ワクチンのシェディングについて②

はじめに

前回の記事では、一般的な従来使用されてきたという意味でのワクチンのシェディングの例を文献を引用して説明しました。そして、レプリコンワクチンに対する懸念として拡散されている「シェディング」が従来使用されていたのとは違う意味だという点、根拠とされるSeneff氏の文献は直接の根拠を示さず、引用文献を引いているのみだという事を記載しました。今回の記事ではSeneff氏が根拠として引用しているLucchetti氏の論文(Lucchetti et al., 2021)を見てゆきます。

タイトル

Detection and characterisation of extracellular vesicles in exhaled breath condensate and sputum of COPD and severe asthma patients

直訳すると「COPDおよび重症喘息患者の呼気凝縮液および痰中の細胞外小胞の検出と特性評価」

タイトルを見ますと、mRNAワクチンの何かを論じているものとは読み取れません。タイトルだけみても慢性閉塞性肺疾患あるいは重症ぜんそく患者の呼気や喀痰に細胞外小胞が検出できたという話だとわかります。

ジャーナルについて

Lucchetti氏の論文(Lucchetti et al., 2021)の掲載されていますEuropian Respiratory Journalは直近のインパクトファクターが16.6と一流雑誌という事ができます。

ピアレビューか

学術雑誌の記事には、論文が専門家によって査読されて後に世に出るピアレビュー誌とそうでない非ピアレビュー誌があります。「ピアレビュー誌」の中にも専門家によって査読される記事とそうでない記事があります。詳しくは各雑誌の投稿規定を見ると書かれていますが、「オリジナルアーティクル」は通常ピアレビューの記事になります。一方、「エディトリアル」と呼ばれる、当該雑誌に掲載されたオリジナルアーティクルの紹介文や編集者からのメッセージ、それに、訂正のお知らせなどはピアレビューではありません。専門家同士のコミュニケーションである、レターやショートコミュニケーションはピアレビューを実施する雑誌とそうでない雑誌がありますが、ピアレビューを実施しない雑誌でも編集者が目を通して一定の基準を満たしたものが掲載されることが多いはずです。

このLucchetti氏の論文はResearch Letterの記事で、記事のボリュームやデータがしっかり示されて論述しているところからはピアレビューを受けて世に出されたものだと思われます。

論文の概要

以下が当該論文の概要です:

  • 研究目的:EBC(呼気凝縮液)および痰中の細胞外小胞の総タンパク質含量を測定し、細胞外小胞の数を間接的に評価。
  • 対象者:重症喘息患者20名、COPD患者35名、健康な対照者10名。
  • 測定項目:スパイロメトリー、FENO測定、EBC収集、痰誘発。
  • 結果
    • EBC中の小型細胞外小胞(sEV)タンパク質濃度は、重症喘息患者で最も高い。
    • EBC中の中型細胞外小胞(mEV)タンパク質濃度は、COPD患者で最も高い。
    • 痰上清から分離されたsEVおよびmEVのタンパク質濃度は、重症喘息患者とCOPD患者で類似。
  • 結論
    • EBCは、重症喘息とCOPD患者間の細胞外小胞の定量的差異を研究するための有用な生体液である可能性。
    • EBC sEVおよびmEVからDNAを分離でき、肺疾患の遺伝子解析に適した核酸の供給源となる可能性。
  • 今後の課題:細胞外小胞の内容物を定量化し、時間経過による変動性や潜在的な交絡因子を明確にする必要がある。

記事はmRNAワクチンのシェディングを論じているか

上記の通りLucchetti氏の論文は慢性閉塞性肺疾患(COPD)か重症喘息患者を対象としていて、mRNAワクチンの接種の有無は問題にしていません。直径20-1000nmほどの小型の膜で覆われた小胞の事を問題にしています。これはコロナウイルスのサイズ100nm付近に近いレンジで、スパイクタンパク(10nmほどか?)は議論に出てきていません。少なくとも直接的にmRNAワクチンを接種したヒトからスパイクタンパクが放出されるという事を示したという話ではありません。

まとめ

私の読み解いたところでは、Lucchetti氏の論文は普通の学術論文で、一流紙で論じられた科学的な知見であるが、それはmRNAワクチンのシェディングを懸念するというデータではありません。この部論文を引用したSeneff氏が持論に都合良いように曲解しているとなります。

References

Lucchetti, D., Santini, G., Perelli, L., Ricciardi-Tenore, C., Colella, F., Mores, N., Macis, G., Bush, A., Sgambato, A., & Montuschi, P. (2021). Detection and characterisation of extracellular vesicles in exhaled breath condensate and sputum of COPD and severe asthma patients58(2), 2003024. https://doi.org/10.1183/13993003.03024-2020

ワクチンのシェディングについて①

はじめに

COVID-19およびそのワクチンに関する情報を目にする中で、比較的知識があると思われる方々でさえ、いわゆる陰謀論や科学的根拠の乏しい情報に惑わされているように見受けられます。これは一つには、疫学データの解釈が非常に難しいことに起因しています。一見簡単に見えるデータであっても、疫学特有の手法や癖により誤解を生むことがあります。異業種で経験を積んだ方々が疫学データを解釈する際、疫学特有の罠に陥り、独自の理論を展開してしまうことがしばしば見受けられます。

したがって、情報源としては、疫学研究の実績があり、疫学データの解釈に豊富な経験を持つ専門家、あるいは実際の臨床現場で当該診療領域の経験を持つ専門家の発言を重視する必要があります。用語一つをとっても、その領域での使用方法には歴史があり、特定の意味があります。用語だけを流用し、具体的な意味が曖昧なまま使用することは避けるべきです。例えば、インターネット上で見かける「シェディング」という言葉の使い方についても、注意深く検討する必要があります。

ワクチンのシェディングとは?

ワクチン接種が進む中で、「ワクチンのシェディング」という言葉を耳にすることが増えてきました。これは一体何を意味するのでしょうか?一般の方々にとっては少し難しい概念かもしれませんが、ここではできるだけ分かりやすく説明してみたいと思います。

一般的にはワクチンのシェディングとは、ワクチンを接種した人が、ワクチン由来のウイルス粒子を体外に排出する現象を指します。これは特に生ワクチンに関連して見られることが多いです。例えば、ロタウイルスワクチンに関する研究では、シェディングが一般的であり、長期間にわたって続くことがあると報告されています。

具体的な例を挙げると、五価ロタウイルスワクチン(RV5)の初回接種後、21.4%の乳児で最大9日間にわたってシェディングが確認されました(Yen et al., 2011)。また、別の研究では、初回接種後5〜10日で93%の乳児がワクチン関連の粒子を排出し、その中でG1という遺伝子型が主に見られました (Markkula et al., 2019)。

RV5とRotarix(RV2)という2種類のロタウイルスワクチンを比較した研究では、シェディングの割合は似ているものの、RV2を接種した人の方がより多くのウイルスを排出していることが分かりました(Hsieh et al., 2014)。

一方で、経口狂犬病ワクチン(SPBN GASGAS)に関する研究では、様々な動物種において24時間以上感染性ウイルスの活発なシェディングは見られず、水平感染のリスクは最小限であることが示唆されています (Vos et al., 2018)。

これらの研究結果は、ワクチンの種類や接種を受ける種によって、シェディングのパターンが大きく異なることを示しています。ワクチンのシェディングについて理解を深めることで、ワクチン接種に関する不安を軽減し、より安心して接種を受けることができるでしょう。

新型コロナウイルスワクチンではどうでしょうか

世の中で数多くの医学・生物学の論文が公開されているのですが、その多くの論文を網羅的に検索できるPubMedと言う米国NLMが提供するデータベースがあります。多くの研究者がPubMedを利用しており、また、論文を投稿する際には自信の研究を世に広く認めてもらおうと、PubMedに登録される雑誌に論文を掲載するように投稿先を考えます。私がそのPubMedを利用して調査した限りでは、新型コロナウイルスワクチンに関するシェディングが発生したことを示す学術論文は見つかりませんでした。生ワクチンとは異なり、現在日本で広く接種されているmRNAワクチンや遺伝子組換えタンパク質ワクチンは、ウイルスの一部の成分のみを使用しているため、ワクチン由来の遺伝子だけではウイルス粒子を構築するために必要な構成要素が揃いません。このため、ワクチン由来のウイルス粒子が構築されることは理論的に考えにくいです。

下の図は報告されたSARS-CoV-2ウイルス起源株の遺伝子配列(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 isolate Wuhan-Hu-1, co – Nucleotide – NCBI (nih.gov))を基に遺伝子の配置を色分けしたものです。図ではORF1abを一つの色で塗っていますが、ORF1abの領域にはさらにいくつかのタンパク質をコードする領域が含まれています。多くの遺伝子が揃って初めてウイルス粒子としての構造が構成されるため、Sタンパク質をコードする遺伝子だけでウイルス粒子の構造を形成することは難しいと考えられます。

それにもかかわらず、レプリコンワクチンにシェディングの懸念があると主張するウェブサイトが存在しますが、根拠データは直接は示されていません。当該声明では、Seneff, S., & Nigh, G. (2021). Worse than the disease? Reviewing some possible unintended consequences of the mRNA vaccines against COVID-19. International Journal of Vaccine Theory, Practice, and Research, 2(1), 38-79.の文献を引用していますが、この文献はPubMedには掲載されていないため、検索にかかりません。

Seneff氏の所属はComputer Science and Artificial Intelligence Laboratory, MIT, Cambridge MA, 02139, USAであり、ウイルスやワクチンの専門施設ではありません。文献内にも、実験や臨床試験で直接ウイルスのシェディングを確認したデータは記載されていません。また、ワクチンの領域で問題となっているのはウイルス粒子のシェディングですが、Seneff氏の文献ではタンパク質のシェディングについて論じています。膜タンパク質が細胞膜表面で切断されて細胞から離れる現象をシェディングと呼ぶ研究領域もありますが、人から人への伝播を問題にしているため、膜タンパク質のシェディングとは異なる意味合いです。根拠の有無は引用文献を確認する必要がありますが、仮にスパイクタンパク質が被接種者から放出されたとしても、それがウイルスとして感染し、COVID-19を発病するとは考えにくいです。

Seneff氏は、従来のワクチンの安全性で問題になるシェディングとは異なる意味で「シェディング」を使用していることが明らかになりました。異業種間で同じ言葉を異なる意味で使用することはあり得るため、その言葉の共通認識を持たない限り議論は成立しません。まず、この研究者がどのようなデータを基に、どのような現象を「シェディング」と称しているのかを明確にする必要があります。

もう一点気になる点があります。それはSeneff氏の論文はmRNAワクチンを対象にして記述されている点です。レプリコンワクチンでの懸念に直に結びつけて良いものか。少なくとも、従来のRNAワクチンでは問題としなかったにもかかわらず、レプリコンワクチンでは懸念であるとするのであれば、違うワクチンについての情報を引用して根拠とすることの正当性の説明は見てみたいところです。

Seneff氏は、レプリコンワクチンについて論じている訳ではないのですが、mRNAワクチンでの「スパイクタンパク質のシェディング」を論じていました。その直接的な根拠となるような観察の記録データは記載されておらず、代わりにLucchetti氏らの論文(Lucchetti et al., 2021) を引用しています。Lucchetti氏らの論文はPubMedに掲載されていますので、この記事でもReferencesの中に書誌事項を記載しておきます。Lucchetti氏らの論文ではどのような研究がなされているのかは別記事にしようと思いますが、このSeneff氏の文献のシェディング周りの部分をもう少しだけ見ておこうと思います。

この部分を機械翻訳しました。

インターネット上では、ワクチン接種者が近くにいる未接種者に病気を引き起こす可能性についての議論が多くあります。これは信じがたいかもしれませんが、脾臓の樹状細胞から誤って折りたたまれたスパイクタンパク質を含むエクソソームが放出され、他のプリオン再構成タンパク質と複合体を形成することで起こり得るというもっともらしいプロセスがあります。これらのエクソソームは遠くまで移動することができます。肺から放出され、近くの人が吸い込むことも不可能ではありません。エクソソームを含む細胞外小胞は、痰、粘液、上皮内液、気管支肺胞洗浄液において呼吸器疾患と関連して検出されています(Lucchetti et al., 2021)。

「もっともらしいプロセス」があると言い切っています。それぞれの現象があるとして、そのプロセスが実際に起こるのか、想像の中でつないだだけなのかはわからないものなのですが、新型コロナウイルスのワクチンを接種したヒトに実際に起きたというデータは明記されていません。あと、プリオンと言えばクロイツフェルト・ヤコブ病や狂牛病を引き起こすことで知られていますが、mRNAワクチンの副反応や新型コロナウイルスの病態に関連しているという話は聞いたことがありません。

私がここまで見てきた範囲では、Seneff氏の文献は、自然現象や実験環境での現象を観察して、その観察結果を解釈するという科学的なプロセスに基づいたロジックは読み取れない文書であることが理解できました。

References:

Hsieh, Y.-C., Wu, F.-T., Hsiung, C. A., Wu, H.-S., Chang, K.-Y., & Huang, Y.-C. (2014). Comparison of virus shedding after lived attenuated and pentavalent reassortant rotavirus vaccine. 32(10), 1199–1204. https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2013.08.041

Lucchetti, D., Santini, G., Perelli, L., Ricciardi-Tenore, C., Colella, F., Mores, N., Macis, G., Bush, A., Sgambato, A., & Montuschi, P. (2021). Detection and characterisation of extracellular vesicles in exhaled breath condensate and sputum of COPD and severe asthma patients58(2), 2003024. https://doi.org/10.1183/13993003.03024-2020


Markkula, J., Hemming-Harlo, M., & Vesikari, T. (2020). Shedding of oral pentavalent bovine-human reassortant rotavirus vaccine indicates high uptake rate of vaccine and prominence of G-type G1. 38(6), 1378–1383. https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2019.12.007


Vos, A., Freuling, C., Ortmann, S., Kretzschmar, A., Mayer, D., Schliephake, A., & Müller, T. (2018). An assessment of shedding with the oral rabies virus vaccine strain SPBN GASGAS in target and non-target species. 36(6), 811–817. https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2017.12.076


Yen, C., Jakob, K., Esona, M. D., Peckham, X., Rausch, J., Hull, J. J., Whittier, S., Gentsch, J. R., & LaRussa, P. (2011). Detection of fecal shedding of rotavirus vaccine in infants following their first dose of pentavalent rotavirus vaccine. 29(24), 4151–4155. https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2011.03.074

Vaccine Refusal and Information Disregard

Vaccine refusal, particularly for COVID-19, is a complex issue influenced by various factors. Studies suggest that refusal may be reinforced by informational rewards, increased self-esteem, and tribal identity (Brakel & Foxall, 2022). Some argue that vaccine refusers can be epistemically rational and responsible for their beliefs, challenging the legitimacy of compulsory vaccination policies (Meylan & Schmidt, 2023). Research in Ethiopia found that factors such as age, perception of the vaccine, eHealth literacy, information sources, and internet use significantly influence vaccine acceptance (Kalayou & Awol, 2022). Myths, conspiracy theories, and misinformation spread through various channels contribute to vaccine hesitancy, potentially impacting global vaccine programs beyond COVID-19 (Ullah et al., 2021). These findings highlight the multifaceted nature of vaccine refusal and the need for targeted interventions to address hesitancy, considering factors such as information sources, digital literacy, and individual perceptions.

ワクチン拒否の問題は複雑で、多くの要因が関係しています。

  1. 情報の影響:(Brakel & Foxall, 2022)
    • ワクチンを拒否する人は、特定の情報を得ることで自分の選択が正しいと感じたり、トレンドに逆らう事で自尊心を増加したり、自己評価が高まったりすることがあります。
    • また、同じ考えを持つグループに属することで、安心感や一体感を得ることもあります。
  2. 合理的」な信念:(Meylan & Schmidt, 2023)
    • 一部の研究者は、ワクチンを拒否する人々が自分の信念に対して合理的で責任を持っていると考えています。
    • そのため、強制的なワクチン接種政策には異議を唱える意見もあります。
  3. エチオピアでの研究:(Kalayou & Awol, 2022)
    • エチオピアでは、年齢やワクチンに対する認識、デジタルリテラシー(インターネットや電子情報の理解度)、情報源がワクチン受け入れに影響を与えることがわかりました。
  4. 誤情報の影響:(Ullah et al., 2021)
    • 神話や陰謀論、誤った情報が広がることで、ワクチンに対する不安や疑念が生まれます。
    • これらの誤情報は、COVID-19以外のワクチンプログラムにも悪影響を及ぼす可能性があります。

結論とか議論の意味は分かるものの、この領域の研究手法は私の理解が及ばないところ

ワクチンの証拠に関する情報を処理するさまざまな方法により、個々の i がワクチン v を受け入れる確率 (P(accept) で表されます)。パスaは、完全な意図的な無知を表しています。ワクチンの証拠はまったく検査されず、決定は、個々のiとワクチンv(βで示される)に関連する他の要因に基づいています
βiv.

パスbは確率無視を表しており、ワクチンの可能な結果のみが獲得され、その確率は獲得されない部分的な意図的な無知の一種です。このような場合、人々は通常、結果が確実に起こると認識します。しかし、原理的には、確率値を無視して、対応する結果が発生することは不可能であると認識することも可能である。パスcは意図的な無知を表していません。すべての情報が検査されますが、確率情報は非線形確率重み付けによって認知的に歪められる可能性があります。確率重み付け関数の曲率は、このような歪みの程度を測定します。パス (b) から (c) では、無視された確率と重み付けされた確率 w(p) は、対応する結果の主観的値と統合され、モデルでは影響評価 a によって数値的に表され、値関数 v で変換されます。ワクチンの副作用とベネフィットに対する価値関数の傾きの差は、損失回避の尺度を構成し、これは私たちの調査で考慮された2番目の認知の歪みです。

まとめ:

ワクチン拒否の問題を解決するためには、情報源やデジタルリテラシー、個々の認識などを考慮した対策が必要です。

Vaccine Refusal: A Preliminary Interdisciplinary Investigation – PubMed (nih.gov)

Full article: Refusing the COVID-19 vaccine: What’s wrong with that? (tandfonline.com)

https://doi.org/10.2147/RMHP.S366730

Myths and conspiracy theories on vaccines and COVID-19: Potential effect on global vaccine refusals – PMC (nih.gov)

COVID-19 vaccine refusal is driven by deliberate ignorance and cognitive distortions – PubMed (nih.gov)

What are the molecular targeted drugs for cancers with BRCA1 and BRCA2 gene mutations?

What are the molecular targeted drugs for cancers with BRCA1 and BRCA2 gene mutations?

BRCA1およびBRCA2遺伝子変異を持つがんに対する分子標的薬で注目されているのはPARP阻害剤(PARPi)です。現在、FDAに承認されているPARPiは4種類あり、これらはBRCA1/2欠損がんの治療に利用されています(Ragupathi et al., 2023)。

最初に承認されたPARPiであるオラパリブは、BRCA変異を持つ卵巣がん患者の治療において非常に有望な結果を示しています(Venkitaraman, 2009; Tangutoori et al., 2015)。PARPiは、がん細胞のゲノム不安定性を利用してDNA損傷応答を標的とし、従来の化学療法と比較してより腫瘍細胞選択的なアプローチを提供します(O’Connor, 2015)。

PARPiの細胞毒性は、BRCA1/2変異腫瘍の複製が困難なゲノム領域に過剰な複製ストレスを誘導することによると考えられています(Ragupathi et al., 2023)。現在進行中の研究では、PARPiと免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせて臨床結果を向上させる方法が探求されています(Ragupathi et al., 2023)。さらに、PARPiは他のさまざまながんタイプに対しても、単独療法および他の治療法との併用療法としての利用が検討されています(Tangutoori et al., 2015)。

このように、PARP阻害剤はBRCA1/2遺伝子変異を持つがん患者にとって新たな希望となる治療法であり、今後の研究と臨床応用が期待されています。

Molecular targeted drugs for cancers with BRCA1 and BRCA2 gene mutations primarily focus on PARP inhibitors (PARPi). Four FDA-approved PARPi are currently available for treating BRCA1/2-deficient cancers (Ragupathi et al., 2023). Olaparib, the first approved PARPi, has shown promise in treating ovarian cancer patients with BRCA mutations (Venkitaraman, 2009; Tangutoori et al., 2015). PARPi exploit the genomic instability of cancer cells by targeting the DNA damage response, offering a more selective approach compared to traditional chemotherapy (O’Connor, 2015). The cytotoxic effect of PARPi is believed to result from inducing excessive replication stress in difficult-to-replicate genomic regions of BRCA1/2 mutated tumors (Ragupathi et al., 2023). Ongoing research explores combining PARPi with immuno-oncology drugs to enhance clinical outcomes (Ragupathi et al., 2023). Additionally, PARPi are being investigated for use in various other cancer types, both as monotherapies and in combination with other treatments (Tangutoori et al., 2015).

References

O’Connor, M. J. (2015). Targeting the DNA Damage Response in Cancer60(4), 547–560. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2015.10.040

Ragupathi, A., Singh, M., Perez, A. M., & Zhang, D. (2023). Targeting the BRCA1/2 deficient cancer with PARP inhibitors: Clinical outcomes and mechanistic insights11, 1133472. https://doi.org/10.3389/fcell.2023.1133472

Tangutoori, S., Baldwin, P., & Sridhar, S. (2015). PARP inhibitors: A new era of targeted therapy81(1), 5–9. https://doi.org/10.1016/j.maturitas.2015.01.015

Venkitaraman, A. R. (2009). Targeting the molecular defect in BRCA-deficient tumors for cancer therapy16(2), 89–90. https://doi.org/10.1016/j.ccr.2009.07.011

図の解説:PARP(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ)は、主に一重鎖DNA切断(single-strand breaks, SSB)の修復に関与しています。具体的には、以下のようなDNAダメージを修復します:

  1. 一重鎖切断(SSB: DNAの片方の鎖が切断される損傷です。PARPはこの損傷を検出し、修復プロセスを開始します。
  2. 塩基除去修復(BER: DNAの塩基が損傷を受けた場合、PARPはこの修復経路に関与し、損傷した塩基を除去し、新しい塩基を挿入するプロセスを助けます。

PARPは、これらの損傷を修復することで、細胞のゲノム安定性を維持し、細胞の生存を助けます。しかし、BRCA1やBRCA2遺伝子に変異がある場合、これらの修復経路が正常に機能しないため、PARP阻害剤(PARPi)はこれらのがん細胞に対して特に効果的です。PARPiはPARPの機能を阻害することで、がん細胞に蓄積するDNA損傷を増加させ、最終的にがん細胞の死を誘導します。

PARP分子と、Olaparibの結合を結晶構造で眺めてみました。この構造だと、PARPたんぱく質に結合したOlaparibは分子の中に深く埋もれているように見えます。(結合した後にたんぱく質の構造変化が起きる?)緑色の分子がolaparibで、それ以外が human PARPのcatalytic domain。下図は下記文献のデータを基にわたくしが作図しました。

Ogden, T. E. H., Yang, J.-C., Schimpl, M., Easton, L. E., Underwood, E., Rawlins, P. B., McCauley, M. M., Langelier, M.-F., Pascal, J. M., Embrey, K. J., & Neuhaus, D. (2021). Dynamics of the HD regulatory subdomain of PARP-1; substrate access and allostery in PARP activation and inhibition49(4), 2266–2288.
https://doi.org/10.1093/nar/gkab020

M pox (monkeypox)

M pox

Mpox(旧称:monkeypox)は、天然痘に似た症状を呈するが、より軽度なウイルス性人獣共通感染症です(Jarrell & Perryman, 2023)。動物から人間へ、また人間同士の直接接触、呼吸器飛沫、汚染物を介して伝播することがあります(Jarrell & Perryman, 2023)。2022年の最近の世界的な流行により、WHOはこれを国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と宣言しました(Afzal, 2023; Aden et al., 2023)。Mpoxは通常、発熱性の発疹性疾患として現れ、ポリメラーゼ連鎖反応検査によって診断が確認されます(Kumar et al., 2023; Aden et al., 2023)。予防および曝露後予防のために、JYNNEOS®およびACAM2000®の2つのワクチンが利用可能です(Jarrell & Perryman, 2023)。ほとんどの症例は自己制限的ですが、テコビリマット、ブリンシドフォビル、およびシドフォビルなどの抗ウイルス治療がリスクのある集団に対して利用可能です(Jarrell & Perryman, 2023; Afzal, 2023)。この流行は、変化した伝播パターンと世界的な準備および対応努力の必要性についての懸念を引き起こしました(Kumar et al., 2023; Aden et al., 2023)。

References

Aden, D., Zaheer, S., Kumar, R., & Ranga, S. (2023). Monkeypox (Mpox) outbreak during COVID‐19 pandemic—Past and the future. 95(4), e28701. https://doi.org/10.1002/jmv.28701

Afzal, M. F. (2023). MPOX: A RE-EMERGING INFECTION. 34(02), 58–59. https://doi.org/10.51642/ppmj.v34i02.608

Jarrell, L., & Perryman, K. (2023). Mpox (monkeypox): Diagnosis, prevention, and management in adults. 48(4), 13–20. https://doi.org/10.1097/01.NPR.0000000000000025

Kumar, S., Guruparan, D., & Karuppanan, K. (2023). Recent Advances in Monkeypox (Mpox): Characterization, Diagnosis, and Therapeutics – A Multidimensional Review. https://www.semanticscholar.org/paper/Recent-Advances-in-Monkeypox-(Mpox)%3A-Diagnosis%2C-and-Kumar-Guruparan/f14cc79d55402024d5d362dfcdb18c9d9947170b

咳喘息

「咳喘息」についてAI検索してみました

要約してもらった結果が次

咳喘息(Cough variant asthma,CVA)は、慢性的な咳が唯一の症状であり、喘鳴や呼吸困難といった典型的な症状が見られない喘息の一形態です(Johnson & Osborn, 1991; Uryasjev et al., 2020)。
CVAは、気道過敏性、好酸球性炎症、気道リモデリングといった古典的な喘息の特徴を共有しています(Niimi, 2011; Uryasjev et al., 2020)。
これは慢性的な咳の一般的な原因であり、治療しない場合、成人患者の30-40%が古典的な喘息に進行する可能性があります(Niimi, 2011)。
診断にはしばしば気管支拡張薬の経験的試用が含まれ、肺機能検査は正常であることが多いです(Johnson & Osborn, 1991)。
CVA患者は古典的な喘息患者よりも喘鳴の閾値が高く、喘鳴が聞こえる前により大きな気道閉塞が必要です(Koh et al., 1993)。
吸入ステロイドは主要な治療法であり、咳を改善し、気道リモデリングや慢性的な気流閉塞を防ぐことで古典的な喘息への進行リスクを減少させます(Niimi, 2011)。

References

Johnson, D., & Osborn, L. M. (1991). Cough Variant Asthma: A Review of the Clinical Literature. 28(2), 85–90. https://doi.org/10.3109/02770909109082732

Koh, Y. Y., Chae, S. A., & Min, K. U. (1993). Cough variant asthma is associated with a higher wheezing threshold than classic asthma. 23(8), 696–701. https://doi.org/10.1111/j.1365-2222.1993.tb01796.x

Niimi, A. (n.d.). Cough and Asthma. 7(1), 47–54. https://doi.org/10.2174/157339811794109327

Uryasjev, M. O., Михайлович, У. О., Ponomareva, I. V., Борисовна, П. И., Bhar, M. F., Фарес, Б. М., Glotov, S. I., & Иванович, Г. С. (2020). The cough variant asthma. 92(3), 98–101. https://doi.org/10.26442/00403660.2020.03.000404

Vujnović, S. D., Domuz, A., Petrović, S., Vujnović, S. D., Domuz, A., & Petrović, S. (2018). Cough Variant Asthma as a Phenotype of Classic Asthma. IntechOpen. https://www.intechopen.com/chapters/59911

Diabetes mellitus as a long COVID-19 syndrome

Diabetes mellitus as a long COVID-19 syndrome

最近の研究では、COVID-19と新たに発症する糖尿病との間に有意な関連があることが示唆されています。COVID-19後の糖尿病の発症率は1000人年あたり15.53であり、非COVID個体と比較して相対リスクが1.62倍高いことがわかりました(Zhang et al., 2022)。このリスクはすべての年齢層および性別で上昇しており、感染後最初の3ヶ月間でピークに達しました(Zhang et al., 2022)。糖尿病はまた、long COVID-19症候群を発症するリスク要因と考えられています(Kreutzenberg, 2023; Harding et al., 2022)。COVID-19と糖尿病の関係は双方向性であり、糖尿病患者はlong COVID-19を発症しやすいです(Kreutzenberg, 2023)。COVID後の糖尿病の病因は多因子性であり、膵臓のβ細胞への直接的なウイルス効果、自己免疫、および全身性炎症が関与している可能性があります(Kim et al., 2023)。新たな証拠に基づき、一部の研究者はCOVID-19後に発症する新たな糖尿病を独自のpost-COVID症候群として分類し、さらなる研究を提案しています(Kim et al., 2023)。

Recent studies suggest a significant link between COVID-19 and new-onset diabetes. The incidence of diabetes after COVID-19 was found to be 15.53 per 1000 person-years, with a 1.62 times higher relative risk compared to non-COVID individuals (Zhang et al., 2022). This risk was elevated across all age groups and genders, peaking within the first three months post-infection (Zhang et al., 2022). Diabetes is also considered a risk factor for developing long COVID-19 syndrome (Kreutzenberg, 2023; Harding et al., 2022). The relationship between COVID-19 and diabetes is bidirectional, with diabetic patients more likely to develop long COVID-19 (Kreutzenberg, 2023). The etiology of post-COVID diabetes is multifactorial, potentially involving direct viral effects on pancreatic β-cells, autoimmunity, and systemic inflammation (Kim et al., 2023). Given the emerging evidence, some researchers propose classifying new-onset diabetes after COVID-19 as a distinct post-COVID syndrome for further study (Kim et al., 2023).

References

HARDING, J. L., ALI, M. K., GANDER, J. C., & PATZER, R. E. (2022). 174-LB: Diabetes as a Risk Factor for Long-COVID-19—A Scoping Review. 71(Supplement_1), 174-LB. https://doi.org/10.2337/db22-174-LB

Kim, S. H., Arora, I., Hsia, D. S., Knowler, W. C., LeBlanc, E., Mylonakis, E., Pratley, R., & Pittas, A. G. (2023). New-Onset Diabetes After COVID-19. 108(11), e1164–e1174. https://doi.org/10.1210/clinem/dgad284

Kreutzenberg, S. V. de. (2023). Long COVID-19 and diabetes mellitus: a short review. 3(1), N/A-N/A. https://doi.org/10.20517/mtod.2022.30

Taylor, K., Eastwood, S., Walker, V., Cezard, G., Knight, R., Arab, M. A., Wei, Y., Horne, E. M. F., Teece, L., Forbes, H., Walker, A., Fisher, L., Massey, J., Hopcroft, L. E. M., Palmer, T., Coronado, J. C., Ip, S., Davy, S., Dillingham, I., … Zhu, J. (2024). Incidence of diabetes after SARS-CoV-2 infection in England and the implications of COVID-19 vaccination: a retrospective cohort study of 16 million people12(8), 558–568. https://doi.org/10.1016/S2213-8587(24)00159-1

Zhang, T., Mei, Q., Zhang, Z., Walline, J. H., Liu, Y., Zhu, H., & Zhang, S. (2022). Risk for newly diagnosed diabetes after COVID-19: a systematic review and meta-analysis. 20(1), 444. https://doi.org/10.1186/s12916-022-02656-y

ZoteroをWordのツールバーから削除する方法

こんにちは、皆さん!今日は、文献管理ツールについてお話ししたいと思います。特に、私が最近経験したちょっとしたトラブルと、その解決方法についてシェアしますね。

まず、私は長い間「Academic Blogger’s Toolkit」というWordPressプラグインを使っていました。このプラグインは、文献管理からブログの作成まで幅広くサポートしてくれる優れものです。しかし、最近になってこのプラグインがうまく動かなくなってしまいました。何度も手を加えてみたのですが、どうにもならず、ついに別のツールを探すことにしました。

そこで目をつけたのが「Zotero」という文献管理ツールです。試しにインストールしてみたのですが、どうも私には使いにくく感じました。結局、Zoteroをアンインストールすることにしました。

ここで問題が発生しました。通常の方法でZoteroをアンインストールしても、Microsoft WordのツールバーにZoteroのアイコンが残ってしまったのです。これが気持ち悪くて、どうにかして完全に削除したいと思いました。

その方法を見つけたので、皆さんにもシェアしますね。以下の手順でファイルを削除すれば、WordのツールバーからZoteroを完全に消すことができます。

  1. エクスプローラーを開きます。
  2. 次のパスに移動します:
    c://Users/●●●●(ユーザー名)/AppData/Roaming/Microsoft/Word/Startup/
  3. その中にある Zotero.dotm というファイルを削除します。

これで、WordのツールバーからZoteroが消え、スッキリしました!

文献管理ツールはたくさんありますが、自分に合ったものを見つけるのはなかなか大変ですよね。私もまだまだ試行錯誤中ですが、皆さんの参考になれば嬉しいです。

それでは、また次回のブログでお会いしましょう!

Calculating Diagnostic Probability Using Likelihood Ratios in Clinical Testing

「尤度比(Likelihood Ratio)」を用いて診断の確率を高める手法についての解説です。

尤度比アプローチと臨床検査の臨床的解釈

まずは、第118回医師国家試験問題 令和6年2月3日・4日実施 問題C を見てください。

63 この患者の大腸に何らかの病変がある検査前確率(事前確率)を 20 % としたとき、便潜血反応陽性であった場合の検査後確率に最も近いのはどれか。 ただし、便潜血反応の感度は 80 %、特異度は 90 % とする。
a 33 %
b 53 %
c 57 %
d 67 %
e 97 %

「尤度比(Likelihood Ratio)」を用いて診断の確率を高める手法は、ベイズ統計に基づいた方法です。医師国家試験以外にも内科学会の専門医試験でもしばしば問われる問題です。本稿ではcopilotの解説を紹介します。

🔍 尤度比とは?

検査結果が陽性または陰性だったときに、病気の可能性がどれだけ高まる(または低くなる)かを示す指標です。この試験問題では陽性だったので、陽性尤度比を使用します。

  • 陽性尤度比(LR+)
    LR+=感度/(1−特異度)​ → 病気の人が検査陽性になる確率 ÷ 病気でない人が検査陽性になる確率
  • 陰性尤度比(LR−)
    LR−=特異度/(1−感度)​ → 病気の人が検査陰性になる確率 ÷ 病気でない人が検査陰性になる確率

🧠 診断確率を高める手順(ベイズの定理の応用)

  1. 事前確率(Pre-test Probability)を設定する
    医師の経験や疫学データから、検査前に病気である確率を見積もります。例:50%
  2. 事前オッズに変換する
    事前オッズ=事前確率/(1−事前確率)​
  3. 尤度比を掛ける
    • 検査が陽性なら:
      事後オッズ=事前オッズ×LR+
    • 検査が陰性なら:
      事後オッズ=事前オッズ×LR−
  4. 事後オッズを事後確率に変換する
    事後確率=事後オッズ/(1+事後オッズ)

✅ 実例:国家試験の診断

  • 事前確率:20%
  • 感度:80%、特異度:90%
  • 検査結果:陽性

計算:

  • LR+ = 0.80 / (1 – 0.90) = 8
  • 事前オッズ = 0.2 / (1 – 0.2) = 0.25
  • 事後オッズ = 0.25 × 8 = 2
  • 事後確率 = 2 / (1 + 2) ≈ 67% (国家試験の正解とも一致)

→ 検査陽性により、診断確率が20% → 67%に上昇!
悪性疾患の場合は、副作用を伴う非常に強力な治療を実施しますので、このあと画像検査を行い、腫瘤があればその部位で生検し、病理組織検査を行い、診断や病変の広がりを詳しく調べてから治療に入ります。


国家試験以外の事例も紹介します。

🩺 事例:急性心筋梗塞(AMI)の診断

🔹 背景情報(出典)

この論文では、ST上昇という心電図所見が急性心筋梗塞の診断において非常に有効であることが示されています。


📊 計算ステップ

① 事前確率(Pre-test Probability)

医師が患者の症状(胸痛など)から、急性心筋梗塞の可能性を**30%**と見積もったとします。

Ppre=0.30


② 事前オッズに変換

事前オッズ = Ppre / (1−Ppre) = 0.30 / 0.70 ≈ 0.429


③ ST上昇の陽性尤度比(LR+)

論文によると、ST上昇のLR+ = 13.0 


④ 事後オッズの計算

事後オッズ = 事前オッズ × LR+ = 0.429 × 13.0 ≈ 5.577


⑤ 事後確率に変換

Ppost = 事後オッズ / (1+事後オッズ) = 5.577 / (1+5.577) ≈ 5.577/ 6.577≈0.848


✅ 結果

  • 検査前の診断確率:30%
  • ST上昇を確認後の診断確率約84.8%

→ 診断確率が大幅に上昇し、急性心筋梗塞の可能性が非常に高いと判断できます。

心筋梗塞の場合は、早期の治療が求められますのでこの程度の確率であれば即循環器のご専門の先生に治療をお願いすることになるでしょう。

次にこの手法に対する意見を述べた論文を紹介します。

紹介する文献は Fierz W, Bossuyt X. Likelihood Ratio Approach and Clinical Interpretation of Laboratory Tests. Front Immunol. 2021 Apr 16 ;12:655262 . doi: 10.3389/fimmu.2021.655262. です

1. なぜ尤度比が提案されたのか

  • 臨床検査は、病気を診断するためのとても大切な手段です。最近の検査は技術が進んでいるおかげで、正確で確実な結果が得られるようになっています。
  • でも、同じ健康の指標を測る場合でも、使う機械や方法が違うと、結果が別々の基準や単位で出てしまうことがあります。
  • この問題を解決するために、「尤度比(LR)」という方法を使って、検査結果をもっとわかりやすくしようとする提案があります。
  • 尤度比を使えば、異なる検査の結果を統一して理解しやすくなるだけでなく、検査の品質をしっかりと管理することもできます。

2. 尤度比(LR)の概念と歴史的背景

  • LR(尤度比)というのは、病気がある人の検査結果の出やすさ(感度)と、病気がない人での検査結果の出にくさ(1−特異度)によって決まります。
  • 約55年前に、感度や特異度、病気の発生率がわかっている場合に、検査結果がどう役立つかを予測する方法が考え出されました。当時は「陽性」や「陰性」といった簡単な結果に限られていました。後に、この方法は、検査結果の範囲に応じたLRも考慮できるように発展しました。
  • LRを使って結果を表すことは、異なる単位や検査機関ごとに基準が違う検査結果をひとつにまとめて理解しやすくするのに役立つとされています。特に自己免疫の分野では、関節リウマチやセリアック病などの病気の診断に、結果の範囲ごとにLRが使われています。
  • この考え方は、ANCA検査や抗核抗体検査など、さまざまな自己免疫検査の結果を統一するアイデアにつながり、検査結果に応じたLRを報告することがすすめられています。

3. 尤度比(LR)の活用に向けた提言

  • ROC曲線に基づくLRの算出
    • 検査の受信者操作特性(ROC)曲線は、LRを確立するための良い基盤となります 。
    • ROC曲線では、検査結果間隔のLRは、その間隔の2つの終点間の曲線に対する対応する正割線の傾きによって与えられます 。
    • 単一の検査結果のLRは、ROC曲線のその検査結果に対応する点における接線の傾きとして得られます 。
    • AUCは検査の識別力を表現するため、検査製造者はROC曲線を公開することに高い関心を持っています 。
  • LRによる臨床的解釈の向上
    • LRは、鑑別診断において非常に有用な診断指標となります 。
    • 例えば、抗核抗体(ANA)検査で異なる疾患に対して異なるLRが得られる場合、臨床医は他の臨床データから得られた疑念を評価できます 。
    • LRを用いるもう一つの利点は、異なる技術、スケール、単位などの調和です 。
    • 臨床医が単一のLRスケールを解釈する方が、異なる抗体価、単位/ml、ug/ml、mmol/lなどに慣れるよりも容易になります 。
  • LRと診断確率の推定
    • LRは、診断の確率を推定する直接的な機能を持っています 。
    • ベイズの定理によれば、検査前オッズに検査結果のLRを乗じると検査後オッズが得られます 。
    • 低い疑念には高いLRが必要であり、高い疑念には低いLRが必要となります 。
    • LR値を検査機関が定量結果とともに報告することで、臨床医の直感的な診断推定は、特定の検査に依存せず一般的に適用できる新しい側面を獲得するでしょう 。
  • LRを用いた品質管理
    • LRは、外部品質管理にも適用できます 。
    • LRを他の検査機関と比較することで、調和の改善につながる可能性があります 。

4. 結論

  • LRという考え方は、検査の役立ち方を説明するのにいくつかの良い点があります。
  • まず、検査結果の詳細な情報を提供してくれるので、結果を解釈する際に、異なる検査方法や機械を使った場合でも、一貫した見方ができます。
  • これは、特定の病気の診断だけではなく、いろいろな病気を区別して診断するのにも役立ちます。
  • また、この考え方は、検査の品質を外部で管理するときにも使える便利な方法です。
  • 自己免疫を調べる血液検査でLRを使うことの良さは、専門家や医薬品会社に認められていて、国際的にも、ANCAという検査の結果をまとめる便利な手段として提案されています。
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