白い議事録

厚生労働省審議会の白抜き

審議会の議事録は、だれがどんな発言をしたのか一言もらさず書き起こされています。厚生労働省のこの手の審議会でも機密情報等が黒塗りで出ることはあっても良いと思うのですが、リンク先の議事録は「失礼な言い方」があった部分が白抜きになっています。どんな失礼な言い方をされたのか,見てみたいです。実は石川委員(東京医歯大)の発言にはこの議事録上他の所にも白抜きがみられます。ずけずけと思ったことを口にして、考えを包み隠さず表現されているのではないかと思います。この引用ヶ所については私も、これまでの使用成績調査の例数設計は、とってつけたようなロジックが書かれていて、何をしたいのかわからないものがまかり通ってきたと思っています。feasibilityの関係から、結果的に精度の高い評価は難しくなるケースも少なくないのですが、それはそうとして、考え方、ロジックが出鱈目な書き方になっているものが少なくありません。そうした文書を作成する担当者らは、「内容は理解できなくても、規制当局が求めるような書類さえできていればよい」というような人間になっています。少なくともそちらは手当てをしておく必要があると考えています。よほどいかがわしい、良俗に反するような表現でない限り、石川委員の口から出たお言葉を見てみたかったです。そこには、あるべき姿と異なる点を指摘するような、本質的なことが隠されているような気がします。

MID-NETによる解析の様子

医薬品の業界で最近話題になることがあるキーワードに「MID-NET」という言葉があります。これは、簡単に説明するのは難しいのですが、医療情報データベースの様な物で、医薬品の安全性の評価に使用することが主眼の物で、データベース的に使うことができる仕組みというふうに理解しています。これを構築してきた方々が様々な資料を作成して公開したり、講演会を開いたりしてきたので、ずいぶん情報を得ることができましたが、これまで稼働しているイメージを見る機会がありませんでした。ご利用料金が4200万円とお高いので、おいそれと触る訳にはいかないですし、使い始めるまでどんなものかわからない。使ってみて「これは使い物にならない(自分の研究目的に沿わない)」と解った場合のダメージが非常に大きい、ということで、なかなか手が出せない代物です。

本日参加したデータサイエンティストの研究会で、稼働のイメージを演者の方が示され、その雰囲気だけの動画が公開されています。一応お断りしておきますと、この研究会では録音・録画を禁止していません。動画では音声が聞き取りにくく、何をしゃべっているか解りにくいかもしれませんが、よく聞くと日本語で説明しています。とりあえず、症例数を見て辺りを付ける程度の解析をデモンストレーションしています。じっさいには、この結果を元に対象症例のデータを施設から得るためのクエリを作成し、各施設に送って、施設側でデータ提供の可否を判断して、可であればデータを解析センターに送り返す、という長い手続きが待っています。その後、その集積されたデータから本解析に使用するデータを抽出して、解析用のデータセットを作成するという、ことになります。その入り口の部分の様子がデモンストレーションされています。

MID-NET稼働の様子

夾雑物の基準が新薬とジェネリック医薬品で異なる

夾雑物の基準が新薬とジェネリック医薬品で異なる

医薬品の品質の基準は新薬とジェネリック医薬品で同一でなかったのか

「日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会」(代表理事 武藤 正樹)が2018.11.7に発表した声明文によると、

http://u0u1.net/Njnu

化学合成される原薬中における有機不純物の管理に関しては、ICHQ3A ガイドラインが平成9 年4 月以後に製造承認申請された新有効成分含有医薬品に適用され、その後、ジェネリック医薬品への適用が推奨されてきた

とあります。新薬には「適用」で、ジェネリック医薬品は「適用が推奨」です。さらに、DNA 反応性(変異原性)不純物についてのガイドラインについて、新薬では準拠することが求められるのに対し、ジェネリック医薬品については

新薬にとどまらず、既存薬やジェネリック医薬品などにもより広く適用する方策を探ること

としています。「適用する方策を探る事、」つまり、現在は適用外だという事です。私は不勉強ながら、こうした基準が異なるとは認識していませんでした。

これは、2018年にとある降圧薬のジェネリック医薬品で発がん性物質「N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)」の混入が発覚し、流通していた医薬品の回収が実施されたことを受けての声明文ですが、この声明文を読むと、新薬では満たすべきとされる基準を、ジェネリック医薬品は満たすことが求められていない事が解ります。新薬のほうは、平成9年4月以降に製造承認申請された新有効成分含有医薬品、で基準を満たすことが求められているという事です。概ねここ20年近い期間に市場に出てきた医薬品という事になりますから、「ごく最近の医薬品」ばかりではなさそうです。

ジェネリック医薬品を推奨する立場の安全性についての説明

ジェネリック医薬品について厚生労働省の作成した資料では、

先発医薬品と同一の有効成分を同一量含み、同一経路から投与する製剤で、効能・効果、用法・用量が原則的に同一であり、先発医薬品と同等の臨床効果・作用が得られる医薬品

の様に説明しています。安全性が同等だとは私には読めません。なぜならば、安全性の問題は夾雑物によって引き起こされる場合もあるからです。ですので有効成分が同一であることが、安全性の同一性を担保する根拠に必ずしもならなりません。つまり、ここで述べている「臨床効果・作用」は有効性に焦点を当てて述べていると理解できます。

一方、日本ジェネリック製薬協会のホームページではジェネリック医薬品の事を

新薬と同じ有効成分を同じ量含有し、効き目も安全性も同等なおくすりです。

の様に「安全性」も同等だと主張しています。厚生労働省の主張と温度差を感じます。「安全性」を同等だと主張する、根拠と言える部分は次の様に記述されています。

ジェネリック医薬品は、主に「規格及び試験方法」、「安定性試験」、「生物学的同等性試験」の項目で承認審査され、これらの内容が先発医薬品と同等であることを示すことによって、有効性・安全性に問題がないことが確認され承認されます。

これらの審査対象の項目は安全性に問題がないことを確認できるような試験でしょうか?夾雑物を含め「製剤として」ヒトでの安全性を確認できる試験とは考え難いです。

https://www.jga.gr.jp/index.html


2018年11月12日追記:発がん性物質に関する管理指標の設定についての通知が発出されました。

普門館

聖地、普門館を訪れました

普門館は長い間全日本吹奏楽コンクールの全国大会の会場になっていました。30-40年ほど前、中学生高校生だった私は、ここに来る事を目指して、日々練習を重ねていましたが、当時その夢が叶うことはありませんでした。その普門館が取り壊されることとなり、取り壊しに先立ちまして、この11月第一週に一般公開されていますので、やってきました。ここを訪れるのは、今回が初めてです。嬉しいことに楽器を持って行けば音を出してよいという事でしたので、少し吹いてきました。さらに、お土産に外壁のタイルを1枚いただきました。
反響板に思い思いの事を書くことができるようになっていました。現役時代ここにたどり着くことができなかったので、その思いを書くのも良いのかと思いましたが、書くところを見ている人がたくさんいたので、良い文章が思いつきませんでした。結局何も書かずに帰ってきました。
舞台裏にあるとされていたご本尊(観音様)は現在移動されていて、その写真が貼ってありました。

MRIC Vol.223 現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム

現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム

ご案内をいただきましたので、ここで紹介させていただきます。

日時:11月24日(土)、25日(日)
会場:一般社団法人日本建築学会 建築会館ホール

*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。
*参加登録はこちらからお願いします(Googleフォーム)
https://goo.gl/forms/fdSOC86QhqgVBv0p1

抄録から1題だけ紹介します。小野俊介先生らしい魅力的な文章です。

「2018」

近未来のディストピアを描いたジョージ・オーウェル『1984』に、ニュースピーク(newspeak)という言語が登場する。全体主義国家の支配者(党)が国民の語彙・思考を制限し、党のイデオロギーに反する思想を、つまりややこしいことを「考えられぬようにする」ための言語。だから語彙(言葉の意味)が毎年減っていく。ん? 何のことはない、今の医薬品業界で使われている言語がそれである
「バカなことを。グローバル開発、遺伝子・再生医療、ヘルステクノロジーアセスメント……語彙は爆発的に増えてるぞ」と業界人は反論するのだろう。そうですね、普段からテレカンしたりブレストしたりRWDのエビデンスをアジェンダにしてCMOへのアウトソーシングを考えたりしている皆さんだもの。ろくに意味のない略語の多用も、ニュースピークの特徴。
先日ある業界人が「AIに副作用を検出させようとすると、AIってバカだからホントに変な『副作用』を見つけちゃうのよね、アハハ」と大笑いしていた。かわいそうに。もちろんこの業界人が、である。「副作用」のまともな意味論的定義の試みに人類が一度も成功したことがないことを、理解できないらしい。定義に「因果関係」なる語を当然のように使っている時点で、人類はまだ北京原人レベルなのに。
グローバル化と称する植民地化がニュースピークで語られるのも、必然である。従来から業界人は、「薬が効く」という表現を(アリストテレス的本質のごとく)平然と使ってきた。薬って、「あなた」や「私」が存在しないことには効くも効かぬもないはずなのだが。ニュースピークで書かれた最近のガイドラインには、「国際共同試験では薬の評価の邪魔をしないような被験者を選ぶべき」という、正気の沙汰とは思えぬ趣旨の記述がある。
少し前のノーベル賞月間。テレビを見ていたら「速報! ノーベル物理学賞、日本人は受賞せず!」というテロップが。受賞者の業績をノーベル財団の人が解説してるのに、一切無視。興奮したアナウンサーが、「日本人ではありません!日本人ではありませんでしたぁ!」とわめき続ける。人類の知なんてものにはまったく興味がないらしい。
『1984』に一番近い島、ニポン。

 

 

医薬品副作用報告のアンダーレポーティング

Under-reporting of adverse drug reactions

アンダーレポーティングとは

市販後の副作用報告データベースを解析して、副作用を研究するにあたって、意識しておくべき問題の一つに、アンダーレポーティングがあります。医薬品を製造販売する企業は、その医薬品の副作用情報を知った際には、一定の基準に該当する場合には、設定された期限内に規制当局へ報告することが義務付けられています。(一定の基準とは、自社の医薬品と有害事象の間に因果関係がある、有害事象が重篤である、の2点です。このほかに、「噂(うわさ)」ではなく、副作用を起こしたとされる患者が実在すること、医療目的で使用された医薬品であること、国内で使用された医薬品であることなど周辺の手続き的なコンディションが若干あります。)これに対して、医療現場の主プレーヤーである医師には、「保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるとき(薬機法68条の10-2)」に限って当該副作用を報告するように義務付けられています。もちろん、治験や臨床研究で一定基準のものを、どこかへ報告するように定めた契約が存在する場合には、その契約に基づく義務が発生します。

企業で副作用の仕事をしていると、規制当局であるPMDAの査察の際に厳しくチェックされるため、知った副作用情報の報告漏れが無いようにと意識を働かせる動機があります。一方、医師は副作用報告について、発現したものを報告漏れだというような指摘を受ける機会はほとんどなく、実際に発現した副作用を、どこかへ報告するという、動機が働きません。どこへも報告されない副作用が、だれに知られることもなく埋もれてしまう、というようなことも十分想定されます。その、発現しているにもかかわらず、規制当局に報告されない副作用が一定程度存在することをアンダーレポーティングと言っています。

アンダーレポーティングは何が問題なのか

アンダーレポーティングがある事で、規制当局や製造販売元企業がリスクに気づくのに遅れる可能性があります。また、様々な集計の際にしばしば2つ以上の何かを比較します。例えばA薬とB薬を比較する時に、この2つの薬剤で同じ頻度でアンダーレポーティングが起きているという前提がないと厳密になりません。この前提が正しいかどうかを明らかにするのは難しいものです。

アンダーレポーティングは本当に存在するのか

感覚としては、起きた副作用がすべて規制当局に報告されているとことはないと思いますが、実際にそういう事が起きているというのが科学的に記述されているでしょうか。この点について、臨床現場の先生が有害事象を選んで報告していることを明らかにした英国及びアイルランドからの研究報告があります1,2

また、スロベニアで一次市中病院から四次紹介先病院までの入院カルテをレビューした報告によると、医薬品の副作用による入院を医師が認識していても、コーディングしてデータを登録して報告することはまれでした3

アンダーレポーティングの要因

副作用が起きたとして、全てが規制当局に集約される様な仕組みではないので、仕方ないというか。全てが報告されることを基準にして、それより低いから「アンダー」という発想が現実からかけ離れたことを想定しているというか。まぁ、医療関係者も忙しいし、報告自体よりその仕組みを理解するのが面倒だったりというのもあり。全体に違和感のある部分ではあるのですが要因を分析して見ないことには、次に繋がらないのでこの辺りも少し調べました。

ベネズエラでの研究グループは、医師が自発報告のシステムについての知識が乏しい事が示され、これがアンダーレポーティングの原因であるという仮説を主張しました4

スペインからの報告5では、

  1. ADR(S)であると診断することの困難さ
  2. 医師が多忙である事
  3. 薬物モニタリングシステムをどう使って報告するのか知られていない事
  4. 利益相反

がアンダーレポーティングの要因として提唱されました。スペインからのもう一つの報告6では

  1. 薬剤師の関心の低さ
  2. 薬剤師が多忙である事
  3. ADR(S)であると診断することの困難さ

がアンダーレポーティングの要因として提唱されました。

ちょっと寄り道

スペインの報告2の(1)を「関心の低さ」と訳しましたが、原文ではforgetfulnessでした。スペインでは薬剤師が(3)の判断をしているのかと少々驚きました。日本で調剤薬局の薬剤師から受ける報告では、「薬を使った」→「何か症状を訴えている」で、ほぼ何も考えず「副作用である」かのごとき報告がなされます。「副作用名」もほぼ「患者が訴える症状」あるいは、「診断根拠が希薄な病名」です。調剤薬局の薬剤師からの情報は処方箋に書かれた医薬品情報と患者さんとの会話でしか病状を把握できないことがほとんどで、基礎疾患や臨床検査値や治療の経過等の正確な情報が得られることはほとんどありません。その上、多くの場合処方した医師に対して、薬局薬剤師や企業が因果関係を問う事も難しいことが多く、薬局薬剤師の置かれた立場からすると、得られる情報が限定的なのもやむを得ないことです。結果として薬局経由の情報は症例評価には限界があります。

更なる取り組みに向けて

ドイツからの報告7で、メールにより1315名の医師にアンケートした結果によると、規制当局のシステムを使って報告するより、製薬企業を通して報告する方を好む医師が多かったということです。この報告によると、アンダーレポーティングを抑制するには、医師による自発報告を支援する事が提案されました。経済的インセンティブや教育活動によって、臨床家が副作用を報告する活動が改善することを報告した論文は複数あります8–12。副作用を疑ったら、規制当局に報告するという活動があることを知る患者は少なく、患者自身による副作用報告を提案する論文もあります13–15

ちょっと待った

インセンティブを厚くすると、その副作用も心配です。容易に想像できるのはそのインセンティブ(お金)目当てで、あまり大したことのない副作用を多数報告する臨床家や、最悪存在しない副作用を報告するものも現れるかもしれません。私としては報告を少々増やすことと引き換えに、これらのノイズを多く混入させることが解析上の困難を引き起こすことを懸念します。

患者自身の副作用報告については、医学的な判断の入った診断と言うよりは主観的な症状が中心になります。患者は副作用を経験したと思ったら、規制当局に報告するより、疑わしい医薬品を処方した医師に相談して、医学的判断を仰ぐので良いのではないでしょうか。忙しそうにしている医師にわざわざ報告するほどでもない、という副作用であれば、規制当局的にも必ずしも重要視しないような病態ではないかと思います。

現在の自発報告の状況は完璧とは程遠いものです。でも、これまでいくつかの薬害を乗り越えて、副作用報告の制度が洗練されてきた医療用医薬品に関しては、深刻なほど、新規の副作用の検出力が低いとも思えません。

実際にあった悪質なケース

医薬品関連の業者Aが、「副作用の収集業務を始めました。サンプルとしてこういう情報を入手しています」として、数件の副作用情報を製薬企業Bに提供しました。薬事法(現薬機法)に基づきますと、製造販売元企業Bが副作用情報を入手した際には規制当局に報告する義務が発生します。ですのでその情報も当局へ報告しました。企業Bも海外本社のグローバルカンパニーで、一定の基準に合致する副作用は、米国FDAや欧州EMAをはじめ各国の規制に従ってそれぞれの規制当局へ報告されました。

製薬企業は、入手した情報について、具体的で詳細な情報を確認に行くように、と規制当局より常々指導されています。当初業者Aより入手した情報に基づき、情報源とされる調剤薬局や卸業者さんへ企業Bの営業担当者がそれぞれ手分けして確認に行きました。すると、行った先では「そのような副作用情報を報告していない」「業者Aが何かないかとしつこく聞くので適当に作り話を言った」というようなケースばかりで、副作用症例が実在しないことが明らかになったのです。ねつ造情報でも、それらしいものを企業に送り付ければ、ビジネスになるというような安易な理解で参入しようとしていたとの結論に至りました。副作用報告の規制の細やかさを理解していれば、虚偽の情報を企業が裏を取らない訳にはいかない事は明白なのですが、その規制すら理解していないようです。

ねつ造情報に基づいて、各地の営業担当者が薬局や卸さんを訪れ、さらに、「そんな情報はない」と言うような話のかみ合わない不快な時間を過ごしました。訪問された方も、業者Aにしつこく副作用の情報を求められ、その後製造販売元のAから再度詳細情報を求められ、と無意味な問い合わせの対応に時間を取られました。企業Bでは日本をはじめ各国の規制当局には、副作用情報を報告した後、さらに、取り下げの手続きを行ったりと大変な無駄な業務を余儀なくされました。その時には業者Aが解りやすくねつ造していましたので、まもなくねつ造が確認できました。でも、情報源である医療関係者が虚偽の報告を(少額の)お金のために作り始めると、なかなか裏を取ることは難しそうです。

References

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世界初の報告

「初」の報告に価値がある?

日本の学会雑誌は「初」報告を主張させたい?

数年前日本血液学会の英文雑誌に原稿を投稿した際に、「世界初の所見でないので掲載に値しない」というようなコメントをするレビューワーがいました。同じ学会でレビューをしている先生とお話しする機会があって、この話題を出したところ、同誌では「世界初」を主張しないと掲載しないという編集方針、採否の判断基準があるというお話を伺いました。同じようなコメントをするレビューワーが日本リウマチ学会にもいました。当時投稿した内容は、先行する研究はあまりなく、海外で知られている状況が国内でも見られたというような報告でした。よく知られている所見であっても、定量的に詳細に記述したなどで科学的な価値がある場合もあろうかと思うのですが。

さて、その基準でいけば今年8月にJAMA oncology に掲載されました私の論文も、上記の様な基準をとっている国内の雑誌では不採択になりそうです。この論文で報告したのは、2系統の薬剤を同一患者に使用(時間的には同時でなくても)した際に、間質性肺炎が起きやすいという臨床的な所見でした。この所見は、国内の当該領域の先生方の間ではよく知られた所見でした。また、学会等でも注意して慎重に薬を使用するように呼び掛けているところでした。ただし、当時PubMedで調べた範囲では、集計して統計的な処理をして論述したものは、ありませんでした。

米国の学会は「初」の主張に慎重

海外の雑誌の投稿規定を見ていて、はたと気づいたことがあります。時々次のような記載があります。

Undocumented claims (eg, “firstedness,” “safe and effective”)

Please do not claim that yours is the first report. If such a claim is deemed necessary, authors should explain their reasoning in the cover letter and provide a detailed Appendix describing how they came to this conclusion. Describe search strategies, search terms, databases queried, and how far back these were checked. Also list textbooks and monographs that were searched to substantiate the claim. Similarly, the phrase “safe and effective” should be reserved for FDA-approved product labeling based on registered phase III trials. In other settings, the term should be avoided entirely. As an alternative, an example of acceptable terminology would be, “Our patients demonstrated positive responses and the treatment was well tolerated.”

“firstedness”を主張しないこと!Please do not claim that yours is the first report.

それが必要な場合は、【○○を調べたが同じ所見は記述されていなかった。】の書き方をすること。調べた範囲を明記して、「その範囲では報告がない」という事で、「世界初」を主張しているものに近い意味を持ちます。調べた範囲の外で、仮に先に報告があったとしても、嘘にはならない、という効果が得られそうです。

上記の記述を見ていると、安全性有効性の記述もお勧めの方法が書かれています。「この治療は安全で有効だ」と主張するのではなく「我々の患者で調べたところ、治療には耐えられて、反応も良かった」と。「有効で安全だ」という記載は、GCP治験でPIIIをやったものだけが主張できるとしています。これをわざわざ投稿規定に書きたい気持ちはよくわかります。いい加減な研究でこれを主張したら、何を信じていいか解らないくらい混乱を生じます。

つまり

こういう差を見てますと、日本の雑誌の方針はレビューワーがあまり丁寧に内容を吟味することのない、思考停止状態でもrejectの作業ができるような単純な方針を打ち出して、効率的に投稿原稿をさばくことに腐心している様に思えました。お忙しい中、レビューするのですからやむを得ず設定している基準なのかもしれません。

また、海外でもfirstednessを主張する科学者が少なくないからこそ、それを安易に主張するなという注意書きを投稿規定に入れる雑誌があるのでしょう。

厚生労働省の調査会で私の論文が使用されました

スタチンとフィブラートの併用原則禁忌解除へ

スタチンとフィブラートの併用は現在「原則禁忌」です。「原則禁忌」という言葉が禁忌かどうかよくわからない、あいまいなメッセージになりかねないという事で、添付文書の記載要領が変わり2019年をターゲットに「禁忌」あるいは「慎重投与」と言った別のメッセージに置き換える作業が進んでいます。そうした流れに加え、日本動脈硬化学会がこの2種類の系統の薬剤を併用することにはメリットがあり、一律にこの2種類の系統の薬剤を併用しないように制限するのを解除してほしいという趣旨の要望書を厚生労働省へ出していました。原則禁忌との判断に至ったきっかけとなった論文では、セリバスタチン(←市場からは撤退)とゲムフィブロジルを併用するで横紋筋融解症を発現するリスクが高まるとされていました。その後の解析によると、両薬剤を併用することで薬物動態が変化し、スタチンへ過剰に曝露してしまい、横紋筋融解のリスクが上昇したとされています。私が以前、横紋筋融解を解析した時にこの2種類の薬剤を併用することで転帰が死亡になるリスクが高まる訳ではない、とは思ってました。

この問題についての審議が2018年9月25日(火)に田中田村町ビル会議室で開催されました。その平成30年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の資料に、私の論文が紹介されていました。

紹介されたのは「取扱注意」の資料1-2の中で、PMDAがまとめた資料です。

この様な集計を論文としてまとめているのは、私の論文の1報だったという。他に同じような観点で集計した論文はないという事のようです!この腎障害患者を取り上げた部分集団についての解析はオリジナルの投稿時にはなく、投稿した際にレビューワーからの指示で、しぶしぶ、嫌々ながらやった部分です。嫌々ながらやった部分ではありますが、書かれているデータに間違いはないと思います。

規制当局は一旦設定した注意喚起を緩めたために、そのリスクの被害にあう人が出ることはぜひ避けたいと考えている様で、リスクについての注意喚起を解除することには一般に大変慎重です。そんな中、治療上のベネフィットを享受できるであろうヒトのために汗を流した方々の努力に拍手です。その過程でこの集計が何かの役に立ったのなら嬉しいところです。

ちなみにこの論文、Internal Medicine誌と言うインパクトファクター1.0弱という、低インパクトジャーナルに掲載されながら、被引用回数42と言うそのジャーナルの中ではナカナカの人気の記事です。(タダでダウンロードできるので、検索で引っかかったものの中でとりあえず気楽に読んで引用していると言うのかもしれませんが)

観察研究は臨床研究法の対象外

アップデートを別ページに掲載しました

臨床研究法

臨床研究法関連で気になる話題を書いてみました。

観察研究は臨床研究法の対象外

このホームページのobservation islandの名前の通り「観察研究」が興味の対象です。私個人は、自分自身でデータを生成できるようなフィールドを持っていないので、他の方々が生成したデータを二次利用する観察研究しか考えていません。ですので、観察研究がどう縛られるかが私の興味の対象です。という訳で、適応除外になっていることが確認できましたので十分です。これまで通りで、法に基づいた新たな手順は発生しませぬ。あとは、気の向くまま認(したた)めました…

 


当初記事を書いた「臨床研究法の概要」の部分はリンク切れになってしまいました。いたちごっこのようにどんどん変わるので上でリンク切れの場合は,代わりのリンクで-

臨床研究法適応除外.PNG

現場の先生方は困っている

職責上知ったことを具体的に書くのは難しいのですが、上記の適用除外範囲があることを知った先生方が、何とか除外範囲に持ってこれないかという観点で模索しているようです。それも様々なアプローチがあって、明らかに脱法的なアプローチであって、その本当のねらいも研究とは別のところにあるのではないのか?というようなものもあります。一方、普通に診療していて、診療上は必ずしも必須ではないけど採血程度の軽微な侵襲の検査してみたい、というような検査項目を追加するような場合にIRB通すための手続きや同意取得が煩雑になるというのを恐れているような向きもあります。(後者は観察研究的に扱うような判断ができるようですが、個別の判断は必要でしょう)

・ A薬を使用した患者のデータを収集する観察研究と、同じくB薬を使用した観察研究を並行して実施する。この2薬の治療対象疾患は同一で、患者をA薬あるいはB薬どちらで治療するかは、院内の決め事として(研究の外で)コインを投げて表か裏かで決める。

→ 合わせて評価するのなら、ランダム化比較試験(法規制の対象)になるような

・ 上のスライド2番目の囲みの、「治験」の次の項、いわゆるGPSPの枠組みで実施する。

→ GPSPだと事前に役人が見ることになるので、いい加減な提案は時間の無駄なんですけど

役所へも問い合わせが絶えないのでしょうか、Q&Aが多く発出されています。


  • 次の明らかにダメなやつを聞くようなQとか臨床研究に関わる基礎的な一般知識が明らかに不足している人がQを出しています。臨床研究をしたい側の関係者であれば、厚生労働省の役人にそんなこと聞かずに、自分で教科書でも読んでお勉強していただきたいやつです。答えもそっけないです。
問2-7 患者のために最も適切な医療を提供した後にその治療法を比較するのではなく、 あらかじめ研究のために医薬品の投与等の有無、頻度又は用量などを割り付けし て治療法を比較する研究は、いわゆる「観察研究」に該当するか。

(答) 該当しない(法の対象となる臨床研究に該当する。)。


  • 次のヤツとかは、聞いている観点が微妙ですね。工学部教授の医師だとして診療にかかるのか。

問53 工学部で開発した未認証の医療機器を用いて法に規定する臨床研究を実施する場 合、例えば、当該工学部の教授が研究責任医師となることができるか。

(答)法における臨床研究は、医行為を伴うことを前提としており、また、対象者の安全 性の確保の観点から、通常の診療の基盤の上に成立するものである。このため、臨床 研究に係る業務を統括する医師又は歯科医師を「研究責任医師」として配置すること とし、規則等により、その責務や業務内容等を明確化したところである。このような 経緯等を踏まえると、法の対象となる臨床研究においては、医師又は歯科医師を研究 責任医師として配置し、一定の責務等を担っていただく必要がある。

他方で、研究責任医師以外に臨床研究を総括する者を配置することは制限されるも のではないため、そのような総括する者を配置する場合には、実施計画の様式(規則 様式第一)の1(3)「研究代表医師・研究責任医師以外の研究を総括する者」の項目 に当該者の情報を記載し、総括する者として明確化されたい。


  • 私としては、次が一番面白かったです。

 

 

有害事象と医薬品の因果関係評価について

<この記事は内科学会雑誌に掲載した記事のセルフアーカイブです。誤字脱字等も含め内容は公開版の最終稿と同一です。>

Evidence-based Medicine (EBM)

有害事象と医薬品の因果関係評価について

大島康雄

東京大学医科学研究所 先端医療研究センター・分子療法分野

郵便番号 108-8639

住所 東京都港区白金台4丁目6-1

℡ 03-6301-3845

電子メール 0-oshima@umin.ac.jp

 

はじめに

医薬品医療機器総合機構(PMDA)のWebpageによると、2010年1月から11月までの期間に使用上の注意の改訂指示があった医薬品情報は170件あった (http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei_index.html)。 この中でアンジオテンシンII受容体拮抗薬、いわゆるARBである、オルメサルタン メドキソミル、テルミサルタン、バルサルタンおよびそれらを薬効成分として含む合剤の使用上の注意へ、「横紋筋融解症」の副作用の記載をするようにとの指示が私の目を引いた。横紋筋融解症は一旦発現すると死亡に至る割合が1割近くもある深刻な病態である(1)。それに加え、ARBは臨床現場で多くの患者さんへ使用されているため、規制当局からの情報は大きな影響力を有しかねない。しかし、気になったのはそのためだけではない。HMG-CoA還元酵素阻害薬、いわゆるスタチン類では個人的な臨床経験としてあるいは同僚医師らとのコミュニケーションの中で、クレアチンキナーゼ上昇あるいはこれに筋症状等の伴った筋炎と考えられる症例を経験することがあり、スタチンの筋組織に対する傷害性を感じる機会があった。これに対して、ARBではこうした身近な経験をする機会が乏しかったのだ。厚生労働省のWebpage掲載文書である医薬品・医療機器等安全性情報No.271の記載によると、オルメサルタン メドキソミルでは、平成21年度1年間での使用者数おおよそ180万人に対し、集計当時の直近3年間に横紋筋融解症症例のうち因果関係が否定できない症例が1例報告されている、との記載がある。 同じくテルミサルタンでは1年間使用者数190万人に対し直近3年間で3症例、バルサルタンでも同じく410万人に対し4症例との記載である (http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/271-2.pdf)。医薬品・医療機器等安全性情報No.271には改訂指示の根拠となった症例の概要等に関する情報が紹介されている。それぞれの症例の臨床経過を見ると、症例で副作用が報告されていることは理解できるものの、添付文書上で注意喚起を行うという一種のリスクコミュニケーションが必要であると判断したロジックは読み取れない。医薬品・医療機器等安全性情報No.271に記載された数字には、副作用症例を経験された臨床現場の先生方が任意でご報告される、いわゆる自発報告に基づく数字が含まれると考えられる。自発報告の弱点として、発現していても報告されない症例が少なからずあると思われる、いわゆるアンダーレポーティングの問題が指摘されている。言い換えるならば、実際には報告されている症例より多くの有害事象が発現している可能性が考えられる。それにしてもこの程度の報告数であれば身近な経験が情報共有されないのも納得ができる。と同時に、添付文書上で注意喚起を行うというリスクコミュニケーションが本当に必要なのか、情報の受け手としての医師はこの情報をどの様に日々の臨床に生かすことが求められているのか疑問が湧く。

本稿では、医薬品使用中または投与後におきた医療上の好ましくない事象である有害事象が、本当に医薬品が原因で起きた副作用であるかどうか、すなわち有害事象と医薬品の因果関係についてどのような判断の方法があるのかについて、いくつかの例を紹介させていただく。

 

個別症例の有害事象に関する因果関係

臨床試験中に生じた有害事象と試験薬との因果関係の評価は、重要な意味を持ちうるにもかかわらず、客観的で確立された基準があるとは言えない。疾患の経過中に起きた有害事象は、被疑薬による副作用のほか、被験者がもともと有していた病態に関連した症状、併用薬剤による事象、治療手技の合併症、それらとは無関係に偶然おこる偶発症などさまざまな可能性がある。原因についてのさまざまな可能性を臨床的に推論してゆく中で、相対的に他の要因が考えにくい場合に被疑薬との因果関係があると考えられる。つまり、いわゆる臨床推論そのものであり、一律に基準を設けるのは困難である。治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて、INTERNATIONAL CONFERENCE ON HARMONISATION (ICH) E2Aという国際的ガイドラインがある。その規定によると、薬物投与後に起きた有害事象について、完全に否定することは論理的には困難であるにもかかわらず、「因果関係が否定できない場合に、合理性を以て因果関係の可能性があるとする」との考え方が記載されている(2)。脚注 このように基準となるべき文言についても客観的で一定の判断が常にできる基準とは言い難い。このほかにも考慮するべき点はいくつか報告されている。上記ICH E2Aの記述および、同じく国際的な治験や市販後の医薬品評価にかかわる議論を深めてきた国際医科学団体協議会(CIOMS, council for international organizations of medical science)が、因果関係の判断に関して考慮するべきとして指摘している点を4点以下に列挙する。あるべき姿として、評価できるだけの十分な医療上の情報を得たうえで判断がなされるべきである。

  1. 再投与によって有害事象の再発がある(リチャレンジ)
  2. 被偽薬中止により有害事象が軽快する(ディチャレンジ)
  3. 発現時期が副作用として妥当
  4. 事象を引き起こしうる他の要因がない
  1. については、被疑薬を再投与することは通常推奨されておらず、情報が得られにくいと思われる。しかし、再投与により再現性が確認できる場合には被疑薬によって有害事象が起きていたとの因果関係が強く支持される。
  2. 深刻な有害事象が起こり、被疑薬の中止によって有害事象が軽快することが期待される場合には被疑薬が中止される場合が多いであろう。被疑薬の中止によって有害事象が軽快することが通常期待できない発がん等の例を除いて、被偽薬中止によって有害事象が軽快しない場合は、因果関係は考えにくいと判断するかもしれない。
  3. 好発時期が知られている有害事象、例えばアナフィラキシーショックや抗がん薬の骨髄抑制性の副作用等については、個別症例の発現時期と知られている好発時期とで矛盾がないかが、因果関係を評価するために考慮されるだろう。変異原性試験やがん原生試験等の結果に特に問題となる所見がない薬物については、被疑薬投与開始から1-2年目程度までに発症した悪性疾患については薬剤との因果関係が否定的と考えるだろう。放射線被ばくは遺伝子に障害をもたらすと考えられるが、その放射線被ばくをもたらす原子爆弾投下後の甲状腺がんや白血病の発症のピークが数年後にあるとの調査結果が知られている。また、腫瘤の成長速度に関する基礎的な研究の結果等もふまえ、放射線や薬物への曝露によるイニシエーションから臨床的な発がんには一般的に数年が必要と考えられているからである。
  4. 報告された有害事象が、被験者がもともと有していた疾患によってしばしばみられる症状であるような場合や併用薬剤の副作用として良く知られているような事象の場合には、被疑薬と有害事象の因果関係は確定的とは言えなくなる。こうした要因がある場合でも、個別の症例の基礎疾患の病状や併用薬剤の使用状況、有害事象の重症度や発現時期によっては被疑薬の因果関係を積極的に疑うことが合理的な場合もありうる。

また、有害事象の性質や、被疑薬(代謝物を含む)の類薬についての以下のような情報がもしあれば、これらも含め総合的に因果関係が評価される場合もある。

  1. (事故による)過量投与により起きることが報告されていないか
  2. 事象が一般人口中ではまれか、頻度が高いとされているか
  3. 一般に薬剤性とされている事象か
  4. 薬物動態的証拠(薬物相互作用等)として矛盾はないか
  5. 公知の作用機序によって説明できるか
  6. 公知の共通薬効群の副作用として知られているか(クラスエフェクト)
  7. 動物やin vitroの試験結果で副作用が起きることが示唆されているか
  8. 同じ有害事象を起こすことが知られている薬剤に、被疑薬の特徴が似ているか

 

上述の情報を考慮しても、個別症例の有害事象が被疑薬と因果関係があるのか否かの判断が困難なケースが少なくない。

治験で報告される有害事象の取り扱い

臨床試験のうち、新医薬品等の承認を得るための臨床試験を治験と呼び、これはいわゆるGCP省令に基づいて行われ、治験届がなされている。治験では、個別症例の有害事象について、治験責任医師等がその因果関係判断を行う。治験責任医師等が当該有害事象と試験薬との因果関係を否定しないと、治験依頼者によって個別症例の副作用として報告等の必要な手続きが検討される。この場合試験が継続中であれば、規制当局および治験に参加している他施設への迅速報告が検討されるとともに、その重要度によっては試験の継続についても検討される。しかしながら、試験が終了し、集積検討をする段階では、個別症例についての因果関係評価に基づいてそのまま、「当該試験薬が当該副作用を引き起こす」というように医薬品が評価されるわけではない。むしろ逆である。Food and Drug Administration (FDA)では審査官(reviewer)向けのガイドブックが作成され公開されている。このFDAレビューワーガイダンスによると、有害事象の報告に責任のある治験責任医師(investigator)あるいは治験依頼者(新医薬品等の申請者としてapplicantの用語で登場する)が行った個別症例についての因果関係判断からは、あまり有用な情報が得られない、あるいは、無視するようにとも取れる記述がみられる。以下に因果関係評価についての記述をFDAのレビューワーガイダンスより引用する。(http://www.fda.gov/downloads/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/ucm072974.pdf)

7.1.1 死因についての記述で、In most cases, these events need to be examined for frequency but discussion of individual cases is not helpful.

7.1.2 転帰死亡以外の重篤な有害事象について、The reviewer should identify, without regard to the applicant’s causality judgment, all serious adverse events.

7.1.5.3 Incidence of Common Adverse Eventsについて、For the most part, attributions of causality by the investigators should be discounted, and adverse events should be assessed without regard to attribution.

(FDAレビューワーガイダンスより)

 

どうして個別症例の因果関係評価を無視するような記述になっているかと言うと、集積検討をする場合には個別症例の因果関係評価とは別の情報が加わるからである。どのような情報かについては、具体例を提示することで解説したい。以下に臨床試験に関する教科書であるStatistical Issues in Drug Developmentからの例を2つほど引用する(3)。元の教科書を参照していただければわかるが、これらの例は架空の例であり、過去に実施された治験についての記録ではない。しかし、本稿では過去に起きたような時制で文章を記述させていただくことをあらかじめお断りしておく。

例1:

小児を対象とした臨床試験で、β作動薬とプラセボの気管支喘息に対する有効性を盲検下で評価する比較試験での話である。試験薬による治療開始された後の診察時に、ある母親が「うちの子が夜尿をした」と報告した。この被験者の夜尿は一回限りであり、担当医師は、この有害事象について試験薬との因果関係はないと記載した報告書を作成した。しかし、この試験は多施設共同治験で、他の施設でも各施設1-2件ずつ夜尿の有害事象が見られた。多くの施設でも担当医師は因果関係を否定していた。開鍵した結果、ほとんどの夜尿は実薬であるβ作動薬が投与された被験者にみられており、プラセボ群ではほとんど報告がなかった。そこで、個別症例の多くは因果関係が否定されていたにもかかわらず集積検討の結果、夜尿が実薬によって起きた、すなわち、有害事象と実薬に因果関係があると判断することができた。副作用であると判断したら、次は、その機序について考えるかもしれない。hypothesis creationである。喘息のため夜間眠りが浅かった被験者は治験開始後、実薬の薬効によって夜間の睡眠が深くなり、少々の尿意では目が覚めにくくなったのではないか、などと。

 

例2:

今度は成人の高血圧症の治療薬として開発中の、新規ACE阻害薬の試験の例である。こちらの試験も、プラセボをコントロールとした、盲検下での比較試験であった。試験が開始され被験者が担当医師に咳を報告した。ACE阻害薬は咳の副作用が広く知られている。この試験を担当した他施設の担当医師らも、咳を副作用だろうと考え、その結果多くの「因果関係の否定できない咳」が収集された。試験が終わり開鍵した結果、プラセボと実薬で同程度の「咳」が報告されていた。この集積検討の結果、個別症例では「因果関係あり」とされていたにもかかわらず、試験で収集された「咳」の有害事象は実薬との因果関係がなかったと結論することができる。

 

これらの例で興味深いのは、個別症例の因果関係判断が、集積検討の結果覆る点である。集積検討で得られる情報で重要な情報は、比較対象であるプラセボ群との発現頻度についての情報である。お示ししたような例が論理的にはあり得るため、FDAでは医薬品の有害事象の因果関係判断を行うに当たって、治験責任医師や治験依頼者の行った個別症例の因果関係判断を必ずしもそのままでは受け入れず、7.1.1の死因の記述にある通り頻度を確認するようにしている。頻度が同程度であっても、実薬で早期に発現していないか、重症度が実薬で高くないか等が比較されることもある。

ここで、本稿の趣旨とははずれるが、もう一点強調しておきたい点がある。先の例では集積検討の結果、当初報告してきた治験担当医の因果関係評価は「誤り」となる。にもかかわらず、医薬品評価としては何の問題も生じない点である。開鍵後の集積検討の結果を知ることなしに、それまでの医学的な知識に基づいて、一定の合理的な判断をしている限り、結果として因果関係評価が誤りであったとしても、試験上は問題にはならないのである。筆者の知る限り、国内で試験に参加される先生の中には、こうした「結果として誤り」となることを恐れるあまりか、例1のような場合で、因果関係は絶対に否定しないお考えの先生方もおられる。そうした判断の考え方は例2のような場合には逆に結果として「誤り」となってしまう恐れがあることも考慮されておくべきであろう。治験責任医師らはご自身の知識と経験そして、目の前の患者さんの状況を鑑み、因果関係があるのかないのかを素直に医学的に判断して、それでも「結果として誤り」となることは避けられないものである。

また、臨床試験に参加される先生方のご心配は他にもあるようだ。「因果関係はないと思うが、治験責任医師らが因果関係を否定してしまうと、その事象が誰からも評価されることなく承認審査が行われるのではないか」と懸念され、因果関係を否定することに躊躇する先生方もおられる。これにも、誤解がある。個別症例の因果関係を「なし」とした場合、確かに試験継続中の他施設や規制当局への迅速な報告はなされないであろう。しかし、FDAレビューワーガイダンスに示した通り集積検討の段階では、因果関係が否定されている事象も含め、有害事象のリストに記載され、集計され、規制当局へ報告される。これは国内でも同様である。言い換えるならば個別症例の因果関係を否定したとしても、その有害事象の情報が闇に埋もれてしまう心配はない。

治験責任医師らは、自身の医学的知識と経験にもとづき、目の前の被験者の状況を鑑み、因果関係があるのかないのか、医学的に判断することに専念することが求められる役割であろう。

 

臨床試験の限界

残念ながら、前述の例のようにプラセボと比較して実薬で発現頻度の高いものを「実薬による」とするように明快な判断ができる有害事象は、条件が整った限られたケースのようである。プラセボの情報が不十分な場合では、治療対象疾患の経過中に起きることが知られている合併症としての事象の頻度や、一般人口中での発症頻度、類薬での発現頻度などを比較の対象として判断する場合もあるかもしれない。いずれにしても上市時に得られている医薬品の副作用情報は限られている。市販後に初めてわかるような安全性情報も少なからずある。開発段階での安全性情報が不十分となる要因を先ほどとは別の教科書から引用する(4)。

開発段階の安全性情報を不十分にする要因

  • 臨床試験で評価された症例数が、その薬が世の中で使用される患者数に比べて圧倒的に少ない
  • 発現頻度が高くないあるいは稀な副作用については臨床試験での検討が不十分である
  • 臨床現場で安全性上の問題が稀に起こるかもしれない状況を開発段階で予測するには限界がある
  • 市販後の適応外使用
  • Breakthrough medicineを早く患者が利用できるようにしたいという社会的な要求
  • 開発段階で組み入れられなかったリスク集団への使用
  • 過剰投与に関する情報不足

 

このリストの中の問題の多くは、治験では選択基準に合致する限られた被験者に限られた期間のみ投与され、一定の観察期間のみの情報が収集されることから、市販後に起きる状況が十分評価できないのである。この要因の中で異質な点が5番目の要因である。ここに記載されている社会的要求が安全性の情報とのトレードオフとするような考え方に抵抗感を示す先生方もおられるかもしれない。しかし、過度な社会的要求は治験を最低限の期間で、かつ最小の被験者数で進めるような圧力になりかねない因子の一つである。そうした圧力の有無にかかわらず、治験段階での安全性評価は限られた情報であるとの認識に基づいて、市販後に安全性を監視し続けることが臨床医には求められていると考えられる。

 

市販後の副作用報告の取り扱い

市販後の安全性情報にはSolicited とUnsolicitedな情報がある。 Solicitedとは試験や調査等登録患者を一定期間観察して、有害事象が発症しないかを観察する、つまり観察される集団があらかじめ定義されている安全性情報をいう。市販後の情報の報告数を見るとSolicitedな情報も一部にはあるものの、数として多いのは自発報告等のUnsolicitedな情報である。自発報告とは、副作用症例を経験された臨床現場の先生方が任意でご報告される、副作用報告のことである。自発報告は2つの大きな問題を抱えており信頼できる発現頻度を計算することができない。第一は薬物曝露状況つまり、どのくらいの被疑薬投与症例に被疑薬がどのくらいの期間投与されたのか、事象の発現頻度であるincidenceを計算する場合の分母にできる数字がない。分母にできる数字の代替として思いつくものに、出荷数量から推計できる使用患者数がある。これについては、ヨーロッパの規制当局であるEMEA のガイドライン案によると、「すでに市販されている医薬品で、自発報告された有害事象数あるいは有害反応数を分子に、販売数を分母にした報告率は、医薬品使用者での有害反応の発生率の推定値として提示すべきではない。」とあり、少なくともヨーロッパでは好ましくないことと考えられている。出荷数量は流通在庫や期限切れによる廃棄の問題や一人当たりの使用量の推計が、どの程度実臨床の状況を反映されているのかが不明であるといった問題がある。このため分母が不正確にならざるを得ない状況があり、発生率の推定値としては好ましくないとしているのであろう。

第二は、実際に起きている有害事象のうち一部しか報告されていない、つまりアンダーレポートの問題があり、incidenceを計算する場合の分子にできる数字は、実際に事象が起きている件数より小さいと推定できる。そのほかにもいくつかの重要な問題があり以下にリスト化する。

自発報告の問題点

  • 診断が不確である
  • 重要な情報が報告されてこないことがある
  • 報告される事象の選択が任意である
  • 因果関係が不確かである
  • 市場の大きさを無視した副作用報告

 

不確実な診断は副作用報告の深刻な問題の一つである。自発報告では通常ごく限られた情報が報告されてくることから、規制当局や製薬企業が診断を確認することは困難である。さらに、報告者が薬局薬剤師、患者やその家族等であった場合は、診断や診断根拠を報告者自身が十分把握していない場合もある。副作用を診断した医師が報告する場合であっても、報告医師の専門分野以外の副作用については診断が正確でない場合が考えられる。また、他の病院などからの転院患者を引き受けて、その後起きた副作用を報告するような場合、前医で治療されていた基礎疾患やその臨床経過についてのデータを十分引き継いでいない場合もある。さらに、自発報告では仮によく知られている絞絡因子が当該症例にあったとしても、報告されてこないかもしれない。

診断自体に困難な点がない場合でも報告事象名の選択が悩ましいケースがある。例えば、高齢者の多発性骨髄腫の患者に化学療法が行われ、その後発熱および下痢を発症した。経過中、腎不全となり、死亡した。このように一連の経過で複数の病態が観察された場合に、報告者が副作用として選択する事象名にはぶれが生じうる。より多くの種類の病態が起きるような場合はさらに事象名の選択は複雑になる。これとは別の問題として、新聞やテレビといったマスメディアでセンセーショナルに取り上げられた副作用については、過去の経験にさかのぼって報告するなどにより急に副作用報告件数が増えることが知られている。また、多くの患者に使用される医薬品は、薬物とは因果関係のない偶発症等の情報を含め、多くの有害事象が報告されてくることになる。

 

自発報告の集積検討の試み

臨床試験では開鍵後に集積検討をすることができるが、自発報告には分母にできる数字や比較対象にできるプラセボ群もない。かといって、集積検討が全くできない訳ではない。世の中で起きている医薬品の副作用について迅速にうかがい知るうえで、現状として最大の情報を蓄積しているのが市販後の自発報告を含む副作用データベースである。前項のような自発報告の欠点があることを把握したうえで、精度は落ちるものの大量のデータから科学的推論をすることは可能であるとされ、医薬品曝露情報(incidence の分母に相当する情報)に代わる何らかの指標を用いる手法がいくつか開発されている。原理のもとにある考え方は単純である。表に示した通り、安全性データベースの中で、興味の対象である医薬品Xについて、興味の対象である有害事象Aが何件報告されているかをn(X,A)と表現する(表 パネルA)。

表.PNG

医薬品XについてA以外のすべての有害事象(!Aとする。以下同じ)の件数n(X,!A)とのオッズ比であるn(X,A)/n(X,!A)を計算する。X以外のすべての医薬品についても同様のオッズ比n(!X,A)/n(!X,!A)を計算し、この2つのオッズ比を比較する、すなわち、n(!X,A)/n(!X,!A)に対するn(X,A)/n(X,!A)の比を見ることで、相対的に医薬品Xについて有害事象Aが多く報告されていないかを検出する。これらの数字の比をROR(reporting odds ratio)と呼ぶ。具体的な数字を用いて計算過程を例示するため、2004年の第一四半期の3か月間にFDAに報告された副作用が疑われた症例の報告件数を表のパネルBに示す。この例ではゲフィチニブを興味の対象である医薬品とし、また、興味の対象である副作用を間質性肺炎とした。この3か月間にゲフィチニブが被疑薬として報告された間質性肺炎は22件あり、それ以外の報告事象は159件であった。ゲフィチニブについて、全有害事象報告件数に対する間質性肺炎の報告件数の比は、約0.138であった(パネルC-(1))。これに対して、同じ期間にゲフィチニブ以外の医薬品が被疑薬として報告された間質性肺炎は180件、ゲフィチニブ以外の医薬品が被疑薬として報告された間質性肺炎以外の事象は49983件であった。ゲフィチニブ以外の医薬品について、全有害事象報告件数に対する間質性肺炎の報告件数の比は、約0.00360であった(パネルC-(2))。ゲフィチニブのROR値は0.138と0.00360の比である、約38.3となる。ゲフィチニブについて、それ以外の医薬品と同程度の間質性肺炎が報告されてくると仮定すると期待されるROR値(帰無仮説H0 に基づくROR値)は1.00であるのに対し、計算結果は約38.3であった。閾値をどうするかという議論はあるが、この値は一般的にはシグナルと判断できる程度に大きい値である。ここで、原理を考えていただくためにお示ししたRORは、データベースに入力されている件数が少ない事象や被疑薬としての報告件数が少ない医薬品についての精度が不十分であるとの指摘もある。その精度を上げるべく開発されているものがいくつかある。「はずれ値」を検出するという目的から、neural networkやsupport vector machineといったアルゴリズムを応用することも検討されているが、本稿ではそうしたデータマイニング手法の一つを次の例としてお示しする。それは世界保健機構(World Health Organization, WHO)が開発したBayesian Confidence Propagating Neural Network (BCPNN) という手法であり、BCPNNを用いてFDAが公開しているAdverse Event Reporting System (AERS)データベースのデータを集計し、一般によく知られているいくつかの副作用等を継時的に表現し簡単な解説を加える。

本稿ではBCPNNの計算結果出力されるInformation Components (IC)値およびstandard deviation (SD) 値を示すが、BCPNNの計算方法や解釈についての詳細は他論文を参照していただきたい(5)。FDA AERSのデータを2004年第1四半期から2010年第2四半期まで過去に報告した方法に従い入手した(1)。四半期ごとにそれまでの集積状況をもとに計算した結果を表示したのが図1である。スタチンとして集計した医薬品には、simvastatin, atorvastatin, rosuvastatin, pravastatin, fluvastatin, losuvastatin, cerivastatin and pitavastatinが含まれる。また、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬には、captopril, enalapril, alacepril, delapril, cilazapril, lisinopril, benazepril, imidapril, temocapril, trandolapril, perindoprilが含まれる。そしてARBには、olmesartan, telmisartan, valsartan, candesartan, irbesartan, losartanが含まれる。プロットされている点は2004年第1 四半期から各報告期間までに集積された累積のIC値である。エラーバーはSD の2倍である2SD が表示されている。BCPNNの開発時に過去の事例でシグナルの検出を試した結果、IC-2SD > 0 すなわち、図で言えばエラーバーの下限が0のラインより上に来たらシグナルとみなすこととされている。本稿の例ではゲフィチニブの間質性肺炎、スタチンの横紋筋融解症、ACE阻害薬の咳についてのIC値は、いずれの時点で見てもそれらのエラーバーの下限が0のラインを上回っている。言い換えるならば、BCPNN法を用いてFDAのデータを解析すると、医薬品リスクのシグナルが検出されたことになる。これに対し、ARBの横紋筋融解症についてのIC値は解析した期間中にエラーバーの下限が0のラインを上回っているポイントはなく、BCPNN法ではシグナルは検出されない。つまり、BCPNNのように相対的な報告頻度という観点からの集計では、ARBによって横紋筋融解症が起こりかねないと懸念する根拠を見出すことはできなかった。

なお、FDAのデータは日本からの報告も含まれるが、間質性肺炎等日本からの報告が多い一部の例を除くと、日本よりは米国での発現状況を色濃く反映していると考えられる。つまり、日本国内での副作用発現状況については、FDA AERSとは異なる可能性は否定できない。国内の副作用状況はPMDAが医薬品ごとの副作用情報を公開している。しかし全医薬品についての報告数を集計する必要のあるBCPNN等のデータマイニング手法は、PMDAの外部の研究者にとって現実的には難しい。本稿では紹介しなかったが、イギリスの規制当局で採用されているProportional Reporting Ratio (PRR)と言われる手法や、FDAで採用されているGamma Poisson Shrinker program (GPS)の手法も基本的にはBCPNNと同様のデータを用いて計算される。いずれも、大量のデータに埋もれている問題を拾い出す、新たな問題の提起に有用と考えられているが、検証的な評価には必ずしも向いていないとされる。

 

さいごに

ある患者に治療を行い、その後治ったとする。その患者さんにとっては良いことかもしれないが、個別の症例を見ている限り、その治療が本当に効いたのかどうかについて判断することは困難である。同様に個別症例に治療を行い、その後有害事象が起きた。臨床経過を見るとその個別症例にとって医薬品による副作用と考えられる場合でも、その医薬品と有害事象の因果関係を判断することは困難である。臨床試験で検出できる医薬品のリスクも限界がある。本稿では個別症例および集積検討を行う場合の有害事象の医薬品との因果関係評価の考え方や、市販後副作用データベースを利用し、限られた現在の状況で医薬品の副作用リスクのシグナルを検出する方法等について紹介した。本稿で紹介したBCPNN等ではシグナルが検出されない医薬品リスクもあるだろう。冒頭のARBの例では、副作用として報告した臨床家の先生方、専門協議にご参加の先生方それぞれが、当該症例の報告について詳細な情報を検討され、当該医薬品について真摯にリスクとベネフィットをお考えの上で行動された結果が使用上の注意の改訂指示につながっていると理解している。使用上の注意の改訂等のリスクコミュニケーションは一般に、検出されたシグナルがはっきりリスクであったと確認される頃に発出されても被害が甚大となり、手遅れと言われかねないことを考えると、コンサーバティブな方向に偏るのもやむを得ないことと思われる。リスクコミュニケーションの結果、社会全体で救われる患者さんがわずかでもおられれば良いのかもしれない。一方でリスクコミュニケーションが過剰であったならば、必要な治療を受ける機会が狭められる患者が出る懸念や、リスクコミュニケーション自体の信頼性が低下しかねない懸念についても思いをはせる必要がある。情報の受け手である医師は提供された情報が、どの程度のリスクなのか、どのような情報に基づいて判断されたのかについて、その根拠を吟味し、科学的な視座より把握した上で日常の診療へ結び付ける努力が求められる。

著者のCOI開示:

報酬(サノフィ・アベンティス株式会社)

Figure Legend

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図1 報告期間とBCPNN IC値

ARBの横紋筋融解症および、副作用としてよく知られているゲフィチニブの間質性肺炎、スタチンの横紋筋融解症、ACE阻害薬の咳について四半期ごとに区切った報告期間までの累積BCPNN IC をプロットした。エラーバーは2SDを示す。よく知られた3つの副作用の例ではエラーバーの下限が0を超えておりBCPNN法でシグナルが検出された。一方、ARBの横紋筋融解症についてはエラーバーの下限が0を超える期間はなく、シグナルはBCPNN法で検出されなかった。

文献

  1. Oshima Y: Characteristics of drug-associated rhabdomyolysis: analysis of 8,610 cases reported to the u.s. Food and drug administration. Intern Med 50: 845-53, 2011.
  2. USE ICOHOTRFROPFH: http://www.ich.org/. In: ICH HARMONISED TRIPARTITE GUIDELINECLINICAL SAFETY DATA MANAGEMENT. 1994.
  3. Senn S: Statistical Issues in Drug Development. In: John Wiley & Sons, Ltd, 2007.
  4. Spilker B: Guide to Clinical Trials. In: Lippincott Williams & Wilkins, 1991.
  5. Bate A, Lindquist M, Edwards IR, Olsson S, Orre R, Lansner A and De Freitas RM: A Bayesian neural network method for adverse drug reaction signal generation. Eur J Clin Pharmacol 54: 315-21, 1998.
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