「割合」と「率」
この2つの言葉は、医学書の中でも頻繁に間違って使われています。ある集団を一定期間観察した後、一部の人が死亡した、あるいは何らかの疾患に罹患したとします。こうした場合に集計された結果を表現する上で「死亡率」や「罹患率」と言ったもので表現します。しかし、実際には死亡者の割合や罹患した人の割合が報告されている、という事が頻繁に起きています。これらの言葉はその一連の論文の中、議論の中で定義して使用しているのであれば問題はないのでしょうが、定義なく使用した場合には混乱を招くことになります。
罹患率
私が参照しているKenneth J RothmanのModern Epidemiologyが使用している定義は次です。
まず理解してほしいのは、分子(発症件数)と分母(時間)という風に分子と分母の単位が異なる事です。「率」は割り算する際の分子と分母で単位が異なります。1$が360円(いつの話だ)、時速60km(60 km/h)等は「率」です。
number of disease onsetsはあまり誤解される点はないのですが、観察対照集団の中で観察しようとしていた疾患を発症した人の数、あるいは複数回起きることを前提に観察している場合は、その疾患を発症した回数、という事になります *1。この式を提示する前に、populationの定義などの議論があるのですが、populationはとりあえず観察対象とした集団で、time spent in populationは対照集団の個々の人をat riskの状態で観察した時間と理解することができます。
*1 分子を初回のみカウントする集計の場合、分母の集計が観察した時間すべてではなく、初回のイベントが発生した時点でat riskの状態での観察は終了になります。このように集計したい対照の性質によって分子のカウント方法と共に分母の集計方法も変わってきます。
割合
罹患者の割合は単純に、観察対照集団の中で観察しようとしていた疾患を発症した人の数(分子は「率」と同じ)を発現した観察した人の人数で割ったものです。この場合、分子も分母も同じ「人」という単位、という事になります。割合を見やすくするために100倍したら%という記号が付されます。
割合・比・オッズ・率
例を示します。ここに男性7人、女性3人、合計10人のヒトが居たとして、
割合ーー男性の割合は7 / 10
比ーー男性と女性の比は、男:女 7:3
オッズーー男と女のオッズは7/3
率ーー該当なし(疫学で使う率はこの例ではいろいろな意味で算出できない)
となります。
誤用が浸透している
世の中で、割合の事を「率」と書くことが広く浸透しているのでそのまま「率」でいいという声も少なからずあります。拙書のNew Engl J Med1、この時もproportionを編集者がrateに書き換えてしまいました。proportion に戻してほしいと主張しましたが、「皆様にもこのようにしてもらっています」のような答えが返ってきました。(日本人が折れるポイントをよく御存じみたいで)