、とてもありがたかったです。(大学院生(博士)・女性)