はじめに
KRASは悪性疾患でしばしば変異するがん遺伝子で、腫瘍でのシグナル伝達分子をコードします。その変異分子は以前より報告されていましたし、阻害薬の開発が試みられていましたがなかなかうまくいかなかったという事で、Undruggable KRASとも呼ばれていました。先日の飲み会で、とある先生が、このKRAS分子変異であるG12C(12番目のGlyがCysに変わる変異)に対する阻害薬が有望そうだというような話をされていました。酔っていたので詳しいことは覚えていませんが、とりあえず調べてみるとAmgen社から有望そうな阻害薬AMG510が臨床開発に進んでいるというようなことが解りました。1
この阻害薬の興味深い点は、変異することでCysアミノ酸残基ができるため、この性質を利用してS-Sジスルフィド結合をもたらすような最適化がなされている事です。どういう事かというと、他のATPに似た分子が水素結合での緩い結合を複数形成して結合部位に固定されているのに対して、ジスルフィド結合という共有結合で結合部位に結合されています。共有結合は水素結合より強い(外すのに大きなエネルギーが必要)ですので、水素結合を利用した阻害薬より強力な阻害作用が期待できそうです。それが、変異分子に特異的に作用するという点が味噌です。
また、アロステリック酵素という事で阻害薬が結合すると、分子全体の構造が大きく影響を受けるようです。ということで、その変化をとりあえず見てみます。
方法
だいたい前出の記事と同じ方法でモデルを作成しました。元になる構造は次のもので、P68Xには阻害薬が12番目のシステインに共有結合していました。また、野生型の構造では1番目がMet(合成の際の翻訳開始コドンがATGなのでMetになってしまうが成熟タンパクではなくなることが多い)になっていたので、問題のG12Cの場所は13番目と1個分ナンバーがずれてました。
1. 野生型ヒトKRAS :PDB エントリ 5O2S2
2. 変異KRAS.G12C: PDB エントリ 6P8X3
結果
野生型
G12C
上記を重ねあわせた物
slabモードで野生型
slabモードで変異型
slabモードで重ねあわせた物