「初」の報告に価値がある?
日本の学会雑誌は「初」報告を主張させたい?
数年前日本血液学会の英文雑誌に原稿を投稿した際に、「世界初の所見でないので掲載に値しない」というようなコメントをするレビューワーがいました。同じ学会でレビューをしている先生とお話しする機会があって、この話題を出したところ、同誌では「世界初」を主張しないと掲載しないという編集方針、採否の判断基準があるというお話を伺いました。同じようなコメントをするレビューワーが日本リウマチ学会にもいました。当時投稿した内容は、先行する研究はあまりなく、海外で知られている状況が国内でも見られたというような報告でした。よく知られている所見であっても、定量的に詳細に記述したなどで科学的な価値がある場合もあろうかと思うのですが。
さて、その基準でいけば今年8月にJAMA oncology に掲載されました私の論文も、上記の様な基準をとっている国内の雑誌では不採択になりそうです。この論文で報告したのは、2系統の薬剤を同一患者に使用(時間的には同時でなくても)した際に、間質性肺炎が起きやすいという臨床的な所見でした。この所見は、国内の当該領域の先生方の間ではよく知られた所見でした。また、学会等でも注意して慎重に薬を使用するように呼び掛けているところでした。ただし、当時PubMedで調べた範囲では、集計して統計的な処理をして論述したものは、ありませんでした。
米国の学会は「初」の主張に慎重
海外の雑誌の投稿規定を見ていて、はたと気づいたことがあります。時々次のような記載があります。
Undocumented claims (eg, “firstedness,” “safe and effective”)
Please do not claim that yours is the first report. If such a claim is deemed necessary, authors should explain their reasoning in the cover letter and provide a detailed Appendix describing how they came to this conclusion. Describe search strategies, search terms, databases queried, and how far back these were checked. Also list textbooks and monographs that were searched to substantiate the claim. Similarly, the phrase “safe and effective” should be reserved for FDA-approved product labeling based on registered phase III trials. In other settings, the term should be avoided entirely. As an alternative, an example of acceptable terminology would be, “Our patients demonstrated positive responses and the treatment was well tolerated.”
“firstedness”を主張しないこと!Please do not claim that yours is the first report.
それが必要な場合は、【○○を調べたが同じ所見は記述されていなかった。】の書き方をすること。調べた範囲を明記して、「その範囲では報告がない」という事で、「世界初」を主張しているものに近い意味を持ちます。調べた範囲の外で、仮に先に報告があったとしても、嘘にはならない、という効果が得られそうです。
上記の記述を見ていると、安全性有効性の記述もお勧めの方法が書かれています。「この治療は安全で有効だ」と主張するのではなく「我々の患者で調べたところ、治療には耐えられて、反応も良かった」と。「有効で安全だ」という記載は、GCP治験でPIIIをやったものだけが主張できるとしています。これをわざわざ投稿規定に書きたい気持ちはよくわかります。いい加減な研究でこれを主張したら、何を信じていいか解らないくらい混乱を生じます。
つまり
こういう差を見てますと、日本の雑誌の方針はレビューワーがあまり丁寧に内容を吟味することのない、思考停止状態でもrejectの作業ができるような単純な方針を打ち出して、効率的に投稿原稿をさばくことに腐心している様に思えました。お忙しい中、レビューするのですからやむを得ず設定している基準なのかもしれません。
また、海外でもfirstednessを主張する科学者が少なくないからこそ、それを安易に主張するなという注意書きを投稿規定に入れる雑誌があるのでしょう。