遺伝性白質疾患ガイドライン
ペリツェウス・メルツバッハ
ライク病 Pelizaeus-Merzbacher様病1
(Pelizaeus-Merzbacher like disease 1;PMLD1,HLD2,OMIM#311601)
疾患説明; MDと区別つかない症状を呈するにもかかわらず、PLP1遺伝子の異常を認めない症例をPMLDと呼び、PMDと区別する。稀な疾患であり、常染色体劣性遺伝形式をとる一部の症例では、gap junction protein C2(GJC2)遺伝子の変異が原因であり(1)、これをPMLD1と呼ぶ。MRIではPMDと比べ錐体路が比較的スペアされるため、運動発達は坐位、独歩を獲得するなどPMDより良好な傾向があるが、10代より退行が始まる。現在有効な治療法はなく、対処療法のみである。
1概要
定義
MDと区別つかない症状を呈するにもかかわらず、PLP1遺伝子の異常を認めない症例をPMLDと呼び、PMDと区別する。従来、PMD女児例として報告されていたものを含む。稀な疾患である。常染色体劣性遺伝形式をとる一部の症例では、gap junction protein C2(GJC2)遺伝子の変異が原因であり(1)、これをPMLD1と呼ぶ。
疫学
不明
病因・病態、
GJC2遺伝子(別名Cx47あるいはGJA12)の異常が2004年に報告され,遺伝学的にも
PMDとは異質であることが明らかとなった(1)。その一方で,GJC2は全体の8%をしめ(2)、GJC2変異以外のPMLD患者も存在する。
GJC2はgap junction protein(connexin47)をコードし、中枢神経、末梢神経の鞘化に重要な役割を果たす。Connexinはマウスでは20、ヒトでは21種類存在し、oligodendrocyteではC47、C32、C29、astrocyteではC26、C30、C43が発現している。OligicyteとastrocyteのカップリングではC47とC43、C32とC30の発現により調整され、ミエリンの維持に必要不可欠である(3)。
Cx47の変異は,オリゴデンドロサイトの細胞膜上のgap junctionの機能を喪失、または、hemichannel障害によって生じる(3)。
臨床症状
生後早期から6か月までに眼振、4歳までに小脳失調、6歳までに痙性が明らかになる。また、感覚、運動の末梢神経障害も呈しうる(4)。
33例の報告例の内12例で自立歩行が可能であると報告されておりPMDより最大運動発達は良好である。しかしながら全例で10歳前に退行が始まり、10歳までには支持歩行を失う。痙性下肢麻痺の経過をとる軽症例の報告もある(5)。
検査・画像所見
頭部MRIでは、T2強調画像で白質のびまん性の高信号所見を呈するが、皮質錐体路は比較的保たれる(2)。
また、PMDほか、白質形成不全の112例のMRIの検討では、PMLD1では15例中6例で橋のT2高信号が錐体路のみまたは、橋全体にみられ、他の6人は橋のT2高信号、T1低信号がみられた(6)。
生理学検査では、PMDではBAEP(Brainstem auditory evolked potential)でⅢ~Ⅳ波消失を認めるが、PMLD1患者10人の13回の検査で、11回でⅢ~Ⅳ波が検出された。伝導速度検査では、PMDは正常であるが、PMLD1では10例中2例で軽度のneuropathyの所見がみられた(7)。
2例のPMLD1のMRSではcholine、 N-acetyl aspartate、 creatineは正常かほぼ正常であった(2)。
遺伝子診断
遺伝子診断では,塩基配列決定法などを用いて変異を検出する。
2治療、ケア、
先天性白質形成不全症では、現在のところ根本的な治療がないため、各症状に対応した治療を行う。(CQ4参照)
3食事・栄養
特に推奨される食事、栄養はない。栄養素のバランスにとれた食事が望ましいと考えられる。
4予後
自然歴の調査は存在しないが、33例の報告例の内12例で自立歩行が可能であると報告されておりPMDより最大運動発達は良好である。しかしながら全例で10歳前に退行が始まり、10歳までには支持歩行を失う。痙性下肢麻痺の経過をとる軽症例の報告もある(5)。
5鑑別診断
PMDが鑑別になる。PMDのほうが臨床的にも重症例が多く、びまん性の白質病変、遺伝子PLP1遺伝子重複、点変異、遺伝子欠失など様々な変異が存在する。その他のミ先天性大脳白質形成不全症の疾患が鑑別診断となる。図1参照。
6最近のトピック
図の説明
図1、MRIでの鑑別
hypomyelination with congenital cataract(HCC)、hypomyelization with hypogonadotropic hypogonadism(4H)
文献検索
PubMed
- pelizaeus-merzbacher-like[All Fields] AND ("disease"[MeSH Terms] OR "disease"[All Fields])
57件
参考文献 (末尾に記載のないものは全てエビデンスレベル6)
- Uhlenberg B, Schuelke M, Ruschendorf F, Ruf N, Kaindl AM, Henneke M, et al. Mutations in the gene encoding gap junction protein alpha 12 (connexin 46.6) cause Pelizaeus-Merzbacher-like disease. American journal of human genetics. 2004 Aug;75(2):251-60. PubMed PMID: 15192806. Pubmed Central PMCID: PMC1216059. Epub 2004/06/12. eng. (レベル5)
- Abrams CK, Scherer SS. Gap junctions in inherited human disorders of the central nervous system. Biochimica et biophysica acta. 2012 Aug;1818(8):2030-47. PubMed PMID: 21871435. Pubmed Central PMCID: PMC3771870. Epub 2011/08/30. eng.
- Diekmann S, Henneke M, Burckhardt BC, Gartner J. Pelizaeus-Merzbacher-like disease is caused not only by a loss of connexin47 function but also by a hemichannel dysfunction. European journal of human genetics : EJHG. 2010 Sep;18(9):985-92. PubMed PMID: 20442743. Pubmed Central PMCID: PMC2987409. Epub 2010/05/06. eng.
- Karimzadeh P, Ahmadabadi F, Aryani O, Houshmand M, Khatami A. New mutation of pelizaeus--merzbacher-like disease; a report from iran. Iranian journal of radiology : a quarterly journal published by the Iranian Radiological Society. 2014 May;11(2):e6913. PubMed PMID: 25035705. Pubmed Central PMCID: PMC4090646. Epub 2014/07/19. eng. (レベル5)
- Osaka H, Hamanoue H, Yamamoto R, Nezu A, Sasaki M, Saitsu H, et al. Disrupted SOX10 regulation of GJC2 transcription causes Pelizaeus-Merzbacher-like disease. Annals of neurology. 2010 Aug;68(2):250-4. PubMed PMID: 20695017. Epub 2010/08/10. eng. (レベル5)
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- Henneke M, Gegner S, Hahn A, Plecko-Startinig B, Weschke B, Gartner J, et al. Clinical neurophysiology in GJA12-related hypomyelination vs Pelizaeus-Merzbacher disease. Neurology. 2010 Jun 01;74(22):1785-9. PubMed PMID: 20513814. Epub 2010/06/02. eng. (レベル3)