COVID-19 の原因病原体であるコロナウイルスSARS-CoV-2のタンパク質の構造

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2のMproというタンパク質の構造がPDBに公開されていました。エントリは6LU7。PDBの解説の書き方からすると、このウイルスのタンパク質で他にも構造が決定されている分子があるけれども、(無料で無条件に)公開されているのはこれだけだという様に取れます*1。新しいものを発見したとして、その知財を囲い込んで自分達の金儲けにするというのは20世紀的なアメリカンドリームであって、ものが不足していた頃の考え方で時代遅れでないかと。発見したもので社会の様々な問題を解決したり、世の中を良くする様にというような考え方が広がらないかなぁ。それはさておき、タンパク質の発現にバキュロと昆虫細胞を使った系が多い中、このタンパク質は私が慣れ親しんだBL21(DE3)で発現しています。公開されたものを見てみましょう。(レンダリングは私がしましたが、構造はPDB 6LU7を使用しています)

*1 その後多くの構造が公開されています。ACE2とウイルスのタンパク質の結合についてを別記事に追加しました。(2020.04.11)

SARS-CoV-2コロナウイルス3CLヒドロラーゼ(Mpro)のタンパク質で、登録された構造全体(1分子分)を表示しています。Mpro(白)以外にオリゴペプチド様の阻害薬(薄紫)が一緒に含まれています。

Covid2019A

阻害薬付近が見えやすいように薄切り(Slab)にしてみます。

Covid2019C

両分子間で水素結合がありそうなところを見やすい表示にしてみました。ちゃんとはまり込んでいるような感じになっています。

Covid2019B

PDB newsによると、「PDBアーカイブのエントリーと比較すると、少なくとも90%の配列相同性を持つ蛋白質が95件のPDBエントリーで同定されました。さらに、これらの関連蛋白質構造には、約30個の異なる低分子阻害薬が含まれており、新薬の発見に役立つ可能性があります。」とのこと。それらの阻害薬は治療薬の開発の出発点になるかもしれません。

誰が科学を殺すのか

なかなか衝撃的なタイトルの書籍で、興味深く読ませていただきました。サブタイトルが示す【科学技術立国「崩壊」の衝撃】が示すような現象の、部分部分はこれまでも少なからず報道されていましたが、新しい情報を入れつつ、踏み込んだ取材がなされていました。私の見方では、どこかの誰か個人が悪さを働いているというよりは、日本国民の全体のムードというか、時代の空気に流されていくことで、こういう状況になってきているのだろうなと思いました。

身近な例でも

この書籍の主題とは別に、身近なところでは環境が厳しくなってきています。具体的にどういう集計なのか、わかりませんが10分の1というのが実態を反映している数字であれば、相当にゆゆしき状況です。

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法改正で良くなるか?

Japanese Cancer Trial Network (JCTN)ではホームページで法改正への提言を訴えています。臨床研究法の制定には、一部の研究者らの不正がきっかけとなった側面があり、(元)研究者らが他研究者らの首を絞めている構図だったりします。科学コミュニティで、プロフェッショナルとしての自浄作用がうまく機能しなかったがために、法律で締め上げられたりするわけです。

それはさておき

私自身がかつて、観察研究のページで描いた内容もあっという間に時代遅れな感じになってしまいましたので、少し補足を。

QAの改訂1

QAの改訂で変わった点ですが、旧問51では、「診療の一環として」行えば、visitや検査の回数が増えても、通常行わないような検査であっても「観察研究」にできるように読めました。この旧問51に相当する新問1-11では、そのような読み方ができない形に改められました。(図は旧新の順です)

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QAの改訂2

QAの改訂で旧問59に相当する新問1-12, 1-13ではおなじみ「軽微な侵襲」という言葉が消えました。「軽微な侵襲」も、施設によっては柔軟すぎる運用をやっていたのではないかという懸念もあり厳しくしたのか?とも勘ぐってしまいます。治験のバイオマーカー研究では、普通の感覚では軽微とは言い難い検体採取が必要で、かといって、観察研究としてやるとの治験や特定臨床研究にするのとでは手間が大いに変わります。(だからと言って適当でいいはずもなく)(図は順に旧新)

visitについては、負担が少ないのであればちょっと多めになる程度なら観察研究として実施できるようです。

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バイオマーカー研究の位置づけ

2019.3.31版の事例集では、治験に付随するバイオマーカーの研究は「医薬品の安全性有効性をみる」わけではないので観察研究で良いということになったようです。

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チェックリスト

この辺りをまとめたホームページでは、チェックリストが提供されています。

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とりあえず、アップデートはこの辺で

新型コロナウイルス

2020年1月24日付のNew Engl J Med誌には新型コロナウイルスに関連した記事が複数123掲載されています。無料で読めるようになっていますので、購読契約された職場でなくても読めます。(職場で購読契約しているovidはリアルタイムで読めなくて、少し遅れて全文を見ることができるようになります)スタンリーパールマン(真珠男?)さんの論説2からの情報を中心に、少し整理してみました。

新型コロナウイルスの名前

2019-nCoVと暫定的に命名された。

2019-nCoVが見つかった場所

中国武漢のシーフード市場、生鮮食品市場(wet market)にさらされているヒトに見つかった。

2019-nCoVについて

人から人への感染

当初の報告では人から人への感染は「ない」あるいは「限定的」とみられていたが、1/24/2020現在では人から人への感染は発生しているとされている。かつて流行したSARS-CoVやMERS-CoVのアウトブレイクと同様に重症の呼吸器感染症を引き起こす。1/24/2020現在、800を超える症例が報告されていて、感染した人のうち死亡した者の割合は3%と報告されている。(https://promedmail.org/)

ゲノム配列

同誌のZhu et alが報告した通り3、2019-nCoVのゲノム配列が決定されている。SARS-CoVの配列と75-80%が共通で、いくつかのコウモリコロナウイルスと密接に関連している。初代ヒト気道上皮細胞を用いて培養することができる。培養法は、治療法を開発するための基礎研究に使用できるかもしれない。たとえば、迅速診断法の開発を通して、市場・野生の動物や人での感染者の割合を評価して対策を検討することが可能となる。また、治療薬・ワクチン・動物モデルの開発を促進できる。

SARS-CoV, MERS-CoVで学んだことから

SARS-CoVのヒト気道上皮の受容体はACE2とされている。SARSの時の様にヒトACE2への結合の強い変異を2019-nCoVが獲得しヒト宿主への適応力を高める可能性が指摘されている。このヒト宿主への適応状況を広範囲にモニターする必要がある。

MERS-CoVはラクダから人へ感染し、SARS-CoVは生鮮市場の動物から人へ感染したとされているが、2019-nCoVはコウモリのコロナウイルスとの類似性が高いことから、コウモリがウイルスの主要な貯蔵所である可能性が高い。コウモリから中間ホストを介して感染するのか、コウモリから直接人に感染するかを明らかにすることは人畜共通感染の対策を策定する際に有用である。

References

1.
Munster V, Koopmans M, van D, van R, de W. A Novel Coronavirus Emerging in China – Key Questions for Impact Assessment. N Engl J Med. January 2020. [PubMed]
2.
Perlman S. Another Decade, Another Coronavirus. N Engl J Med. January 2020. [PubMed]
3.
Zhu N, Zhang D, Wang W, et al. A Novel Coronavirus from Patients with Pneumonia in China, 2019. N Engl J Med. January 2020. [PubMed]

「月の光」冨田勲 SACDハイブリッドCDからのデータの抽出

故冨田勲先生からファンへの挑戦だ!

シンセサイザーで有名な冨田勲先生の初めてのシンセサイザーのアルバム「月の光」。アルバムのライナーノートによるとオリジナルのLPが作成されたのが1972年。このブログを書いているのが2020年だからおおよそ50年前。1972年当時私は小学生。そのLPを私が初めて耳にしたのは中学生。当時は同じサークルの先輩からLPを借りて、コンパクトカセットテープに私的にコピーして聴いていました。時代は移り変わってLPはCDへ、カセットテープはMDへ、そして、2020年現在媒体はソリッドメモリーへ主役の座を引き継いでいます。(初代iPodが500円玉の様なハードディスクにデータを記録していたので、ハードドライブも一時的に主役だったか?)1990年に仕事を始めてから医局の将棋の駒のような転勤生活で、大学卒業から現住所まで15回の引っ越し。その過程でカセットテープとかLPとか、忙しさに追われて聴かなくなったソフトの大部分を処分してしまっていました。

年齢を重ねて少し仕事が落ち着いてきて、時間に余裕が出てきた頃から、昔聴いた演奏のリバイバルCDを見つけて聴いたり、若いころに聴いた曲で新しい演奏を探して聴いたりするようになりました。冨田勲先生の作品もCD化されたのをいくつか持っていて、iPodに転送して聴いていました。先日たまたま家のオーディオシステムで聴こうと、その中の一つの円盤をCDプレーヤーに入れてみたところ、「SACD」の表示がでました。アルバム「月の光」CD版はスーパーオーディオCDだったのです。(iPodへ転送できるのは普通のオーディオCD(CD-DA)ですが。)それで、ライナーノートのさらに後ろの方を読み直してみると、このアルバムにはCD-DAとSACDの他にもパソコンで読みだせるAACフォーマットの音声データとして、バイノーラル録音したオーディオファイルを収録していると書かれています。その記述を素直に読むと、誰でもパソコンのCDドライブにディスクを入れたら、オーディオファイルがあって、それをコピーして聴けますよ、と理解できます。でも、実際はここからが大変でした。「リッピングして聴いて良いとは太っ腹」と思ったのも一瞬で、吹っ飛び「これはファンへの挑戦だ!」になりました。そんなこんなで、そのプロセスを備忘録として書き残そうと思った次第です。

パソコンのDVDドライブに「月の光」ディスクを入れると

まずは、素直にPCのDVDドライブにディスクを入れてみました。パソコンからファイルとして見ようとしたところ、CD-DAのオーディオディスクとしては認識されるのですが、パソコンで読みだせる音声データがあるようには見えません。冨田勲先生は以前「バミューダトライアングル」というアルバムの中にデータを音声にエンコードして、音楽の中に混ぜ込んで、コンピューターでデコードして謎を解いてみよ、というような実験もしていました。今はA面B面それぞれにメッセージがあって、次のような物でした。

Side A

THIS IS THE BERMUDA TRIANGLE, OVER. SLOW DOWN. TARGET 50 MILES OFF
SOUTH FLORIDA, A GIANT PYRAMID AT OCEAN BOTTOM.

Side B

THIS IS THE BERMUDA TRIANGLE, OVER. LOOK OUT! THE CYLINDRICAL OBJECT
JUST LIKE THE ONE EXPLODED OVER SIBERIA AND CRASHED INTO TUNGUSKA IN 1908,
HAS JUST COME INTO THE SOLAR SYSTEM.

あのバミューダトライアングルもバイノーラル録音したのを疑似的に2組のスピーカーで立体的に聴こえるような処理したバイノーラル(バイフォニック)処理されていたのを思い出しました。そうだ、この月の光も「これは何か特殊な方法でデータが埋め込まれているから、出来るものなら謎を解いてみよ」というようなメッセージに違いない。埋め込まれている音も、バイノーラルだと言っているし。またバミューダトライアングルみたいな実験をしているに違いない。確信しました。

AACデータの読み出しに苦労した記事がネットに少ない

私が苦労する問題はたいてい先人が解決していて、ネットに記事があるものなのですが、この件については、検索してもそれらしい記事に行き着きません。レイヤーノートの後ろの記述では次の通りです;「マイコンピュータ内のディスクの挿入されたドライブをダブルクリックして開き、ウインドウの中のオーディオファイルをダブルクリックしてください」。私のマイコンピュータ内のドライブにはオーディオファイルがありません。CDのレイヤーはパソコンで見えているはずなのにあるはずのファイルが見えない。ドライブが古いのでSACDのレイヤーのデータへアクセスできていないからかもしれません。

SACDのイメージをパソコンから見る方法が

ブルーレイプレーヤー(BDP-170)に入れたディスクをウインドウズからアクセスする方法がネットにありました。次の4段階に分けて手順があります。

  1. BDP-170側の準備
  2. USBメモリの準備
  3. パソコンの設定(我が家のはウインドウズ7)
  4. データへのアクセス

1. BDP-170側の準備

  • ホームメニュー
  • 本体設定
    • ワイヤレス設定(すでにワイヤレス接続している場合不要で次の「ネットワーク」へ)
      • 次画面へ
      • 現在のネットワークを解除します。続行しますか?<はい>
      • 接続したいネットワークを探して、適切なパスワードを入力する
      • 戻る
    • ネットワーク
      • IPアドレス設定
      • 次画面へ
      • IPアドレス自動取得<オフ>
      • IPアドレス欄に表示されているIPアドレスを記録する(’192.168.xx.xx’)
      • 戻る
    • 再生
      • ディスク自動再生<オフ>
      • ラストメモリー<オフ>

以上を設定したら電源をオフにする。USBメモリーが刺さっている場合は取り外す

2. USBメモリーの準備

  • USBメモリーはできるだけ専用の物にして余計なファイルを置かない
  • サイズはごく小さくて良い。(352kbのファイルが置ければ良さそう)
  • FAT32でフォーマットする。その際ドライブ名は8文字未満にする。(’rip’とかにしました)
  • SACD-extract-BDP160.zipを解凍するとできるAutoScriptフォルダを、USBメモリのルートディレクトリに置く
  • 電源の入っていないときにBDP-170に挿す

3. パソコンの設定

  • ‘C:’ 直下に’sacd’というディレクトリを作成する
  • sacd_extract_0.3.8_WIN32を解凍してできるsacd_extract.exeを’C:/sacd/’に置く
  • Windowsの’ネットワーク’から、BDP-170が見える事を確認する(BDP-170の電源が入っているときに確認)

4. データへのアクセス

  • 2で準備したUSBメモリがBDP-170に挿さっていることを確認
  •  BDP-170の電源を入れる
    • 起動時にUSBを認識している事やネットワークに接続していることを示すアイコンが現れる
    • 勝手にトレイがひらくことがある
  • PCではウインドウズ標準で入っているコマンドプロンプトを起動
  • 次のコマンドを入力
    • c:
    • cd /
    • cd sacd
    • sacd_extract -i 192.168.xx.xx:2002 -P -I
      (xx.xxの部分は上記BDP-170 側の準備で確認したIPアドレス)

10分ほどかかりまして、2.2Gbほどのサイズの一つのISOファイル(ディスクの.isoイメージ)ができました。イメージファイルをそのままDVDに焼くと、再生できない代物ができました。

コマンドの最後の部分を以下のようにしてみました。

    • sacd_extract -i 192.168.xx.xx:2002 -P -s

同じく10分ほどかかりまして、13のdsfファイル(曲数だけの数に分かれる)ができました。これをそのままDVDに焼くとDSDディスクになりますが、これもBDP-170では再生できません。

dsfファイルをAudioGateで.flacにコンバートして、できたflacファイルをUSBメモリーに入れるとBDP-170で再生できました。でも、AACファイルでもなければバイノーラルでもなさそうです。

これで抽出できるのは、SACDのオーディオファイルで、結局SACDのデータを吸い出した様です。この道筋は、それで貴重ですが今回の目的とはちょっと違います。

CD-Extraのフォーマットがカギか?

CD-DAとパソコンデータが入っているフォーマットをCD-Extraと言うそうです。今回の問題を「CD-Extraが再生できない」ととらえると、同じ問題はいくつかの解決策がネットで示されていました。要約すると以下の様な内容。

  • ユーザーの問題(オーディオCDとして自動的に開いたら、エクスプローラ(あるいは「(マイ)コンピュータ」)で開こうとしていない)
  • QuickTimeがインストールされていない
  • 保存されているデータがMac/Windows機種特異的(互換性のないものを開こうとしているとか)
  • CD-ROMドライブ(DVDドライブ)のドライバが古い
  • ドライブが古くて、がマルチセッション対応でない
  • ディスクに傷や汚れがある
  • 常駐させている’AnyDVD’が悪さをしている。これを終了または無効にする。

私の場合はドライブが古かったことが問題の様です。M-Disk対応の比較的新しいドライブをつないだらマイコンピュータからディスクを開いた際にAACファイルが見えるようになりました。勝手に故人からの挑戦を受けて立っていたって、失礼しました。どうぞ安らかにお休みください 拝

治験薬服用後に飛び降り死

「治験薬服用後に飛び降り死 てんかん発作の薬、副作用か」

というタイトルで目を引くような一般向けのニュースがネットで流れていました。これは2019年7月頃に、治験症例で転帰死亡の副作用報告があったとして速報が流れていた件の調査結果報告書で、薬機発第1127020号として令和元年11月27日づけでPMDA藤原理事長名で厚生労働省宛に出された報告書が公開されたことを受けての記事でした。この治験薬の成分記号はE2082で、AMPA受容体阻害薬です。同様の作用機序を有する医薬品としてはペランパネル水和物が国内では製造販売承認されています。全く新しいこれまでに医薬品として使用されてきた歴史のないような作用機序のもの、という訳ではないようです。

治験に関係する仕事をしていますので、自分なりに少しまとめて勉強してみようという事で資料を集めてみました。

過去に治験で問題となった例

関連の業界では有名な治験での苦い経験としては、TGN-1412とBIA 10-2747の例があります。TGN-1412は、superagonistと呼ばれる高い活性が想定される抗体医薬品で、その治験ではサイトカインストームと呼ばれる病態を発生して健常被験者が死亡する恐れのある重篤な状態になりました。BIA 10-2747は、脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)阻害薬で、おそらく脳内カンナビノイドが蓄積することを介して健常被験者が死亡しました。いずれも有名な「事件」ですので、治験薬の名前で検索すれば様々な分析資料を容易に入手することができるでしょう。

今回のケースの臨床経過

ニュースでは簡単に電柱から飛び降りたとして報道されていました。これでは何が起きたのか良く判りません。報告書によると、退院した当日に治験施設を再受診する等の行動が記載されていて、被験者自身にはただ事ではない病態が発生しているという自覚があったように思われます。(以下はリンク先PDFから引用)

また、臨床経過と関連した記述を抜き出しますと次のようになります。

本被験者に発現したすべての有害事象は、治験責任医師により治験薬との関連ありと判断された。入院期間中に被験者から報告された有害事象のうち眠気、浮動性めまい及び悪心はいずれも発現したその日のうちに症状が消失し、当該事象に対し治験薬の投与中止や薬剤治療などの処置は必要としなかった。
Day 14の退院以降の経緯は以下のとおりであった。
・ 本被験者は、令和元年6月24日(Day 14)午前に治験実施計画の規定どおり退院したが、同日午後に規定外で自主的に来院(以下、「規定外来院」)し、令和元年6月22日(Day 12)から幻視・幻聴が発現していること及び令和元年6月23日(Day 13)から眠れていないことを訴えた。規定外来院時の治験責任医師による本被験者の診察において、入院期間中にこれらの症状を申告しなかった理由について、「病院では様々な音が不快で、早く家に帰りたかったため、入院期間中には症状を訴えなかった」と本被験者は説明した。
・ 治験責任医師は、規定外来院時に本被験者に心療内科の受診を勧めたが、被験者本人が心療内科の受診を希望しなかったこと、治験責任医師は入院や治験の検査によるストレスが症状の要因になっている可能性があると考えたことから、症状が続く場合は心療内科の受診を検討することを本被験者に伝達した。その上で、治験責任医師は、本被験者が幻視・幻聴について理路整然と説明する等、その言動に異常は認められないこと、眼振等の症状も認められなかったことから、有害事象の程度や状況に鑑みても入院を要する程度ではないと判断し、本被験者に翌日に医療従事者が連絡することや次回来院日を確認して、本被験者を帰宅させた。
・ 本被験者は令和元年6月25日(Day 15)の午前8時に電柱から飛び降り死亡したことが、6月26日(Day 16)午前に警察から治験実施医療機関に連絡され、治験実施医療機関から治験依頼者に報告された。当該事象は異常行動として報告された。警察による捜査の結果、本被験者の死亡は脳挫滅によるものであった。また、退院後に他の薬物を使用した形跡は発見されず、剖検時に採取された血液及び尿検体のいずれからも覚せい剤や睡眠薬等の異常行動を誘発すると考えられる薬物は検出されなかった。
・ 以上より、治験責任医師及び治験依頼者は、本被験者における死亡は異常行動によるものであり、治験薬との因果関係は否定できないと判断している。

また、治験依頼者が把握していない情報をPMDAが入手したと思われる部分が次のように記載されていました。

本被験者の死亡後に本被験者の手記が自宅から発見された。手記はDay 14の夜からDay 15の朝までの間に記されたものと考えられ、筆跡は乱れ誤字も多く混乱した様子が伺われた。精神症状について以下の記述があった。
・ 治験薬の投与を受けるまではうつになったこともなく、精神症状はなかった。
・ 聞いたことのある音が脳内で複数重なり合う幻聴がある。
・ 他の形が漫画の一場面や絵画、キャラクターのロゴ等様々に見える。
・ 夜が来ても眠れない。体が眠っても意識が起きている感覚がある。
・ 次々と考えが浮かび上がり、思考が瞬時に入れ替わるなど頭が極めて冴える感覚がある。
・ 一方自分は支離滅裂であり、壊れている感覚がある。
・ 自分が障害者になってしまったと感じる。
・ 自分がなくなる恐怖がある。殺してほしい。
・ この状態なら自殺する。

わが身に降りかからないように

メディアはおそらくさまざまな「関係者」を「犯人」に仕立て上げようとするかもしれませんが、経過を読んでいる限り定められた手順を無視した危険なことをした人がいる訳ではありません。退院した当日午後に被験者が予定されたビジットでなく再受診した時の、治験責任医師の判断(入院させずに帰宅させた点、精神科を受診させなかった点等)は見解が分かれる部分かもしれませんが、報告書にはそれぞれ合理的な判断にいたる考え方が書かれており、現場の判断としては誤っていたとは言えないように思います。それではどうしたらよいのかが悩ましいところです。しばらくは報告書を読んで、どこを変えなければならないのか吟味する必要がありそうです。

クラスエフェクトかも

ちなみに、同じAMPA受容体阻害薬であるペランパネル水和物が上市されていて、副作用報告の対象になっています。BCPNNの結果見てみますと、攻撃性, 自殺企図, 激越, 傾眠,怒り, 易刺激性, 意識変容状態, 自殺既遂, 妄想, 骨折, 異常行動, 幻覚, 衝動行為等にシグナル(厳密には集計上のdisproportionality)が上位に見られます。今回の被験者の方が悩んだ症状とあい通じるものが並んでいます。クラスエフェクトである可能性も十分想定できます。

たまごぶらす in TheGLEE 2019

たまごぶらす in TheGLEE 2019

ライブハウスの印象

’たまごぶらす’の出演するライブに行ってきました。場所は神楽坂の TheGLEEというライブハウス。アコースティックな音を大切にしているという事で、ホール内は木目のデザインが上品なイメージを醸し出す小ぎれいな雰囲気の内装でした。今回は他ユニットとのジョイントライブで、’たまごぶらす’は最後でした。仕事が終わってホールに入るとフルート2本とピアノのユニットが最後の曲を演奏していました。

2組目の木管五重奏が始まる前の休憩の間に座席に案内されました。少し遅めに行ったという事でステージで言う上手側端の方の座席でした。流石に目の前のクラリネットの音ばかりが響く感じでしたが、このクラリネットの音が心地よくて’たまごぶらす’が始まる前から大満足です。吉田かなえさん、素晴らしい演奏ありがとうございます!

たまごぶらすの演奏

たまごぶらすの曲は以下の通りでした。お得意のレパートリーでしたが、それぞれ以前より一段とこなれてきて楽しめました。

  1. Jive For Five for Brass Quintet
    ポール・ネーゲル (Paul Nagle) 作曲
    https://youtu.be/kKSRRc_R8To
  2. 歌劇「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ
    ジャコモ・プッチーニ作曲
    https://youtu.be/rm4Vj1zp0Rw
  3. 大阪(なにわ)の新世界
    ドヴォルザーク Leo Wood 作曲
    高橋宏樹 編曲
    https://youtu.be/rnEgWeeFe64
  4. ウエストサイドストーリー
    レナード・バーンスタイン 作曲
    https://youtu.be/gwQLzL38UH8
  5. 嵐メドレー〜アンコール(勝手にシンドバット)
    https://youtu.be/puBcK9gIAfY

 

ヘモグロビン分子とヘムの状態

初めに

(ヒト)ヘモグロビンは、赤血球に含まれる分子です。赤血球は肺の毛細血管で酸素を「捕まえ」て、血流に乗って身体の組織に移動し、組織では酸素を「離し」ます。つまり、酸素を肺から身体の組織へ運ぶ機能を有します。その機能をヘモグロビンの構造の側面から観察してみました。

ヘモグロビンには2つの構造が異なる状態があります。緊張した状態 (tens form, T型)と緩んだ状態(relaxed form, R型)です。周辺(環境)のpHが低い、CO2濃度が高い、2,3 BPG濃度が高い等の状況下では、ヘモグロビン分子がT型を取りやすく、その逆ではR型を取りやすいとされています。T型は酸素との親和性が低く、言い換えるならば酸素を放出しやすく、逆にR型では酸素との親和性が高く、酸素と結合しやすい状態です。T型を取りやすい環境は身体では組織の環境であり、R型を取りやすい環境は肺の毛細血管の環境ということになります。赤血球が肺で酸素を取り込み組織まで運ぶのは、ヘモグロビンが組織では酸素を放出し、肺の毛細血管では酸素と結合しやすいというヘモグロビンの性質によって実現されています。

生理的に存在する2つのヘモグロビンの状態のうち、ヘモグロビン分子が酸素と結合した状態のものをoxyhemoglobin、酸素と結合していないものをdeoxyhemoglobinと呼びます。ヘム鉄はそのいずれの状態でも2価のままです。oxyhemoglobinを「酸素化ヘモグロビン」とdeoxyhemoglobinを「脱酸素化ヘモグロビン」と呼びます。「酸化ヘモグロビン」「還元ヘモグロビン」と書かれている場合がありますが、私はこの呼び方には違和感を持っています。oxyhemoglobinでも、ヘム鉄が酸化されていないからです。これらの酸素化・脱酸素化の状態の他に、実はヘム鉄が酸化した3価の状態の物も存在していまして、「メトヘモグロビン」と呼ばれています。病的にメトヘモグロビンが増加した状態をメトヘモグロビン血症と呼びます。私としてはメトヘモグロビンという病的な状態で増加する分子を「酸化ヘモグロビン」と呼びたいところです。(ただし、そのように呼んでいるものはあまり目にしません。)

オゾンで処理した自己血を輸注する健康法(?)の様なものが報道されていましたが、オゾンのような反応性の高い酸素原子を含む分子が、ヘモグロビンと反応するとメトヘモグロビンを産生しないか心配です。実はそのような実験を行った結果が報告されていました。等容量(液体とガスとが)のヘモグロビンと4%以下のオゾンを短時間 (within few minutes) 反応させたところメトヘモグロビンがごくわずか増加したということでした1。環境にあるオゾンが人に作用した際のヘモグロビンの酸化を評価するような実験なのか、この文献で試験されていましたのは、オゾン濃度が最大4%、生体分子とオゾンが反応すると短期間にオゾン濃度が低下することを想定して、ヘモグロビンが直接オゾンと反応するであろう反応時間も短時間に設定して実験しています。(Within few minutes after rapid mixing of the equal gas‐liquid volumes, the ozone was consumed because by instantaneously reacting with biomolecules, generating reactive oxygen species (particularly hydrogen peroxide) having very short lifetime and lipid oxidation products. ) そうした実験系でもメトヘモグロビンはごくわずかに増加を示したようです。

という訳で?酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの構造の差を見てみようと思いました。

方法

構造の情報はProtein Data Bankから

deoxyhemoglobin 2hhb.pdb2 (1)

oxyhemoglobin 1hhb.pdb2 (2)

α鎖1分子分のみ表示したい

(1) chainA + heme Aのみsave -> deoxyHb.pdb (3)

(2) chainA + heme A + o のみsave -> oxyHb.pdb (4)

(3) load (4) load -> (5)

作業中見やすくするように

(5) 両方のレイヤーについてside chainをかくす
(side chainのカラムのどこかを右クリック、これを両方のレイヤーで行う)

(6) OxyHb ピンク DeoxyHb 水色 O 赤 Oxyのヘム黄色 Deoxyのヘムマゼンタ

2種類の構造の位置を一致させて表示するために

(7) Fit メニュー:Magic Fit -> accept all parameters

(8) Fitメニュー: Generate Structure alignment

ヘムと相互作用するカギとなるヒスチジン残基

(9) サイドチェインを表示、His87, His58のラベルを表示

図を美しくしたい~レイトレーシング

(10) 見やすそうな角度で、PovRayへの出力ファイルを保存

結果

酸素化ヘモグロビン

酸素化ヘモグロビン

脱酸素化ヘモグロビン

上記の2つを同じ位置に配置してみました

 

想うところ

赤血球が酸素を運ぶ際、鉄が錆(さび)ようとする(酸化されやすい)性質を利用して酸素を引き付けます。しかし、本当に錆びてしまったら酸素を必要な場所で放すことができませんので、引き付けるエサとして鉄を利用しつつ、その鉄に近づいた酸素をうまく制御している、というのがヘモグロビンの機能の本質的な部分であって、あまり強力な酸化作用はちょうど良い制御を逸脱するかもしれません。

前々職の開発にかかわった医薬品の副作用として、「メトヘモグロビン血症」がありました。メトヘモグロビン血症を診断した場合にはメチレンブルーを使用することになるのですが、その当時日本国内ではメチレンブルーが医療用医薬品として承認されておらず、ひどいメトヘモグロビン血症になったらどうするといいかという問いには非常に答えにくい状況でした。金魚等の白点病の治療薬としてはペット屋さんに行けばありますが、人に静脈注射できるような品質が担保されていません。医療上の必要性が高い未承認の医薬品という事で厚生労働省から働きかけがあり、第一三共さんが承認を取得して世に送り出してくださったという経緯があります。

造血幹細胞移植を行う際に無菌室を滅菌するのにオゾンを用いていたこともあり、オゾンは殺菌作用のある物質と認識しており、生体分子との反応性も高そうです。人にとっても高濃度曝露は避けるべきものと理解していました。そういう認識があったもので個人的には毒性が心配なのですが、それが健康法(「クレンジング」)として話題になっていて気になりましたので、どのように安全性が調べられたのか、この健康法を行うというクリニックのホームページをいくつか見ましたが方法がきちんと書かれていないようです。

References:

1.
Bocci V, Aldinucci C. Biochemical modifications induced in human blood by oxygenation-ozonation. J Biochem Mol Toxicol. 2006;20(3):133-138. [PubMed]
2.
Fermi G, Perutz M, Shaanan B, Fourme R. The crystal structure of human deoxyhaemoglobin at 1.74 A resolution. J Mol Biol. 1984;175(2):159-174. [PubMed]

BioConductorのインストール

以前の方法じゃダメじゃん

RをアップデートしたらBioconductorのインストールも必要になったのですが、

> source(“http://bioconductor.org/biocLite.R”)
> bioLite()

ではダメになっていましたので調べました。エラーメッセージではR versin 3.5からはbioLiteではなく、BiocManagerを使用するようにとなっています。

With R version 3.5 or greater, install Bioconductor packages using BiocManager; see https://bioconductor.org/instal

現在の方法

というわけでホームページで新しいbioconductorの導入方法を調べてインストールしました。次のようになりました。


> if (!requireNamespace(“BiocManager”, quietly = TRUE))  install.packages(“BiocManager”)
パッケージを ‘C:/Users/ganken-0309/Documents/R/win-library/3.6’ 中にインストールします
(‘lib’ が指定されていないため)
URL ‘https://cloud.r-project.org/bin/windows/contrib/3.6/BiocManager_1.30.4.zip’ を試しています
Content type ‘application/zip’ length 292998 bytes (286 KB)
downloaded 286 KB

パッケージ ‘BiocManager’ は無事に展開され、MD5 サムもチェックされました

ダウンロードされたパッケージは、以下にあります
C:\Users\ganken-0309\AppData\Local\Temp\RtmpymGsiN\downloaded_packages

> BiocManager::install(“LBE”)
Bioconductor version 3.9 (BiocManager 1.30.4), R 3.6.1 (2019-07-05)
Installing package(s) ‘LBE’
URL ‘https://bioconductor.org/packages/3.9/bioc/bin/windows/contrib/3.6/LBE_1.52.0.zip’ を試しています
Content type ‘application/zip’ length 452641 bytes (442 KB)
downloaded 442 KB

package ‘LBE’ successfully unpacked and MD5 sums checked

The downloaded binary packages are in
C:\Users\ganken-0309\AppData\Local\Temp\RtmpymGsiN\downloaded_packages
installation path not writeable, unable to update packages: boot, foreign, mgcv, nlme

夜の女王のアリア

要約

W.A Mozartの有名な楽曲「魔笛」から「夜の女王のアリア」のボーカルスコアをin  B♭に転調したものを打ち直しました。ただ、それだけなのですがせっかく綺麗にお化粧したので、公開します。

For Piccolo Trumpet in Bb,  Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen from

Download

 

これを公開する事情

当初は自分自身用で単に移調した物が見れればいい程度のメモ書きでした。先日Facebook上の友人がピッコロトランペットでこの曲を演奏したいと、in Bbで書かれた楽譜を探していました。当初はメモ書きの物をお送りしたのですが、あまりにも見た目が悪い適当だったのと、他にもこれを見てみたいというような方もおられるようでしたのできれいにお化粧しなおしました。

せっかく打ち直したならIMSLPでCCBYで共有しようかと思ったのですが、当該楽曲のページはTranscriptを置くスペースがすでに満杯でしたので、IMSLPに置くのはあきらめて、自身のページで公開することにしました。

著作権は

原曲はあのW.A. Mozartの作曲ですので既に切れているはずです。元にしたのもPublic Domainとして登録されていたボーカルの譜面ですので問題ないはずです。私が転調して打ち直した部分についてはCCBYとしました。(転調して打ち直したものをarrageと言うかは微妙なところですが)

 

作品題名 Die Zauberflöte
別名 The Magic Flute ; La Flûte enchantée
名前の翻訳 La Flûte enchantée; The Magic Flute; A flauta machica; Вълшебната флейта; La flauta màgica; [38 more…]
別名 K 620; KV 620; Zauberflöte; O Μαγικός Αυλός; La flauta magica; [2 more…]
典拠 WorldCat; Wikipedia; VIAF: 176580465; LCCN: n81081247; GND: 300112068; [5 more…]
作曲家 Mozart, Wolfgang Amadeus
作品番号・カタログ番号 K.620
Iカタログ番号 IWM 684
楽章・部 2 acts [more…]
作曲された年月日 1791
初演 1791-09-30 in Vienna: Theater auf der Wieden

Wolfgang Amadeus Mozart (conductor)
初出版 1793, 1814 – Bonn: N. Simrock

  • Vocal score – Plate 4, 145 pages*
  • Full score – Plate 1092, 364 pages

*a vocal score was issued by Kozeluch of Vienna as a periodical in segments from late 1791 through 1793.

台本家 Emanuel Schikaneder (1751-1812)
言語 German
作曲家の時代 Classical
作品スタイル Classical
楽器編成 voices, mixed chorus, orchestra [more…]
関連作品 Pieces based on ‘Die Zauberflöte’
外部リンク Wikipedia article
NMA score
NMA report (German)
Die Zauberflöte –  Scores at Sheet Music Plus

以上テーブル内は http://imslp.org/ の情報(CC)より

Proportion and rate

「割合」と「率」

この2つの言葉は、医学書の中でも頻繁に間違って使われています。ある集団を一定期間観察した後、一部の人が死亡した、あるいは何らかの疾患に罹患したとします。こうした場合に集計された結果を表現する上で「死亡率」や「罹患率」と言ったもので表現します。しかし、実際には死亡者の割合や罹患した人の割合が報告されている、という事が頻繁に起きています。これらの言葉はその一連の論文の中、議論の中で定義して使用しているのであれば問題はないのでしょうが、定義なく使用した場合には混乱を招くことになります。

罹患率

私が参照しているKenneth J RothmanのModern Epidemiologyが使用している定義は次です。

まず理解してほしいのは、分子(発症件数)と分母(時間)という風に分子と分母の単位が異なる事です。「率」は割り算する際の分子と分母で単位が異なります。1$が360円(いつの話だ)、時速60km(60 km/h)等は「率」です。

number of disease onsetsはあまり誤解される点はないのですが、観察対照集団の中で観察しようとしていた疾患を発症した人の数、あるいは複数回起きることを前提に観察している場合は、その疾患を発症した回数、という事になります *1。この式を提示する前に、populationの定義などの議論があるのですが、populationはとりあえず観察対象とした集団で、time spent in populationは対照集団の個々の人をat riskの状態で観察した時間と理解することができます。

*1 分子を初回のみカウントする集計の場合、分母の集計が観察した時間すべてではなく、初回のイベントが発生した時点でat riskの状態での観察は終了になります。このように集計したい対照の性質によって分子のカウント方法と共に分母の集計方法も変わってきます。

割合

罹患者の割合は単純に、観察対照集団の中で観察しようとしていた疾患を発症した人の数(分子は「率」と同じ)を発現した観察した人の人数で割ったものです。この場合、分子も分母も同じ「人」という単位、という事になります。割合を見やすくするために100倍したら%という記号が付されます。

 

割合・比・オッズ・率

例を示します。ここに男性7人、女性3人、合計10人のヒトが居たとして、

割合ーー男性の割合は7 / 10

比ーー男性と女性の比は、男:女 7:3

オッズーー男と女のオッズは7/3

率ーー該当なし(疫学で使う率はこの例ではいろいろな意味で算出できない)

となります。

誤用が浸透している

世の中で、割合の事を「率」と書くことが広く浸透しているのでそのまま「率」でいいという声も少なからずあります。拙書のNew Engl J Med1、この時もproportionを編集者がrateに書き換えてしまいました。proportion に戻してほしいと主張しましたが、「皆様にもこのようにしてもらっています」のような答えが返ってきました。(日本人が折れるポイントをよく御存じみたいで)

1.
Murashige N, Tanimoto T, Oshima Y. Interstitial lung disease and gefitinib. N Engl J Med. 2010;363(16):1578-9; author reply 1579-80. [PubMed]
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