臨床試験中に生じた有害事象と試験薬との因果関係の評価は、重要な意味を持ちうるにもかかわらず、客観的で確立された基準があるとは言えない。疾患の経過中に起きた有害事象は、被疑薬による副作用のほか、被験者がもともと有していた病態に関連した症状、併用薬剤による事象、治療手技の合併症、それらとは無関係に偶然おこる偶発症などさまざまな可能性がある。原因についてのさまざまな可能性を臨床的に推論してゆく中で、相対的に他の要因が考えにくい場合に被疑薬との因果関係があると考えられる。つまり、いわゆる臨床推論そのものであり、一律に基準を設けるのは困難である。治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて、INTERNATIONAL CONFERENCE ON HARMONISATION (ICH) E2Aという国際的ガイドラインがある。その規定によると、薬物投与後に起きた有害事象について、完全に否定することは論理的には困難であるにもかかわらず、「因果関係が否定できない場合に、合理性を以て因果関係の可能性があるとする」との考え方が記載されている(2)。脚注 このように基準となるべき文言についても客観的で一定の判断が常にできる基準とは言い難い。このほかにも考慮するべき点はいくつか報告されている。上記ICH E2Aの記述および、同じく国際的な治験や市販後の医薬品評価にかかわる議論を深めてきた国際医科学団体協議会(CIOMS, council for international organizations of medical science)が、因果関係の判断に関して考慮するべきとして指摘している点を4点以下に列挙する。あるべき姿として、評価できるだけの十分な医療上の情報を得たうえで判断がなされるべきである。
臨床試験のうち、新医薬品等の承認を得るための臨床試験を治験と呼び、これはいわゆるGCP省令に基づいて行われ、治験届がなされている。治験では、個別症例の有害事象について、治験責任医師等がその因果関係判断を行う。治験責任医師等が当該有害事象と試験薬との因果関係を否定しないと、治験依頼者によって個別症例の副作用として報告等の必要な手続きが検討される。この場合試験が継続中であれば、規制当局および治験に参加している他施設への迅速報告が検討されるとともに、その重要度によっては試験の継続についても検討される。しかしながら、試験が終了し、集積検討をする段階では、個別症例についての因果関係評価に基づいてそのまま、「当該試験薬が当該副作用を引き起こす」というように医薬品が評価されるわけではない。むしろ逆である。Food and Drug Administration (FDA)では審査官(reviewer)向けのガイドブックが作成され公開されている。このFDAレビューワーガイダンスによると、有害事象の報告に責任のある治験責任医師(investigator)あるいは治験依頼者(新医薬品等の申請者としてapplicantの用語で登場する)が行った個別症例についての因果関係判断からは、あまり有用な情報が得られない、あるいは、無視するようにとも取れる記述がみられる。以下に因果関係評価についての記述をFDAのレビューワーガイダンスより引用する。(http://www.fda.gov/downloads/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/ucm072974.pdf)
どうして個別症例の因果関係評価を無視するような記述になっているかと言うと、集積検討をする場合には個別症例の因果関係評価とは別の情報が加わるからである。どのような情報かについては、具体例を提示することで解説したい。以下に臨床試験に関する教科書であるStatistical Issues in Drug Developmentからの例を2つほど引用する(3)。元の教科書を参照していただければわかるが、これらの例は架空の例であり、過去に実施された治験についての記録ではない。しかし、本稿では過去に起きたような時制で文章を記述させていただくことをあらかじめお断りしておく。
なお、FDAのデータは日本からの報告も含まれるが、間質性肺炎等日本からの報告が多い一部の例を除くと、日本よりは米国での発現状況を色濃く反映していると考えられる。つまり、日本国内での副作用発現状況については、FDA AERSとは異なる可能性は否定できない。国内の副作用状況はPMDAが医薬品ごとの副作用情報を公開している。しかし全医薬品についての報告数を集計する必要のあるBCPNN等のデータマイニング手法は、PMDAの外部の研究者にとって現実的には難しい。本稿では紹介しなかったが、イギリスの規制当局で採用されているProportional Reporting Ratio (PRR)と言われる手法や、FDAで採用されているGamma Poisson Shrinker program (GPS)の手法も基本的にはBCPNNと同様のデータを用いて計算される。いずれも、大量のデータに埋もれている問題を拾い出す、新たな問題の提起に有用と考えられているが、検証的な評価には必ずしも向いていないとされる。
ARBの横紋筋融解症および、副作用としてよく知られているゲフィチニブの間質性肺炎、スタチンの横紋筋融解症、ACE阻害薬の咳について四半期ごとに区切った報告期間までの累積BCPNN IC をプロットした。エラーバーは2SDを示す。よく知られた3つの副作用の例ではエラーバーの下限が0を超えておりBCPNN法でシグナルが検出された。一方、ARBの横紋筋融解症についてはエラーバーの下限が0を超える期間はなく、シグナルはBCPNN法で検出されなかった。
文献
Oshima Y: Characteristics of drug-associated rhabdomyolysis: analysis of 8,610 cases reported to the u.s. Food and drug administration. Intern Med 50: 845-53, 2011.
USE ICOHOTRFROPFH: http://www.ich.org/. In: ICH HARMONISED TRIPARTITE GUIDELINECLINICAL SAFETY DATA MANAGEMENT. 1994.
Senn S: Statistical Issues in Drug Development. In: John Wiley & Sons, Ltd, 2007.
Spilker B: Guide to Clinical Trials. In: Lippincott Williams & Wilkins, 1991.
Bate A, Lindquist M, Edwards IR, Olsson S, Orre R, Lansner A and De Freitas RM: A Bayesian neural network method for adverse drug reaction signal generation. Eur J Clin Pharmacol 54: 315-21, 1998.
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Woodward M (2005). Epidemiology Study Design and Data Analysis. Chapman & Hall/CRC, New York, pp. 381 – 426.
(p. 412) A case-control study of the relationship between smoking and CHD is planned. A sample of men with newly diagnosed CHD will be compared for smoking status with a sample of controls. Assuming an equal number of cases and controls, how many study subject are required to detect an odds ratio of 2.0 with 0.90 power using a two-sided 0.05 test? Previous surveys have shown that around 0.30 of males without CHD are smoker.
事前の見積もりに必要なのは、odds ratio 2.0, power 0.90, two-sided 0.05 testという、研究者が設定するパラメータと、先行研究から得ておくべき背景の情報として「冠動脈疾患にかかっていない男性の30%がスモーカーだ」という、コントロール群の曝露頻度に相当する情報です。あと、コントロールを選ぶ際はマッチングは行わないで、ケースと1:1となる人数にするとしています。ここで設定しているオッズ比は、「オッズ比2.0以上だとリスクとして警告する価値がある」と研究者が思い込むような任意の数字で、基準があるわけではないです。これを、認識しているかどうかで、結果が出た際に(特に差がつかなかった時に)データの解釈の書き方が大きく変わります。