Novo TTF tumor treatment field, オプチューン

  • TTF tumor treatment fieldという名前の治療法です
  • 「腫瘍治療電場」とでも訳すのですが,日本語では意味不明になります
  • 正式には「交流電場腫瘍治療システム」??と訳が決まりました
  • 2015年に,初発膠芽腫への臨床試験が終了し,装着できる患者さんに限れば生存期間を中央値で3ヶ月ほど延長するという報告ありました
  • 2018年時点では,初発膠芽腫の保険診療に用いることができる装置です
  • 頭皮の上の電極パッド (transducer arrays) から,脳腫瘍に向けて,非常に弱い中間周波(200kHz) の交流電場を持続的に発生させて,脳腫瘍細胞の分裂を阻害します
  • 頭髪を剃って丸坊主にして,ヘルメットのようなものをずーっと被っているという治療です
  • 英語ですと,low-intensity, intermediate frequency electric fields via non-invasive, transducer arrays
  • オプチューン NovoTTF-100A というのは治療装置の商品名で,1.3kgくらいの重さで持ち運びできます
  • 悪性腫瘍の細胞は増える時に,細胞分裂をして2つに分かれるのですが,その分裂を弱い電場で妨げるものです (antimitotic treatment)
  • その結果,腫瘍細胞が増えることができません
  • 理論的には,膠芽腫が大きくなることはある程度防げるのですが,腫瘍を小さくすることは難しいです
  • 腫瘍を「治す」装置ではありません
  • 装着のために頭の毛をそりますし,常時の持ち運び(1日18時間以上)が日常生活を制限します
  • おもな副作用は,頭皮の接触性皮膚炎です
  • 再発では保険診療はできなくて,自費で年間千万円単位の費用がかかります
  • 再発への使用はお勧めできません

装置です(NOVOCURE社より提供)

注意:全ての初発膠芽腫の患者さんに利点があるわけではありません

オプチューンが有用だとされる患者さんは,開頭手術摘出して,病理確定診断ができて,6週間で60グレイくらいの30-33回の放射線治療とテモゾロマイド化学療法を受けて,その後になおかつ良い状態を保っている患者さんに,使用した場合です。特に,高齢者で短期間放射線治療を受けた患者さんなどへの有効性は不明です。診断から放射線治療終了までは,3-4ヶ月かかるのですが,その間に悪化してしまう膠芽腫(30%以上あります)を除いた場合にのみ有用なのかもしれません。

オプチューンへの懐疑論

Wick W: TTFields: where does all the skepticism come from? Neuro Oncol 2016
脳腫瘍学の専門家からは,EF-14の臨床試験が315例の中間解析でランダム化中断されたことにかなり強い批判があります。2018年時点で,オプチューンは標準治療 the standard of careとは言えません。標準治療というのは多くの脳腫瘍専門家によって世界的に広く汎用されている治療法です。しかし,オプチューンの利用率はかなり低く止まっています

なぜあまり広まらないのか

オプチューンを装着できるのは,初発膠芽腫の中でも比較的に良い経過をたどる患者さんです。生存期間を中央値で2−3ヶ月延長できる可能性はあるのですが,頭髪を剃って毎日ほとんどの時間,装置をつけなければなりません。かなり目立つ装置ですし,一日中気にかかります。もともと予後が悪い膠芽腫の患者さんで,残された時間においての心理的な負担はかなり大きなものなのです。

2017年12月 NCCNのガイドライン:カテゴリー1

米国のNCCNが膠芽腫の標準治療として,放射線とテモゾロマイド,放射線とテモゾロマイドにオプチューンを加える治療法を同列に扱うとしました。

2017年 EF-14の最終報告

Stop R, et al.: Effect of Tumor-Treating Fields Plus Maintenance Temozolomide vs Maintenance Temozolomide Alone on Survival in Patients With Glioblastoma: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2017
695例の解析報告です。テモゾロマイドのみでは2年生存割合は30%,オプチューンの併用では43%でした。5年生存割合はそれぞれ5%と13%でした。全生存期間中央値は,それぞれ16ヶ月と21ヶ月です。

2017年11月SNOでの報告

EF-14の追加解析です。オプチューンを1日のうちのどのくらいの時間装着するか (compliance) で全生存期間に差があるという報告がなされました。90%の時間装着では全生存期間は24.9ヶ月,70-80%の装着時間では全生存期間中央値21.7ヶ月でした。通常推奨されるのが70-80%以上(1日18時間以上)の装着です。
なるべく長い時間装着したほうがいいというのは理論的にも当然のことかもしれませんが,頭皮の乾燥と保護のために90%は難しいこともあります。

装置の値段がが高すぎる

Bernard-Arnoux F, et al. : The cost-effectiveness of tumor-treating fields therapy in patients with newly diagnosed glioblastoma. Neuro Oncol 2016
フランスからの報告です。TTF治療のコストはとても高額で,費用対効果を見た場合,従来許容されて来た保険診療のコストをはるかに超えるものだと結論しています。保健当局が手頃な値段にすれば使用できるかもしれません。でなければ,無理!
日本国はそんなことは考えないので,日本では使ってもいいのです。

初発で状態 PS の良い患者さんへの適応

2015年の第3相試験の結果を受けて,The National Comprehensive Cancer Network (NCCN)がcategory 2A recommendationとしました。2016年7月には1.3kgに軽量化されたものがFDAで認可されました。

2016年の学会発表

Stupp R, et al: The 21st Annual Scientific Meeting of the Society for Neuro-Oncology (SNO) on Nov. 18, 2016, in Scottsdale, Arizona
2015年に発表された第3相試験 EF-14 の追加の報告です。初発の膠芽腫の患者さんでテモゾロマイドのみでは2年生存割合は30%でしたが,オプチューンの併用では43%でした。4年生存割合でも,それぞれ10%と17%で,オプチューンが7%上回ります。

2015年の論文発表

Stupp R, et al.: Maintenance Therapy With Tumor-Treating Fields Plus Temozolomide vs Temozolomide Alone for Glioblastoma: A Randomized Clinical Trial. JAMA 314, 2015
TTFとテモゾロマイド 210人,テモゾロマイドのみ105人の初発膠芽腫の患者さんで無作為試験が行われました。PFSはそれぞれ7.1ヶ月と4ヶ月,OSは20.5ヶ月 (n=196)と15.6ヶ月 (n=86)でした。症状が悪くならないで生存できる期間が3か月ほど延びる,全生存期間に対する利点が5ヶ月ほどあるということが報告されました。
Duke大学のSampson LHは化学療法の効果をあげる機序が不明であるとコメントしています。更に,Because of the study design chosen, doubts may remain as to the true efficacy of this therapy. と付け加えています。

2012年の論文報告(再発膠芽腫の生存期間を延長しない)

Stupp R, et al.: NovoTTF-100A versus physician’s choice chemotherapy in recurrent glioblastoma: a randomised phase III trial of a novel treatment modality. Eur J Cancer 48: 2192-2202, 2012
論文報告は,臨床第3相試験の結果です。再発膠芽腫の患者さん237人が無作為試験で治療を受けました。年齢は23−80歳,KPSは50-100%です。TTFは120人の患者さんに使用され,主治医の先生が選んだ化学療法は117人の患者さんに行なわれました。生存期間中央値は6.6ヶ月と6.0ヶ月,1年生存割合は20%と20%,6ヶ月無増悪生存割合は21.4%と15.1%でした。TTFとactive chemotherapyの間に全く差はありませんでした。腫瘍の縮小率は,14%と9.6%で有意差はないもののTTFの方が優ったとのことです。
「解説」弱い交流電場を脳内に作るだけですから,電極バッド tansducer の下の頭皮の荒れ(接触性皮膚炎)以外には,有害事象というのはほとんどありません。注意したいのは,もともと再発膠芽腫に有効な化学療法というのはありませんから,それと比較して非劣性試験を行っても,TTFに有効性があると言えるわけではないことです。

なぜ効くのか

  •  はっきりは解っていません
  • 装置は腫瘍細胞の内部に電場を発生させます
  • 細胞内の電荷を帯びた粒子 particleを動かすことによって効果を出します
  • 細胞骨格を構成するmicrotubulesなど働きを抑制するして細胞分裂を妨げると推定されています
  • 細胞骨格が染色体を集めたりaggregation 離したり segregationすることが抑制されるために腫瘍細胞が増殖できないということです
  • 他には,細胞が二つに分かれる時に形質膜を損傷して腫瘍細胞死を生じる,腫瘍細胞のDNA修復能を阻害するなどです

脳外科の先生へ
最近,神経膠腫が再発した患者さんからNovoTTFの治療を医師から勧められたという相談を受けます。この治療は保険診療ができませんから,一年間に数千万円のお金(実費)がかかります。患者さんにこの治療を説明する前に,患者さんと家族が将来を失わないでこの料金を支払えるかどうか考えてから,勧めて下さい。でないと、お金がないということで哀しい想いをするだけです。また高額な医療費と不便性がある一方で,数ヶ月の延命ができるだけで、膠芽腫が治るということはない治療法です。
初発膠芽腫の保険診療
膠芽腫に対する初めての治療には保険診療が認可されます。使用には月に140万円,年間で1,700万円くらいの医療費がかかります。この金額は実際には高額医療になりますから,月の限度額のみが毎月の患者さんの負担となります。再発の膠芽腫には今までどおり全額自己負担になりますから,千万円単位の治療費がかかります。

 

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おまけ

テモゾロマイドで初発膠芽腫のOSが15ヶ月となったという驚きは,2005年のものでした。「オプチューンを使用するとOSが21ヶ月にも伸びる!」,すごく驚きませんか?
オプチューンの臨床研究にに登録された患者さんは,診断からランダム化まで3.8ヶ月かかっています。手術,病理,放射線化学療法に時間が費やされいてるからです。この期間にすでに30%以上の患者さんで悪化 progressionがあり,これら予後の特に悪い早期増悪 early progressionを呈する膠芽腫患者さんが,登録時点で省かれているからです,ふるい落とし後の試験と言います。解ってくださったでしょうか。

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