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胎児採血の適応

胎児採血の適応

                                  (室月 淳 2013年2月10日)

 はじめに

胎児血を直接採取する経皮的臍帯血採取(PUBS: Percutaneous umbilical blood sampling)は,それまでの胎児鏡下穿刺からより安全性の高い超音波ガイド下穿刺が行われるようになった1980年代以降に広く普及した.さまざまな適応疾患に応用され胎児の病態生理を大きく解明したが,現在では代替検査が発達したためその適応はだいぶ限られてきている.

 

 方 法

超音波断層法で観察しながら23GのPTC針を用いて,局所麻酔下に経母体皮膚,経子宮壁に臍帯静脈を穿刺する.最近ではより安全な25GのPUBS専用の穿刺針が開発されている1).穿刺ガイドを用いる方法とフリーハンド法があるが,細い臍帯静脈から確実に採血するためには前者が容易である.穿刺ガイド法では,超音波プローブに穿刺ガイド用のアタッチメントを装着し,モニター上のガイドライン(刺入線)に沿って針先を進める.穿刺目標は羊水腔中のフリーループの臍帯静脈であり,モニター上になるべく長く,刺入線と垂直になるように描出する.胎動抑制のための薬剤(パンクロニウム,ジアゼパムなど)投与が必要になることは多くはない.

母体腹壁から臍帯静脈への穿刺は一気に行う.フリーループの臍帯を貫くようにPTC針の先端を進めたら,内筒を抜去してヘパリン化した1ccシリンジを装着し,軽く陰圧をかけながら針先をゆっくりと引いてくる.胎児血の逆流を確認できたら,新しいシリンジにかえて必要量の採血を行う.穿刺から採血終了まで穿刺針の先端をモニター上から見失わないことが重要である.熟練すれば妊娠17-18週,あるいは臍帯静脈径3-4mmくらいから穿刺,採血可能となる.

胎児採血のリスクは術者の経験と適応によることが多い.合併症としては,穿刺直後の胎児徐脈はもっとも頻度が高く3〜12%と報告されている2).胎児死亡もまれにあるが,もともと胎児状態がきわめて悪い染色体異常か重度の発育遅延例がほとんどである.しばしば認められる臍帯穿刺部位からの出血はおおよそ60秒以内に止血し,胎児に凝固障害がある場合でも出問題になることはほとんどない.

 

 適 応

(1)胎児血液疾患

これまでPUBSによって評価されてきた血液疾患には,〃豈婉展念枉鐓鼻雰賤病A,Bなど),ヘモグロビン異常症(サラセミア,鎌状貧血など),原発性免疫不全症などの遺伝子病,⊆己免疫性ないしは同種免疫性血小板減少症,パルボウイルス感染症,血液型不適合妊娠などによる胎児貧血などが上げられる.

今日では,琉篥措栖気里曚箸鵑匹慮彊遺伝子が同定され,遺伝子検査によって出生前診断がなされるようになった.△亮己免疫性血小板減少症(ITP)合併妊娠においても,かつては胎児採血による胎児の血小板数の評価がよく行われていた.児の血小板数5万/μ1以下であれば,経膣分娩により頭蓋内出血などの重篤な出血症状を高率に併発すると考えられていたためである.しかしITP合併妊婦が経膣分娩したときの頭蓋内出血をきたす頻度はきわめてまれという報告が相次ぎ,1999年にACOGが分娩様式を決定する際に胎児の血小板数を考慮する必要はないと勧告してからはPUBSはほとんど行われなくなった.

一方,胎児貧血を呈するパルボウイルスB19感染症,血液型不適合妊娠,母体胎児間輸血症候群などでは,採血による貧血の直接評価と治療としての輸血を行うために,胎児血管に直接アクセスできるPUBSのいい適応となる.図1に胎児血ヘモグロビン,ヘマトクリットの基準値を示す3).胎児貧血が著明な場合はその治療として胎児輸血が行われる.胎児に貧血があると中大脳動脈の最大血流速度(MCAPSV)が上昇し,1.5MoMをこえると中等度〜高度の貧血である可能性がある.MCAPSVが高値を示すときは胎児輸血の準備をして胎児採血を行い,図1の基準値をもとに貧血の程度を評価し輸血量を決める.

      図1.胎児血のヘモグロビン(g/dL)(左),ヘマトクリット(%)の95%基準値

 

(2)染色体分析

かつては胎児染色体分析がPUBSのもっとも多い適応であったが,現在ではその目的ではほとんど施行されなくなった.羊水による染色体検査では培養に10日以上かかる一方,胎児血では2〜3日で結果がでるために,迅速な対応が必要なときはPUBSによる染色体検査がなされることが多かった.しかしFISH法の普及により数的異常ならば1〜2日で結果が得られるようになったため,PUBSは羊水検査にほとんど置き換わっている.羊水検査で染色体モザイクの結果が得られたとき,真性モザイクと偽モザイクの鑑別にPUBSによる核型分析が必要となることがある.

(3)子宮内ウイルス感染

風疹やサイトメガロウイルスといった催奇形性のあるウイルスの先天感染を調べるため,かつては胎盤通過性のない抗ウイルスIgM抗体の有無をPUBSによってみていたが,現在では羊水のリアルタイムPCRによって直接ウイルスの定量を検査できるようになった.しかしPCRでは破壊されたウイルスの断片でも陽性と出るために,免疫グロブリンの投与による胎児治療が行われた場合の効果判定においては,胎児血中のウイルス量の定量のために胎児採血が行われることがある.

(4)胎児アスフィキシアの評価

胎児状態評価において胎児心拍数モニタリング,ドプラ血流速度波形解析,羊水量評価などが有用となるが,児の未熟性が問題となる時期の判断は難しくときに臨床的決断に迷うことがある.このようなときにPUBSによる臍帯静脈血ガス値の評価が行われた.アシデミアの有無を直接みることができるのでいちばん正確な胎児評価法であるが,穿刺時点におけるワンポイントの評価であること,手技が侵襲的でリスクを伴うことなどから,現在ではあまり行われていない.

 

 おわりに

染色体や遺伝子解析の技術の進歩により,胎児血を直接採取するPUBSの役割は以前よりだいぶ狭まってきたが,輸血を前提とする検査など絶対的な適応は存在しており,その手技に習熟しておくことは胎児医療にとって大切と考えられる.またこれまでに得られた胎児血の血液学的,生化学的データが,胎児の病態生理を理解する上で非常に大きな役割を果たしてきたことは記憶されるべきだろう.

 

 文献

1. 松田秀雄,川上裕一,芝崎智子,他:25ゲージ針の開発による胎児採血の安全性の向上.周産期新生児会誌2004;40:370

2. Ghidini A, Sepulveda W, Lockwood CJ, Romero R: Complications of fetal blood sampling. Am J Obstet Gynecol 168:1339,1993

3. 室月淳,岡村州博,岩本充,他:超音波ガイド下胎児採血による胎児の血液学的所見.日産婦誌 1992;44:638-642 

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