遺伝性白質疾患ガイドライン
CQ 3-3 基底核および小脳萎縮を伴う髄鞘形成不全症
Hypomyelination with atrophy of the basal ganglia and cerebellum (HABC,HLD6,OMIM#612438)
TUBB4A遺伝子のヘテロ接合変異による中枢神経系の髄鞘形成不全症であり、通常は突然変異による孤発例である。MRIで白質低形成(hypomyelination)に加えて基底核と小脳に萎縮を呈し、この画像所見が疾患名となっている。運動発達の遅れに引き続き退行、錐体外路症状(ジストニア)、運動失調、痙性麻痺を呈する。知的障害は運動障害に比して軽度である。c.745G>Aの高頻度変異を有する症例は、他変異を有する症例に比して軽症である。現時点では対症的な治療が行われる。
疾患概念
先天性の白質形成不全に加えて,大脳基底核(尾状核頭,および被殻に顕著)と小脳に進行性萎縮を認める疾患であり、特徴的な画像所見がそのまま疾患名となっている。HABCは,van der Knaap らにより2002年に初めて症例報告され,2007年に疾患概念として確立された1,2)。2013年にTUBB4A遺伝子異常がHABCの原因であることが明らかにされた3)。TUBB4A遺伝子はDystonia 4 の原因遺伝子(c.4C>G [R2G])としても報告されている4)。初報では11例全例がc.745G>A (D249N) の高頻度変異を有したが3)、その後、他変異も報告されている5-8)。ほとんどが孤発例で、突然変異による常染色体優性遺伝である。
疫学
発症率は不明、世界で71例が報告されている9)。
病因・病態
βチューブリンはαチューブリンとヘテロダイマーを形成し,細胞骨格に必須である微小管(microtubules)形成に重要な役割を有する。TUBB4Aにコードされるβチューブリン(tubulin β-4A)は脳特異的であり、小脳・被殻・白質(特に乏突起細胞)に高発現している4)。中枢神経系でチューブリンは神経細胞の形成や維持に重要な役割を果たしている。報告されているTUBB4A遺伝子変異の多くはα- β-チューブリンの接合面に位置する3, 5-8)。遺伝子変異によりヘテロダイマーの形成・維持が障害され、神経細胞・乏突起細胞の微小管(microtubules)機能障害から二次的に神経膠細胞障害3)、髄鞘化障害を引き起こすと想定されている。
臨床症状
生下時には異常なく,眼振も認めない症例が多い.運動障害、知的障害、錐体路症状(痙性まひ)錐体外路症状(ジストニア、舞踏病アテトーゼ、強直など)、小脳症状(失調など)、球症状(構音障害、嚥下障害など)を呈するが、その発症時期、重症度はさまざまである。c.745G>Aの高頻度変異を有する典型例(25例)は、他の変異を有する症例(16例)に比して軽症である6)。最大運動機能としてTUBB4A c.745G>A 変異例では76%に支持なし歩行を獲得するが、他の変異では支持なし歩行0%、支持歩行12%、座位保持38%、手を伸ばす・握る25%、随意運動なし25%とされる。最大言語機能は正常(c.745G>A変異例38%、他の変異0%)、単語ないし数語文(c.745G>A変異例68%、他の変異6%)、言語獲得なし(0% vs 94%)、知的最大レベルは正常(32% vs 6%)、低下(68% vs 38%)、知覚のみ(0% vs 56%)とされる。神経症状としては痙性(c.745G>A変異例96%、他の変異94%)、錐体外路症状(96% vs 100%)、けいれん(12% vs 53%)、低身長(40% vs 87%)、低体重(48% vs 88%)、小頭症(9% vs 69%)である。錐体外路症状は、ほぼすべてのHABCの症例で認められ、他の先天性白質形成不全症との臨床的相違点である。
検査所見
T2強調画像では脳梁、内包後脚にわずかな低信号を認めることがあるが、ほぼ全体に高信号である。T1信号は低信号からわずかな高信号まで様々である。加えて、小脳(虫部>半球)、尾状核頭部・被殻、大脳白質の進行性萎縮を呈する(図3)。淡蒼球、視床は保たれる。各部位の萎縮は、発症後2年以内で被殻70%、尾状核30%、大脳22%、脳梁17%、小脳81%であるが、発症後2-12年では97%, 53%, 44%, 59%, 94%、発症後12年以降では100%, 90%, 80%, 100%, 100%と進行することが報告されている6)。TUBB4A遺伝子異常患者の一部は基底核萎縮がなく小脳萎縮のみ認め、画像所見のみではHDL7 (POLR3A遺伝子異常), HDL8 (POLR3B遺伝子異常)と鑑別が困難である5,7,8)。また、基底核・小脳いずれにも萎縮を認めない症例も報告されている8)。
遺伝子診断
TUBB4A遺伝子のヘテロ接合変異(点変異)が報告されている。初報では11例全例がc.745G>A (D249N) の高頻度変異を有したが3)、他変異が多く報告されている。ほとんどが孤発例であるが、体細胞モザイクの母からの兄弟例が報告されている3)。
治療・ケア
現時点では対症療法に限られる9)。HABCの臨床的特徴であるジストニアに対しては、l-dopaによる症状改善が報告されている8)。
図の説明
Hypomeylination with atrophy of the basal ganglia and cerebellum (H-ABC).
(名古屋市立大学小児科 藤本伸治先生、服部文子先生のご厚意による)
乳児期のT2強調画像 (左) では白質の高信号、基底核・小脳の萎縮が認められる。学童期(右) のT2強調画像では基底核(矢印)、小脳萎縮の進行が明らかである。
References文献()内、エビデンスレベル
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- Nahhas N, Conant A, Hamilton E, et al. TUBB4A related leukodystrophy. In: Pagon RA, Adam MP, Ardinger HH, Wallace SE, Amemiya A, Bean LJH, Bird TD, Ledbetter N, Mefford HC, Smith RJH, Stephens K, editors. GeneReviews® [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2017. 2016 Nov 3.(6)
Pub-med 検索式
- TUBB4A[All Fields] AND leukodystrophy[All Fields] 11件
- H-ABC[All Fields] 44件