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経験的危険率について

経験的再発危険率について

                           (室月 淳 2015年2月10日)

非メンデル遺伝,すなわち多因子遺伝病や多くの先天奇形や染色体異常などの遺伝カウンセリングでは経験的なリスクが用いられることが多い.これは家系図などから統計的に求められる数値であり,理論的危険率にたいして経験的危険率 empiric (empirical) riskと呼ぶ.ただし実際にはメンデル遺伝においても,疾患の浸透度,突然変異率などにより個々のケースで危険率を理論的には決められず,統計的な危険率を使用することもある.本稿では日常にしばしば相談を受けることが多い代表的疾患の経験的危険率を簡単にまとめた.

 

 口唇裂・口蓋裂

口唇裂および口蓋裂は日本人に多い先天奇形で,全出生の約0.2%,500人に1人の割合で発生する.先天性であり,顔の中心にあって目立つことより一般の関心も高く,遺伝カウンセリングの例も多い.

一般には口唇裂/口唇口蓋裂のグループと口蓋裂だけのグループは区別される.すなわち発端者が口唇/口蓋裂のときは血族に口唇/口蓋裂の患者が現れるが,発端者が口蓋裂のみのときは血族に口蓋裂のみの患者しか現れない.

両親が正常で子にこれらの異常があった場合,次子の再発危険率はいずれのグループも2%以下である.ただし両親を除く親族いずれかにも異常があった場合,再発危険率は2-4倍と高くなるため,家族歴を十分に聴取する必要がある.

 

 近親婚

少なくともひとり以上の共通の祖先をもつ個体同士の結婚と定義される.もっとも多いのが“いとこ”婚で,つぎが“ふたいとこ”婚(いとこの子同士の結婚),そのつぎが“いとこ半”婚(いとこの子との結婚)である.

表1はやや古いデータであるが近親婚における経験的危険率をまとめたものである(大倉興司「プリンシパル遺伝相談」p195より引用).常染色体劣性遺伝性疾患においては,その疾患頻度が低ければ低いほど近親婚からの出現頻度が高くなることは直感的に理解できるだろう.しかし一般的なリスクとしてみた場合はせいぜい1.5〜2倍程度のものである.

表1. 近親婚における経験的危険率(非近親婚を1とした場合)

 

 ダウン症候群

染色体異常−次回妊娠へのアドバイス もご参照のこと.

トリソミー(標準)型

通常の遺伝カウンセリングでは,前児が標準型の21トリソミーであれば,両親の染色体検査を行う必要はない.患児をもった母親で次の子に予期される再発のリスクは,一般集団における危険率の2〜3倍になることが知られている.遺伝相談における再発危険率の提示としては,35歳未満では1%,35歳以上では正常人の年齢別危険率の3倍程度とするのが妥当である.標準型21トリソミーの個体が児をもうけることがまれにある(特に女性の場合).この場合再発危険率は50%ということになる.

表2. 母親の年齢と21トリソミー出産の関係(大倉興司「プリンシパル遺伝相談」p181より引用)

転座型

21トリソミーの4%程度に,21番染色体を含んだ転座染色体が存在する.転座型の21トリソミー症例において,両親にいずれかに同様な転座染色体が認められる(すなわち転座保因者である)頻度は約50%とされる.転座染色体をもつ親(保因者)からダウン症候群の子が生まれる確率は,転座型や保因者が父親か母親かなど個々のケースによってかわってくるため,くわしくは専門家か成書にご確認いただきたい.簡単にまとめると,保因者が母親で21番染色体の転座先が13番か14番のときは1/10くらい,22番のときは1/6くらい,保因者が父親のときはその半分くらいのリスクである.

転座型21トリソミーの残りの半数は,染色体の転座が新たに生じたいわゆるde novoと考えられる.両親の染色体が正常であるこの場合,再発危険率は一般と同じであり,ハイリスク群とはならない.

モザイク型

受精時には正常な核型であったが,初期胚の分裂の途中で不分離が起こり,21トリソミーの細胞と正常細胞が混在するものである.再発危険率は標準型トリソミー型と同じと考えられる.問題はモザイク型の染色体構成をもつ親から生まれる児についての危険率であるが,これは生殖腺にどれだけのトリソミー細胞が分布しているかによるため,明確な答えを出すことはできない.この場合出生前診断が選択肢となるかも知れない.

 

 二分脊椎

日本人のはっきりしたデータはない.欧米でのデータからは,同胞での再発危険率は3%前後と考えられる.すでに二人いる場合は10%程度となる.

 

 先天性心疾患

日本人データ(高尾ら1975),欧米人データ(Nora and Nora 1988)などが有名である.同胞再発危険率は日本人ではおおむね2%以下とされるが,欧米人ではやや高く3%前後の報告が多い.発端者の子における危険率は5%前後という報告があり,予想以上に高いので注意が必要である.

表3. 先天性心疾患の同胞再発危険率(高尾篤良他編「臨床発達心臓病学 改訂3版」p109より引用)

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カウンタ 5714 (2015年2月10日より)