日本赤十字看護学会

学会出版物・ニュースレター

大規模火災時における救護活動への備えを考える
「大船渡市大規模火災の支援活動」

 近年、記録的な少雨と乾燥、フェーン現象による強風等、気象条件の影響もあり、複数の林野火災が発生しています。また、古い木造住宅が隣接し狭隘道路で消防車進入が容易ではない地域や都市部高層マンションの火災なども起こりました。大規模火災は、被災者の生命を脅かし、建物・ライフラインの被害により、先々の生活不安をもたらすこととなります。
 令和7年岩手県大船渡市の大規模火災において、救護活動にあたられた方々の実践を伺いました。2月26日の発生から鎮圧まで12日間、完全な鎮火までは41日間を要し、激甚災害の適用となりました。被災地での火災特有の活動経験を知り、私たちは今後どのように備えたら良いのか示唆を得たいと考えます。


1.「大規模林野火災における予防的アセスメントとこころのケアの重要性」

盛岡赤十字病院 助産師
田中 陽子氏

1)どのような活動をされましたか。
 令和7年2月26日に岩手県大船渡市赤崎町字合足地内で発生した林野火災は、火災の覚知から約2時間で延焼範囲は600ha以上まで急激に拡大しました。鎮圧まで約10日間延焼を続け、最終的に約3,370haを焼失する昭和39年以降最大の林野火災となりました。焼損棟数は、住家90棟、住家以外136棟で、死者が1名、負傷者はいませんでした。(※1)
 火災発生から2日後の28日、医師1名・主事2名・看護師3名の計6名で編成された救護班の一員として活動に参加しました。27日より大船渡市保健センター内に岩手県支部職員が現地災害対策本部を構えており、避難所を担当している大船渡市保健師などの現地スタッフと避難状況を共有しました。その後、石巻赤十字病院より派遣された救護班と二手に分かれ、福祉避難所を除く5か所の避難所(前日時点での避難者数は877人)を分担して訪問し、避難所アセスメントを実施しました。

2)活動において印象的であったことや難しいと感じたのはどのようなことでしたか。
 今回の活動では、現地に入ってからICAT(いわて感染制御支援チーム)が派遣されていることを知り、協働し避難所アセスメントを実施することになりました。避難所における感染対策について、より専門的な視点でのアセスメントに基づいた指導を実践しており、効果的であったと感じました。また、大船渡市は東日本大震災の被災地でもあり、度重なる避難を余儀なくされている避難者も多くいました。過去の経験から避難所設営に関する環境が整っていたためか、今回の避難生活に対する不満を多く聞くことはありませんでした。表面化しているニーズも多くはありませんでしたが、避難が長期化した際に考えられる影響など、専門的かつ予防的な視点でのアセスメントが必要とされました。
 難しいと感じた点は、ペットや個人的な理由から車中泊を行っている避難者の把握と指導でした。避難所となっていたリアスホールでは、駐車中の車内を1台ずつ確認し、エコノミー症候群予防のためのリーフレットや弾性ストッキングの配布を行いました。健康観察のためにも、車中泊の把握や共有が課題であると感じました。

3)活動を経て、大規模火災における救護活動への備え(物的・人的・心得)を教えて頂けますか。
 大船渡市林野火災は、市街地から離れた場所での発災であり、ライフラインや医療提供への影響は少なく、市内の自助体制が確保されていました。しかしながら避難中は延焼状況に関する詳細な情報は入ってこないため、自宅が無事であるのか、延焼がどこまで拡がっているのか、いつ鎮火するのか、多くの住人が先の見えない不安を抱えていました。
 さらには、東日本大震災の津波被害からの復興が進んでいる中での災害であり、度重なる災難に落胆する様子の避難者もいました。そのような中で、こころのケア活動は重要であり、生活支援や医療救護と並行して実践する必要があるため、救護員として備える必要があることを実感しました。また、延焼範囲の拡大により避難した先も避難指示が発令されたために再度避難所を移動することとなり、疲労を増大させる避難者もいました。火災の規模拡大により、避難先が移動となる場合の多職種での連携や、支援の在り方についても備える必要があると考えます。

※1 大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会報告書



2.「大規模火災避難所で求められる支援と備え」

石巻赤十字病院 看護師長
阿部 洋子氏

1)どのような活動をされましたか。
 救護班派遣担当者より、2月28日に日帰りで避難所アセスメントチームを派遣する予定であると連絡を受けました。係長を師長代行として勤務調整が可能であった事と家族の了承を得る事もできたため、派遣可能であると返事をしました。27日の15時に派遣者でミーティングを行い、準備する資機材について相談しました。処置セット、事務セットの他に避難所でのDVT予防のため弾性ストッキングを救護車両に積み込みました。28日8時に病院を出発し、9時30分に大船渡市保健センターに到着。盛岡赤十字病院救護班、岩手県支部、ICAT(いわて感染制御支援チーム)、保健師との打ち合わせを行い、2か所の避難所アセスメントに伺いました。
 避難所の運営は、行政の方が交代で行っているとの事でしたが、多くのメディアや外部支援者の対応で疲れていることが懸念されたため、運営の負担にならないよう、自分たちで避難所の環境を見て回るよう配慮しました。
 避難者の中には「津波で家がなくなって山に逃げたら、今度は山で家が燃えて。…何回家をなくすのか…」と話されている高齢の方もいらっしゃいました。幸い、コミュニティがばらばらにならずに避難できていた様子で「毎日お茶飲みをしている」とも話されていて、話し相手がいることでとても安心できる状況のようでした。また、避難生活はほんの数日だろうからちょっと我慢すればいい、という認識の方も少なくありませんでした。そのため、歩行に介助が必要な高齢者がトイレから遠い居室で生活している様子や、和室に仕切りがなく布団が敷きっぱなしの過密雑魚寝状態の様子がありました。

2)活動において、印象的であったことや難しいと感じたのはどのようなことでしたか。
 避難所のライフラインは通常通りで、調理室を利用して調理が可能な状況でしたが、カップラーメンを食べる程度とのことでした。おにぎりや菓子パンが大量に配布されて残っていて「もう誰も持って行かない」とも話されていました。期限切れの菓子パンやおにぎりには「運営スタッフ用」と記されていましたが、支援者の健康を害するようなこともあってはならないと思いました。また、高齢の避難者も多く、基礎疾患を抱えていることも予想されましたので、避難者への食事提供について課題であると感じました。プッシュ型支援(※1)でおにぎりとパンの配給が行われていることが多くありますが、TKB48(※2)の重要性がもっと広く知れ渡る必要があると強く感じました。

※1 大規模災害の発生時、国が被災都道府県からの具体的な要請を待たずに、避難所避難者への支援を中心に必要不可欠な物資を緊急的に被災地に届ける支援のこと(政府広報オンラインより抜粋)
※2 トイレ、キッチン、ベッドを48時間以内に避難所に導入する(避難所・避難生活学会HPより抜粋)

3)活動を経て、大規模火災における救護活動への備え(物的・人的・心得)を教えていただけますか。
 火災時の救護活動は初めてだったので防煙マスクの持参という発想がありませんでしたが、煙への対策が不十分だったと後で振り返りました。避難所は火災から離れている場所にありましたが、風向きによって濃い煙が流れてくることもあり、建物の中まで煙の臭いが入ってきていました。外に出ると煙で目がしみる感覚もあり、すぐ近くの山が燃えているのではないかと不安になりました。何日もその場所で生活している避難者の不安はいかほどかと想像するに堪えませんでした。
 私たちは東日本大震災で被災し、多くの方から支援を頂きました。当時、私たちが感じた被災時の支援のありがたさ、こんなことを言われるといやな気持になるだろうという経験を活かして、これからも避難者、支援者の支援に携わりたいと思います。

避難所巡回 (執筆者提供 撮影許諾済)


3.「令和7年大船渡市赤崎町林野火災でのこころのケア班の活動から」

宮城県赤十字血液センター 事業部 献血推進課 推進一係長
上妻 功治氏
(派遣時:仙台赤十字病院所属)

1)どのような活動をされましたか。
 令和7年2月に大船渡市赤崎町で発生した林野火災は、強風の影響で延焼が拡大し、避難者数と避難所数が増加しました。ライフラインや医療機関は機能していましたが、避難生活は不自由であり、感染症のまん延や転倒事故など、災害関連死につながる健康被害が懸念されました。
 日赤岩手県支部からの要請を受け、仙台赤十字病院から看護師2名と主事1名の計3名が「こころのケア班」として3月10日〜12日に派遣されました。活動は大船渡市保健センターを拠点に、日赤岩手県支部の指揮下で実施しました。
 1日目(3月10日)は、避難指示解除後も避難所に残っていた新型コロナウイルス感染症罹患患者の健康観察、不安を抱える高齢者への傾聴支援、翌日以降の支援方針の検討を行いました。
 2日目(3月11日)は、新たに避難者受け入れが必要となったB&G海洋センターにおいて、危険個所の確認、避難所レイアウトの検討、感染者発生時のゾーニング、必要物品リスト化、要配慮者向けスペースの設営、環境整備、感染症注意喚起ポスターの作成など、避難所運営の立ち上げ支援を行いました。
 3日目(3月12日)は、新型コロナウイルス感染症罹患患者の健康観察、ICAT(いわて感染制御支援チーム)のアセスメント同行、後続班への申し送りを実施しました。

2)活動において、印象的であった事や難しいと感じたのはどのようなことでしたか。
 活動期間が3月11日を含んでいたため、東日本大震災の経験を持つ地域で「3.11」を迎えることになりました。「また避難することになるとは思わなかった」「3.11が近づくと落ち着かない」と語る避難者もおり、災害がもたらす心理的影響の大きさを改めて実感しました。また、今回の派遣は「こころのケア班」としての要請でしたが、実際の現場では心理支援にとどまらず、避難所の立ち上げ支援、環境整備、感染対策、要配慮者支援など、多様なニーズに対応する必要がありました。火災という急激に状況が変化する災害では、役割の枠にとらわれず、必要な支援を柔軟に担うことが求められ、その点に難しさと同時に大きなやりがいを感じました。さらに、新規避難所の立ち上げでは、限られた時間の中で安全性、動線、感染対策を整える必要がありました。特に、ゾーニングの判断や要配慮者スペースの確保、物資配置の調整などは、現場の状況に応じた即応性が求められました。
 ライフラインが機能している災害であっても、避難者のニーズは多様であり、高齢者や慢性疾患を持つ方は短期間の避難でも健康リスクが高まることを痛感しました。

3)活動を経て、大規模火災における救護活動への備え(物的・人的・心得等)を教えて頂けますか。
 物的備えとしては、避難所開設キット、感染対策物品、要配慮者支援物品、掲示物テンプレートなどの整備が必要です。火災は煙や粉じん、寒暖差などの環境要因が大きく、健康被害を予防する物品の準備が欠かせないと感じました。
 火災は状況の変化が早く、即応性と判断力、日赤岩手県支部や行政との連携強化が求められました。人的備えとして、避難所運営や感染対策に精通した看護職・事務職の育成、多職種協働訓練が重要であると感じました。
 心得としての備えとしては、局地災害であっても避難者のニーズは多様であることを前提に、心理的背景への理解と寄り添う姿勢、医療の視点で環境を評価する意識が必要です。本活動では、「すべては被災者のために」という日赤の理念を体現する支援ができました。今後は、避難所環境改善に向けた体制づくりや研修体系の整備、火災特有の健康リスクに関する知見の蓄積が課題であると感じています。

避難所開設支援の様子(執筆者提供 撮影者許諾済)


4.「大船渡市林野火災におけるこころのケア班活動報告」

仙台赤十字病院 看護部
及川 京子氏

1)どのような活動をされましたか。
 2025年2月26日に発生した大船渡市林野火災において、こころのケア班として3月10日(月)から12日(水)の3日間活動を行いました。3月7日から段階的に避難指示解除となり、3月10日10時には全地域避難指示解除となったタイミングでの活動でした。
 避難所12ヶ所での最大避難者数は1200名を超えましたが、避難指示が段階的に解除となると避難者は徐々に自宅に帰宅しました。避難者数が減少したことにより、3月11日には避難所を2カ所に集約する方針となりました。

 1日目(3月10日)は、10時頃大船渡市保健センターに到着し、盛岡赤十字病院より引継ぎを受け、岩手県支部と情報共有を行いました。10時には全地域が避難指示解除となり、大半の避難者が帰宅していました。避難所では、新型コロナウイルス罹患者とその家族の健康観察や避難している高齢者の傾聴を行いました。夕方、大船渡市保健センターにて他団体の方々との情報共有や翌日以降の活動内容を岩手県支部と検討しました。避難所集約の方針となったことから、翌日は新規避難所の開設支援を行うことになりました。
 火災による影響がない地域では、日常生活に支障はなく電気、ガス、水道等のライフラインにも影響はありませんでした。
2日目(3月11日)の主な活動内容としては、新規開設避難場所運営支援でした。新規開設避難場所となる建物は古く、段差や急な階段など避難所として使用するには不便な環境ではありましたが、その地域で暮らす方々の希望も考慮し、避難所として使用することになりました。危険場所確認や避難所レイアウト検討、感染症発生時のゾーニング、要配慮者とその家族のための部屋を設定し、感染対策等に関する掲示物等を作成しました。また、新型コロナウイルスやインフルエンザ等の感染症発生を考慮し、避難所内での動線確認や天幕付テントの要請も行いました。
 3月11日は東日本大震災が発生した日であり、14時46分には全員で黙とうを行いました。東日本大震災のあと、高台である地に自宅を再建した方々もいるであろう地域を火災が襲い、再度自宅を失うことになった苦しみは想像の域を超えるものでした。
 3日目(3月12日)は、1日目と同様の避難所にて新型コロナウイルス罹患者とその家族の健康観察を行いました。午後から新規避難所としての受け入れが開始となるため、2日目に設営したテントの配置や注意喚起の掲示物確認などをICAT(いわて感染制御支援チーム)と情報共有を行いました。その後、大船渡市保健センターへ戻り岩手県支部へ報告し、秋田赤十字病院へ引き継ぎを行いました。

2)活動において印象的であった事や難しいと感じたのはどのようなことでしたか。
 当院こころのケア班が現地に到着時には、全地域避難指示解除となった時期でした。2日目の新規避難所開設にあたり、開設場所となる地域まで向かう道中には、焼け落ちた瓦礫や車両があり、周囲は焼けた臭いがまだ残っていました。消防車両が入れないことで山の斜面には消防隊員の足跡が多数残されており、県内外からの消防隊員が鎮圧に向けて尽力されたのだと感じました。

3)活動を経て、大規模火災における救護活動への備え(物的・人的・心得)を教えて頂けますか。
 大規模火災においては、火災状況の範囲により避難指示地域が拡大していく傾向にあります。避難所が避難指示地域となった場合には、避難所から避難所へ移動しなければならず、その精神的な負担は計り知れませんでした。特に海沿いの地域においては、林野火災が発生している最中に、地震による津波が発生することも考えると高台に避難するという行動がとれないことも想定されます。避難場所の設定や物資保管場所など、火災や津波の被害から逃れることができる場所に設置するなど、最悪の場合に備えた対策を検討していく必要があると感じました。

健康観察後の記録の様子(執筆者提供)