平成29年度先端モデル動物支援プラットフォーム
「若手支援技術講習会」を終えて
実行委員長 大島正伸
平成29年9月7日から2泊3日のスケジュールで、長野県の蓼科グランドホテルにて若手支援技術講習会を開催しました。この講習会は、大学院生(修士・博士課程)や博士研究員、助教などの若手研究者を対象に、ライフサイエンス分野の最先端の研究に触れて、研究資源としてのモデル動物に関する技術や知識を学ぶ機会を提供しています。また、全国から若手研究者が参加し、全員が研究発表して議論することで、若手どうしのネットワークを形成することも大きな目的としています。今年度は、がん、神経、イメージング、発生工学など幅広い分野から93名が参加し、熱気のある充実した合宿となりました。
今年の講習会は、4つの柱をたててプログラムを構成しました。一つ目は、「ワークショップ」として、本支援プラットフォームを構成するモデル動物作製、病理解析、生理機能解析、分子プロファイリング、およびイメージングの各支援班から、それぞれの技術や研究への応用についての講習が行いました。二つ目は、「サイエンスレクチャー」として、ライフサイエンス各分野で活躍する研究者による最先端の研究内容についての講演会を開催しました。三つ目は、講習会の主役である参加者の発表会です。時間的な制約もありましたが、口演あるいはポスター形式で全員が発表し、とくにポスターセッションでは、小グループにわかれてじっくり時間をかけてディスカッションを行いました。四つ目の柱は、グループディスカッションです。夕食後のひと時を、各小グループにシニア研究者が加わって車座になって、研究内容に関することやキャリアパス、興味を持っていることなど、若手主役の自由討論を行い、研究分野の枠を越えたコミュニケーションを深めました。
今年度参加した皆さんに講習会を振り返ってもらい、これからの参加を考えている皆さんのためにも、今回の講習会の様子を簡単に紹介します。
荒木喜美先生 (熊本大学) |
二口充先生 (名古屋市立大学) |
宮川剛先生 (藤田保健衛生大学) |
深澤有吾先生 (福井大学) |
清宮啓之 先生 (がん研究会がん化学療法センター) |
井本正哉先生 (慶応義塾大学) |
ワークショップの先頭を切って、荒木喜美先生(熊本大)から遺伝子改変マウス作製に関する紹介がありました。荒木先生には懇親会の時もラウンジ形式でゲノム編集とマウス作製のトークをして頂き、大勢がリラックスして勉強できました。二口充先生(名古屋市大)からは、病理解析におけるはまってはいけない落とし穴について、現場からの重要な情報を教えて頂き、宮川剛先生(藤田保健衛生大学)からは、支援班で実施している行動学研究支援内容の紹介がありました。イメージングプラットフォームからは深澤有吾先生(福井大)から免疫電顕技術の紹介があり、清宮啓之先生(がん研究会)、井本正哉先生(慶応義塾大学)からは分子プロファイリング支援が提供する化合物評価系や分子探索基盤について、それを使って何ができるのか丁寧に説明して頂きました。以上のワークショップの情報をもとに、今後は参加した若手の皆さんが支援事業のユーザーとして研究推進して行くことを期待しています。
山田泰広先生 (京都大学) |
岡崎拓先生 (徳島大学) |
藤田恭之先生 (北海道大学) |
中山敬一先生 (九州大学) |
青木正博先生 (愛知県がんセンター研究所) |
サイエンスレクチャーではライフサイエンスの広い分野から、第一線で活躍する中堅(若手から見ればシニアですが)の4名の研究者からの講演がありました。山田泰広先生(京都大)からES細胞のリプロブラミングについて最新の知見をお話し頂き、岡崎拓先生(徳島大)からは、がんの免疫療法の標的として重要な、PD1を介した免疫制御について紹介して頂きました。藤田恭之先生(北海道大)は、細胞競合の概念についてユーモラスな動画を使ってお話し頂き、特別講演では中山敬一先生(九州大)に、独自に開発されましたプロテオミクス技術を用いたワールブルグ効果を解き明かす話について、わかりやすく講演して頂きました。青木正博先生(愛知県がんセンター)からは、マウスモデルの解析結果を発展させたがん転移機構について、最新の話題を提供して頂きました。このように、発生、免疫、細胞生物、がん、と重要かつ多岐にわたる分野の研究について広く深く学ぶいい機会になったと思います。若手からも大変活発かつ鋭い質問もあったのが印象的です。
一方で若手発表会の口演は、論文発表まで進んだ目をみはる内容から、まだこれから研究を進める作戦を練っている段階の内容まで、多岐にわたっての発表会で、それぞれに発表者はしっかりと準備されていて、熱のこもった質疑応答となりました。ポスターセッションは、12名前後の小グループに別れて、メンバーのお互いの研究内容を深く知る機会となりました。全発表者の中から特に印象に残った発表をした人に、投票でベストトーク賞、ベストポスター賞が授与されました(ちょっとした副賞もいっしょに)。これからの研究の励みになって欲しいと思います。そして、二日目の夜に実施した、シニアを交えての小グループでのグループディスカッションも大盛況でした。
振り返ってみると、研究室や研究領域の枠を越えて、また、生活する地域も異なる同世代の若手が集い、議論していいサイエンスに触れ、新しい技術についての知識を習得するという、講習会の大きな役割を果たすことが出来たのではないかと思っています。参加して頂きました若手の皆さんには、この講習会がそれぞれの研究を進める上で、何かしらのインパクトのある記憶に残るイベントになってもらえれば講習会としては大成功です。
最後に、この講習会を陰ながら支えて頂きました実行委員の先生方や、実行委員の研究室からスタッフとして参加して頂きました先生方、そして事務局の皆さんに心より感謝致します。また来年、蓼科でお会いしましょう!
大島正伸実行委員長 (金沢大学) |
高田昌彦 先生 (京都大学) |
中村卓郎先生 (がん研究会がん研究所) |
受賞者
ベストトーク賞2名 |
ベストポスター賞5名 |
小河穂波(宮崎大学医学部 機能制御学講座) 中山淳(早稲田大学大学院 先進理工学研究科) |
今野雅允(大阪大学大学院 医学系研究科) 石橋公二朗(北海道大学 遺伝子病制御研究所) 山本瑞生(東京大学 医科学研究所) 高岸麻紀(名古屋大学大学院 医学系研究科) 進藤麻子(名古屋大学大学院 理学研究科) |
会場の様子
参加者の声
- 研究の初心者で、非常に気後れする状況での参加でしたが、みなさん優しく教えてくれて参加して本当によかっと思いました。
- 技術について質問できるのがとても貴重だった。
- 本会のような活気のある若手の会は、非常に貴重な機会だと思います。
- 最先端の講演が端的に、一気に聞けたのが良かった。刺激をもらったし、支援も参考になった。
- 自分の知らない技術(またそれを支援として使える可能性)をその分野のTopの先生に教えてもらえるのが良かった。
- 技術的に注意すべき事や、こういう事ができるんだという新しい方法論を仕入れることができた。
<グループディスカッションについて>
- 研究で現在困っている事をストレートに聞けた。
- 分野のちがう人の話をきけたり、活発なディスカッションができたりと、普段できない経験ができた。
- 先輩方と情報交換できて、有意義な時間だった。研究の内容だけでなく悩み相談みたいなものもためになった。
- グループを指定してもらうことで多くの人と話す機会が増えた。(参加者が多いので何もないと話せない人もいたかもしれない)