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妊娠初期超音波の出生前診断における役割

妊娠初期超音波の出生前診断における役割

                                  (原田 文 2014年11月30日)

 はじめに

絨毛生検による胎児染色体検査は妊娠11週ころより可能となるが,その時期における胎児染色体疾患の診断が可能となるためのスクリーニング検査の一環として発展してきたものが妊娠初期超音波検査である.教科書的には妊娠全期間を3等分して妊娠初期(first trimester), 妊娠中期(second trimester), 妊娠後期(third trimester)とし,first trimesterは一般に妊娠13週6日までとされる.ただし胎児染色体疾患のスクリーニングにおいて,これまでのデータの蓄積によるエビデンスに基づいた解釈が確立しているのは胎児頭臀長(CRL: crown rump length)が45-85mmの大きさのときとされている.これは胎齢でいうと妊娠11週2日から妊娠14週1日の時期にあたる.すなわち胎児スクリーニングとしての妊娠初期超音波検査の「妊娠初期」は,この妊娠11週2日〜14週1日の時期と定義されている.

妊娠初期超音波では,この厳格にきめられた時期に,(娩予定日の確認,胎児染色体疾患のスクリーニング,B杙の形態的異常の検索の3つの項目について評価することになる.ここでは,出生前診断に関わる妊娠初期超音波の実際について,その有用性と限界,また無侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT: non-invasive prenatal testing)や羊水検査とのかかわりについて解説する.

 

 First trimester screening

日本では従来,高齢妊娠などを理由とし胎児染色体検査を希望する妊婦に対しては,妊娠14週から22週までに施行されるクアトロテスト,あるいは妊娠16週以降に可能となる羊水検査などの選択肢があった.これに対し,1990年前半より英国を中心に発展してきたfirst trimester screeningは,妊娠11週以降に可能である血液検査,超音波検査を組み合わせた胎児染色体異常のスクリーニング検査である.対象として想定される胎児染色体異常には,21トリソミー,18/13トリソミー,ターナー症候群,triploidy (3倍体)などがある.理論を簡単に説明すると,母体年齢から推定されるリスクを背景リスクとして,採血から2種類の血清マーカー(PAPP-A: pregnancy associated plasma protein –Aおよびfree-β-hCG)の血中濃度,超音波検査から胎児の後頸部の厚み(NT: nuchal translucency)を計測し,これらから胎児が染色体異常であるリスクを算出するものである.結果が150分の1以上である場合はハイリスクとされ,絨毛検査あるいは羊水検査といった確定的検査が考慮される.従来から行われてきたスクリーニング検査の血清マーカー試験(クアトロテスト)と比較して,その精度は格段によく,21トリソミーの検出に関する感度は90%を上回るとされている(1).

2013年4月から日本で開始された胎児染色体疾患のスクリーニング検査に無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT),いわゆる「新型出生前検査」というものがある.これは上記のfirst trimester screeningとは原理をまったく異にする検査である.欧米では長らくfirst trimester screeningが行われてきた社会的および倫理的背景があるなかで,2011年から新たにNIPTが始まり普及しつつある.これに対して,日本ではまずはNIPTが認定施設のみと限定的ではあるが施行可能となり,それにやや遅れてこのfirst trimester screeningを臨床研究として取り入れていこうとする動きが本格化し,現在,実現にむけての取り組みが進行中である.First trimester screeningでは,年齢にかかわらず希望すれば全妊婦がその対象となり,従来のクアトロテストに比べるとより早期により精度の高いスクリーニング検査が提供できることとなる.

 

 NTについて

すべての妊娠初期の胎児には、後頸部の皮膚と組織実質の間に低エコー領域を認める.これをNT(nuchal translucency)とよび,妊娠14週以降は徐々に消失するのが一般的である(図1).1992年にNicolaidesらがNTの増大と21トリソミーの関連について報告して以来(2),NTの増大はその他の染色体疾患や先天性心疾患をはじめ,現在まで200以上の胎児の疾患と関連があることが報告されてきた(3).そのため欧米では,妊娠初期のNT値はその後の妊娠期間を通して妊娠管理に重要であると位置づけされている.しかし日本では,NTの概念のみが先行して入ってきたことにより,NTのみで胎児の染色体疾患の可能性について推測することや,妊婦の誤った解釈につながる可能性への懸念から,一部の産科医にはNT評価を忌避する傾向があった.また,NTについての明確な基準やsystemicなアルゴリズムの作成といった学会レベルでの公的な取り組みが遅れたため,臨床の現場では長く混乱が認められた.

図1. 妊娠12週の胎児のNT(nuchal translucency)

NTは適切に計測し,適切に解釈されれば胎児の状態を評価・推測するために有用である.そのためにはNTを評価する際には,〃彗された時点の妊娠週数およびNTの計測値,胎児の形態異常の有無,の2点にとくに留意することが重要である.

 

 NTの正常範囲と増大

図2. 染色体正常の胎児におけるNT値の正常範囲.上から順に95パーセンタイル,50パーセンタイル,,5パーセンタイル

NTは妊娠11週から14週にかけてCRLに比例してすこしずつ増大する(4).図2に5パーセンタイルおよび95パーセンタイルを上限・下限とする正常範囲を示す.NT値が95パーセンタイル以上のとき「NTの増大」とするが,NT値が3.5mm以上であるか未満であるか,おおまかに2つにわけてとらえると分かりやすい.原則として,NT値は大きければ大きいほど,染色体疾患のみならず心疾患や遺伝疾患などとも関連があり,その予後は悪い (表1).また,妊娠10週以前に計測されたNT値はその臨床的意義が確立していないので,NT値を評価する際には,計測された妊娠週数に注意が必要である.

表1. NTと周産期予後

NT<3.5mm (99パーセンタイル)の増大を認める場合

胎児が染色体異常であるリスクは若干上昇するが,9割以上で胎児は正常である.

NT≧3.5mm の場合

母体年齢にかかわらず胎児が染色体疾患であるリスクは上昇し,そのリスクはおよそNTが4mmでは約20%,5mmでは33%,6.5mmでは65%と概算される(5).このため,胎児染色体検査についての選択肢はより積極的に提示されてもよい,と考えられる。また染色体が正常であっても,何らかの遺伝疾患が後日明らかになる可能性についても念頭においておく必要がある.

 

 NTの増大と関連のある解剖学的異常

超音波でNTの増大を認めた場合は,とりわけ念入りにその他の形態的異常の有無について検索されるべきである.妊娠初期のこの時期に診断が可能な異常のうち,NTの増大と関連があるものには,先天性心疾患,横隔膜ヘルニア,臍帯ヘルニア,巨大膀胱,骨系統疾患などがあり,逆に,無頭蓋症,全前脳胞症,二分脊椎,腹壁破裂,口蓋裂などが単独で存在する場合はNTの増大とは関連がない.実際にはNTの増大がきっかけとなり,詳細に胎児を観察することで胎児の形態的異常がみつかることも経験される(6).

また,それぞれの胎児染色体異常に合併しやすい形態的異常が知られており,特に形態的異常が複数みられるときは,その組み合わせからどの染色体異常の可能性が高いかを推測することができる.

 

 染色体異常と妊娠初期に検出が可能な解剖学的異常(図3)

図3. 異常所見の例.(左上)cystic hygroma,(右上)13トリソミーにみられた多指症,(左下)臍帯ヘルニア,(右下)triploidy:体幹の過度の屈曲および頭部―体幹の不均衡

21トリソミーの胎児の特徴

最も合併しやすい先天性心疾患に心房心室欠損症があり,重症のものであれば妊娠初期でも検出が可能である(7).大腿骨の短縮や,軽度の水腎症などの妊娠中期に検索されるいわゆるソフトマーカーの異常および消化管閉鎖は,妊娠初期ではその特徴がまだ顕著ではなく、検出は困難である.

18トリソミー

合併しうる形態的異常は多数におよび,その中でも最も特徴的なものの中に四肢の異常がある.妊娠週数に比べて頭臀長が小さいことや,主観的な判断にはなるが胎盤が小さいことに気付くこともある(8).その他に、臍帯ヘルニアや後頭蓋窩の異常なども妊娠初期に検出しやすい異常である.

13トリソミー

全前脳胞症,巨大膀胱,臍帯ヘルニアのいずれかまたはそれらの2つ以上が,13トリソミーの半数以上にみられ,これらはいずれも妊娠初期で検出が可能なものである(9).口蓋裂や多指症,高エコー輝度の腎臓などを認めることもある.

ターナー症候群

ターナー症候群は,胎児期に超音波上特に異常を示さない予後良好な一群と,胸水やcystic hygromaを認め胎児水腫を特徴とする予後不良な一群との2通りのタイプがある.胎児の水腫様変化が著しい場合には,ターナー症候群はまず鑑別にあがる染色体異常であり,さらに左心低形成症候群や大動脈縮窄症などの心室の左右差を認める心疾患(右>左)を合併すること(10)や,静脈管欠損を認める場合(11)などがある.

Triploidy(三倍体)

Triploidyを疑うきっかけとしては,まず過度な首の屈曲のため,正確な頭臀長が計測できないことがあり,その他に脳の異常(全前脳胞症や後頭蓋窩の拡大)や頭部が大きく体幹が小さいという頭部―体幹の不均衡が契機となることもある(12).胎盤は非常に薄いか厚いかのどちらかであり,後者の場合は嚢胞状,いわゆるmolar placentaを呈する.

 

 異常所見とカウンセリング

まず,超音波上の所見のみならず,その臨床的意義を正確に説明することが重要である.妊娠初期超音波では,胎児染色体疾患のマーカーとしてのNTの計測,および胎児の形態的異常についての検索を行うが,異常があった場合には胎児染色体検査の適応について判断し,必要時はその選択肢について提示することになる.NTの増大を認めた場合の胎児染色体検査の適応についての判断は,本来はその他のマーカー(PAPP-Aやfree-β-hCGなど)を考慮して,理想的にはfirst trimester screeningで算出されるリスク値をもとに行うことができればベストである.妊婦にとっても,胎児染色体疾患のリスクについてより具体的なイメージをもつことが可能であり,ときにNT値が若干正常値をこえて増大していても,first trimester screeningで算出されたリスク値が最終的には低いような場合には,不要な診断的検査をしないという選択につながることもある.NTの増大のみでその他の胎児染色体疾患のマーカーが測定できない場合には,もう一度詳細な形態的異常の検索をしたうえで,超音波検査の限界を説明し,胎児染色体検査を希望するかどうかについて,個別に話し合い決めていくことになる.

胎児の形態的異常を認めた場合は,それが致死的な異常であるのか,また染色体疾患と関連があるのかによって,その後のマネージメントは異なる.例えば,臍帯ヘルニアを認めた場合は,胎児染色体疾患(とりわけ13/18トリソミー)のリスクは高くなるため染色体検査は考慮されるべきであるが(13),単独の腹壁破裂でそれ以外に合併する異常が認められない場合は,胎児染色体疾患との関連は低く,また出生後に外科的に修復が十分に可能である疾患であることから,妊婦を安心させるカウンセリングが可能であり,これは診断的検査が必要ではない代表的な疾患である.

この時期の胎児異常の診断は,ときに妊娠中絶につながるため,非常に繊細でそのカウンセリングには特に配慮を要するのは言うまでもない.したがってカウンセリングは,十分な知識と経験をもつ医師により,妊婦の社会的,倫理的および精神的背景に配慮しながら,また,妊婦とその配偶者が超音波所見の意味する臨床的意義および予後を正確に理解しているかを確認しながら行われることが重要である.

 

 超音波検査と適切な胎児染色体検査の選択

妊娠初期超音波は,その目的からも胎児染色体検査との関わりが大きい.超音波検査のみで特定の染色体疾患の可能性が高いということのできる典型的な表現型をしめす胎児がいる一方で,超音波のみでは正常なのかそうでないのか結論づけられない場合の方が多く,経験上も大多数をしめている.また,NTのみの計測では胎児染色体疾患のスクリーニング検査としての感度,特異度はともに低く,十分に信頼に値するというレベルには到達しない(14).超音波検査のみでは染色体疾患を診断できないのは今も昔も変わりがないが,妊娠初期の超音波所見に対するエビデンスが蓄積されてきた今日,日本での独自のやり方とはなるが,超音波検査をより適切な出生前診断の選択の見極めに応用できる可能性がある.

実際の臨床の現場では,出生前診断を希望する妊婦の背景および理由はさまざまであり,NIPTと羊水検査とではどちらの検査が適切であるかは個別に判断されている.ここからは全くの私見になるが,NIPTを希望されても羊水検査が望ましいと思われるものの中には,超音波検査にて13,18,21トリソミー以外の疾患の除外が必要と考えられる異常所見を認める場合があげられ,具体的にはNTの著明な増大や,心疾患をはじめ胎児染色体疾患との関連性がはっきりしない形態的異常を認める場合などがあげられる.反対に,高齢であることだけを心配して胎児染色体検査を希望し,超音波検査にて胎児には特に異常を認めない場合には,NIPTは無駄な侵襲的検査およびそれに伴うリスクの軽減という本来のメリットを最大限に発揮できる.胎児染色体検査の手段の決定にはさらに考慮されるべき点があることはいうまでもないが,出生前診断における超音波検査の役割についての今後の議論の発展が期待される.

 

 おわりに

妊娠初期超音波検査は出生前診断の需要の拡大に伴い,今後その重要性を増していくと予想される.胎児染色体疾患のスクリーニング検査としては,NT計測のみではその精度に限界がある一方で,NTは適切に計測,解釈されれば胎児染色体疾患のスクリーニングあるいは形態的異常の検出に有用なマーカーであり,日本においても今後,日常診療でのさらなる普及が期待される.また,超音波検査のみでも積極的に胎児染色体疾患を疑うことのできる形態的異常,またはその組み合わせが存在する.妊娠初期超音波検査で異常を認めた場合は,NIPTや羊水検査などの診断的検査について考慮する必要があるが,逆に異常を認めない場合は,超音波検査あるいはそれをとりいれたfirst trimester screeningを利用することにより,不必要な診断的検査の回避につなげることができる将来的な見込みがある.

 

 文献

1) Spencer K, Souter V, Tul N et al: A screening program for trisomy 21 at 10-14 weeks using fetal nuchal translucency, maternal serum free beta-human chorionic gonadotropin and pregnancy-associated plasma protein-A. Ultrasound Obstet Gynecol.13(4):231〜237, 1999

2) Nicolaides KH, Azar G, Byrne D et al: Fetal nuchal translucency: ultrasound screening for chromosomal defects in first trimester of pregnancy. BMJ. 304(6831):867〜869, 1992

3) Souka AP, Von Kaisenberg CS, Hyett JA et al: Increased nuchal translucency with normal karyotype. Am J Obstet Gynecol. 192(4):1005〜1021, 2005;

4) Snijders RJ, Noble P, Sebire N,et al:. UK multicentre project on assessment of risk of trisomy 21 by maternal age and fetal nuchal-translucency thickness at 10-14 weeks of gestation. Fetal Medicine Foundation First Trimester Screening Group. Lancet.352(9125):343〜346, 1998

5) Kagan KO, Etchegaray A, Zhou Y et al: Prospective validation of first-trimester combined screening for trisomy 21. Ultrasound Obstet Gynecol. 34(1):14〜18, 2009

6) Becker R, Wegner RD: Detailed screening for fetal anomalies and cardiac defects at the 11-13-week scan.Ultrasound Obstet Gynecol. 27(6):613〜618, 2006

7) Mogra R1, Zidere V, Allan LD: Prenatally detectable congenital heart defects in fetuses with Down syndrome. Ultrasound Obstet Gynecol. 38(3):320〜324, 2011

8) Schemmer G, Wapner RJ, Johnson A et al: First-trimester growth patterns of aneuploid fetuses.Prenat Diagn. 17(2):155〜159, 1997

9) Papageorghiou AT, Avgidou K, Spencer K et al: Sonographic screening for trisomy 13 at 11 to 13(+6) weeks of gestation. Am J Obstet Gynecol 194(2):397〜401, 2006

10) Surerus E, Huggon IC, Allan LD: Turner's syndrome in fetal life. Ultrasound Obstet Gynecol.22(3):264〜267, 2003

11) Staboulidou I, Pereira S, Cruz Jde J et al: Prevalence and outcome of absence of ductus venosus at 11(+0) to 13(+6) weeks. Fetal Diagn Ther. 30(1):35〜40, 2011

12) Kagan KO, Anderson JM, Anwandter G,et al: Screening for triploidy by the risk algorithms for trisomies 21, 18 and 13 at 11 weeks to 13 weeks and 6 days of gestation.Prenat Diagn 28(13):1209〜1213, 2008

13) Khalil A, Arnaoutoglou C, Pacilli M et al: Outcome of fetal exomphalos diagnosed at 11-14 weeks of gestation. Ultrasound Obstet Gynecol.39(4):401〜406, 2012

14) Kagan KO, Wright D, Etchegaray A et al: Effect of deviation of nuchal translucency measurements on the performance of screening for trisomy 21. Ultrasound Obstet Gynecol.33(6):657〜664, 2009

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